01
風紀副委員長に選ばれて数日、宇陀野の監視を名乗り出た翌日。
そろそろ不慮の事故かなにかでぽっくり逝くかと思ったがそんなことはない。所詮噂は噂なのだ。周りにはとやかく言われていたがこの通り俺はピンピンしていた。
というわけで平和だ。というか、退屈だ。
別段やることもなく、校舎内を見回りがてらぶらつきながらも風紀室へとやってきた。
凌央の機嫌、悪くないといいな。なんて思いながら風紀室の扉を開こうとしたときだった。目の前の扉が勢いよく開かれた。
勢いよく開かれた扉から飛び出してきたのはやや小柄な明るい茶髪頭。そして大きめなどこか犬っぽい雰囲気の少年――風紀仲間でありクラスメイトである神崎未散だ。その腕には封筒が大事そうに抱えられている。
未散君はそこに立っていた俺を見て、「夏日」と青い顔を更に青くさせた。
「や、未散君。……どうしたの? そんなに慌てて……」
そう声を掛けようとした矢先だった。未散君は俺の腕をぐっと引っ張り、慌てて風紀室から遠ざける。そして。
「お、おい……っ、夏日、なんでこんなところにいるんだよ」
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
なんでと言われても……。
「なんでだろう?」
「宇陀野和弥の見張り!」
ああ、それか。
「別に、朝昼晩だけ食事運んでやったらいいかなって思ってさ。あいつ、俺が一緒にいるの嫌がるし」
「それじゃ監視の意味がないだろ」
「大丈夫大丈夫、部屋に鍵かけてるから俺がいないと宇陀野は外に出られないし」
そう、昨夜見張りの子から預かったままの鍵を未散君の目の前に突き出せば、ぐ、と未散君は押し黙る。しかしやはりどこか納得いかないらしい、未散君は「でも」となにか言いたげにこちらを見上げてくるのだ。
未散君は真面目というか、必要以上になにかを恐れるところがある。それは未散君のよさでもあるが、俺からしてみれば『考え過ぎでは?』というのが本音だ。
……まあ、凌央の反応が怖くないといえば嘘になるが。それでも宇陀野は逆に一人にしてやったときの方がいいガス抜きにもなるのだ。
「夏日は……強いな、俺だったらそんなことできない」
「未散君は頑張り屋さんだしな、俺なんかよりもちゃんと風紀委員してるし」
「それは……っ、お前、ちゃんとしろよな」
「……善処するよ」
あまりなにか一つのことに熱中したり、のめり込んだり、そういうのは得意ではないのだ。何事もほどほどに、ゆるーくやるのが丁度いい。
が、これ以上なにか言えばボロが出てしまいそうだ。未散君に叱られたくない俺は咄嗟に話題を反らすことにした。
「その封筒、どっかに届けるの?」
そう、未散君の腕に抱えられた封筒を指差せば未散君は思い出したようだ。はっとし、「その、これは」と口籠る。
「これは、生徒会室に届けなきゃいけないんだ」
「生徒会室」
つい、未散君の口から出たその固有名詞を復唱する。
生徒会室、いい響きだ。
ふと脳裏に生徒会室で一日を過ごす優雅な知人の顔がよぎる。自然と胸がじんわりと熱くなった。
「ねえ、未散君。それ、俺が持っていくよ」
「え? 夏日が?」
「うん。どうせ暇だったし。未散君も暇じゃないんでしょ?」
言いながら、未散君の腕の中からそっと封筒を取り上げる。未散君は狼狽えるどころか、俺の提案に安堵するのだ。ほっと胸を撫でおろし、「いいのか?」とこちらを見上げてくる未散君。
「いいよ、別に」
「はあー、助かった。俺、こういうの苦手だったから」
「苦手? ……どういうのが得意なの?」
「うーん、えーと……パトロールとか?」
取り締まる、と言わない辺り未散君らしい。
