馬鹿ばっか


 26

五条を傷めつけるのは簡単だ。
しかし、服従させるにはなかなか手こずっていたのも事実だ。
どうすれば、と奴の弱点を探っていた途中だったがどうやら岩片のが先に痺れを切らしたらしい。
判断はお前に任せる、と何処からか岩片の偉そうな声が聞こえたような気がした。


「任せるって、言ってもなぁ」


気が付いたら口から言葉が出ていた。
どうしろって言うんだ、俺に。
目の前の五条を見下ろす。
暗い視界、無意識に相手に顔が近づいた。
一瞬だけ、僅かだが五条の肩が跳ねるのがわかった。


「なぁ、五条」

「何、顔、殴るのはダメだからな」

「殴らねえよ、腕使えねえし。お前のせいで」

「その割りには、随分余裕そうだな」


「顔面蹴られると思った」と続ける五条。
本当は今直ぐにでも鼻の骨連打したいところなのだが、我慢しなければならない。ここは。
我慢比べは性ではないのだが、仕方ない。
俺は乾いた唇を舐める。


「さっきのはホント、寝起きでびっくりしてただけなんだって。ボコスカ殴ったり蹴ったりするほど俺も馬鹿じゃねえし」

「じゃあ、何だよ、この体制」


「ちょーマウントポジションじゃん」と、俺を見上げる五条は冷や汗を滲ませたまま唇を尖らせた。
そう、やつの言う通りおれは五条の上に馬乗りになっていた。

作戦その一。
ご褒美は俺スペシャル作戦。ネーミングセンス云々はスルーしていただきたい。


「なんだよ、お前から誘ってきたんだろ?人をその気にさせておいていまさら引け腰かよ」


自分で言ってて床の上をのた打ち回りたくなるような羞恥を覚える台詞だが、こういうわかり易いのが一番いいのだ。こういう色基地外には。
壊れた眼鏡がずれ、きょとんとした五条と目があった。

無言。

おいやめろちょっとくらいリアクションしてくれ。いつもいらんときにハイになりやがってこの野郎。

もしかしたらまだアクションが足りなかったのかもしれない。
俺は五条の上に腰を下ろし、そのまま下腹部を擦った。


「……お前、こういうの好きなんだろ。相手しろよ」

「元君って、そんなキャラでしたか」

「そうだよ」


「岩片のやつが相手してくれねーから溜まってんだよ、俺も」と、笑いながら続ければ、ごきゅりと五条の喉が鳴る。
男同士のナンタラを好む変態だとは知っていたが、出来るならこんな真似はしたくなかった。
いや、マジで。結構ノリノリとかそんなんじゃないし。
誰に対してかわからない言い訳を並べながら、俺は腰に回される手の感触に背筋を震わせた。

問題は、ここからだ。
奴のテンションを維持したままこの状況を回避する方法を考えてみるが、尻を揉まれる度に思考がぶっ飛びそうになる。
非常にまずい。わりと。

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