場所は変わって阿賀松の部屋。
『しょうがないから俺が抱いてやる』という阿賀松の心意気でこの部屋まで上がってきたというわけではなく、「嫌だ」「めんどくさい」「知るか」という阿賀松にしつこく頼み込む俺に半ば呆れた阿賀松が「いいから静かにしろ」と部屋に押し込められたのだ。


「ったく、なんで俺がお前の下の世話しなきゃなんねーんだよ。会長にでも頼んでこい」


ソファーに腰をかけた阿賀松は、床の上で正座する俺を心底鬱陶しそうな目で見下ろす。
「む、無理です」芳川会長にそんなこと頼むなんて想像しただけで罪悪感で圧死してしまいそうだ。
嫌々と首を横に振る俺に、阿賀松は「俺はお前のバイブじゃねーんだよ」と吐き捨てるように言った。


「そんなにヤりたいなら、他のやつに……」

「お……俺は、阿賀松先輩がいいんです……っ」


うんざりする阿賀松に、俺はしどろもどろと胸の内を明かす。
我ながら、酷い会話だと思った。
耳がじりじりと熱くなり、俺は阿賀松から目を逸らしながらそう呟く。
「……」阿賀松は、目を丸くしキョトンとした顔で俺を見た。


「なんだ?お前、そんなに俺が好きなのかよ」


阿賀松は口許に笑みを浮かべると、にやにや笑いながらソファーから腰を浮かせる。
どうやらいまの俺の一言がよっぽど嬉しかったようだ。
「そんなに俺がいいなら仕方ねーよな、俺が相手してやるよ」言いながら、阿賀松は正座する俺の前に屈み込めばそう笑う。


「え、あ、ほ、本当ですか」


先程まであんなに嫌そうだった阿賀松がこんなに意欲的になるなんて。
あまりの変わりように、思わず俺は尻込みしてしまう。


「なんだよ、誘ったのはお前だろうが」


言いながら、阿賀松は舌舐めずりをした。かなり怖い。
確かに、「もう一度犯してください、なるべく乱暴に」なんて馬鹿馬鹿しい頼み事をしたのは俺の方だ。
だけど、なんでだろうか。
阿賀松があそこまで嫌がっていたから内心すっかり諦めていた俺はいま現在のこの展開についていけなかった。
確かに、突っ込んで欲しい。
でも、やっぱり、なんか、なんか自分からこんなことを言うのはなんか性に合わないというか。
早い話、いざその時になって俺は怖じ気ついたわけだ。


「やっぱり、やっぱりいいです」


俺の足を崩し無理矢理足を開かせようとする阿賀松に、俺は膝を抱えるようにして足を閉じながらそう声を上げる。
「はあ?」阿賀松はそんな俺の態度に眉を寄せ、呆れたような声を漏らした。
自分でも、今さらこんなことをいうのはおかしいと思う。
思うけど心臓が煩くて、始める前から俺は死にそうだった。


「あそこまでやられて、今さら引けると思ってんのかよ。なあ」


険しい顔をする阿賀松は、舌打ち混じりにそう言いながらぐぐっと俺の足を強く掴む。
「で、でも……っ」なんでだよ、さっきまであんなにノリ悪かったじゃんとそれでもまだ渋る俺。


「うだうだうだうだうるせえんだよ。黙ってケツ出せよ」


往生際の悪い俺にとうとう痺れを切らした阿賀松は、声を荒げながらベルトごと制服のズボンを引き抜くように脱がす。
うわーっとかぎゃーっとか声にならない悲鳴を漏らす俺に構わず、阿賀松は俺の下着に手を突っ込みすでに勃ちかけた性器を取り出した。


「うわ、ちょ、うわわ」


「なんだ、こっちの方はやけに物分かりがいいじゃねえか」


狼狽える俺に、阿賀松はにやにやと笑いながら裏筋を爪でなぞる。
軽く引っ掛かれピリッとした痛みが脳髄から全身へと走り、思わず俺は顔を強張らせた。


「い、嫌だ、痛い……っ」


思わず声が漏れる。
「痛くない痛くない」阿賀松は宥めているのかそれとも馬鹿にしているのかわからないくらい優しい口調でそう囁きながら、全体に包むように手を這わせればそれを扱き始めた。
せめて、唾で濡らすかしてほしい。じゃないと、ただひたすら痛いだけだ。
愛撫と言えるかどうかすら怪しい乱暴な扱きに、俺は阿賀松の腕を掴み必死に耐える。


「っ、う、あ、や、痛い、痛い、やだ」


ボロボロと涙腺から涙が溢れてきて、俺は阿賀松の肩にすがり付くように掴んだ。
体が熱い。
ただ痛いはずなのに、なんでか背筋がゾクゾクと震えた。
「泣くなよ。泣き虫」阿賀松が耳元で笑う。
ぬるりと濡れた舌で耳朶を舐められ、俺はあまりのこそばゆさに身じろぎをした。


「っあ、う、んんっ」


顔をしかめ、奥歯を噛み締め痛みを堪えていると阿賀松の空いた手が伸びてきて下着をずらされる。
阿賀松の動作一つ一つに反応してしまう自分が情けなかったが、状況が状況なだけに仕方ない。
「ケツの穴、見えるように腰持ち上げろよ」扱く手を止め、俺の太ももを掴んだ阿賀松はそう俺に命令してくる。
なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだと思う反面、内心興奮とかドキドキとかでパニクっている自分がいた。