首輪された未散君が尻尾振りながら校内を徘徊するのを想像し、犬の散歩を連想してしまいそうになる。……似合うな。
「じゃあ、パトロール頑張ってね」
「ああ、ありがとな! 宇陀野の見張りも忘れんなよ!」
「わかってるよ」の代わりに未散君には手を振り返しておく。
そして未散君と別れた俺は、生徒会室へと届けることになっている封筒に目を向けた。
それにしても、やけに厚い封筒だな。なにが入っているのだろうか。
そんなことを思いながらも、生徒会室へと向かう俺の足取りは抱える封筒とは裏腹に軽い。気付けば俺は小走りで生徒会室に向かっていた。
ほんと、体は正直。
◆ ◆ ◆
校舎内、生徒会室前。
「失礼しまーす……っと」
目の前の扉を数回ノックすれば、「どうぞ」と柔らかな声が返ってくる。その声に胸の奥が弾む。珍しく自分が緊張しているのが分かった。
俺は緊張を紛らすようにドアノブを掴み、そしてゆっくりと扉を開く。瞬間、扉の隙間から暖かな風とともにふわりと甘い薫りが溢れ出した。
嗅ぎ慣れた、淡い花の薫りだ。なんの花かは知らない。
「やあ、依知川君」
生徒会室奥、窓際。側のボードの上に置かれた花瓶に挿された花と戯れていたようだ、佇んでいたその人は目線だけをこちらに向け、微笑んだ。
色素の薄い瞳と髪、日焼けなどとは程遠い白い肌。見詰められただけで心の奥まで見透かされてしまいそうな程のその真っ直ぐな目。
中性的な美貌の持ち主だが、低めの声や突き出た喉仏、がっしりした骨格は男のそれだ。
「……友衛さん、一人だけですか?」
「そ。さっきここに蜥蜴が出てさ、皆怖がって出ていっちゃった。可笑しいよね、こんなちっちゃい生き物にビクビクしちゃって」
『こんな』という友衛さんは軽く右手を掲げる。
そのときだ、制服の裾から黒い影がちょろりと顔を出す。そしてその影はそのまま友衛さんの白い手の甲を這うように指先へと移動した。
……蜥蜴だ。花と戯れていると思ったら蜥蜴と戯れているぞ、この人。
「へぇ、懐くんですね」
「ふふ、顔が引きつってるよ依知川君。もしかして君も苦手な口?」
「……蜥蜴は平気なんですけど、如何せん蜥蜴と戯れる友衛さんには免疫なくて」
「僕はなにとでも戯れるよ。動く物は見てて飽きないしね。……それに、皆から避けられてるなんて可哀想じゃないか」
博愛主義者、勝占友衛。
見目麗しく容姿端麗文武両道というベタな文字がよく似合うこの学園の生徒会長であり、俺の一個上の先輩。
そして、
「そうだ、この子の名前は『ナツヒ』にしよう」
「どうせなら兎とかもっと可愛いのに俺の名前付けてくださいよ」
「そうかい? 十分可愛いじゃないか、ナツヒ。……ねえ?」
そう、華のように微笑む友衛さんは言いながら指先までやってきた蜥蜴に軽く唇を寄せる。ちゅ、と小さな音を立て、そしてこちらへと視線を流すのだ。あまりにも自然な動作に硬直していると、こちらを見た友衛さんはくすりと笑う。
「あーあ、君がモタモタしているから友衛さんの唇がナツヒ君に奪われたぞ」
いつもどこか憂いを帯びている儚げなその横顔には悪戯っ子のような笑み。これだ。彼の動作の一つ一つに心が掻き乱されてしまうのだ。
顔に熱が集まる。「あなたは」と口を開くが、それ以上は言葉にならなかった。
「ふふ、羨ましいかい」
「ええ」
「君はしてくれないのかな?」
「……今すぐ友衛さんとイチャイチャしたいんですが、今回は仕事できてるので……」
「なーんだ、そうなんだ。……じゃあ仕方ないね」
そうだ、今回はプライベートでここに訪れたわけではない。ふてくされながらも会長席へと戻る友衛さん。そんなところも可愛くて、つい反応しそうになるのをぐっと堪え、彼の定位置である会長机まで向かう。
