天国か地獄


 01

『さいとーゆーき、さいとーゆーき……うーん。じゃあ、ゆう君だね』
『……ゆう君?』
『そう、今日から君のことはゆう君って呼ぶよ。ゆう君も、俺のこと好きなように呼んでいいよ』
『好きなように、って言われても……』
『じゃあ、ハルちゃんって呼んで』
『ハルちゃん?』
『俺、前の学校でそう呼ばれてたからさあ、壱畝君とか言われるとあんまピンと来ないんだよね』
『……そうなんだ』
『だから、ハルちゃんね』
『はる、ちゃん……って、あの、やっぱり普通でいいよ、僕』
『ダメ。ハルちゃんって呼んで』
『だって恥ずかしいよ、皆壱畝君って呼んでるのに、僕だけ』
『恥ずかしくないよ、ゆう君。君だから呼んでほしいんだよ。初めてこの学校で出来た友達だから』
『……友達?』
『そうだよ、あだ名で呼び合うのは友達の特権なんだよ?だから、ね。俺のこと友達だと思うんだったらちゃんと呼んで』
『え……ぅっ……、は、ハルちゃん……』
『うん、良くできました。やっぱり、ゆう君はいい子だね。君みたいな子と友達になれて嬉しいよ』
『……あり、がとう』
『ゆう君は?』
『……え?』
『ゆう君は俺と友達になれて嬉しい?』
『っ、う……嬉しい……です』
『そっか、よかった。じゃあ、俺たち親友だね。……これからもずっと仲良くしてね、ゆう君』

 懐かしい声。懐かしい記憶。
 脳裏に映し出されるノイズがかった映像には数年前のあいつと自分が映っていて、そこではあの頃の記憶を忠実に再現していた。
 壱畝遥香。ハルちゃん。吐き気がするほどの優しい笑顔に甘い声。
 今ではわかる。あの頃、バカみたいに自分が信じていたそいつがどんな顔をして俺を見ていたのか。
 そして、このやり取りの後、自分がどうなるのかすらも。だからこそ俺は、微睡む意識を叩き起こし無理矢理瞼を持ち上げた。

「……ッ!!」

 反射で、上半身が起き上がる。軋むベッド、薄暗い自室内。カーテンの隙間から洩れる陽射し。窓の外から聞こえる運動部の声。

「っ、ゆ……め……?」

 そう、確認せずにはいられなかった。それほど生々しかったのだ。
 呼吸が浅い、体が熱い、息苦しい。汗で濡れ、びっちょりと肌に張り付く部屋着を剥がし、俺は小さく溜め息を吐く。
 なんでこんなに暑いんだ。思いながらつけていたはずのクーラーに目を向ければ、何故か切れていた。
 どうやらタイマー設定をしていたようだ。こいつが原因か。そう小さく二度目の溜め息を吐いた俺はゆっくりとベッドから立ち上がり、そのままテーブルの上に置いてあったクーラーのリモコンを手に取り再び冷房を起動させる。

 無事、文化祭が終了して数日経つ。
 今日は文化祭の振替休日で、本当は昼ぐらいまでゆっくり休むつもりだったのだが、あまりの高い室温に邪魔されたお陰で眠気はどっかへ行ってしまった。
 もしかしなくても、先ほどの夢見の悪さもこいつのせいなのだろう。
 正常に機能し始めるクーラーを一瞥し、二度寝する気にもなれなかった俺は顔でも洗ってくることにした。
 芳川会長に協力してもらい、阿賀松の命令を聞かせてもらうという作戦を実行したあの日、色々大変だった。
 時間を見て生徒会室を出れば廊下には阿賀松がいて、あの時の二人のやり取りを思い出すだけで胃がキリキリと痛む。

 ◆ ◆ ◆

 文化祭一日目。
 暫く生徒会室で過ごし、「そろそろいいだろう」と促してくる芳川会長とともに生徒会室を出た瞬間、横から伸びてきた手に思いっきり胸ぐらを掴まれる。阿賀松だ。

