うちの学園では大浴場の掃除を各学年一クラスから当番を用意し、担当の生徒たちで掃除していた。
業者を呼べばいいものをわざわざ生徒たちにやらせるのは生徒たちの自主性やらなんやらが云々言っていたがよく覚えていない。
取り敢えず、自分たちが使うものは自分たちで綺麗にしようということのようだ。
そして今日、俺のクラスにその大浴場の掃除当番が回ってくる。
そこまではよかった。
担当だったクラスメートから急用があるからと代わりを頼まれ、勢いに押され渋々承諾してしまったのが今日の放課後。
入浴時間が過ぎ、空になった大浴場へと来てみればそこには誰もいない。
聞いていたはずの話では他に何人かいるはずだったのだが、目の前の更衣室は無人。
どうやら、サボりのようだ。
しかし、大浴場の入り口には『掃除中』の看板が出ていたから誰か来ているはずなのだろうが。
もしかしたら一時場所を離れているのかもしれないし誰か来るの待っていた方がいいのだろうと思案したときだった。
ふと、大浴場の方からシャワーの音が聞こえてくる。
まさか大浴場に集まっているのだろうか。
そう思い、慌てて扉を開けば熱気を孕んだ白い湯気が視界を覆う。
「あれ?なんだまだ残ってたんだ」
そして、奥から反響して聞こえてきたのはどこか聞き覚えのある明るい声。
……まだ?
目を細め、気になることを言う声のする方へと目を向ければ、そこには約一名呑気にシャワーを浴びていた青年がいた。
「ん?え?……あれ?」
可笑しいな、確かもう入浴時間は過ぎているはずなのだがどういうことなのだろうか。
放水するシャワーヘッドを片手に、こちらへと振り返るは濡れた真っ青な髪が嫌に似合う美青年・縁方人。
個人的に一対一で会いたくないランキング三位内に入る人間だ。
「縁、先輩……っ?」
「なんだ、齋籐君じゃん。奇遇だな、こんな場所で会うなんて。やっぱあれだね、運命」
ほら来たまた意味のわからないこと言い出したぞ。
水を滴らせ、立ち上がる縁(全裸)から目を逸らした俺は冷や汗を滲ませながら「いや、あの、入浴時間過ぎてるはずじゃ……」と恐る恐る尋ねる。
「ん?さっきも同じこと言われたなあ。ま、細かいことは気にしない気にしない」
いやそこは是非気にしていただきたい。
そう突っ込みかけ、ふと俺は縁の言葉が気にかかる。
さっきもって……まさか。
他の担当の生徒たちが過り、ただならぬ嫌な予感が胸の内を過った。
「……あの、その注意した人たちは……」
「ああ、適当にかわそうと思って一緒にお風呂入ろうかって誘ったらそこから逃げちゃったよ」
「………………」
誰が看板出したのか気になっていたが、大体わかった。
せっかく集まっていた担当の生徒を追い払い寄せ付けないのはこいつのせいか。
そうとわかったら俺も逃げ出したいところだが、せめて、掃除が出来るよう目の前のフルチンをどうにかして追い払ってやりたい。
やりたいがなんかもう近付きたくない。防衛本能が痛いくらい暴れている。
「でさ、齋籐君、君も早く脱いだら?そんな格好で風呂に入んの?」
「え?」
「ん?違うの?」
「いや、俺はその……ここの掃除を頼まれて……」
「あ、そうなの?」
そして、そう意外そうに目を丸くする縁は「わざわざご苦労様だね、齋籐君」と笑う。
思ったよりも反応がいい縁に、もしかしたらこのまま相手に風呂を上がってもらうよう頼んだら聞いてくれるかもしれない。
そう、人良さそうな笑みを浮かべる目の前の縁に内心淡い期待を抱きかけたときだった。
「じゃあ、齋籐君の体も隅々まで掃除しなきゃね」
まあ、そんな上手くいきませんよね。
涼しい顔をしておっさんみたいなセクハラ発言をしてくる縁に浮かべていた笑みが凍る。
この人の場合その発言を実行しようとするから嫌だ。
青ざめた俺は危険を察知し、慌てて逃げようとする。
が、大理石の床につるりと滑ってしまい、そのまま尻餅をついた。
「あい……ったぁ」
慌てて立ち上がろうとしたとき、背後から伸びてきた手に思いっきり肩を掴まれる。
ケツの痛みなんてぶっ飛ぶくらい全身が緊張し、俺は恐る恐る背後を振り返ればそこには満面の笑顔の縁がいて。
「嫌ですっ、離して下さい……っ」
「大丈夫だって、爪先まで隈無く綺麗にしてあげるから」
その発想からして色々汚れている。
縁に引き摺られ洗い場まで連れていかれそうになるのを必死に堪えようとするが、くそ、どこもかしこもつるつる滑って掴めない。
私服が濡れるのも構わず縁の腕から逃げようとしたときだった。
「俺は大丈夫なので、ですから……わっ!」
瞬間、何を考えたのか縁は温水が溢れるシャワーヘッドを向けてくる。
頭から降り注ぐ一肌よりも少し集めのそれは主に上半身を濡らしてきた。
「ちょっ、っや、なにするんですかっ!ほんと、やめてください……っ」
なにごとかと目を丸くした俺は慌ててシャワーヘッドを掴み強引に逸らすが、時既に遅し。
着ていたシャツは濡れ、充分に水分を含んだ衣類はずっしりと肌に張りついついてきた。
最悪だ。
別にお気に入りの服というわけではなかったがこの状況こそ俺にとっていいものではない。
「あららーごめんね齋籐君、手が滑っちゃった」
「うぅ」と呻きながら顔の水を拭う俺に対し、そう僅かに眉を下げ申し訳なさそうにする縁だがその声音はとても楽しそうに弾んでいる。
