馬鹿ばっか


 18※

 ぐるぐると目の回るような感覚は、一言でいえば気持ち悪い。夢現の中、これは夢だという意識だけは奥底に眠っていた。
 ……つうか、なんで眠ってんだ。俺。そうだ、体育館に行って、それから神楽と会った。
 そこから先が記憶が曖昧だ。てか、この流れで眠ってんのは絶対まずいだろ。
 そう、半ば無理矢理気合で眠気を振り払う。目を開けば辺りは真っ暗だった。

 どこだ、ここ。
 辺りを見渡そうとして、体の下に硬いマットのようなものが敷かれていることに気付いた。保健室のベッドとは違う、体育の授業で使われるようなマットだ。もっと調べようと体を起こそうとして肝心の腕が動かないことに気付いた。

「むぐ……っ」

 体操座りの体勢のままがっちりと拘束された手足は身動ぎすらも許さない。そして猿轡かなにかを噛まされているらしい。口の中、棒状の異物が邪魔で、くぐもった声しか出すことが出来ない。
 次第に目も暗さに慣れてきたようだ。辺りを見渡せば、どうやらここは体育倉庫みたいだ。乱雑に置かれた器具や転がるボール、積み重ねられたマットからそれはすぐ判断できた。そして俺は敷かれたマットの上に転がされていたようだ。
 通りで寝苦しかったわけだ、などと言ってる場合ではない。なぜかしっとりしたマットの感触にただただ不快感を覚えつつ、体を捩り、なんとか拘束してくる紐が緩んでくれないだろうかと奮闘する。が、無駄に疲れるだけだった。

 俺は神楽に捕まったのか?
 正直、このタイミングで捕まってしまったからにはもっと最悪なことになってるのではないかとも思った。が、実際はどうだ。倉庫の中には見張りすら見当たらない。それどころか、神楽の姿も。

 罠なのか。それとも、他に何か理由があるのか。
 倉庫の奥、高い位置に取り付けられた窓枠の外は真っ暗だった。すっかり時間も経ってるらしい。

 どうしたものか、と目を拵え、周りになにか拘束を外すことが出来そうなものが無いかと探していたときだ。
 ふと、倉庫の外から声が聞こえてきた。

『会計の姿が先程から見当たらないのですが、貴方の仕業じゃないでしょうね』
『……知らねえよ。そもそも呼び出したのはあいつじゃなかったのか?』
『私に聞かないでください。……全く、やはりあの男に幹事を任せるべきではなかったですね』

 ――能義と五十嵐だ。
 その他にも複数の足音が聞こえたが、二人の話し声が聞こえた。
 五十嵐一人ならば声を掛けようかとも思ったが、能義が一緒なのは厄介だ。俺を迎えに来たのか、と思ったが、二人の足音はそのまま倉庫の前を通り過ぎていく。

 ……気付かれていない?
 ということは、まじで神楽が俺をここに隠している、ということか?

 目的がわからない分、対応にも迷った。
 やがて、二人の声は聞こえなくなっていた。その後も通行人が何人かバタバタと足音を立てていたが、誰もこの倉庫を気にする者はいない。
 取り敢えず、足の拘束だけでも外せれば扉を蹴破れそうなのだが。と、考えていたときだった。再び足音が近付いてきて、息を潜める。
 カツリカツリと近付いてくる足音は、やがて倉庫の前で止まった。今度こそ呼吸を止めたとき、静かに扉が開くのだ。

「――あ、起きてたんだね〜」

 おはよ、元君。そう微笑みを浮かべたまま倉庫の中へと足を踏み入れた神楽は、後ろ手に扉を閉めた。そしてゆっくりとこちらへと歩みを進め、俺の目の前で屈む。

「む、ぐ……っ」
「あー、もしかして怒ってる? だよねえ、いきなり眠らせちゃったし、こんな風に縛ったまま放置しちゃってごめんなんだけどさ〜俺もちょっと色々ごたついてたんだよねえ」

 いいからせめて拘束か猿轡を外してくれ、と目の前の神楽を睨む。
 俺の言いたいことが伝わったようだ、「悪いけど、もう少しそのままでいてほしいんだよね」と神楽は眉尻を垂れさせる。