「ユウキ君、てめーどういうつもりだ。こいつに手貸しただろうが」

 どうやら待ち伏せしていたらしい阿賀松はそう服を引きちぎる勢いで俺の胸ぐらを掴んできて、そのまま至近距離で睨まれる。
『こいつ』と言うのは間違いなく芳川会長のことなのだろう。
 そう吐き捨てる阿賀松に俺はなんだか生きた心地がしなかった。というか若干足の裏が地面から数センチ浮いていたような気もする。そんな死にそうな俺に対し、助け船を出してくれたのは続くように出てきた芳川会長だった。

「なんのことを言っているのかさっぱり理解できないな」

 そうあくまで冷静な芳川会長はいいながら俺の胸ぐらを掴む阿賀松の手を引き剥がすように振り払う。
 乾いた音が響き、阿賀松の手が離れる。現れた芳川会長に阿賀松は口許に引きつった笑みを浮かべた。

「盗聴器ぶっ壊したやつが言うことかよ」
「盗聴器?ああ、なにかゴミがついてるなと思ったら盗聴器だったのか。悪いな、気付かなかった。しかし、盗聴器か。確か法律で規制されているはずだが」
「規制されているのは不法侵入、電波法、恐喝、ストーカーだけだ。知ったかしてんじゃねえぞ眼鏡猿」
「ならば貴様はストーカーだな、当たっているじゃないか」
「言うようになったなぁお前」

「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」阿賀松からの腕から離れた俺は慌てて会長の背後に逃げる。
 笑う阿賀松と醒めた顔をした芳川会長。
 いつもと変わらないはずなのにこの二人が揃ったせいか酷く息苦しい。
 圧迫感、威圧感、緊張感。二人から滲み出る憎悪に似た空気に周囲は張り詰め、俺の体は押し潰されそうになる。
 阿賀松が来るだろうと言うことは予め芳川会長から言われていたので覚悟していたのだが、やはり怖いものは怖い。
 生徒会室に籠っている間、芳川会長には阿賀松が来たときの対処法を聞いた。それでも阿賀松に睨まれると込み上げてくる不安が爆発しそうになる。

「被害妄想もここまでくると一層清々しいな。貴様に用はない、邪魔だ、そこを退け」

 そんな俺のことを察したようだ。軽く俺の腕を掴んでくる芳川会長は言いながら目の前に立ちはだかる阿賀松を睨むように目を向けた。
 その一言から芳川会長がもの怖じ気一つしていないことがわかり、酷く頼もしく感じた。
 だが、それも束の間。

「ああ、俺もお前に用はねえ。ユウキ君、こっち来い」

 阿賀松に名前を呼ばれる。目を向ければ阿賀松がこちらを見ていて、まともに視線がぶつかった。
 だらしなく緩んだ唇の両端はつり上がり、軽薄そうな笑みを浮かべているのにその目は笑っていない。
 この目には何度か見覚えがあった。阿賀松が機嫌が悪いときだ。

「齋籐君に絡むなと言ったばかりのはずだ」

 足がすくむ。逃れようとした視線が泳ぎ、今にも足場が崩れ落ちるような、そんな不安感が全身を襲った。
 そんな俺を庇ってくれる芳川にそのまましがみつきたかった。だけど、それは無理な話だ。

「……あの、俺なら大丈夫なんで」

 芳川会長の手を振り払い、俺はそう芳川会長を宥めるようにそう恐る恐る声をかける。
 ああ、嫌だ。なに一つ大丈夫じゃない。このまま阿賀松から逃げたい。行きたくない。
 言葉とは裏腹に脳裏が、全身が拒否反応を示す。
 だけど、仕方ない。逃げたところで、阿賀松との接触は免れるものではないと身を持って知らされている俺にはこれが一番いい方法だとわかっていた。

