勉強するために集まったというのに、なんで俺はこんなことをしているのだろうか。
 志摩の足の間に膝立ちになって股間に顔を埋めた俺は、舌でジッパーの金具を引っ掻けようとする。
 が、なかなか上手くいかない。
 舌つりそう……。
 思いながら、鼻先が当たるくらいぐっとそこに顔を近付けた俺は、擦り寄るようにしてなんとか金具を咥えることに成功した。
 歯で金具を噛み、そのまま顔を動かしジッパーを下ろす。
 普通にやるよりものすごく恥ずかしいのは恐らく、志摩がその様子を見て楽しんでいるとわかったからだろう。
 そのまま下着の前開きに顔を近付けた。
 なんでこんなんで勃起するんだよ、有り得ないだろ。普通に。
 いくら周りが暗くても、いざ目の前にすると恥ずかしくなってくる。
 やけになって膨らんだ下着の前開きを口に咥えた俺は、舌を使ってボタンを外そうとした。
 が、なかなか上手くいかない。
 頭上から笑い声が漏れる。恥ずかしい上に、情けない。
 わざわざ手を使うなと意地の悪い命令をしてきた志摩を恨みつつ、俺は舌を動かした。
 下着の中で硬さを増す性器にいちいち動きを止めそうになったが、このままでは阿佐美が戻ってくる。
 舌と歯を駆使してようやく下着から取り出したときには下着は俺の唾液で濡れていて、なんだか恥ずかしくて仕方なかった。
 それすらも志摩の想定内なのだろう。
 まともに触ってすらないというのにすでに完勃ちになったそれになんとも言えない気分になりながら裏筋に舌を這わせたとき、僅かに志摩の足が動いた。
 ああ、なんかもう頭がクラクラしてきた。
 そのまま吸い付くように竿に唇をくっ付けたとき、不意に「齋籐」と名前を呼ばれる。

「阿佐美戻ってきたけど、そのままよろしくね」

 テーブルの上からティッシュ箱を手に取った志摩は、それをテーブル下の俺に渡しながらそんなことを言い出した。
 阿佐美が戻ってくる前にさっさと済ますつもりだった俺は、その志摩の言葉に冷や汗を滲ませる。
 冗談だろ。
 そう思いたかったが、確かに玄関口から扉が開く音が聞こえた。
 カサリとテーブルの上で教科書を捲るような音がする。阿佐美に煩く言われないよう志摩がフリをしているのだろう。

「……佑樹くんは?」
「トイレ」
「ふーん」

 先程に比べてやけにテンションが低い。
 俺がいないとこういう感じなのかとなんだか新鮮に感じる反面、テーブルに近付いてくる足に緊張がピークに達しそうになる。ガタリと音を立て、テーブルの上になにか置かれた。

「はい、お茶」
「どーも」

 テーブルの上では二人が買ってきた飲み物を飲もうとしているのだろう。
 頭の上でなにかが擦れるような小さな音が聞こえた。
 ギッと背後のソファーが軋む。恐らく阿佐美が腰をかけたのだろう。

 緊張のせいか、酷く息苦しい。
 背後に阿佐美の気配を感じ、自分のしていることの自覚からか背徳感に押し潰されそうになる。
 鼻先のそれに舌を絡ませ、必死に咥えようとするが上手くいかない。
 そのもどかしさも加え、俺は段々焦ってくる。

「……どこまでやった?」
「ここ」
「さっきと変わってないじゃん」
「だから教えてって」
「……」

 どこまでも上から目線な志摩の態度に、沈黙から阿佐美のやりきれない気持ちが伝わってきた。
「最初から?」「うん」「今度はちゃんと聞いててよ」「はーい」。
 頭上で交わされる会話を聞き流しながら、切羽詰まった俺は取り敢えず舐めることにした。
 ……やっぱり咥えられない。
 このままじゃずっとテーブルからでられないぞ。
 そう焦燥感に駆られたとき、不意に頬にぐにっと嫌な感触が触れた。
 志摩だ。
『口開けて』
 阿佐美の目を盗んでテーブル下を覗き込む志摩は、そう微笑みながら勃起したものをぐりぐり頬に押し付けてくる。
 これはちょっとまじでやめてほしい。

「ちょっと志摩、聞いてた?」
「聞いてるよ。昨日の晩御飯でしょ?」
「……聞いてないなら聞いてないって言えよ」
「で、なんの話だっけ?」

 卓上はやけにピリピリとしていた。
 テーブルの上ではああいいながらも変わらずぬるりとした先端を押し付けてくる志摩に、俺は渋々それを口に咥える。
 なんとなく屈辱的だが、このままもたもたするよかましだ。
 嗚咽しない程度に口に含んだとき、不意に背後でなにか動く気配を感じる。恐らく、阿佐美の足だろう。
 特に気にせずフェラを続けようとしたとき、軽く浮かせた尻にぐりっとなにかが当たった。
 足だ。足が当たっている。

「阿佐美?どうしたの?」
「……いや、なんか」
「なんか?」
「や、なんでもない。で、どこまでしたっけ」

 なにか訝しむような阿佐美の声のともに、衣類越しに太ももを足でなぞられる。
 まるで探るようなその足付きからして、恐らく阿佐美は俺に気付いていないはずだ。
 テーブルの下になんかあるけどなんだっけ的なノリだろう。というかそうであってくれ。