「だってさぁ、元君怒ってるじゃん? 俺、元君に一体一で勝てる自信ないからさ、取り敢えず、そのまま話聞いてほしいんだよね」
「んむ……っ」
「うんうん、文句は後からたくさん聞くから。ね?」

 どさくさに紛れて体を抱き起こされそうになり、咄嗟に神楽の手から逃げるように後退れば、「あれ、まだ動けるんだ」と神楽は目を丸くした。

「ま……いいや。そうだね、何から説明しようか。取り敢えず、俺は君に危害を加えるつもりはない……って言ったら、信じてもらえるかな?」

 薬で眠らせ、倉庫に監禁された上でそれを信じるやつがいるのならば相当なお花畑か、周りの人間に恵まれて育ったやつくらいだろう。無言で睨む俺に、「だよねえ」と神楽はわざとらしく肩を竦める。そして、近くにあった競技用の台の上に腰をかけるのだ。

「言い方を変えようか。元君、君を見つけたらそのまま皆のところに連れてくるってルールだったんだよね」
「……」
「本当はこっそり君を連れ出すつもりだったんだけど、君を追っかけてきた馬鹿の中に口の軽〜〜い子がいたみたいでさ。仕方なく、パーティー開催のお知らせを生徒会の皆に伝えたんだけど……あ、パーティーってわかる?」

「皆で君を輪姦すパーティーのことだよ、元君」顎の下、するりと伸びてきた生白く華奢な指先に擽られ、背筋が震えた。

「俺はこのまま“君を取り逃がした”ってことにしてもいいと思ってる。もちろん、タダってわけにはいかないんだけどねえ」

 間延びした緊張感のない声、普段と変わらない軽薄な態度に余計嫌なものを覚える。
 細められた猫のような目は、じっとこちらの目の奥まで覗き込んでくるのだ。それを無言で睨み返せば、神楽は笑った。

「俺と付き合ってよ――なんて、そんなこと言ったってどうせ君はノーしか言わないからね。いい加減俺も学んできたんだ、君の弱いところ」

 どういう意味だ、と言いかけたときだった。口を塞いでいた猿轡を外されたと思ったとき、そのまま神楽の指が口の中に入ってくる。
 馬鹿なやつだ、この流れで俺に指を噛まれないと思ったのだろうか。と思った矢先だった、制服のポケットから何かを取り出した神楽はそのまま自分の口に放り込む。
 なんだ、と目を拵えたときだ、そのまま覆いかぶさってきた神楽に唇を塞がれた。

「ん、む……っ!」

 ぬるりと滑る舌が口の中に入ってくる。絡められる舌と舌の間、ごろりとなにかが俺の口の中に流し込まれたことに気付いた。なんだ、と慌てて吐き出そうとするが、顎を上に持ち上げられた状態ではそれを拒むことができなかった。舌伝いに流し込まれる唾液とともに喉を通り、腹の奥へと落ちていく錠剤に血の気が引く。
 俺の喉がごくりと鳴るのを確認して、神楽はぷちゅ、と舌を引き抜いた。

「っ、ぉ、まえ」
「俺の趣味、君はよぉーく知ってるでしょぉ? 大丈夫だよ、今度はもっと強いやつだから」

「ワケ分かんなくなっちゃうくらい強いやつ」それで、皆に輪姦してもらうよりも先に俺と繋がっちゃおうよ、なんて悪びれもなく微笑む神楽に俺は怒りすら覚えなかった。

「……っ、ふ、ざけんな、こんな……真似……っ」

 得体の知れないものを口にしてしまった恐怖と後悔とともに心拍音が大きくなり、その間隔が詰まっていく。
 考えるな、意識するな。そうすればなんともないはずだ。根拠などなくとも、自分を保たなければそれでこそこいつのペースになってしまう。
 そんな俺の焦りなど見越したかのように神楽はふにゃりと笑った。

「大丈夫大丈夫、ちゃんと気持ちよくなれるだけのやつだから」

 だから問題なんだよ、という反論は神楽に唇を塞がれることによって阻害される。
 覆いかぶさるように唇を柔らかく啄まれ、濡れた舌先はそのまま上唇をつつく。絶対に応えてやるものか、と意地になって歯を食いしばれば、そのまま神楽は唇を舌先で抉じ開けてきた。

