「栫井が風邪っ?」
生徒会室。
向かい側に腰を掛けていた十勝は「そうなんだよ」と声を潜める。
「あいつ、見栄張って『面倒だから休む』とか言ってるけど一歩も部屋から出てねえらしいし、絶対あれ風邪だって!」
「い、一歩もって……大丈夫なのか?」
「さあ?俺も何度か見舞いに行ってやったんだけどあいつ、全部無視なんだよ!本当、可愛くねえよな!」
「まあ、確かにそれは……」
十勝のことだから恐らく馬鹿にする気マンマンで出向いたのが目に浮かぶようだったが、確かに気になる。
「本人が言わないんだ。放っておけばいいだろう」
そんな俺たちの会話に耳を立てていた会長は見兼ねたようだ。呆れたように息をつく。
「えー!でもこのまま休まれたらこっちだって予定狂っちゃうじゃないっすか!」
「無断で会議をサボるお前が言うのか、十勝」
「うぐっ!」
見事反撃を食らった十勝は撃沈。
どこか難しい顔をした会長だったが、「しかし、まあ」とその重い口を開いた。
「確かに気になるな」
「でしょ?!」
「もしただの風邪ではなかった場合、迅速な対応をしなければ校内に菌が円満して……」
「はいはいはい!じゃあ、皆でお見舞い行こうぜ!」
会長の言葉を遮り、満面の笑みで立ち上がる十勝。
「お菓子も買ってさ!」とはしゃぐ十勝はお見舞いとかよりも最早遠足気分で。
「お前、俺の話を聞いていたか?」
「だから、迅速な対応のためにも様子見に行かなきゃいけねえんすよね!」
「確かにそうは言ったが……」
言い淀む会長が何を言わんとしているのかは分かった。
人と不必要に馴れ合うことを嫌う栫井だ、大人数で部屋に詰め掛けてみろ、余計引き篭もりが悪化するに違いない。
「相手は仮にも病人である可能性がある。大人数での訪問は返って体調を悪くするだろ」
「えー!じゃあ、三人で行っちゃいます?」
「俺はパスする」
「えぇーっ!なんすかそれ!会長ノリ悪すぎっすよ!」
「と、言われてもな。このあと他校の生徒との交流会があるんだ」
十勝に責め立てられ、困惑する会長は嘘を吐いているようには見えない。
「それなら仕方ないよ」と十勝を宥めれば、渋々納得してくれたようだ。
「んー、それなら仕方ねえかー。でもま、佑樹も居るからいいか!」
そうそう仕方ない仕方ない。……ん?
「お、俺も行かないといけないの……?」
「当たり前だろ!なんのためのお見舞いだと思ってるんだよ!」
いや本当になんのためのお見舞いなんだ。
栫井の様子を確認するだけなら十勝一人で十分ではないのか。
「……齋藤君、すまないがこいつについて行ってくれないか」
「会長……」
「じゃないとどうせ、また揉めるだろうからな」
十勝を煙たがってる栫井のことは知ってるだけに、会長の心配も理解できた。
できたけど、それとこれとは別だ。
「なぁ、佑樹ーいいだろー?」
「え、えぇ……でも……」
「少しの間でいい。こいつが余計なことしないか見張っていてくれ」
「えっ、ぅ……」
本当は行きたくない。
だって、十勝以上に栫井は俺のこと目の敵にしてくるし、怖いし。
だけど、頼み込んでくる二人を蔑ろにする勇気もないわけで。
「わ……わかりました」
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