「齋籐君……っ」
「だってよ、会長さん。ユウキ君からのお許しが出たんでちょっと借りるぞ」

 呆れたように目を丸くする芳川会長に、会長よりも自分を選んだ俺に気をよくする阿賀松は笑いながら俺の二の腕を掴み、無理矢理芳川会長の背後から引き摺り出す。
 慌てて俺を捕まえようとする芳川会長だったが、会長が手を伸ばしたのとほぼ同時に校内に取り付けられたスピーカーから音声が流れ始めた。
 その放送は、とある生徒を呼び出す種のもので。絶妙のタイミングで放送されるそれに芳川会長の顔がみるみる内にひきつる。

『繰り返す。三年C組、芳川知憲。至急職員室まで来なさい』

 廊下の天井に取り付けられたスピーカーから流れる声。
 そう、呼び出されたのは芳川会長本人だった。

「ほら、行ってこいよ。生徒代表の生徒会長が一分一秒でも待ち合わせに遅れていいと思ってるのか?」

 そんな芳川会長に相変わらずにやにやと笑う阿賀松はそう肩を揺らし笑い、会長を煽る。
 恐らく、この呼び出しも阿賀松が仕組んだものなのだろう。
 芳川会長はそれに気付いてるだけに、判断が遅れる。
 責任感があり、真面目な芳川会長のことだ。後ろめたさを感じているのだろう。だとしたら、俺が出来ることはただ一つだ。

「俺は大丈夫です。行ってあげてください」

 相手を安心させるために、強張る筋肉を動かし無理矢理笑みをつくった。
 歪なそれに構わず、俺は「心配しないでください」と小さく付け加える。
 申し訳なさそうに、脱力するような芳川会長。こうなることをわかって発言したのだが、やはり、胸が痛む。

「……すまない、齋籐君」

 そう謝罪する芳川会長は小さく会釈し、そして口許に小さな笑みを浮かべた。阿賀松は気付いていない。寧ろ、阿賀松の視線の角度からは芳川会長が嫌々俺から離れようとしている姿しか目に入っていないのだろう。
 そのまま小走りでその場から立ち去る芳川会長に、阿賀松は笑う。
 あいつ、お前のことあっさり見捨てたな、と。遠くなる芳川会長の背中とその言葉に、俺は酷く息苦しくなる。
 否、作戦とはいえ阿賀松と二人きりにならないといけないというこの事実にだ。
 正直、芳川会長がこの場で離脱することは予め知っていた。まさか呼び出しの放送までかかるのは予想外だったが、会長からしてみれば離脱しやすくなり寧ろ有り難いものだっただろう。
 作戦後、阿賀松が接触を図ってきた場合の対処法。芳川会長が盗聴に気付いていたと言う(あくまで自分は言っていないという)。セックスはしたと言い切る。ただし、阿賀松以外に第三者がいる場合は口を割らない。
 上記のみを守り、阿賀松からの接触を受け流す。それが芳川会長に言われたことだった。
 正直、不安で堪らなかったが、思ったよりもそれはスムーズに行われた。ただし、ある意味嫌な形で。
 セックスをしたと言っても信じない阿賀松にその場で無理矢理服を剥かれ、下半身をまさぐられて、指突っ込まれてほぐされたそこにまた更に掻き回されて確かめられた後、射精した精液の匂いが残っていたらしくなんとか渋々納得した阿賀松だったが、会長曰く阿賀松の真の目的だった決定的な証拠が残っていないことに不満があったらしく、散々八当たられた。つまり、骨折り損ということらしい。
 言われた通り芳川会長とはヤったことになったし、阿賀松の命令は守った。
 阿賀松もそれをわかってるからこそ面白くなかったようだ。
 罰ゲームと称した二度と学校へ来れないような真似を実行されることはなかったが、その代わりその日一日中阿賀松のストレス解消に使われることになった。