「っ、ふ、ぅ」

 長い舌先に歯列から歯茎までねっとりと擽られる。それだけで腹部が重たくなっていく。
 こんなの、犬か何かに舐められているだけだと思えばいい。そう自分に言い聞かせ、必死に心を無にするが神楽のキスはしつこかった。
 伸びてきた指に柔らかく耳を擽られながら、ねっとりと咥内を舐られる。まさか、俺が口を開けるまで“これ”を続ける気なのだろうか。こそばゆさと不快感は鼓動とともに膨れ上がっていく。やめろ、と身を捩り顔を逸らそうとするが神楽は執拗に追いかけてくるのだ。

「っ、ん……っ、ぅ……っ」
「ほら、元君。そんなに意固地になんないでさ、一緒に気持ちよくなろうよ〜」

 ね、と吹きかかる吐息がやけに熱い。普段ならば耐えられる。耐えられたはずなのに、こちょこちょと唇を舌先で擽られ、唇で軽く吸われ続ける内に体温がどんどん増していく。脳が煮えたぎるような感覚とともに神楽に触れられる場所に甘い感覚が広がった。

「……っ、は……ん、ッ、ぅ……っ!」

 ほんの一瞬、息が苦しくなって、つい口を開いてしまったときだ。
 瞬間、歯の隙間を縫って口の中へと入ってくる神楽の舌に背筋が震えた。長い舌は蛇のように舌を絡め取り、喉の奥までずっと侵入してくる。

「っん、ふ……っ! ぅ、んん゛……ッ!」
「ん……っ、ふふ、ほら、逃げちゃだめだよ〜。くさん俺とチューってしようねぇ〜」
「ふ、ぅ゛……んん……ッ!」

 押し倒され、唇の回りべろべろになるまでキスされて。どさくさに紛れて首筋をなぞられ、そのままゆっくりと鎖骨をなぞられる。
 くすぐったいだけだ、こんなの。
 そう思うのに、ただ皮膚の上を這う神楽の指先に、上顎を撫であげる舌先に、恐ろしいほど唾液が分泌される。息が上がり、全身の熱が下半身に持っていかれるのだ。
 堪らず神楽の舌に歯を立てたとき、神楽は少しだけ目を丸くした。そして、ずるりと舌を引き抜くのだ。

「……あれぇ? そんなことしちゃっていいのかなぁ? 元君は今、俺よりも立場下なのになぁ〜」

 おかしいなぁ、と笑いながら鎖骨を撫でていた神楽の指がシャツの上、汗ばんでいた胸に触れる。つうっと降りていく指の動きを全身で追ってしまうほど、気付けば全身が過敏になっていた。やめろ、と慌てて体を引こうとするが、神楽は無視して俺の胸を鷲掴みにする。胸筋の膨らみを覆う掌が乳首を押し潰した瞬間、脳髄に広がる甘い刺激に目が眩んだ。

「っ、く、ぅ……ッ!」
「駄目だよぉ元君、君らしくもない。もっと冷静にならないと……っ、ん、ほら、今元君がしないといけないことはなぁに?」

「――俺に、媚を売ることだよね」シャツの下から押し上げるように勃起した乳首を指先で撫でられる。それだけで上半身が大きく震えた。
 件の薬が効いてるのか、ただの思い込みなのか、分からない。けれど、神楽の言葉には一理あった。

「はっ、……俺は冷静だよ、あいつらにヤられようが、お前にヤられようが俺からしちゃ一緒だからな。……っ、いちいち、お前に媚売る意味ねえだろ」
「ええ? 酷くない? 絶対俺の方が優しいのにさぁ〜? 心外だなぁ」
「は……っ、日頃の行いだな」
「それより元君、汗すっごいけど大丈夫?」

 額から頬、顎先まで滴り落ち、胸の間に溜まっていく汗。こちらを見下ろして笑う神楽に、「……お構いなく」とだけ返した。
 まだ、大丈夫だ。平気だ。呂律も。本当にワケわからなくなるわけなんてない、こうして冷静で居続ければ――。