「ぅん……ッ」

 絶対下を見るな、絶対下を見るなと念じながらも、俺は勉強を再開させる二人の声を聞きながら阿佐美の足から逃げるよう腰を引く。
 が、この限られた範囲内から完全に逃れることは不可能だった。
 志摩だけに集中してさっさと終わらせたかったのに、思わぬ阿佐美からの邪魔に気が散る。
 太ももを撫ぞっていた足の甲は徐々に上がり、阿佐美の爪先が股下に潜り込んだ。
 咄嗟に掴んで離したかったが、そんなことしたら確実にバレる。
 ぐりぐりと親指で股間を軽く押され、俺は咥えていたものをうっかり離しそうになるのを堪えてフェラを続けた。
 もしかしてわざとじゃないのか、こいつ。
 あまりにもいい所を刺激してくる阿佐美に、俺は声を漏らさないよう喉奥まで志摩のを咥える。
 息苦しいが、声を出してバレるよりかはましだ。
 歯を立てないように気を付けながら、俺は唇と上顎を使って口の中のものを愛撫する。
 顔を前後させ、なるべく音を立てないようにするがもしかしたらすでに阿佐美に聞こえているかもしれない。
 そんな妄想が、更に俺の中のなにかを掻き立てた。

「あ、阿佐美消ゴム」
「それくらい自分で取ってよ……はい」

 後方からの刺激に腰が疼くのを感じながら、俺はそれを悟られないようなにも考えずただがむしゃらに志摩への愛撫を続ける。
 衣類越しのもどかしさに、次第に体が熱くなってきた。
 やばい、やばいぞ俺。なんか勃ってきたんだけど大丈夫だよな、俺。頑張れ俺。
 もぞもぞと足を動かし、更に阿佐美から逃げようとしたときだった。
 ゴッという音とともに後頭部に鈍い痛みが走る。

「──ッ」

 うっかり口の中のものを噛み千切りそうになり、なんとか唇がキツくしまった程度で済んだ。
 が、どうやら上はそれだけでは済まなかったらしい。
 なにかが転がるような音とともに、四つん這いになった体の下へなにかが転がっていた。
 薄暗いそこに目を向けるが、よく見えない。
 先程の会話からすれば、恐らく消ゴムだろう。

「あっ、ちょっと待って。落ちた」

 テーブルの上から慌てたような阿佐美の声が聞こえ、背後のソファーが再び軋んだ。
 やばい、やばいって。
 机の下を覗き込もうとする阿佐美にさすがの志摩も焦ったようだ。

「いいよ、シャーペンのやつ使うから」
「それ消ゴムついてないよ」
「本当だ!」

 おい大丈夫なのか、これ。
 咄嗟に上目に志摩を見るが、志摩はこちらを見ない。
 なんかやばい。
 背後で気配がする。阿佐美が覗き込んでいるのだろう。この暗さなら、もしかしたらやり過ごせるかもしれない。
 思いながら、俺は動きを止める。
 振り返って背後の様子を確かめたかったが、もし目があったら最後だ。心臓の音がやけに煩い。すぐそばからごそりと音が聞こえ、体の下に阿佐美の手が入ってくる。

「阿佐美、ないならいいよ。ぐしゃぐしゃってしてみのむしにしとくから」
「まあ、あれ俺のだし。先に進めてて……ん?あれ?」

 言いかけて、阿佐美の腕が股間に当たった。
 擦るような動きに俺が軽く腰を動かしたとき、なにかに気付いたらしい阿佐美は俺の股下から手を抜く。
 やばい、バレたか。
 急に消ゴムを拾うのを止めた阿佐美に、俺は全身が強張るのを感じる。鼓動がやばい。顔が熱い。息ができない。

「どうしたの阿佐美」
「いや、なんか変なのが……」
「変なの?」

 俺です。変なの俺です。
 そう心の中で名乗りだしながら最大限気配を消したとき、いきなり股間を揉まれた。

「ッふ、ぅ……ッ」

 衣類越しに勃ちかけたものを細い指で揉まれ、俺は全身が跳ね上がるのを感じる。
 やばい。やばい。これ以上はやばい。どうせならもっと強く。まじでやばい。
 焦る思考の中、直接的な刺激を求める言葉が響く。
 そんな俺の意思を読み取ったかのように阿佐美の指にぐっと力が込もり、背筋が大きく震えた。
 瞬間。ゴッと先程と同じ音、同じ振動が頭部から聞こえ、先程よりも強く頭を打った俺は反射で口の中のものに歯を立てた。

「ゔッ」

 テーブルの上から悲痛な声が聞こえ、ガタガタとテーブルが揺れる。
 ごめん、志摩。

「ちょっと志摩、いきなりどうし……」

 脈絡もなく悶絶しだす志摩に焦った阿佐美は、慌ててテーブルから出る。
 下半身から手が離れたことに内心ほっとしながらも、慌てて俺は萎えたものから口を離そうとしたときだった。

「…………佑樹くん?」

 どうやらいまの反動でテーブルがずれたらしい。
 志摩の元に近付いた阿佐美は、テーブルから顔を出して志摩のを咥えていた俺を見て硬直した。
 俺も硬直した。志摩は泣いていた。

 阿佐美からは特になにも言われなかったが、その日を境に、阿佐美はなにかあるごとに机の下を覗くようになった。そんな阿佐美を見る度に、俺はいたたまれない気持ちでいっぱいになっていた。
 もう一つ変わったことと言えば、あれ以来志摩は俺にフェラを強要してくることがなくなったことだろうか。因みに志摩は赤点だった。

 おしまい


←前 次→
top