そして、先ほど未散君から預かっていた封筒を友衛さんに差し出した。
「これは?」
「風紀からです」
「ああ、風紀……」
『風紀』という単語を聞いた友衛さんは含んだような笑みを浮かべ、そして中身を確認せずに封筒を机の上に置く。その拍子に指先の蜥蜴も一緒になって机に落ちた。
「他に、用件は」
「特には伺ってませんね」
そう、と小さく呟き友衛さんはそのままゆっくりと俺へと向き直る。
開いた窓から流れ込む風に明るい色の髪がふわりと揺れる。拍子に、あの甘い薫りが鼻腔へと流れ込むのだ。
「じゃあ、もう仕事の話はお仕舞いだ。頭が痛くなるからね」
そう、俺の手にとそっと触れる友衛さん。一気に詰められる距離に息を飲む。そのまま手の甲に浮かぶ血管を辿るように指を這わせる友衛さん。優しく手首を掴まれ、そのまま友衛さんは手の甲へと柔らかい唇を優しく押し付けてくるのだ。
「ここからはプライベートの時間ってことで、ね?」
唇を小さく離した友衛さんは色っぽく微笑み、強請るようにくい、と腕を引っ張るのだ。
やっぱり、この人には敵わないな。思いながら、俺は目の前の恋人に固唾を飲み込んだ。
俺と友衛さんが付き合いだしたのは、友衛さんが生徒会長になる前の話だ。
お互いに共通のセフレがいて、現場(というかセフレの部屋)でたまたま鉢合わせになって「彼氏?」とお互い指を指しあったのが出会いだった。それを切っ掛けになんとなく交流が始まり、気付いたらこんな関係になっていた。
カーテンを閉めた生徒会室の中。
友衛さんを抱き寄せ、その唇の感触を堪能していると不意に友衛さんはくすぐったそうに笑い出すのだ。
「っ、は、……っ、ん、ふふ……君さ……キス好きだよね」
「……嫌ですか?」
「違うよ、……まだ慣れなくてね」
君に愛されるのは、と友衛さんは形のいい唇を動かす。吐息の熱に宛てられ、また堪らずその唇にしゃぶりついてしまうのだ。
がっつきすぎると必死すぎだと笑われると分かっていたが、友衛さんを前にすると制御が効かなくなるのだ。そんな俺を分かってくれてるのだろう、「好きにしていいよ」と友衛さんは俺の後頭部を撫でるのだ。
「……っ、友衛さん」
「あ……大きくなったね」
「……言わないでください」
「恥ずかしいの? まだ?」
「……それもそうですけど、余計興奮するんで」
伸びてきた細く骨ばった指先に柔らかく膨らんだ股間を撫でられればそれだけで強い目眩を覚えた。
この余裕な笑みを崩したい。そんな欲望が込み上げ、そして自分の中で膨れ上がるのだ。
友衛さんの手首を掴み、手の甲ごと握り返す。そのままベルトを緩め、下着の中窮屈になっていたそこを友衛さんの手ごと覆うように握りしめれば、友衛さんは「ふふ」と笑った。
「もしかして溜まってた?」
「……っ、はい」
「いいよ、いっぱい出そうね」
僕が手伝ってあげるよ、と唇を舐めた友衛さんはそのまま先走りの滲む亀頭にその指を伸ばす。くち、と音を立てながらも先走りを伸ばすようにカリから竿の部分を指先で撫でられる。裏スジの血管をこちょこちょと擽られれば、それだけで性器に血液が集まり、痛くなった。
「っ、は、友衛さん……ッ」
「相変わらず君のは大きいなあ。……うん、ちゃんとこんなに勃起して良い子だね。一緒に気持ちよくなろうね」
「っぅ、く……ッ」
「あはっ、また大きくなった」
俺と付き合う前、色んな男と遊んできた友衛さんのことは知っている。顔もいいし声もいい、それにこの性格だ。モテないはずがない。
それでも、俺に抱かれるまでは抱く側だったと友衛さんは言っていた。そう、俺が友衛さんの処女を奪ったのだ。その事実が余計興奮させる。