「あ、そぉ? じゃあ、失礼しま〜す」
「っ、……!」

 瞬間、胸を撫でていた神楽の手にシャツのボタンを外されていく。開けさせられた胸元、そのまま大きく前を露出させられたと思えば、そのまま顔を埋めてくる神楽に息を飲んだ。伸びたやつの前髪が乳首に掠め、それだけで脳が痺れる。声が漏れそうになるのを唇を噛んで耐えた。……大丈夫だ、まだ大丈夫。平気だ。

「わ、元君の心臓バックバクだぁ〜」
「…………っ、……ぅ……っ」
「ビクビクしちゃってかわいいねえ〜。意地なんて張らない方が楽なのにさぁ」
「くっ、……ぅ……ッ」

 上目でこちらを見上げながら、神楽はそのまま開いたシャツの下から覗く乳首に指を這わせる。乳輪から、その突起の際の部分をゆっくりフェザータッチでなぞられるだけで胸が大きく痙攣し、息が漏れた。
 平気だ、こんなこと。あいつらにされたことに比べれば。

「舐めちゃお」
「待っ――っ、――っ、ふ、ぅ……ッ!!」

 小さく伸びた神楽の赤い舌先が乳首を突く。瞬間、電気が流れたように脳が真っ白に弾けた。
 ――平気だ。こんなの、なんてこと――。

「ふー……っ、ぅ、く、ひ……ッ!」
「あはっ、かわい―。必死に唇噛んじゃって……っんふふ、ほら、もっと我慢しないと。声漏れちゃってるよ〜……」
「っ、……ッ!! ふ、ぅ゛……ッ!」

 別の生き物みたいに器用に動く舌先で乳首を転がされ、穿られる。そのまま乳輪ごとぱくりと咥えられたと思えばぢゅぷ、と乳首ごと吸い上げられ、瞬間脳味噌が弾けそうになった。ガクガクと大きく痙攣する上体を神楽に抱き止められたまま、更に咥内で吸い出された乳首を舌で扱かれる。
 へいき、ぜんぜん、きもちよくなんてねえ。こんなの。たいしたこと、ねえ。

「――っ、ぅ゛、ふー……ッ、ぅ、んん゛……っ!!」

 片方の胸を指先で穿られながら両胸を執拗に責められ続ければあっという間に熱は弾ける。がくん、と大きく下半身が跳ね上がるとともに下着の中、熱が溢れるのを感じた。

「っ、は、も、ゃ、めろ……っ、すうな、やめろ、かぐら……っ!」
「っ、は……っ! ふふ、腰揺らしちゃってるねえ。元君、乳首虐められるの弱いもんね」
「っ、ひ、……っ、く、……ッ」
「息吹きかけられるのもきもちぃよねえ? ……っふふ、ほら、逃げないで〜?」

 今度は逆の胸をぢゅる、と吸い出された瞬間、「っ、くひ」と声が漏れる。
 ああ、くそ、こんなの大したことねえのに。全然平気なのに。震えが止まんねえ。
 ねっとりと乳首を転がされ、甘く噛まれる。それだけで腰が震え、逃げたいのに逃げることを許されない状況でより追い詰められていくのだ。

「……っ、ふ……ぅ……っ、んん……っ! ……っ、く、ひ……っ、ぅんん……っ!」

 シーツの上、這いつくばって必死に耐える姿はさぞ滑稽なのだろう。今の俺には客観視する余裕などなかった。ただ、油断すれば喉の奥から溢れそうになる声を堪えるのが精一杯で。指と舌で執拗に責められ、逃げることもできないままあっという間に追い詰められ、更に指でカリカリと穿られれば下着の中、ぬるぬるとした感触が広がる。

「っ、も、ゃ、めろ、かぐら……っ、ひ、く、……っ、ふー……っ、くぅ……っ!!」

 快感の波は引くどころか次第に増していく。より膨らんでいく快感に最早抗う方法などなかった。
 やめろ、やめろ、馬鹿神楽。
 ぶん殴ってでも止めたいのに手も足も出ない。快感を逃す事もできぬまま、あっという間に再び限界は訪れる。背筋から頭の天辺まで登っていく快感にただうち震えることしかできなかった。
 声にならない声が漏れ、そのまま張り詰めた糸は途切れる。真っ白になる頭の中、神楽の腹立つ笑顔だけが網膜に残っていた。

