「……」
「……もう一杯ついで来ようか?」
「……もういい」
栫井の部屋。
玄関から栫井のベッドまで抱えて、は無理だったので引き摺るようにしてなんとか連れてきた俺は、ベッドに座って水を飲む栫井に目を向ける。
栫井を運んでいた時に気付いたが、酷い熱があるようだ。
「あの、どうしてあんなところに寝てたの?」
「……あんたには関係ないだろ。帰れよ」
もしかしたら弱ってる今ならまともに会話できるかもしれない。なんて甘い期待を寄せた俺が馬鹿だったようだ。
「でも、あの、俺、会長たちに言われて……」
きたから、と続けようとしたが、瞬間、栫井の目付きが鋭くなった。どうやら墓穴を掘ったようだ。慌てて咳払いをし、誤魔化す。
「なにか手伝うことあるなら手伝うよ」
「ない、帰れ」
「でも……」
栫井が俺のこと嫌ってるのは分かるが、酷く弱ってる上に倒れてた栫井を「それじゃあお大事に」と見なかったことにすることは出来なくて。
渋る俺に、ますます栫井の機嫌は悪くなる。
「お前がいるだけで余計空気が悪……」
そう、栫井が言いかけたときだった。
きゅるきゅるきゅると静まり返った室内に、なんとも悲痛な腹の音が響き渡る。
それは間違いなく栫井の腹部から発せられたもので。
「……」
「……」
「……あの、なんかご飯……」
「いらねえ、帰れ」
どうしてここまで意固地になるのだろうか。
十勝の話からするに、数日部屋に閉じ籠りっぱなしということはろくにまともな食事を取っていないことは明らかで。
栫井のことだ。人に、おまけに俺になにかを頼むことを屈辱的に感じるのだろう。
ならば。
「……わかった、帰るよ」
「……」
「一応、ここにお代わり置いてるから、喉乾いたら飲んでね」
「……」
そう言って、俺は玄関へと向かった。
栫井は最後まで頼ってくれなかったが、想定内だ。
なるべく音を立てないように部屋を後にした俺は、足早にエレベーターへと向かった。
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