「ゆう君、一緒にトイレ行こうか」


向けられた笑顔。
何気なくかけられたその一言に、心臓が破裂しそうになるのが自分でもわかった。

楽しげに次の授業の準備をする同級生たちの中、俺は一人青褪める。

拒否権は、とっくにない。





「やっ、だってば、はるちゃんっ」

「は?なに、やだって。自分からのこのこついてきて今更拒否んの?さすが、ゆう君って馬鹿だよねー!そういうのは嫌の内に入んねえんだって」


男子便所の個室。
頭をグイグイと押さえつけられ、無理矢理膝を床に付けさせられた俺は見上げるように目の前のはるちゃんに目を向ける。
自分からのこのこ、というのには語弊がある。
正確には俺の返答も待たずにはるちゃんに引きずり込まれたのだ。
俺だって、はるちゃんよりも力があったら掴まれた腕を振り払っていた。
だけど、嫌がったところではるちゃんに殴られて痛い思いをするのは嫌だったから。
そこまで考えた上で自分がのこのこついてきていることに気付いた俺は自分が情けなくなって、顔が熱くなる。


「何照れてんの?もしかして今更意識しちゃってんの?」

「ち、ちが……う、くないけど……んぶっ」

「まあいいや。どうでもいいけどさ、あんまこっち見ないでくれる?気持ち悪いから」


じゃあ、なんで俺なんかに構うんだという声は言葉にならなかった。
頭を押さえつけていた手が頬を撫でるように口元へと下がり、小さく開いていた唇をこじ開けてくる。
口内へと入り込んでくる他人の指の感触が気持ち悪くて、慌てて吐き出そうとはるちゃんの手首を掴むが、剥がせない。


「ん、ん゙ぶっ」


舌を動かし、入り込んでくる指を追い出そうとぐっと絡めれば、口元を歪めたはるちゃんはそのまま舌を摘み、引っ張ってきた。
口の外へと引っ張り出された舌。
強制的に開口され、開いた口の端からはボタボタと唾液が溢れる。
顎先へと伝うように唾液で濡れる口元が気持ち悪くて、恥ずかしくて、全身が熱くなった。


「うわぁ、ゆう君ってば汚いな。こんなに唾液垂らして、犬みたい。恥ずかしくないの?」


くすくすと楽しそうに笑う壱畝は言いながら自分の下腹部に手を伸ばした。
うわ、と反射的に全身が反応する。
咄嗟に目をそらし、ぎゅっと瞑れば、じぃっとジッパーを下ろす音が聞こえてバクバクと心臓の鼓動が加速した。


「や、やひゃ、はるひゃ、やっはりやへほうほ……っ」

「あ、あんま喋んないでね。俺の指が君の唾液で汚れて汚いから」


目を瞑り、真っ暗になった視界の代わりに敏感になった嗅覚がひくりと反応した。
無理矢理開かされた唇に硬くも柔らかくもない肉の感触がし、鼻孔に独特の匂いが広がる。

この匂いを嗅いだのは、初めてではない。


「っや、はるひゃんっ!」


嫌な予感がして、目を開けることはできなかった。
手探りではるちゃんの腰に触れ、そのまま離れさせようとすれば、ぎゅうっと舌を強く引っ張られ、懇願の声は嗚咽に変わる。
  

「五月蝿いな、便器は黙れよ」


底冷えするような、冷たい声にぞくりと背筋に寒気が走った。
その一言に硬直したとき、ぐっと口を大きく抉じ開けられる。
次の瞬間、開いた口の中に熱い液体が注ぎ込まれた。


「ふっ、ぅ、ぐぁっ!」

「はーい、暴れない暴れなーい。制服にぶっかかったら臭くなっちゃうじゃん。口狙ってやってんだから大人しくしろよ、ほら」


寧ろ、口を便器代わりにされて落ち着いていられる人間がいると言うなら紹介してもらいたいくらいだ。
口いっぱいに広がるアンモニア臭に吐き気が込み上げて、舌を動かし、なんとか喉奥への侵入を妨げようとするが大きく開かれた口のお陰で全てを遮ることはできず。
舌を濡らし、喉奥へと直接流し込まれる尿に嫌悪と吐き気でいっぱいになり、その熱に堪られずすぐにそれらは吐瀉物とともに逆流してくる。


「うっぶ、ぅえっ、げほっ!」


俯き、激しく噎せると同時に口から外れた性器に顔に残尿をぶっかけられ今すぐ洗い流したい気持ちでいっぱいになったが、今はとにかく先に注ぎ込まれたものが体内に染み付くまでに全てを吐き出したくて。
便所の床に吐瀉物ぶち撒ける俺を見て舌打ちをしたはるちゃんは「あーあ」と残念そうに呟き、そして、げほげほと背中を丸め噎せ返る俺の頭を思いっきり踏み付ける。
体力が残っていなかった俺は呆気なくバランスを崩し、そのまま吐き出した吐瀉物に顔から飛び込んだ。


「っ、ひ、ゃ、も……っやだ……っやだってば……っ」

「おっかしいなぁ、この便器壊れてるみたいだねーゆう君」

「はるちゃ、やめてよ……っ、も、俺、こんなの……っんぐっ!」


顔が汚れることよりも、制服についてしまった吐瀉物を洗い流して乾くのにどれくらいかかるかということの方で頭はいっぱいだった。
匂いがつくのは困る。
家に帰って、あまりにめゲロ臭かったら使用人たちに怪しまれる。
ただでさえ、そういうのに敏感な人たちなのだから余計、心配を掛けたくなかった。
だけど、どうやらそれは叶わない願いのようだ。
思いっきり腹を蹴られ、耐えられず床の上に転がった俺は腹を守るように丸まったまま汚れる制服に涙が滲む。
そんな視界に近付いてくるはるちゃんの足元が映り込み、そして屈み込んでこちらを見下ろしてくるはるちゃんと目があって、無理矢理前髪を掴まれ顔を上げさせられた。


「壊れた便器は修理しないとなぁ、ゆう君」

←前 次→
top