「……っ、ふ、ざけんな、っ、こんな……っ、ま、真似……ッ、ぅ゛、んんぅ……っ!」

 痙攣の収まらない胸に、ふうっと息を吹き掛けられた瞬間全身の血液が沸騰するようだった。ビリビリと痺れる全身。乳首から手を離した神楽は「すごいすご〜い、元君乳首イキだぁ」と楽しそうに目を細める。

「……けど、すっかり仕込まれちゃってさぁ。……なーんかちょっとムカついてきちゃうな〜?」
「っ、こ、んの……ッか、ぐら……っ、ん、んんむ……っ!」

 顎を捉えられたと思えば、そのまま唇を塞がれる。貪られる唇に気を取られている間に勃起の収まらない下半身を制服の上からするりと撫でられ、それだけで内腿がぶるりと震えた。

「ん、ふ……っ! ぅ、んん……っ!」

 油断していた隙に咥内に侵入してきた舌先に舌を絡め取られる。ぬちぬちと絡まる舌に思考ごとかき乱されそうになったとき、張り詰めた下半身をするりと指先でなぞられた。

「まだ耐えるんだ。……これ以上我慢したって無駄なのに?」
「……っ、む、だかどうかは、俺が……決めることだろ……っ、」
「元君のそゆとこ、俺好きだよ。そういう頑張り屋さんがイキまくってんの死ぬほど興奮するし」

 ベルトを緩められ、ファスナーを降ろされた途端、散々スラックスの下で窮屈なことになっていたそれを神楽の手によって外へと引っ張り出される。見て分かるほど下着の色を変え、染みをつくつていた己の下半身を恥じる隙もなかった。

「待……っ、ぅ……っ、はぁ……っ! か、ぐら……っ!」

 神楽の細く、長い指先から下着の上から優しくくるくると円を描くようにそこに触れた。早く頭を出したいのに、神楽はそれを許してくれない。敢えて直接触れず、亀頭を撫でて焦らしてくる神楽に無意識の内に腰が揺れる。
「可愛い反応だねえ」と、神楽は俺の腿を撫でながら、片方の手ですりすりと優しく撫でるのだ。普段ならば射精に繋がらないようなもどかしい触れ方なのに、今の俺にとってそれは十分すぎた。

「っ、……ぅ……っ、あ……っ、ひ……っ!」
「声甘くなってきちゃったねえ、元君。やっぱり、元君も男の子だ〜。おちんちん擦られんの気持ちい〜?」
「っ、く……っきもちよくなんか……っね、……ぅ……っ、んんっ、ぅ、ゃ、まっ、……ぁ……っ!」
「本当の本当に?」
「ふー……っ、かぐら、それ、やめ゛――ッ! ゃっ、う……っ、ひ……っ!」

 先走り諸々で濡れた下着越し、ぬちぬちと水音を立てながら亀頭を重点的に摩擦してくる神楽に呆気なく一線は超えてしまう。下着ですら押さえつけられないほど張り詰めた性器は勢いよく跳ね上がり、どぷ、と下着の下で精液を吐き出した。

 ――最悪だ。
 
「ふ……っ、ぅ……っ」

 その絶頂は、およそ気持ちいい射精とは程遠かった。ねっとりとまとわりつく己の体液に今すぐにでもシャワーを浴びたくて仕方ない。
 鼻歌交じり、神楽はそのまま俺の下着をゆっくりとずらす。

「っ、こ、するな、まっ、――ッ、ふぅ゛……ッ!」

 衣擦れ感から解放された瞬間、今まで押さえつけられていた性器が勢いよく溢れ出した。下半身、腿に手をついたまま既にどろどろに濡れたそこに顔を寄せた神楽は、勃起した性器越しにこちらを見上げた。

「元君、君ってとっても嘘つきだね」

 ふうっと性器に吹き掛けられる吐息の熱さに震えるのもつかの間、そのまま剥き出しになった裏筋に舌を這わせる神楽に呼吸が止まりそうになった。

「っ、ま、ぁ゛……ッ! っ、ふ、ぅ゛……っ!」
「……っ、ふ、んん……っ、あ〜あ、こんなに垂らしちゃって。おっぱい気持ちよかった〜?」
「だ、まれ……ッ!」
「アナルまで垂れてきてんじゃ〜ん。ほら、こっちも気持ちよくしてあげるねえ」

