馬鹿ばっか


 42

というわけで、流されるがまま俺は五条の部屋へとやってきた。
三年学生寮は二年よりも廃っているというか汚い。途中の廊下に書かれた名前やら相合傘やら公衆便所並の落書きは最早芸術の域だ。頭が。
三年がかくのは卒業アルバムの寄せ書きくらいに留めておけよと想いながらもやってきた五条の部屋。
カードキーを使い、開いた扉から部屋の中へと足を踏み入れる五条の後を追い、俺はそこへとのこのこ入っていく。
部屋の広さは俺達の部屋と然程変わらないが……なんでだろう、やけに広く感じるのはもしかしたら部屋にものが少いからかもしれない。


「あんたも一人部屋なのか?」

「んや、相部屋。っつっても停学食らってるからいてもいねえのと同じだけどな。だから気遣わずに好きなだけしていいからな」

「なにを」

「そりゃオナごふっ」


おっと足が滑って履きかけたスリッパが五条の顔面に飛んでいってしまった。うっかりうっかり。


「……にしても、わりかし片付いてんのな」

「惚れ直した?」

「まあな」


もとより惚れ直すほど惚れてないが意外なのは確かで。
すげー汚いゴミ屋敷みたいなの想像していたが、実際の五条の部屋はどちかといえば無駄なものがなく、だからといって不自然なくらいものがないわけでもなく、几帳面。という感想が真っ先に頭に過ぎった。


「尾張はここ好きなように使っていいから」


きょろきょろと見渡していると、ふと声を掛けられる。
そういって五条が指すのは五条のルームメイトが使っていたらしいベッドで。


「ん、ああ、ありがと……って、五条はどこで寝んだよ」

「俺は俺の部屋があるから」


そう答える五条の目が一瞬泳いだ。
その言葉が妙に引っかかって、「部屋?」と辺りに視線を向けた時。
不意に、部屋の奥に一枚の扉を見つけた。
いや、それだけなら然程気にも止めないのだが、その扉のドアノブには何重もの鎖が絡み付き、更に幾重のも南京錠がぶら下がってるではないか。


「ここがお前の部屋なのか?」


まるで開けてくださいと言わんばかりの存在感を発するその扉に触れようとしたときだ。


「すとおおおおっぷ!!」


凄まじい声とともにタックルかましてくる五条の体当たりをまともに喰らい、「ぐえっ!」とダメージ受ける俺。
なにをしやがるんだこいつはと睨みつければ、やけに狼狽える五条は全身で扉を遮った。


「こここは関係者以外立入禁止なの!尾張入っちゃ駄目!Don't touch the door!!」


なんだその流暢な英語は。
ちょっとムカツクが、それよりも引っ掛かるところがある。


「俺、関係者以外?」

「あっ、当たり前じゃん!なにいってんだよ!」

「……」

「いくら尾張が可愛く上目遣いして頼んできてもダメなもんはダメ!」


くそ、意外としぶといな。
自分が五条にとって関係者以外に含まれているという事実に結構ショック受けてる自分が意外で、少し、驚いた。
でも、そこまで隠されると、無理矢理暴きたくなるってもんなので。
どうにかして覗くことはできないだろうか、なんて思案するように無言で視線を下げればどうやら五条は俺が凹んでると思ったようだ。


「ここには色々大切なのがあるから触られたら困るんだよ」


そう言う五条は珍しく真面目な声で。
そんなに大切なものってやっぱり写真とか情報データ関連だろうか、なんてぐるぐると考えながら一先ず俺は自分の好奇心よりも捕まえなければならない五条との信頼関係を優先させることにした。


「……わかった、触らない」

「悪いな。でもちゃんと協力はするから」

「じゃないと困る」


五条の大切なものを盗み出し、俺の貞操の代わりにそれをネタに脅してこいつをタダ働きさせることができれば、それが一番理想なのだが。


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