「……あれ?あっちゃんもいたの?」


床の上でぐったりとする俺を他所に、バスタオルを頭から被った阿佐美はソファーに腰を下ろしくつろぐ阿賀松に驚いたような顔をした。
「まあな」テレビのリモコンを弄りながら答える阿賀松に、阿佐美は「ふうん」と呟く。


「佑樹くん、どうしたの?」

「ユウキ君は水が飲みたいんだってさ。持ってきてやれよ」


心配そうに俺を見下ろす阿佐美に、阿賀松はそう言った。
誰のせいだと思ってるんだ。
涼しい顔をした阿賀松が忌々しくて堪らない。


「えっ?そ、そうなの?」


「俺、急いで自販機で買ってくるからちょっと待っててね」冷蔵庫に飲み物がないことを確かめた阿佐美は、青い顔をしてそのまま部屋を飛び出した。
わざわざ世話を焼いてくれる阿佐美に、俺は情けない気持ちでいっぱいになる。
バタンと扉が閉まり、再び阿賀松と二人きりになった。


「ほら、いつまでそうやっているつもりだよ」


ソファーから立ち上がった阿賀松は、言いながら横たわる俺の側に歩み寄ってくる。
本当にこいつは誰のせいだと思ってるんだ。
うつ伏せに倒れる俺の枕元に屈み込めば、阿賀松は俺の髪を掴み無理矢理頭を上げさせる。
頭皮が引っ張られ、思わず俺は上半身を起こした。


「やめてくださ……」


あまりにも乱暴な阿賀松に堪えられなくなった俺はそう言いかけて、硬直する。
気が付いたときにはすでに阿賀松の顔が側まで来ていて、唇で言葉を遮られた。


「キスぐらい、俺がいくらでもしてやるよ」


阿賀松が言い終わるのと、玄関付近からなにかが落ちるような音がしたのはほぼ同時だった。


おしまい

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