そして、そんな友衛さんはやはり上手いのだ。男の弱点をよく知っている。
「依知川君はここ、揉まれながらこすられるのが好きなんだっけ?」
「と、もえさん……っ」
「可愛い声が出たね、依知川君」
「……っ、ふ、ぅ」
「声、我慢しないで。……もっと僕に聞かせて」
耳を舐められ、金玉揉まれながらも性器を扱かれる。逃れることすらも出来ない快感の中、自分の中で鼓動が更に大きくなる。
耳朶を甘く噛まれ、リップ音を直接鼓膜に流し込まれればどうにかなりそうだった。競上げてくる射精感に耐えきれず、呆気なく俺は友衛さんの手により射精させられる。どぷりと溢れる精液により友衛さんの手を汚してしまう。拭わなければ、とティッシュを手に取ろうとするよりも先に、友衛さんはぺろりとその精子を舐めるのだ。
「……っ、やっぱり苦いね」
甘いなんて嘘だ。なんて微笑む友衛さんに、俺はもう我慢の限界だった。否、最初から我慢なんてできていなかったのだ。
友衛さんを会長机の上に押し倒す。その薄い胸に手を伸ばし、揉みしだけば、友衛さんは「ん」と小さく声を漏らした。そして、笑いを堪えるようにこちらへと流し目を送るのだ。
「出したばっかりなのにもう勃起したんだね。……本当に優秀だな」
「貴方は……っ、そうやって俺を煽ってばかり……」
「嫌いかい?」
「そんなわけないじゃないですか」
シャツをたくし上げ、顕になる白い胸板に唇を這わせる。汗にとともに滲むのはあの甘い匂いだ。濃厚な蜜の匂いになんだか自分が虫にでもなったような気分になりながらも抑えきれなかった。
真っ白な肌。細身ながらも引き締まり、程よい筋肉で覆われた胸に舌を這わせる。つんと勃起した乳首に唇を押し付け、そのまま唇で啄めば友衛さんが俺から顔を逸した。
「っ、ぅ、ん……ッ」
「っは、友衛さん……ッ」
「ん……ふふ、くすぐったいな……犬みたいだ」
笑みを浮かべるものの、そのまま硬く凝った乳首に舌を這わせればその表情が僅かに強張るのだ。口数が減っていき、言葉の代わりに控えめな吐息が漏れる。人にすることはあれど、されることはあまり慣れていないのだ。最初こそは控えめだった乳首も、付き合ってからずっと弄ってきたお陰で白い肌では目立つほどぽってりと赤く育っていた。息を吹きかけるだけで反応してしまうほどだと俺は知っている。だから目一杯舌先で嬲り、唇で愛撫するのだ。
「っ、は、……ッ、い、ちかわくん……」
甘い声で名前を呼ばれ、しがみつくように回される腕にそのまま後頭部を撫でられる。しゃぶりやすいくらい腫れたそこを舌で転がし、乳輪ごと吸い上げれば下品な音ともに友衛さんの上半身はびくんと跳ね上がる。唇から逃れようと逸らされた背中を抱き込み、更に執拗に胸ごとしゃぶる。片方の乳首を指先で円を描くように柔らかく頃がしてやれば、友衛さんは「ぁ、」と声を上擦らせるのだ。
「っ、……も、いいよ……そこばっか……」
「でも、友衛さん好きですよね。ここ」
「……っ、ん、ぅ……ッ」
「俺も、好きなんですよ。……友衛さんの胸育てんの」
ちう、と今度は軽く乳頭を吸い上げる。そのまま甘く歯で噛み、引っ張ってやれば友衛さんの身体が震えた。
「……っ、い、じわるだ……っ」
「友衛さんもしてきたんじゃないですか?」
「それとこれとは、別だ……っ、ぅ……ん……ッ」
しゃぶりすぎて片胸だけふやけてしまったようだ。腕の中、ぴんと背筋をのけぞらせてびくびくと震える友衛さんを見てイッたのを確認する。スラックスの下、限界まで腫れたそこに触れれば友衛さんはぴくりと肩を震わせるのだ。
そして、自らたどたどしい指でベルトを緩めようとする。