 言いながら自分の人差し指と中指に舌を這わせ、たっぷりと唾液で濡らした神楽はあろうことかそのまま人のケツの穴に触れてくるのだ。
 やめろ、と必死に身を捩って逃げようとするが、丹念に唾液と体液で濡らされた肛門を擽られる。俺の意思関係なく、そのままつぷりと中へと入ってくる神楽の指に背筋にゾクゾクと悪寒に似たものが走った。

「っぅ、ふ……ッ、くぅ……ッ!」
「なんだっけ? ……気持ちよくないんだよねえ?」
「っ、ぁ……ッ、ふ、ぁ、やめ……ッ! ぅ、んん……ッ!」
「こんなに中とろっとろにして言っても、説得力ないよ〜?」

「それともフリかなぁ?」なんて言いながら、神楽の華奢な指は奥に進んでくる。裏筋から亀頭へと舌を這わせながら、にちにちと中を突き進み、肉壁の凝りを解すように丹念に中を愛撫していく神楽に頭の奥が熱でどうにかなりそうだった。
 呼吸すらままならない。亀頭が痛いほど過敏になり、ドクドクと心臓から押し出される大量の血液は全身を回って下半身へと向かっていく。

「ふー……っ、ふぅ、ひッ、く……ッぅんんぅ゛……っ!」
「は……っ、ん、ふふ、どんどん出てくるねえ、元君。水分すっからかんになっちゃうんじゃない〜?」
「っふぅ゛ッ、ぅ、く……ッ、うぅ……っ!」

 神楽が喋るたびに下半身で響き、それだけで鈍い快感が広がる。中でくの字に曲がった神楽の指に臍の裏側を撫で上げられた瞬間、脳の奥で無数の光が弾けた。
 とろりと先走りが垂れ、それを舐めとるように亀頭をぱくりと咥えた神楽は先っぽに舌を絡める。そして、前立腺をこりこりと柔らかく揉み解しながら尿道口を舌先で穿るのだ。

「っぅ゛、ふ……ッ! くっ、ぅ゛、あッ……っぁ、や、めろ……っ! っ、かぐら……っ、ぅ゛、ぐ……ッ!!」
「ん〜〜? はんれぇ?」 
「っ、そこで、しゃべ、んな……っ! ひ……ッ!」

 前立腺を揉まれながら外からねっとりとフェラをされ、数分も保たなかった。既に軽くなっていた睾丸から吐き出された精液をそのまま口の中、舌で受け止めた神楽は頬を膨らませ、そしてそのままにゅぷんと音を立てて俺の亀頭から唇を離した。
 それを飲み込む神楽に青ざめる隙もなかった。呆気に取られる俺に、神楽は再び前立腺へのマッサージを再開させる。

「っは、まっ、ぅ゛、あ゛……っ、く、ひ……ッ! か、ぐら、待て、も……っ」
「ん〜? なんでぇ? ハジメ君もうこっちハメるの慣れてきたんじゃないのぉ?」

 にゅちにゅちと音を立て、どれだけ腰を捻ろうが執拗に追いかけてくる神楽の指にあっという間に追い詰められる。ちゅ、ちゅ、と竿から睾丸に唇を押し当て、キスをしながら前立腺を転がされながら迎えた云度目の絶頂に射精は伴わなかった。
 竿から下腹部へと広がる快感とその余韻に耽る暇もなく、ぬぽ、と指を引き抜いた神楽はそのまま柔らかくなった肛門を指で左右に拡げてくる。

「っ、は、……っ、ぁ……っや」
「すっかり非処女のお尻になっちゃったねえ。……っ、ほら、あんよしっかり開いててねえ」

 言いながら、俺の股の間に膝立ちになった神楽は制服の裾の下、隠れていた下腹部に手を伸ばす。その動作を見ただけで思わず顔を反らした。そのまま器用にベルトを外し、下着から自らの性器を取り出す神楽。
 ――『初めて』じゃなければ、嫌なのではないのか。
 ガチガチに勃起した性器が視界に入り、汗が滲む。そのまま拡げられたままの肛門にぴとりと添えられる亀頭にひくりと喉が震えた。
 本気でヤるつもりだ、こいつ。