「こ、こうですか……?」


言われるがまま両足を抱え床に背中をつけた俺は恐る恐る阿賀松に問いかける。
この格好かなり恥ずかしい。
ちらりと阿賀松に目を向ける俺に、阿賀松は「全然だめだ」と俺の太ももを掴むと無理矢理膝が顔の横に来るくらい体を曲げさせられる。
「いたたたたたたたた!」悲痛な声をあげる俺に阿賀松は「うるせえよ」と可笑しそうに笑った。
嫌でも視界に自分の下半身が入ってくる。
なんで格好だ。
耳が熱くなって、俺は目をギュッと瞑り顔を逸らした。


「おー締まる締まる」


痛がる俺に構わず、阿賀松は肛門に指を突っ込んでくる。
「ひ、ぐぅ……っ」中で指を曲げられ、思わず声が漏れそうになった。
「ねえ、俺の入りそう?」答えれるような状況ではないとわかっておきながらそんな質問をしてくるなんてなかなか性格が悪い。
「あ……や……っ」まともに口が動かなくて、なんだか恥ずかしくなった俺は自分の顔を隠すように腕で顔を覆った。


「悪いなあ、お気に召すようなお触りが出来なくて」


にやにやと笑いながら入り口を指で抉じ開けるように拡げる阿賀松に、ここでようやく俺は阿賀松が最初から俺をよくするつもりがないことに気付く。
なんてやつだ、とは思ったが、それよりも先にローションかなにかを使ってほしいと思った。
体勢がかなりキツくて俺の脳みそはなんかもう大変なことになっている。


「まあ、約束は約束だからなあ。有り難くブチ込ませて頂くぜ」


阿賀松は自分のベルトをガチャガチャと緩めながらそんなことを言い出した。
「い……っ、や、無理、ですって……!」せめて、慣らすなりしてくれなきゃ流石にやばい。ケツやばい。
「無理じゃねえ、我慢しろ」そんな俺を軽くあしらう阿賀松は、ズボンのジッパーを下ろしながらそんな無茶を口にする。
取り出した自身を俺の肛門に擦りつけるように当てられ、それが俺から丸見えな分なんだかもうあまりの羞恥で隠れたかった。


「や……っ」

「よく見とけよ、今からお前のためにわざわざ突っ込んでやるんだからよ」


阿賀松は俺の前髪を撫でるように触れる。
言わなくても、嫌でも視界に入っていた。
俺は熱くなる顔を逸らしながら、目を細める。
自然と息があがった。
「……っ」ちらりと視線をあげ阿賀松に目を向ける。
目があって、阿賀松の口許が緩んだ。
その瞬間、体内にそれが捩じ込まれる。


「あっ、い……っ」


喉が圧迫され、口を開く俺。
熱いとか、痛いとかそういうのが頭でぐちゃぐちゃになって俺は口をパクパクさせ呻き声を漏らした。
そんな俺に構わず腰を進める阿賀松。
余裕かましたようなにやけ面が視界に入り、俺は睨み付けるように顔を強張らせた。


「ハハッ、まじ締まりよすぎ……っ」


阿賀松は乾いた笑い声を上げながら、根本を打ち付けるように腰を動かす。
微かな振動すらも中から伝わってきて、俺は涙で歪む視界を遮るように腕で覆った。


「っ、ひっ、んぐ、あっ」


だらしなく半開きになった口許から聞きたくもない自分の喘ぎ声が漏れ、俺は必死に堪えるように自分の腕を掴んだ。
「すげー声」笑う阿賀松の声が聞こえる。
深く奥まで挿入され痙攣するように腰が跳ねた。
ガチガチと奥歯が震える。
ろくにまともな愛撫されてないのに、なんでこんなに興奮してしまうのだろうか。


「ちょ……っと、感じすぎじゃないっすか」


額にじわりと汗を滲ませた阿賀松は、言いながら勃起した俺のものに手を伸ばす。
馬鹿にするような、そんな口調の阿賀松に内心腹立ったが今の俺はそれどころではなかった。
先ほどとは違い先走りで濡れた性器は敏感になっていて、それを指で伸ばした阿賀松は全体を扱き始める。


「いやだっ、せんぱい、せんぱい!」


あまりの気持ちよさに、俺は半狂乱になって阿賀松の服を掴んだ。
手コキしながらの挿入なんて卑怯すぎる。
懇願するように声をあげる俺。
阿賀松は「うるせえ」と吐息混じりに囁けば、上下させる手を早める。


「っひあ、う、んんっ!」


間もなく、俺は射精した。
勃起した自身から白い液体が溢れて、頬に生暖かいそれがかかる。



「あーくそダルい、寝る」


情事後、床の上にぐったりとなる俺を軽く足で蹴る阿賀松は乱れた服を直しながらそのまま奥に繋がる寝室へと戻ってくる。
放置の上になんて酷い扱いなんだと不満を覚えたが、今さらなので俺はなにも言わなかった。
それにしても、酷く体がだるい。
あれから何度も犯され、あまりにも声を上げすぎた俺は現在喉を痛め喋るのも億劫に感じるくらいの有り様だった。
立ち上がろうとしても腰がガクガクになって動けない。
でも、何故だろうか。
この怠慢感すら心地よく感じた。
一時期の異常なくらいの欲求不満は解消されたわけだけれども、もしかしなくても、いずれまた新たな欲求が現れてくるだろう。
本来ならばそれは喜ばしいことではないとわかっているのだが、俺は、それも悪くないなと思った。

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