「びしょびしょになっちゃったね、動きにくくない?脱がないと風邪引いちゃうかもよ」そして、シャワーを止める縁はそう笑った。
こいつ、それが狙いか。
「俺は大丈夫ですから、もう遊ばないで下さい……っ」
「やだな、事故だって事故。ほら、手あげろよ。脱がせてあげるから」
なんとしても人を脱がせたいようだ。
濡れて張り付く人の服の裾を引っ張り強引に脱がそうとしてくる縁。
「いいです、いいですって!先輩は自分のことを……っ」そう慌ててたくしあげられる服を押さえながら縁の腕を掴んだ瞬間、服越しに胸を鷲掴まれた。
「っ、ぁッ、ちょ、やめてくださいって!先輩……っ!」
どさくさに紛れてこいつはなにをしてくるんだ。
布越しに乳首を引っ張られ、そのままぐにぐにと指の腹でしこられればぞくぞくと全身が粟立つ。
濡れた布は乳首を弄ぶ縁の手の感触はもちろん些細な刺激すらも鮮明に伝え、直接触られているかのようなそれに顔が熱くなるのがわかった。
「やらしいなあ、乳首透けてんじゃん。そんな薄い服着て風呂掃除なんてさあ誘ってんだろ?」
好き勝手引っ張られ、揉まれて勃起した突起を指で弾かれ全身がビクリと跳ねた。
お前が水ぶっかけて来たんだろうが。
そう言いたかったが本人にそんなことを言える勇気は持ち合わせていない。
「ゃっ、も、ほんと、止めてください、お願いします……っ」
赤くなる顔を隠すように俯けばくっきりと透けた両胸の乳首とそれを嬲る縁の白く細い手が目に入り、いたたまれなくなった俺はぎゅっと目を瞑りぐいぐいと縁の腕を引き離そうとするが敵わない。
「えー?どうしよっかなあ」
縁の楽しそうな声が聞こえてくる。
脇の下に滑り込んできた縁の手は上半身を支えるように胸元を掴み、そのまま親指の腹で押し潰すように突起を転がされる。
ぞわりと嫌な感触が背筋を這い力が抜けそうになるが、上半身を掴まれたお陰で手は離れない。
「止めろって言われてもさあ、ほら、齋籐君がこんなエロい格好してるから仕方ないじゃん?」
低く囁かれ、全身を這うようなその甘い声に背筋が震える。
同時に、両胸の乳首をぎゅっと引っ張られ「っ、い」と口から小さな呻き声が漏れた。
熱気と執拗な指責めで逆上せかけていた俺にとってその刺激は混濁しかけた意識を覚醒させるには十分なもので、流されかけそうになっていた俺はハッとする。
が、一足遅かった。
「水洗いの次はーっと……そうだ、もみ洗い」
またわけのわからないことを言い出す縁に「え?」と目を開いたときだった。
また引っ張られたと思った瞬間、視界が大きく傾いた。
そして、
「……って、うわっ!」
ばっしゃーんという大きな音と飛沫とともに沈む体。
どうやら、俺は湯船に突き落とされたようだ。
たまたま落ちたところが浅いところだったのでよかったが、嫌な浮遊感による不快感は拭えない。
尻餅をつき、湯船に浸かった状態の俺は「っ、ゲホッゲホッ」と大きく咳込み、目の前の縁を睨んだ。
「なにするんですか……っ!」
「また手が滑っちゃった」
どんだけ滑りやすいんだよお前の手は。
もう滑り止め付けとけよ。
惚けたように笑う縁が腹立たしくて仕方がなかったが、それ以上に関わりたくないという気持ちの方が大きかった。
「ほんと、お願いですから邪魔しないで下さい……っお願いします……っ」
浴槽へと入ってくる縁から逃げるように立ち上がり、そのまま湯船から出ようとしたときだった。
足首を思いっきり引っ張られ、無理矢理水中へと引き戻される。
これほどまでに服が鬱陶しく感じたことはあっただろうか。
「縁先輩……っ」
「後で掃除一緒に手伝ってやるから良いだろ?」
なに一つ良くない。
寧ろマイナスの方がでかい。
縁には俺を逃がす気は更々ないようだ。
しかし、俺もこんなところで縁と戯れている暇はない。
逃げた生徒の代わりに掃除をしなければ、俺に代役を頼んできたクラスメートに申し訳がない。
せめて友達を作りたい俺にとって交友関係の存在は大きく、俺はなけなしの勇気を振り絞り、それでも縁から逃げようとする。
が、
「駄目ですってば、ほんとっ、って、なに脱がして……っ!服引っ張らないでください!」
「へぇー、今日の齋籐君のパンツはグレーか。相変わらず地味だねえ、もう少し伊織見習って派手なのにしたら?あいつ勝負も普通のも全部赤パンだからね、まじ。齋籐君締まりいいし肌も綺麗だから柄物とか似合いそうな気ぃするんだけどね。俺的には地味な齋籐君も好きなんだけど」
ぐぐぐっとズボンのウエストを掴み、そのまま下着ごと脱がしてくる縁にばしゃばしゃと波立てながら必死に死守する俺。
余計なお世話だだとか阿賀松に聞かれてたらどうするんだとかなんでそんなこと知ってんだだとか色々突っ込みたいところはあったがそれどころじゃない。
「はい、手ー離してね」
「あっ」
そして必死の攻防戦の末、左腕のツボを押され脱力し掛けた瞬間、ずるりと下着ごと剥かれた。
下腹部は軽くなったが、背後の縁に丸出しになったケツを見られてると思ったら生きた心地がしない。
ああ、もう逸そ死にたい。
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