というわけで、学生寮3階。
栫井の部屋まで俺は来ていた。一人で。

そう、一人で。

どういうことなのだろう。俺は確かに十勝と一緒に栫井のお見舞いをするという約束でここまで来ていたのだけれどどれ程待ってても十勝は現れない。
それどころか。


『悪い!用事入ったから一人で先行っといて!』


たった今届いた十勝からのメールを眺めながらなんだかもう俺は頭が痛くなってくる。
俺が一人で栫井の部屋だって?無理だ。そんなことしてみたってどうせ無視されるか罵倒された挙句追い返されるかのどちらかしかない。
この際さっさと帰ってしまおうかとも思ったが、芳川会長の言葉が過る。


『もしただの風邪ではなかった場合、迅速な対応をしなければ校内に菌が円満して……』


別に菌云々など細菌レベルの心配をするつもりはないが、ベッドから動けないほどの病状だったら、と思うとこのまま帰ることは出来なくて。

小さい頃、両親たちが出掛けていて丁度メイドたちが出払っていたとき。
風邪かなにかで具合が悪くなって、誰かを呼ぶにも呼べなくて一人ベッドの中で心細い時間を過ごしていたのを思い出す。
苦しくて、怖くて、どうしようもなくて。
その後、買い物から帰ってきたメイドに介抱されたが、その間の僅かな時間が酷く長く感じたのも事実だ。

その事があるからこそ、余計、気になった。
無視されてもいい。とにかく、呼び鈴を押すだけでも押してみようか。

意を決し、栫井の部屋のインターホンを押す。


「……」


やはり、出ない。
もう一回だけ押して、出なかったら帰ろう。
なんて、思いながら呼び鈴に手を伸ばそうとした時。
俺は、その扉がわずかに開いていることに気付いた。

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