「ユウキ君」

「はい」

「お前、俺の事好きだろ?」

「……はい?」


阿賀松の言うことはいつもいきなりで、しかも意味がわからない。
例えば今、強引に阿賀松の部屋へ連れ込まれた俺は阿賀松の突拍子のない言葉に顔をしかめる。


「好きだろ?なあ、本当の事言ってみろよ。笑わねーから」


笑うつもりだったのか。
言いながら迫ってくる阿賀松に、俺はもうどう返したらいいのかわからなくて、目を泳がしなにかに助けを求めようとするが残念ながらこの部屋に俺の視線を受け止めてくれるようなやつは迫ってくるこの男しかいない。
つまり俺は、阿賀松の部屋でこの部屋の持ち主と二人っきりなわけだ。


「だから、好きなんだろ?」

「……いえ、別に」

「好きなんだろ?」


言いかけて、阿賀松に台詞を潰される。
気付いたら俺は壁際にまで追いやられていて、目の前に迫ってくる阿賀松は壁に背中を寄りかからせる俺の上に被さるようにぐいと顔を近付けてきた。
どうやら俺が阿賀松のお気に召すような返事をしない限り、この状況は回避できないらしい。
なんてやつだ。
今更ながら、あまりにも力業な阿賀松の行動に若干恐怖すら覚える。


「……す、す、好きですけど」


阿賀松にこういう告白染みたことをさせられたのは初めてじゃないが、やはり一度か二度しただけで慣れるようなものじゃない。というか慣れたくない。
阿賀松の顔が近すぎて、目を逸らしながらそうゴニョゴニョと口ごもる俺。
「ふーん、へぇー」言いながら、阿賀松は俺の顔をじろじろと眺めてくる。
わざわざ告白させておいて、なんだこのリアクションの薄さは。
なんだか自分だけが晒し者にされているみたいで、あまりの恥ずかしさに顔面に熱が集まっていく。


「あ、もしかして照れてんの?かわいー」

「……」

「なんだよ、照れんなって」

「……」


赤くなる俺に、阿賀松はにやにや笑いながらからかってくる。
こんな目にあえば、誰だって恥ずかしくなるに決まっている。
それをそうとわかっていてそう詰ってくる阿賀松は相当性格が悪い。
今に知ったことではないけれど、あらためてそう実感した。


「あ?なに拗ねてんの?そんなに恥ずかしかった?」


「意外と純情なんでちゅね」とあからさまにバカにしてくる阿賀松に、俺は思わず顔を逸らす。
拗ねていると言った覚えもないし、こんなバカにされる覚えもない。
「なんだよ、怒んなよ」俺の反応を見て可笑しそうに笑う阿賀松は、言いながら俺の頬に軽く唇を落とす。
無造作な阿賀松の長髪が頬を掠め、あまりの擽ったさに俺は目を細めた。
謝る態度としては到底なっていないが、俺はなにも言えなくなる。


「怒ってませんから……そ、それ……やめてください」


言いながら、俺は何度も至るところに口付けをしようとしてくる阿賀松を止めようと阿賀松の肩を軽く押した。
阿賀松なりに甘えているようだが、こちらからしてみればかなり恥ずかしい。というかなんで俺が恥ずかしがらなきゃいけないんだ。
キスを拒否する俺に阿賀松は少し不満そうな顔をして、「ああ、わかった」となにかよからぬことを思い付いたらしく楽しそうに口許を歪める。


「ユウキ君は、こっちの方がいいんだっけ」


言いながら、俺の顎を掴んだ阿賀松は親指で俺の唇をなぞった。
一言もそんなことを言った覚えはない。
「ち、違います」もろ目が合ってしまい、自然と声が震えた。
頬が熱くなって、俺は慌てて阿賀松の手を離そうとする。


「違わねーって」


そう笑いながら、阿賀松は軽く俺の口許に唇を押し付けた。
予想していたものよりも優しい感触に、思わず俺は阿賀松に目を向ける。
恥ずかしい、と思うよりも先に驚いたというのが本音だった。
「ほら、喜んでんじゃん」なんて根拠も糞もないようなことを言い出す阿賀松は、言いながら目を細め笑う。
よく見ると阿賀松の顔が微妙に赤くなっていて、もしかして恥ずかしがっているのだろうかと俺はまじまじと阿賀松の顔を眺めた。
喜んでるのはどっちだ。
そう言い返してやりたかったが、生憎俺はこんな歳で早死にしたくない。


「……なんだよ」


しつこいくらいの俺の視線に、笑みを浮かべていた阿賀松はバツが悪そうに顔を引きつらせた。
阿賀松でも恥ずかしくなることがあるのかと思い、なんとなく親近感を覚えてしまった俺は「なんにもないです」と含め笑いを浮かべながら首を横に振る。
少しでも阿賀松を愛しく感じてしまった俺は、オカシイのだろうか。



「なに笑ってんだよ」

「わ、笑ってないです」

「嘘つくな、笑ってんじゃねーか」

「ご、ごめんなさい」

「ぜってー許さねえ。お前なんか一生俺のパシリだからな」

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