急かされるがまま俺は志摩の目の前でスカートを穿き、その下から穿いていたズボンを脱ぐ。
かなり肌寒かったが、タイツがあるのでなんとかなるだろうと思っていたが、なんだこのタイツは。思ったよりも暖かくなさそうだ。
引っ掻けたら破れてしまいそうな薄い生地に不安を覚えつつ、俺は膝まであげる。
ああ、モゾモゾする。
皮膚を包む違和感に股を擦り合わせながらそうそれを持ち上げようとして、下半身にねっとりと絡み付いてくる視線に冷や汗を滲ませた。
そして、恐る恐る視線を下ろせばしゃがみ込んで人のスカートを捲って遊ぶ志摩の頭部が視野に入る。というかさっきからなんかスースーすると思ったらお前のせいか。
「……っ志摩、志摩ってば」
「ん?」
「ち、近くない……?」
「気のせいだよ。ほら、早く着替えなって」
「そんな顔近づけられたら脱ぎにくいってば」
「脱がしてあげようか?」
「……いい」
「じゃ、早く脱ぎなよ」
「……うぅ」
相変わらず俺に拒否権というものは無いようだ。
何事もないように涼しい顔してスカートの中を覗いてくる志摩になんだかもう恥ずかしさ諸々でいっぱいになりながら、俺はパンストを腰まで一気に持ち上げる。
「おぉ」とか妙な歓声をあげないでくれ。居たたまれなくなってくる。
顔が熱くなって、なるべく舐めるようにこちらを見てくる志摩の視線を意識しないように心がけながら、俺は今度は上を着替えようと着ていた部屋着を脱ごうと腕を軽くあげたときだった。
不意に、するりと腿を撫でられる。
「やっぱ齋籐足綺麗だね」
「な、ちょ……っ」
すりすりすりすりと黒いタイツに覆われた内腿を撫で回してくる志摩。
あまりの擽ったさに耐えきれず、引け腰になった俺は「まだ着替えてる途中だってば……」と慌てて志摩を振り払おうとするが、腿を鷲掴まれそのまま乱暴に揉み扱かれれば全身の力が抜けそうになる。
そんな俺を見上げる志摩は短いスカートの中に手を突っ込み、徐に付け根まで撫であげた。
そして、足を這うその感触に耐えられず転びそうになる俺を支える志摩は「続けて着替えてていいよ」と笑う。
「よ、よくないよ……っ」
「照れ屋さんだなあ、齋籐は」
「じゃあ、俺が着せてあげる」そう無邪気に笑う志摩にいい予感がしなくて「いいよ、別に……」としどろもどろ断るが相手は志摩だ。もちろんちょっと断っただけで簡単に折れるようなやつではない。
「いいってほら、二人でやった方が早いじゃん」
「っわ、ぷ」
言ったそばから俺の上着を引っ張り強引に脱がしてくる志摩は脱いだそれを床に置けば、「はい次はこっち」と言いながらセーラー服を押し付けてくる。
なんたる手際のよさ。
目を点にして狼狽えていると、また強引に頭から被せられた。
そして、抵抗する暇もなく袖を通され、ファスナーを上げれればあっという間にセーラー服姿に早変わり。
恥ずかしがる暇もなかった。
「あはははははっ、齋籐のセーラー服だ!」
喜んでいるのかバカにされているのか満面の笑みを浮かべて大笑いする志摩に屈辱を受けつつ、俺は襟のスカーフを触る。
ああ、まさかセーラー服を着る日が来るなんて。
一生来なくてよかったといたたまれなくなる反面、俺が着るだけで志摩が喜んでくれるならそれでもいいかもしれないと甘やかしてしまう。
それでもやっぱりそんな反応をされるとちょっと恥ずかしいというかちょっと泣きそうだ。
「……笑い過ぎだよ」
「ああ、ごめんね。いやあ、サイズ丁度いいなあって思って」
そうニコニコと笑う志摩は「可愛いよ」と何気ない調子で続ける。
お世辞か本気かわからなかったが、本来ならば不名誉なのだろう。それでも可愛いと言われ嬉しく感じてしまう自分が情けない。
そんな一喜一憂する俺をよそに、志摩はふと「あ」となにか思い付いたように声をあげる。
「そうだ、写メ撮っていい?」
そしてそうやっぱり軽薄な調子で志摩は問い掛けてきた。
何を言い出すかと思えば、本当に何を言い出すんだこいつは。
「だ、駄目!絶対駄目……っ!」
「ねぇ、お願い?せっかく齋籐が着てくれたんだからさ、記念に残したいんだよ」
ぶんぶんと首を横に振る俺に、どこか寂しそうな顔をしてねだるようにこちらを見据える志摩は「ね、一枚だけ」と人差し指を立てて見せる。
それでも渋る俺に甘えるよう擦り寄ってくる志摩は「齋籐」と耳元で名前を呼んできた。
甘く柔らかい心地よいその声が鼓膜に染み込み脳髄をどろどろに溶かす。
ふ、と小さく耳に息を吹き掛けられればゾクリと背筋が震えた。
「…………っ」
ああ、狡い。狡すぎる。
頼まれたら俺が断れないことを知って、こんな真似してくるなんて。
こちらを覗き込んでくる志摩と目が合い、顔が熱くなった。
咄嗟に視線を逸らす。
「……他の誰にも見せないなら……」
「流石俺の齋籐。優しいね」
志摩から後ずさった俺は志摩の軽いセクハラに耐えられずついつい折れてしまう。
そんな俺に満足そうに笑う志摩は言いながらソファーの裏からデジカメを取り出した。
…………デジカメ?
