いつものようにいきなり教室にやってきた阿賀松に理事長室にまで拉致られたはいいが、正直俺はどうしたらいいのかわからなかった。
罵詈雑言理不尽投げ付けられればそれはそれであれだけどまだ反応することが出来る。
けれど、阿賀松は。


「……」

「……」

「……」


突き刺さるような阿賀松の視線。
向かい側のソファー、足を組んで座る阿賀松はただ無言でこちらを見てくる。
何もすることがなく、ただじっとその場から動けずにいた俺だが流石に我慢の限界だ。というか不気味過ぎる。こんな意味の分からない気持ち悪さを感じなければならないくらいなら一発ぐらい殴られた方がましだ。
というわけで、


「あの、先輩……?」


そう、恐る恐る俺は阿賀松を見上げる。
すると、漸く阿賀松はその重い口を開いた。


「……ユウキ君」

「は、はい」

「俺たち付き合ってんだよね?」


まあ一応は。肝心の両思いというものを含めあらゆるものを飛び越えたお付き合いではあるが、周りにはそういうことになっている。
俺は無言で頷き返した。


「なら、たまには恋人らしいことしよーぜ」


なんでもないようにそんなことを言い出す阿賀松に、なにが『なら』なのか全くもって理解出来ないが毎度のごとく俺に拒否権は与えられていないということだけはわかった。





「っ、う、んんッ」

「ユウキ君、声。もっと静かにしねえと」


生徒会室まで聞こえるぞ、と耳元で囁かれ血の気が引く。
そんなこと言われても。
下着の中、無理矢理捩じ込まれた指にケツの穴を掻き混ぜられて冷静でいられるわけがない。
それ以前に、


「これの、どこが……ッ恋人、ですか……っ」


いきなりソファーに押し付けられ、脱がされて、これではいつもと変わらない。
あまりにもな阿賀松に必死に反論すれば、当の本人は寧ろ俺が理解できないとでも言うかのように小首をか傾げる。


「恋人っぽいだろ?」


どこが、と目を見開いた矢先。
体内に埋め込まれた阿賀松の指が内壁を大きく抉るように動き、瞬間、目の前が真っ白になった。


「ぁ、ッ」

「こことか」

「ッ、ぁ、や、っ は」

「こーやって絡めちゃったりしてさぁ……すげー恋人っぽい」

「ぁっ、く、ひ……ッ」


円を描くようにぐるりと動く指先に、下半身が震える。
細くはない、ある程度の質量のあるその異物感が余計大きく感じてしまうのは状況が状況だからか。
息苦しくて、逃れるように阿賀松の腕を掴むけれど、阿賀松の指の動きは激しさを増すばかりで。


「ユウキ君こーいうの好きなんだ。分かりやすくていいなぁ、お前」

「っ、や、め、ッ」

「出そう?出せよ。けど、ソファーは汚すなよ」


無茶苦茶だ。
泣きたくなるが、泣いたところで阿賀松が面白がるだけに違いない。
腰を押さえ付けられ、深く根本まで指を捩じ込まれた瞬間、脳味噌の奥が熱くなる。


「っぅ、あ、ぁッ」


開いた口を閉じることすら儘ならない。
乱暴な手付きで中を摩擦される度に声が漏れてしまい、自分の間抜けな声に堪らなく恥ずかしくなったがそんな暇すら与えられることはなかった。


「っ、ふ、ぅ……ッ」


せめて、と袖口を噛んで物理的に声を殺そうと試みる。
が、どうやら逆効果だったようで。


「ナニソレ、我慢してるつもりかよ。かわいー」
 

阿賀松の笑う声が聞こえたと思った次の瞬間、伸びてきたもう片方の手に頬を掴まれる。
それに身構えるよりも早く、阿賀松の手に塞ぐ手を引き剥がされそのまま無理矢理口を抉じ開けられてしまった。


「ぁ、ッ」

「声、聞かせろよ」

「ッ、ひ、ぅ、あ」

「いいだろ?」


嫌だと言っても止める気などサラサラ無いくせにわざわざ確認するのだからたまったものではない。
ただでさえろくに舌も回らない中、執拗に中を掻き回されれば正直、止めどなく押し寄せてくる刺激の波に我慢出来るほど俺は出来てはいない。