「は、やく……も……っ」
そう、机の上に腹這いになった友衛さんはこちらへと腰を向け、下着を自ら手でずり下げるのだ。そのまま薄い尻たぶを自らの手で左右へと押し広げる。
「挿れて……依知川君……ッ」
露わになるのはすっかり性器になった肛門だ。
周囲肉が捲れ、盛り上がったそこは広げられた拍子に口を開くのだ。赤く熟れた肉の色が覗き、先程以上に濃くなる甘い匂いになにも考えることなどできなかった。先走りでドロドロになった性器を友衛さんの薄い臀部に乗せる。
そのまま盛り上がった肛門へと亀頭を押しつければ、「ぁっ」と友衛さんは甘い声を漏らすのだ。
「っ、いいよ、遠慮……しなくて……っ」
「友衛さん……っ」
「っ、な、つひく……っん゛ぅ……ッ!!」
柔らかい口は既に俺の形になっていた。ほんの少し力を咥えれば性器はそのまま友衛さんの中へと吸い込まれていく。吸い付くように絡みつく肉壁、包み込むようなその熱に腰は止まらなかった。
「っ、ん、ぅ……ッ、ん゛……ッ、ふぅ……ッ!」
腰が止まらない。喋る余裕もなくて、友衛さんの腰を掴んだままひたすら腰を動かす。絡み付いてくる。ナカを擦れば擦るほど肛門全体が締め付けてきて、それが丁度良くて気持ちいい。
余裕がなくなると会話もなくなるのが常だ。必死に声を抑えようとしてる友衛さんが汚い声を上げるのを見るのが好きだった。例えば、長いストロークとともにゆっくりと腰を動かして抜こうとしたとき。腰を揺らしながらも、伸びをするようにこちらへと腰を押し付けてくる友衛さんに一気に奥まで挿入してやったときとか。
「っ、ふ、ぅ゛……ッ!!」
「っ、友衛さん、気持ちいい……っ?」
「きっ、もち、ぃ……ッ、から……ッ、ん、ぁ゛ッ?! っ、そ、こぉ……っ、待ってぇ……ッ」
「ここですか?」ともう一回同じようにカリまで抜いて一気に奥まで突き上げ、結腸の入口を亀頭で押せば腕の中で友衛さんは背筋を丸くする。その胸を揉みながらも再び身体を持ち上げれば、友衛さんは蕩けたような目をこちらに向けるのだ。
「っ、あ……っ、ぁ……っ、いち、かわく……ッん゛……ッ?!」
「っ、ここ、好きなんですよね……いっぱいキスしてあげますからね、ここにも」
「っ、ぁ、っすき、きもち……ぃ……ッ、ん、っ、ふ、う゛……っ」
「っ、ん、友衛さん……っ!」
腰を動かせば動かすほど快感を逃すまいと貪欲に絡み付いてくる友衛さんの中。お互いが夢中になって骨の髄までしゃぶり合う。
隙間無く埋まった性器。その奥と突き当りを亀頭でぢゅぶぢゅぶと柔らかく圧し上げれば、友衛さんの薄い身体はじんわりと赤くそまっていくのだ。蕩けたような瞳はこちらを見ていない。それがじれったくて、無理矢理こちらを向かせて開いたままの唇に吸い付いた。
挿入はする主義だと言い張っていた友衛さんが今はこうして自分のを受け入れてくれているという事実だけで胸が熱くなり、直に感じる相手の体温に酷く興奮した。
「っ、友衛さん……好きです……貴方のことが……」
腕の中、腰を打ち付けるたびに痙攣する友衛さんの腰を捉え執拗に奥を責め立てた。精液混じりの先走りがとろとろと溢れ出す友衛さんの性器。汗でうなじに張り付く友衛さんの襟足が余計いやらしくて、赤くなった背筋に舌を這わせた。
「っ、ぁ゛……ッ、ふ、ぅ……ッ!」
「っ友衛さん……ッ!」
長い手足に力が入る。それを捕らえ、更に腰を打ち込んだ。征服欲にも似たどろりとした感情が溢れてくる。
こんな場面を誰かにでも見られていたら、俺達はどうなってしまうのだろうか。そんなことを考えては余計全身を巡る熱が増す。
友衛さんの顎を捉え、再びその唇を塞いだ。