「ちょ、ちょ、待って待って待って……あれ?携帯とかじゃないの?なんでそんな本格的なの?」
「せっかくだしね」
「やっ、だ、ダメだってそんな、フィルムが勿体ないって」
「そんなこと気にしなくていいよ。齋籐を観察するために買ったデジカメなんだから。しかも動画も録れるよ」
「もっとダメだよ……!」
「はいはい照れない照れない。ほら、まずは全身映すから動かないでね」
まずは……?!
全く悪びれた様子のない志摩はデジカメを目元に当てこちらにレンズを向ける。
なんでこんなに色々仕込んでるんだとかもしかしてこれ計画的な犯行なのかとかあまりにも準備の良すぎる志摩を懐疑の念を抱くより先に、向けられたレンズに慌てふためく俺。
なにか物陰に隠れようとするが無駄にすっきりと室内には身を隠せる場所はあまりない。
隠れることを諦めて、志摩に背中を向ける。
「志摩、カメラやめてよ」
「齋籐写真嫌いなの?」
「……苦手」
「そっか、じゃあ慣れないとね」
「これからいっぱい二人の想い出残さなきゃいけないんだから」あまりにも嫌がる俺を諦めたのか、デジカメを下げる志摩は言いながらゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。
振り返れば、目があって志摩は笑った。
なんでこいつは一々こんな言い方するんだろうか。
本当に、ずるい。
そっと手を握ってくる志摩は「ね?」と宥めるように小首を傾げさせる。
……そうだ、たかが写真だ。
今まで散々な目に遭わされてきたのに、たかが写真、志摩しか見ないものを頑なに拒むのは可笑しい。
その優しい声音についついほだされた俺は決心し、志摩の問いかけに小さく頷き返した。
その矢先だ。
「じゃあまず、スカートの裾持ち上げようか」
「…………え?」
「だからスカートを捲るんだよ」
「こうやって」不意に、下腹部に伸びてきた志摩の手に思いっきりスカートの裾を掴まれる。
あまりにも唐突な志摩の行動に、一瞬対応に遅れた。
そして自分がまた志摩に騙されたと気付くのには然程時間は掛からなかった。
がばっと勢いよく捲りあげられるスカート。
翻るプリーツ。
黒いタイツに覆われた下腹部が露出し、それらのタイミングが重なった瞬間、志摩が構えていたデジカメのフラッシュが瞬いた。
「っ!」
「齋籐のパンチラゲット」
一瞬の出来事だった。
咄嗟に持ち上がるスカートの裾を押さえたときにはすでに遅し。
志摩は唇を舐め、薄く微笑んだ。
全身が、緊張する。
「や、なにし……っ」
「今度は自分でやってみなよ」
狼狽える俺の言葉を遮る志摩はそう笑って促してくる。
反省どころか自主的にやらせようとしてくる志摩の神経は素晴らしい。
全く悪びれた様子もない志摩は未だ硬直する俺に「ほら、俺にされた方が好きなの?」と笑いながら問い掛けてくる。
言いながら、スカートの裾を摘まむ志摩の手を握り、慌てて止めた俺はふるふると首を左右に振った。
断られるのが面白くなかったのかどこか不満そうな顔をした志摩だがすぐに楽しそうに口許を弛め、「じゃあ、自分でしなきゃね」と微笑む。
本当に、弱い。
逆らえない自分が情けなく思う反面、命令されれば一層大きく高鳴る自分の胸が煩わしくて。
ゴクリと固唾を飲み、おずおずと下半身を覆う短いスカートの裾に手を伸ばす。
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