「ッ、ぁあ……ッ!!」


徐々に迫り上がっていた何かが限界に達した次の瞬間、頭の中が真っ白になる。
気がついた時には下着から頭出していたそれから精液が溢れ出していて。
それが、背もたれ目掛けて見事ぶっ飛んでいくのを見た瞬間、血の気が引いた。

慌てて拭おうとするも間に合わず、結果的にもろぶっかかったそれが垂れてるのを阿賀松に見付けられるわけだが。


「……あーあ、汚すなっつっただろうが」

「っ、ごめんな、さ」

「許さねえ」

「ッ、ぅ、うぁッ」


身体の中、埋め込まれていた指がずるりと引き抜かれる。
確かに何もなくなったはずなのに、先程まで散々弄られていたそこにはまだ阿賀松の指の感触が残っている。


「本当、だらしねえな」


ソファーが軋む。
視界が陰り、嫌な予感がして振り返ろうとすれば無理矢理腰を抱き起こされた。


「締りのねえ下半身には直接叩き込まねえといけねえみたいだな」


予想通り、ソファーに乗り上げてきた阿賀松は笑う。
不穏なその言葉に全身が緊張し、押さえ付けられた今逃げることもままならず。そんな中、背後からファスナーを下ろす音が聞こえてきて一瞬思考が停止しそうになる。いっそこのまま何も考えられなくなった方が良かったかもしれない。
そう思うくらい、先程まで指が入っていたそこに宛てがわれたものが熱くて。


「っ、な、ゃ、待っ」

「うるせえ、動くな」


「じゃねえと、手が滑って一気に入っちゃうかもしんねーぞ」臀部に食い込むくらい強い力で腰を抱き寄せられる。
ぬめった先端部は、先程散々解された肛門になんなく埋まってくる。


「……ッ」

「痛ぇのは嫌だろ?」

「ぅ……っ」


痛いのは、嫌だ。
背後に立つ阿賀松に全ての主導権を捧げてしまった今、下手に逆らうことは出来なくて。
息を吐き出し、必死に阿賀松のものを受け入れようと下半身の力を抜く。
けれど、やっぱりダメだ。怖くて緊張してしまい、汗が止まらなくて。
そんな中、阿賀松の乾いた笑い声が響く。


「はッ、まじで大人しくなんのな、お前」


「まあ、そっちのが挿れやすいからいいんだけど」そう阿賀松の言葉に「え」となった瞬間だった。
先程まで輪郭を確認するよう、軽く埋め込まれていただけのそれが一気に身体の奥へと捩じ込まれる。


「ひ、ぐぅッ!」


痛みというよりも貫かれたかのような錯覚を覚えるほどの衝撃に、一瞬、頭の中が真っ白になった。
それもすぐ、腰を揺さぶられ中を摩擦されるその痛みで現実へ引き戻される。


「ぁ……っ、やッ、痛、先輩ッ!抜っ、ぁ、うぅッ!」

「……ッは、うるせえ声……」

「んっ、ぅ」


阿賀松の腕の下、藻掻いていると顎を持ち上げられる。矢先、唇を塞がれる。
いきなりのキスにも驚いたが、キスしてるからといって止めてくれるわけでもなさそうだ。
ぐっと腰を抱かれ、力任せに根本まで捩じ込まれる性器に圧迫され息が詰まりそうになった。


「っ、ふ、ぅっ、んんッ」


唇を舐められる。息が苦しくて、腰を叩きつけられる度に器官が押し付けられ何も考えられなくなって。
やがて、塞がれた唇もすぐに離れる。
その代わり、


「……ッ、痛いのが好きな癖に今更ぶってんじゃねえよ……っ、なあっ!」

「っ、ぅうッ!」


弾けるような音ともに臀部に電気が走る。
叩かれたとすぐにわかったけど、混乱していた頭は更に掻き乱され、わけが分からなくなる。
ただ、叩かれた箇所と結合部が酷く熱かった。


「ぅ、あ、やだ、先輩……っ」

「嫌だじゃねえだろ、『好きです』って言えよ」

「っひ、ぃッ」


容赦なく叩き込まれる二発目に今度こそ意識が飛びそうになる。
ジンジンと焼けるようにひりつく下腹部に自然と力が篭ってしまい、伝わってくる阿賀松の呼吸が僅かに浅くなるのがわかった。