 それが、昨日。
 解放されたのは昼頃で、全身くたくたになりながらもベッドに潜った俺だったがあの例の悪夢だ。
 つくづくついていない。せっかくの休日だというのに。お陰で文化祭二日目も後夜祭もまともに楽しめなかった。今さら愚痴ったところで仕方がない。
 それに、なんだかんだ阿賀松との約束も守ったし学園生活を脅かされるようなこともなくなった。
 まあ、あくまでも目の前にあるたった一つだけだが、それだけでも肩の重荷が外れたような清々しい気持ちだった。抜く暇がなくて溜めすぎただけだったのかもしれないが。

 身支度を済ませ、さて、今日はなにをしようかとソファーでごろごろしていたときだった。
 不意に、自室の扉がノックされる。嫌な予感がして咄嗟に身構えたが、廊下の方から『おーい、佑樹ー起きてるかー』という担任の野太い声が聞こえてきて内心ほっと胸を撫で下ろした。
 もしかしたら阿賀松がまたわけのわからないイチャモンをつけに来たのかもしれないと思っていただけに、無害だとわかっているその声に酷く安堵する。
 そして、「はい」と小さく答えた俺は慌てて扉に駆け寄った。チェーンを外し、そのまま鍵を開いた俺はドアノブを捻る。

「おはようございま……、んっ?」

 扉の前、現れた担任にそう慌てて頭を下げた俺はそのまま担任の足元に置かれた荷物に目を向ける。
 段ボールに大きな鞄、まるで引っ越しでも行っているかのような数々の荷物が置かれていた。

「ああ、おはよう!いい朝だな!」

 何事かと目を丸くする俺なんて気に留めず、相変わらず豪快な担任はそう言いながら扉を大きく開き、ストッパーで止める。無駄に素早い。

「っ、え、あの……この荷物……」

 部屋の前、それもまるで俺の部屋に運ぶかのように迷惑な位置に置かれたそれらについて恐る恐る尋ねれば、担任は「ああ」と思い出したように笑った。そして、とんでもないことを言い出す。

「ほら、この前相部屋になるって言っただろ。その荷物だ」
「あ……相部屋……っ?」

 なんだそれ、初耳だ。
 担任の言葉に目を丸くし、そのまま硬直する俺からなにか察したようだ。
 担任は「あれ?話してなかったか?悪いな、先生早とちりしてたみたいだ、はははっ!」となんとも爽やかに笑った。
 いやそんな早とちりで済ませないでもらいたい。
 でも、相部屋か。もしかしたら阿佐美が戻ってきてくれたのかもしれない。突然の言葉に焦りとそんな一縷の希望を抱いた。
 が、それも束の間。そんな可能性は担任によって断ち切られる。

「まあ、丁度いい。ハルカ、こっち来い」

 ……ハルカ?
 ごく最近聞き覚えのある、そして耳慣れた固有名詞。どうやらそれが新しいルームメイトの名前のようだ。
 阿佐美ではないことは間違えないらしい。というか、もう来ているのか。
 落胆しつつ、顔を上げた俺は担任の視線の先に目を向ける。
 そして、目を見開いた。

「……っ!!」

 担任に呼ばれ、俺の前に立ったのはつい先日『再会』した元同級生だった。
 黒髪に薄ら笑いを浮かべたその好青年、壱畝遥香は目があってにこりと優しく微笑む。
 全身からドッと嫌な汗が滲み、押し潰されそうになる心臓の鼓動は加速し始めた。

「こいつが今日から一緒に共同生活を送ることになる齋籐佑樹だ。そんでこっちは新しいクラスメート、壱畝遥香だ」

「二人とも、仲良くな!」そんな俺の気も知らず、そう間に立つ担任は俺と壱畝の背中をバシッと叩く。
 只でさえあまりの動揺で強張っていた筋肉は些細な刺激だけでビクリと跳ね上がった。
 やばい。これは冗談抜きで笑えない。気が遠くなりそうになり、顔を隠したい衝動に駈られたが緊張でガッチガチに強張った体は指一つ動かない。
 呼吸すら儘ならなくて、他人のフリを、せめてなんでもないフリをしようとするが顔の筋肉すら反応しない。
 文字通り、俺は硬直していた。壱畝遥香の顔を凝視したまま。

「初めまして、さいとー君」

 そんな中だった。口を開こうともしない俺に対し壱畝遥香は猫のように目を細め、今日からよろしくね」と人良さそうな笑みを浮かべる。
 はじめまして。はじめまして?
 はじめましてってなんだ。はじめまして?
 はい?
 こんがらがる思考回路が、今度は大量の疑問符で塗り潰される。
 どういうつもりだ、こいつは。俺の顔を見ても、俺の名前を聞いても反応しないんだ。
 もしかして、俺のことを忘れてる?

