欲求不満、というやつだろうか。
ここ最近一人で抜いてもろくに満足出来ない。
イクにはイクのだが、なんというか、マンネリというか刺激が欲しいというか。
とにかく俺は悩んでいた。
健全な男子高校生たるものこういうのは当たり前なのかもしれないが、自分が満足する方法がわかっているだけにかなりバツが悪い。

ケツに突っ込まれたい。
なにがなんだかわからないくらいバックでガンガン突かれて、射精したい。

ここ最近阿賀松にほっとかれていたせいだろうか、自分がこんなことを考えてしまうのは。
我ながらもう末期だと思う。
自分が男に犯されて喜ぶようなやつとは思わなかったが、一度阿賀松にヤられてから不本意ながらもオナニーで満足できなくなっているのも事実だ。
突っ込まれたい。
玩具とかそういう作り物ではなく、ガチガチに勃起したものを。
自分で考えていて鬱になる。
違う、こうじゃないと口で必死に否定しても、頭では自分のことは自分がよくわかっていた。


「齋籐、なにしてるの?帰るよ」


HR終了後の教室、席についたまま悶々としていた俺は隣の席の志摩に声をかけられハッと顔を上げる。
「あ、う……うん」俺は慌てて思考を振り切り、鞄を手に席を立った。
「?」妙に歯切れの悪い俺に志摩は不思議そうな顔をしながらも待っていてくれる。
放課後とはいえど、教室内でムラムラするなんてどうなんだ俺。
一人自己嫌悪に陥りながら、俺は志摩とともに教室を後にする。


「でさー、あれやばかったよね。俺ずっと思いだし笑いしてたし」

「あ、うん、そうだね」


校舎を後にし、寮内に戻ってきた俺たち。
他愛ない会話をする志摩に対し、俺の脳味噌は半分どこかへ飛んでいっていた。
笑いかけてくる志摩に、適当な返事をする俺。
志摩には悪かったが、なんかもう今の俺はそれどころではなかった。
中出しされたいだとか押さえ付けられて無理矢理ちんこ捩じ込まれたいとか考えながら歩いていると、俺は自分の体の変化に気が付く。
やばい、勃ってきた。
先程から不純な想像ばかりしていたせいだからだろう。
下半身を中心に体が熱くなってきて、慌てて俺は下半身を隠すように鞄を体の前に持ってきた。
嘘だろ。バカか俺は。


「齋籐?」


「え?あ、は?な、なな、なに?」


不意に志摩に声をかけられ、俺は思わず足を止める。
あまりにも挙動が怪しい俺を怪訝に思ったのだろう。
志摩の表情には微かに心配の色が滲んでいた。


「どうしたの?お腹押さえてるけど。もしかしてお腹痛いの?」


言いながら、志摩は下腹部に持ってきた俺の鞄を指差す。
やはり分かりやすかったのだろうか。
志摩に指摘され、俺はギクリと体を強張らせた。
友人と普通に他愛ないこと話しているときに勃起したなんて、生理的なそれだとしても恥ずかしすぎて口が裂けても言えない。
「べっ別に、大丈夫だから!」俺は勢いよく首をブンブンと振りながら、そのまま志摩から離れるように後ずさる。


「本当に?最近食中毒とか多いし、お腹痛いんなら無理しないで保健室にいった方が……」


心配そうな顔をする志摩は、言いながらそっと俺の肩に手を伸ばした。
志摩の指先が触れた瞬間、顔が沸騰したみたいに熱くなって俺は慌てて志摩から離れる。


「ご、ごめん、やっぱり保健室に行ってくる!」


そう俺は声を上げながら、小走りで寮内を駆けていく。
足の向く先に保健室はない。
俺は近くにある便所に向かって走っていった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


バタンと扉を閉め、俺は個室に鍵をかける。
別になにかをするわけではない。
ただ精神統一をしようとこうして志摩から離れ誰もいないこの男子便所へとやってきたのだ。
と言っても、残念ながら便所は誰もいないわけではなく俺と同じように丁度便所にやってきていた生徒が数人いた。
もし誰もいなかったら一発抜いて気を静めようなんて思っていない。本当だ。
俺は扉に背中を預け、静かに深呼吸を繰り返した。
気を紛らすように自分の苦手なものや嫌いなものを必死に思い浮かべる。よし、萎えた。
こうすれば、一先ずは大丈夫だろう。
先程よりも落ち着いた自分の体に、俺は一息つきながらそのまま個室の扉を開いた。
意味もなくここに長居して変に勘繰られたくない。
便所に出た俺は、一応洗面台で手を洗った。
毎度毎度二十四時間ムラムラして勃起する度に便所に隠るのはもう勘弁して欲しい。
欲求不満は思いの外体が参ってしまう。
となれば、どうしようか。
濡れた手から水を振り払いながら便所を後にした俺は、自分がとんでもないことを考えていることに気付く。

阿賀松に、会いに行こうか。
それも自分の欲求を満たすためだけに。

流石にそれは不味いだろう。人としても、男としても。
そうは思うが、このままじゃ俺の方がおかしくなってしまいそうで怖かった。
でも、阿賀松に会って、素直に話したところで自己中で気紛れな阿賀松が俺の話を受け入れてくれるかどうかも怪しい。
やっぱり、やめとこうか。
大体、おかしいだろう。こんなの。阿賀松に対しても失礼だし、なによりももう一度犯してもらったところでどうにかなるかどうかも怪しい。
一人考え込みながら男子便所を後にすると、遠くに見覚えのある後ろ姿を見つけてしまう。
……なんて最悪なタイミングだろうか。
一際目立つ赤い髪をしたその生徒、阿賀松はこちらに顔を向け、その視線の先に俺を見つけるとにやにやと笑いながらこちらに歩み寄ってくる。


「よお、久しぶりだな」


そう笑う阿賀松はいつもより機嫌が良さそうで、便所の前で狼狽する俺の肩に腕を回した。
顔が近い。耳に息がかかる。
忘れかけていた熱が再び体に蘇り、俺はじわじわと顔を熱くさせた。
せっかく諦めようとしたのに、我慢しようとしたのに。
こんなの、間が悪すぎる。


「あ、あの……っ」


緊張のせいだろうか、自然と声が震えた。
俺は視線を床に向けたまま、そう声をあげる。
「あ?」まさか俺の方から声をかけるとは思ってなかったのだろうか。
「なんだよ」阿賀松は少し意外そうな顔をして俺の顔を覗き込む。


「せっ先輩に、そ、相談があるんです……けど……」

←前 次→
top