馬鹿ばっか


 23

「っんぅ……!」


背後の人の気配に気付いたときにはもう遅く、咄嗟に噛み付こうと口を開けばにゅるりとした嫌な液体が絡んだ指先が唇を割るように侵入しに口内いっぱいに独特のあの匂いが広がった。
あまりの嫌悪感に怯んだ俺は目だけを動かし背後を見た。


「……悪いな、尾張。今いーところだからさ、あとちょっとだけ大人しくしててくれよ」


俺の腕を背後で拘束し、そのままぴったりとくっついてくるそいつは荒い息を整えるわけでもなく低く囁いてくる。
耳に生暖かい吐息が吹きかかり、ぞわりと全身が粟立った。

冗談じゃない。
俺の動きを封じ込めようとしてくるやつ、もとい五条祭の言いなりになるつもりは毛頭もない。
構わず指に歯を立てれば、「い゙っ」と呻いた五条は慌てて俺から手を引っ込めた。
と、同時に後頭部を掴まれ、そのまま扉に叩き付けられる。


「……ッ!」


五条に力はない。
が、やはり色んなものが詰め込まれた頭を殴られれば一瞬でも思考は停止し、隙ができる。

額を扉に押し付けられたまま、俺は軽い目眩を覚えた。
確かに出来た隙を五条は見逃さなかった。


「あは……っ、ごめんなぁ尾張。お前に恨みはねえんだけど、今いいとこだからさ」


我慢しろよ。
そう掠れた声で続ける五条は俺の両腕を束ねようとした。
直感で、縛られると悟った俺は掴んでくる五条の手を振り払いなんとか体勢を建て直そうとするが、甘かったようだ。


「あー、もう、だめだって!」


慌てたような五条の声が背後からし、後頭部を掴むやつの指先にぐ、と力が加えられる。
うわ、嫌な予感。
扉から頭を離され、遠ざかる一枚板に目を細めた俺は咄嗟に顎を引いた。
瞬間、ゴッと嫌な音を立てる額に鈍痛が走る。
視界が白ばみ、星が飛ぶ。
確かに一瞬俺の意識が飛んだとき、構わず五条は二回三回と俺の顔面を狙った。正しくは、頭。

何度も頭ん中を揺さぶられ、吐き気に襲われた俺は気が付いたら床の上に落ちていた。


「ま、おあいこだろ。おあいこ」


脱力した俺の手首をコードのようなものできゅっと強く縛りつけた五条は、どこから取り出したのか最新型デジカメを構え笑う。


「せっかく新品のブランドものの眼鏡壊されたんだからさ、元取れるくらいは稼がせてくれよ」

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