柔らかい唇を舌でこじ開けようとすれば、自ずと口を開いた友衛さんは俺の舌を受け入れようとするのだ。そんなところが余計可愛くて可愛くて堪らなかった。
細い腰を捉え、友衛さんの奥へと腰を打ち付けたまま俺はその奥で射精する。それでも勃起は収まらず、結局その後抜かずに二度付き合ってもらうこととなったのはここだけの話だ。
◆ ◆ ◆
いつ他の役員が戻ってくるのかも分からないので、こういった場ではなるべくお互いに節度を持って接しよう。なんて、そんなことを言い出したのは友衛さんだった気がするのだけれども。
ソファーの上、乱れた制服をそのままでぐったりとしていた友衛さんは俺をじっと見据えるのだ。
「……依知川君、腰抜けちゃった」
「それは……すみません」
「いいよ、僕も気持ちよかったから」
後処理をしようと近付けば、そのまますり、と寄ってきた友衛さんに軽く頬にキスされる。思わず目を丸くすれば、友衛さんは「ふふ」といたずらっ子のように笑うのだ。可愛い。
「……友衛さん」
「僕は自分のことは自分でするから、君もその格好早くどうにかしたらどうかな」
続きはまた今度だね、なんてそんな友衛さんの言葉にすら反応してしまうのだからもうどうしようもない。
翻弄されている気をひしひし感じながらも制服を整えていると、ふと、上着のポケットにしまっていた携帯が震え出した。
なんとなく嫌な予感がして薄目で携帯端末を覗き込めば、案の定そこには【帯刀凌央】の文字。
「誰から?」
俺の反応を見れば誰からなどとすぐに分かるくせに、友衛さんもなかなか意地悪だと思う。
「凌央からですよ」
「へえ。依知川君、『あれ』と連絡先交換してるんだ。僕も知らないのに」
「副委員長になったとき、携帯取り上げられたんです。返ってきたらアドレス帳に勝手に登録されてて」
「そりゃ酷いなあ、『あれ』らしい」
くすくすと笑う友衛さん。
友衛さんは、凌央を『あれ』と呼ぶ。二人は昔からの知り合いらしい。腐れ縁というやつだろうか、昔は仲がよかったと誰かに聞いたことがあるが友衛さんと凌央が親しげに話しているのを俺は見たことなかった。
鳴り止まない携帯を一瞥し、「ちょっとすみません」と友衛さんに断りを入れたとき。携帯を握りしめた手首を友衛さんに取られた。
「出ちゃだめ」
ぐっと俺に詰め寄った友衛さんは呟く。
あの甘い匂いがした。
「無視しちゃえばいいよ、せっかくの君と僕の邪魔をするやつなんか」
「緊急かも知れませんよ」
「構わないよ、僕が許す」
「生徒会長がそんなんでいいんですか」
珍しい、というわけでもないがそんなことを言い出す友衛さんに呆れていると「煩い」と耳朶にかぷりと噛み付かれた。くすぐったい。そして、いい匂い。また下半身にきた。
「駄目ったら駄目」
「わかりました。委員長に怒られたら責任とってくださいよ」
頑固な友衛さんを知っている俺はやれやれと観念し、携帯端末を制服の中に仕舞った。
そんな俺に、友衛さんの顔がぱっと嬉しそうに弛む。
「ふふ、知らないよ。判断したのは君なんだからこってり搾られちゃえば?」
言うと思った。
それからつい流れでもう一回してしまうことになった。
最中、凌央のことをすっかり忘れていた俺は事後に再び携帯を開き、青ざめることとなる。
それは未散君からの留守電だった。
『夏日、今すぐ風紀室来れる? 委員長が待ってるよ!』
若干上擦り早口になったそれは今にも泣きそうなほどの焦っているのがわかった。その留守電が入ってたのが十分前。
……やべ。と時計を確認した俺は、慌てて生徒会室を後にした。
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