年に一度のクリスマス。
本当は、会長と一緒に外出する予定だったのだが生徒会の急用が入ってしまい、結局それは叶わなかった。
夜、殆どの生徒が寮へと帰ったあとの不気味なくらい静まり返った校舎内。
会長の仕事が終わるのを待っていた俺は、草臥れた顔をした会長と並んで廊下を歩いていた。
薄暗い廊下に響く二つの足音。
窓の外は真っ暗で、雪が降っているようだ。
そのせいか、ひどく空気が冷たい。
「悪いな、せっかくのクリスマスだというのにロクなこともしてやれなくて」
ふと、先程まで黙り込んでいた会長が口を開く。
出てきた謝罪の言葉に、なんとなく会長の横顔を盗み見れば、いつになく落ち込んだ芳川会長につい頬が緩んだ。
真面目な会長だからこそ、責任を感じているのだろう。
実際、出掛けることができなくて残念だったのだが、会長も同じ気持ちだと思うと不思議と嬉しくなった。
「いえ、気にしないでください。……俺は、会長と一緒にいれるだけで嬉しいので」
しん、と静まり返った廊下に響く自分の声が楽しそうで自分でも驚いた。
嘘ではない。
こちらを見る会長と目があって、少しだけ頬を赤くした会長はばつが悪そうに視線を逸らす。
まだ、後ろめたく思っているらしい。
「……寒いな」
俺から顔を逸らすように窓の外へと視線を向けた会長はぽつりと呟く。
黒い雲から降る雪は心なしか先程よりも増え、風が強くなったようだ。
窓の外でひゅうひゅうと風が鳴る。
「……そう、ですね」
この調子なら、出掛けなくてよかったのかもしれない。
建物の中でもこんなに寒いのだから、外のことを考えたらぞっとする。
そんなことを考えながら窓の外を眺めといると、会長は自分の手袋を脱ぎ始めた。
「……会長?」
寒くないのだろうか。
素手の俺が寒いというのにわざわざ嵌めた手袋を外す会長に疑問を覚え、小首を傾げれば、会長はこちらを向く。
「これがない方が暖かいだろ、手」
そして、指先まで冷え切った俺の手を取った会長は照れ臭そうに笑った。
触れ合った指先から流れ込んでくる会長の体温は、確かにあの手袋があれば感じることがなかっただろう。
それでも、わざわざ自分のために外してくれたと都合の良い解釈をした俺は会長のその言葉が酷く嬉しくて、一瞬で寒さが吹き飛んだようだった。
「……はい」
人気のない、真冬の冷え切った校舎内。
学園の外から聞こえてくる陽気なクリスマスソング。
街は白く染まり、カラフルなイルミネーションに彩られる。
隣には憧れの人がいて、当初の予定は台無しになったもののこれはこれで幸せなクリスマスなのではないのだろうか。
思いながら、俺は会長の指に自分の指を絡めた。
隙間がなくなり、外気の寒さが入る隙がなくなるくらい、強く。
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