最初は阿賀松の機嫌を損ねないためのクリスマスだったはずなのに、どうしてこうなったのだろうか。



「ほらよ、三枚目」


背後から声がして、壁にコンドームが投げ付けられる。
びちゃりと嫌な音を立て中に入っていた精液が四散し、それを一瞥した瞬間再び勃起している挿入された。

こいつの性欲は底無しか。
体力の限界に近付いてきた俺には抵抗出来るほどの元気は残っておらず、先ほどまでの挿入でぱっくりと開いたそこに埋め込まれる性器をただ感じる。


「っぁ、くぅッ、んっ、んん……っ!」


一度挿入されて押し開かれたそこは安易に性器を受け入れ、そのまま根本まで一気に挿入してきたと思ったら再び乱暴なピストンが始まる。
壊されないように壁に手をつくのが精一杯で、朦朧になる意識の中、俺は打ち付けられるそれをただ受け入れた。


「そろそろ暖まってきたんじゃねえの?湯気出てんぞ」


「おもしれー」と笑いながら、逃げる俺の上半身を抱き抱えるように胸に手を伸ばした阿賀松はそのまま上着の下に手を這わせ、衣類越しに両胸を鷲掴んだ。
その言葉に羞恥を覚えるよりも先に服ごと乳首を引っ張られ、目を見開く。


「そんな、っぁ゙、やっ、せんぱ、あッ、や……っあぁ……ッ」


体を支えていた壁から離され、背後からの挿入から逃げることも出来ず俺は阿賀松の腕を掴み慌てて引き離そうとするが、寒さで尖った乳首をぎゅっと引っ張られれば身がすくんだ。
そのまま指の腹で揉まれ、間接的なこそばゆさと体内で硬度を増す性器、背後から覆い被さってくる阿賀松の体温で頭がふわふわしてくる。


「んんっ、ふ、ぁ……そこ、やめ……ッ!」


布が擦れ、普段弄られているせいか嫌に敏感になってしまった乳首はそれでも阿賀松の指を感じてしまい、体が疼く。
おまけに、先ほどまでの挿入で勃起した性器はまともに触ってもらえないという拷問だ。

頭がおかしくなりそうだ。
いや、こんな場所でこんなことしている時点でもうとっくにおかしくなっているのかもしれない。


「あがまつ、せんぱぁ……んん……ッ!」


捏ねられ、嬲られ、転がされ。
強弱つけて様々な刺激を与えられた乳首には血液が集まり、ガチガチに勃起したそこをはねられれば背筋が震えた。


「あーあ、せっかく着込んでたのにぐちゃぐちゃになったなぁ。こんなんじゃさみーだろ?」


「仕方ねえから可愛いユウキ君に免じて暖めてやる」喜べよ?と阿賀松は笑う。
身動ぎさせる俺の胸を撫で自分へと抱き寄せ上半身を密着させた阿賀松はそのままベロリと首筋に這わせ、そのぬるりとした熱い舌の感触に震えた。
がっしりと腰と胸を抱き締められ、そのまま奥を抉られる。
視界が白ばむ。


「や、あっ、あぁッ、もっ、無理ですっ、せんぱい、せんぱ、ぁ、あぁっ!」


先ほどよりも密着した体はパンパンと肌を打ち付けられる度に奥の奥へと挿入を繰り返し、そのつど声帯がきゅっと絞まり変に声が上擦る。
阿賀松の動きに合わせて腰が揺れ、首筋に荒い吐息が吹き掛かった。
体内を出し入れする性器の脈が早くなる。


「はははっ!そこまで喜んで貰えるとはなぁ!…………あ」


あぁ、そろそろイクな。
そう思ったときだった。

……あ?
阿賀松が素っ頓狂な声を上げるのとほぼ同時に、ずるりと勢いよく性器が抜ける。
そして、体内になにかを残したまま。

それがなにかとわかるのに然程時間はかからなかった。
性行為に夢中になっている間におおきく乱れた衣服の中でも乱れすぎて丸だしになったケツ。
そこに、どろりと熱い液体が吐き出される。





「うぅ……服がぁ……」

「悪かったって言ってんだろ。いい加減気ぃ直せよ、別に誰も気付かねえって。イカくせぇって思うくらいで」


バレてるじゃねえか。
事後。
勢い余ってコンドームが外れた阿賀松に尻を中心に服を汚された俺はぐずる。
辺りに漂う青臭さが自分からもしていると思ったら生きた心地がしなかった。


「後で同じの買ってやるからうじうじすんなよ」


「ほら拭いたらわかんなくなったわかんなくなった」言いながら、布を手にした阿賀松はごしごしと俺の服を拭う。


「あ、どうも……ってそれ俺のマフラーじゃないですか……!」

「あぁ?……あー、手頃な布切れがあったから」

「……なんで……もう……ううっ」

「なんで泣くんだよ」

「せっかく、会長に貰ったのにぃ……」


今朝、『君は首を隠した方がいい』と芳川会長に渡された新品のマフラーが早速雑巾扱いされている。おまけに阿賀松の精液を拭くのに使われてるなんて。
会長にどういう顔したらいいんだ。
そう嘆く俺の口から出た『会長』という固有名詞に阿賀松が凍りつく。
そして、その異変に気付いたときには遅かった。


「誰になんだって?」

「せっ先輩、痛いです……っ」


いきなり肩を掴まれたと思えばそのままミチミチミチと指を食い込ませながら迫ってくる阿賀松に血の気が引く。というかそれ以前に肩が痛い。
慌てて逃げようとするがやはり阿賀松の握力に構わず、それどころか阿賀松はヒートアップするばかりで。


「やり直しだ」

「え?」

「やり直すぞ、クリスマス」


またなにかよくわからないことを言い出した。


「ミンクか?チンチラか?ウールか?フォックスか?マフラーなら俺が最上級の毛皮を用意してやろう」

「え、あの、いや、いいです、大丈夫です。その、別にそういうつもりで言ったつもりではないですから本当気にしないで下さい」

「なんだ?あの眼鏡からのマフラーは受け取って俺のマフラーはいらねえと」

「ち、違います。違います。でもこれ以上は校門が閉まってしまいますし……」

「こじ開ければいいだろ」


そんなむちゃくちゃな。
会長の名前を出すんじゃなかった。
変に対抗心を燃やした阿賀松に青ざめる俺は宥めようとするが阿賀松は止まらない。


「ああ、そうだな。せっかくだし今日はこのままどっか適当に泊まるか」

「そ……そんな、駄目ですよ、外泊は怒られます」

「ごちゃごちゃうっせぇな。そこは黙って涙流しながら喜べよ。わざわざこの俺がお前の相手をしてやるって言ってんだからな、これ以上最高のクリスマスがあると思うか?」

「……ないです」

「だろ?」


ここまで来たら暴力だ。
睨むようにこちらを見下ろし威圧する阿賀松は俺が小さく頷けば満足そうに頷き、そしてにやりと口角を持ち上げ俺の手を取る。


「だったらほら、さっさと行くぞ」


「誰かさんが車使わせてくんねえから寒いんだよ」いきなり手を繋がれ目を丸くして相手を見上げる俺の視線から逃げるようにそっぽ向く阿賀松。
言い訳染みたその言葉に、寒さからか僅かに赤くなった耳に、ちょっとだけ都合のいい思考を働かせながら俺はまあ、一日くらいならいいかなんて思いながらその暖かい手を握り返した。


おしまい

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