「ご、めんなさ、ごめんなさい……っ」


軋むスプリング。
流れ込んでくる熱に、圧し潰されそうになる下半身に、次々とやってくる痛みに俺の脳みその容量はとっくにオーバーしていたのだろう。


「……っちげえだろ、ユウキ君」


臀部を撫でられる。その指の感触にまで驚き、全身が強張った。
慣れとは恐ろしいもので、その指の動きで阿賀松が何を望んでいるのか分かってしまう自分がただ、怖い。


「……っす、……です……」


「好きです……ッ」そう、息を吐き出すように口にした瞬間、僅かに阿賀松の纏っていた空気が和らぐのを感じた。


「……もっとして下さいは?」

「ッ、もっ、と……して、下さ……ぅうッ」


言い終わるよりも先に、問答無用で叩き込まれる三発目の手のひらに全身が飛び上がりそうになった。
痛いものを痛いと感じることも出来ないほどの衝撃で麻痺しきった下半身には今何をやったところで苦痛でしかなくて、蹲ったところに思いっきり腰を叩き付けられれば目の前がチカチカ点滅し始める。


「ぅ……ッぁ、ひ……ッ」

「たまにはヤれば出来るじゃねえのユウキ君……っ」


喋る度に伝わってくる震動すら苦しくて、ソファーにしがみついた時、その手の上に阿賀松の掌が重ねられる。
一回り以上大きいその掌に握り締められれば身動き取れなくて。
絡められる指。背後から抱き竦められるように密着した下半身に嫌な予感を覚えた時だった。


「ご褒美だ、中にたっぷり出してやるよ」

「っ、うそ」

「嘘じゃねえ」


ぎゅっと腰を抱き締めてくる腕に力が加えられ、根本まで挿入された下半身はびくりともしなくて。
まずい。
麻痺した思考の中、それでも必死に逃げ出そうとソファーにしがみついた矢先のことだった。


「ほら、しっかり呑み干せよ」


「一滴でも零した許さねえから」そう、無茶苦茶なことを耳元で囁かれる。


「む、無理です……む、り……ぃ……ッ!!」


どくんと、体内で大きく脈打ったと思った瞬間腹の中その最奥で放出される熱に堪らず声にならない悲鳴を上げていた。


「っ、う、ううぅ……!」


焼けるように熱い。
他人の熱が気持ち悪くて、それ以上に、俺の意志とは関係なくどんどん体内を満たしていくそれに血の気が失せていく。
必死に身を捩ろうとすれば、すぐに阿賀松に抱き竦められる。
そして、


「っ、ぅ、あッ」


構わず、腰を動かし始める阿賀松。
勃起したままのそれが精液を内壁に擦り付けるように動き始める。


「待って、下さ、先輩……っそんなこと、っされたら、零れッ」

「……うるせぇな……っ」

「っな、っちょ、あぁ……ッ!」


案の定、僅かに出来た隙間からどろりと溢れ出してくる液体は腿を濡らし落ちていく。
それでも構わずゆるゆるとピストンを続ける阿賀松だったが、勿論見逃すはずもなく。


「ッ、あーあ、零すなっつっただろうがよ……っ」


いまのは不可抗力じゃないか。
それでも止めようとしない阿賀松に、ずぷずぷと音を立てどんどん溢れてくる精液に、なんだかもう泣きそうになった。
そんな中、項に柔らかい感触が触れる。
それが阿賀松の唇だとわかったのは、笑った時に息が吹き掛かったからだ。


「罰ゲームだな」

「っ、え」


最早当初の趣旨とは全く違う新ルールに俺は素で硬直した。
しかし、思い付いた阿賀松が大人しく引き下がることは俺の記憶の中ではまずない。


「俺が飽きるまで付き合えよ」

「何、言って」

「これならさぁ、少しは恋人っぽいだろ?」


少なくとも俺の知識上の恋人たちは相手にそんな無茶を強要しないが、最初から俺に選択肢は用意されてないようで。
くるりと仰向けに転がされれば、阿賀松の笑顔が目に入る。
目が合う度に戯れに重ねられる唇は少しは恋人らしいかもしれないなんて思うはずがない。

これが恋人関係というのなら俺は一生独り身でいい、そんなことを思いながら俺は阿賀松の唇を受け入れた。

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