「さいとー君?」

 目を丸くしたまま目の前の壱畝を見詰める俺に、壱畝は不思議そうな顔をしてそう目の前で軽く手を動かす。その動きにビクッと後ずさった俺だったが、相手に敵意がないのを再確認し、慌てて俺は笑みを浮かべた。

「っぁ、いや、うん……よろしく」
「じゃあ、後は二人に任せとくからな。二人とも転校生だからな、なにか分からないことがあったらいつでも職員室まで来いよ!」

 そうごにょごにょと口ごもる俺の語尾に重なるよう、そう相変わらずでかい声で笑う担任はそれだけ言えばさっさと部屋の前から立ち去った。
 最後の最後で余計なことを言う担任にギクッと緊張した俺は、慌てて視線を逸らす。
 今度の今度こそ流石に気付かれるはずだ。そう俺が生死をさ迷いかけたときだった。

「へえ、さいとー君も転校生なんだ?」

 ああ、来た。
『もしかして◯◯県にいなかった?』とか言われたら確実にアウトだ。
 やばい。やばいぞ。バレた上にルームメイトとか最悪の学園生活しか残されていない。
 嫌だ。嫌だ。帰りたい。帰る場所がこの部屋しかないのはわかっていたが帰りたい。帰りたい。
 壱畝の発言一つで寿命がいくらか縮み、生きた心地がしない。寧ろ死にたい。
 なんて現実逃避をしたとき、不意にくす、と壱畝が小さく笑う。その動作一つ、俺は縮み上がった。そして、咄嗟に壱畝遥香へ目を向ける。

「一緒だ」

 壱畝遥香は、そう笑った。そう、笑った。笑っただけだった。後はなにも言わなかった。
「部屋、荷物入れていーい?」とかなんかそういう話題に変わった。
 壱畝遥香は俺に気付いていない?
 まあ言われてみたらもう何年も前の話だし、様々な所を転々としているらしい壱畝にとってたかだか一年弱留まり、そこで会ったやつなんて記憶にも残らない細やかなものなのかもしれない。
 ひっ掻き回されて、逃げて、怯えて、そして俺だけが何年も覚えていて、壱畝は俺のことを覚えていない。
 いや、本来ならば喜ぶところなのだろう。
 これからこいつと相部屋になってしまった今、壱畝が俺を覚えていないのはかなり有り難い。寧ろ、一生忘れていてほしい。わかっているし、そう強く願ったが、やはり、なんとなく腑に落ちない。
 これから俺だけがいつ壱畝が思い出さないかと一晩中怯えて過ごさなければならないと思うと。

「さいとー君」

 不意に、耳元で大きな声がした。
 ドキッと目を丸くして顔を傾ければ、そこには壱畝のドアップがあって思わず身構える。

「あ、ビビらせちゃった。あはは、ごめんごめん。ね、取り敢えずさーこれ入れていい?」

「手伝ってくれると嬉しいな」そう軽薄な口調で続ける壱畝は言いながら荷物の山を指差した。
 正直、昨日まで阿賀松の相手していたせいで腰がガクガクなのだが壱畝と向かい合っているよりかは肉体労働した方がましだ。
「わかった」と頷いた俺は、命令されるがまま壱畝の荷物を部屋へ運ぶという作業で気を紛らすことにする。


剥いだ化けののその下にあるものについて(前編)


「ゆう君ってば、本当変わってないなあ」




 home 
bookmark
←back