「お、い……っ、まだ、ぃ、った、ばかり……っひ、ッく……っ、ふぅ゛……っ!」

 人の言葉も待たず、神楽はゆっくりと亀頭を中へと埋め込んでくるのだ。ず、と体重とともに中を押し広げつつ侵入してくる異物に、腸内を這いずる熱に、堪らず大きく仰け反った。

「っ、ぁ゛、く、ぅ……っ!」
「……その反応、そそるなあ。ふふ、これで……っ、処女だったら最高だったんだけど……っ! ん、は……締め付けすぎだよ、元君、……呼吸の仕方もわかんない?」
「……っ、ぅ、ぁ、ひ、ぐ……ッ!」
「あれ? もう日本語喋れなくなっちゃた〜?」

 くつくつと笑う度、結合部から振動が伝わってくる。逃げようとする腰を捉えたまま、覆いかぶさってくる神楽は更に性器を奥へと進めた。
 背筋に甘い感覚が走り抜け、そのまま一気に奥まで腰を打ち付けられた瞬間、声にならない悲鳴が噛み締めた奥歯の奥から漏れる。

「っ、ぅ゛、ぐぅう〜〜……ッ!!」
「っはは、すっごい声。……っ、わんちゃんみたいでかわいいねえ。元君……っ、」

 自分の腹の中がどうなってるのかすらも分からなかった。根本まで収まったままぐりぐりと亀頭で奥の閉じた部分を押し上げられた瞬間脳の奥でじわりと熱が溢れ、堪らずマットの上から逃げようとする。が、縛られた状態ではままならない。俺の腰を掴んだまま引き戻した神楽は「駄目だよぉ、元君」と腰を持ち上げたまま、わざと位置を調整するように中を探るのだ。そのままゆっくりと抽挿を再開させる神楽。カリが、竿の部分が前立腺を押し上げる度に無数の光が頭の中で弾け、腰が勝手に揺れてしまう。

「ぅ、あ゛、っふ、……っ、ぅ゛……ッ! んんぅ……っ!」
「ここ、先っぽでぐぽぐぽされるのきもちぃねえ〜? ……っ、俺もきもちーよ。ほら、もっと良くしてあげるよ」
「っ、い、らね、っ、ひ、ゃ゛、んぐ……っ!」
「……っ、元君にそういう反応されると、堪んないなぁ……っ、ね、キスしよ、ほら……っ、優しくするからさ」
「っ、ゃ、ぬけ、ん……っ、ふ……ッ!」

 戯れるように精液くせえ口でキスをされ、とんでもなくみっともないことになっているであろう顔面を覗き込まれる。
 神楽の妙に甘く優しい声が余計脳にとろとろと響き、心地の良い感覚すら覚えること自体が俺にとっては耐え難いことだった。

 こんなこと、拷問と些細ない。はずなのに。
 俺の反応が大きくなる箇所を探すように腰をゆっくり動かしては、反応を示したそこを執拗に追い詰められる。ぐぽ、ぐちゅ、と嫌な音を立て中を摩擦する性器のことしか考えられなくなるまで時間はかからなかった。
 これもそれもどれも全て、あの薬のせいだ。絶対に。間違いない。

「……っ、ふ、……っ、ん……っ! ん、……っ、んん゛……ッ!」
「は……っ、元君、本当残念だなぁ〜……君が皆の手垢でベタベタになるの。もっと早く、初めて出会ったときにやっときゃよかった」
「……っひ、く……っ、ぅ……っか、ってなこと、っ、んんッ! ふー……っ、ぬけ、てめ、ぇ゛……っ! ぅ゛ッ、く、ひ……っ!」
「やだよ、せっかく元君を好きにできるんだもん。……っ、今からでも俺を選んでくれるなら、考えてあげるけどねえ?」

 誰が言うか、と意地になって唇を噛み締めた。血が出ようがどうでもいい。痛みがなければそれこそ馬鹿になってしまう。そんな俺を見下ろし、神楽は笑った。

「……意地悪だなあ、元君」

 憐れむような、少しだけ寂しそうな、そんな目で俺を見下ろしたまま笑った。

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