06
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コンクリートが剥き出しになった無骨な部屋の中。
空っぽになったベッドの傍に立った白衣の男は、力任せに千切れたようなチューブに指を絡めた。
「……あれは、まだ見つからないのかな」
まるで独り言のような問い掛けに、傍に立っていた男の部下は慌てて姿勢を正す。
「ハッ、現在反応があった旧崎町へ右京と倭のチームに向かわせているのですが、その、連絡待ち状態でして……」
「じゃ、手の空いているやつらは全員向かわせて」
落ち着いた声は相変わらず感情が読めない。
ゆっくりと部下を振り返った白衣の男は、生白いその顔に柔和な笑みを浮かべた。
「彼が他の人間の手に渡ればあいつらに何言われるかわからない。是が非でも彼を捕まえて、私の元へと連れてくるように。……大急ぎでね」
「は、はい!分かりました!」
有無を言わせない威圧が含まれたその言葉に、脊髄反射で頷いた部下はそのままその空き部屋から飛び出す。
一人残った男は、白衣のポケットから一枚の写真を取り出した。
何年も前のその写真はずっと持ち歩いているからかよれよれになっているが、男は構わずにその写真の中で笑う少年を指で触れ、撫でる。
「……九郎、あんたはどこまでも俺を困らせるのが楽しいみたいだ」
そう懐かしそうに目を細め、今はもういない親友に笑い掛ける男の目はどこまでも優しく――淀んでいた。
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episode1-End-
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