天国か地獄


 08

「そろそろ俺は行くが、君はまだここにいるのか」

 仁科に赤外線の使用法を説明を聞き終えたとき、携帯電話をしまいながらそう尋ねてくる芳川会長に「ええ、まあ」と曖昧な返事をする。

「そうか。仁科がいるから大丈夫だと思うが、もしなにかあったときは迷わず連絡してくれ」

 そんな俺の返事を聞くなり、そう相変わらず神妙な顔をした顔で続ける芳川会長。
 名指しされビクッと肩を跳ねさせた仁科はそのまま顔を変色させる。
 会長のいうもしもが仁科にとっての悪状況だと理解していた俺は「あ、はい。わかりました」と慌てて頷き話題を逸らした。

 一頻り話し終え、ソファーに腰を下ろしていた芳川会長が立ち上がる。
 そしてそのまま出入り口の扉に近付いたときだった。
 会長が扉に触れるより先に保健室の扉が勢いよく開く。
 その音にビックリした俺は扉に目を向けた。そこには、見覚えがある男子生徒が一人。庶民的なビニール袋を手にしたその男子生徒もとい志摩亮太はどうやら走ってここまでやってきたようだ。僅かに息が乱れてる。

「どうやらお友達が来たようだな」

 扉の前の志摩を一瞥した芳川会長はそうなんでもないように続ける。
「それじゃあ、また後で連絡する」そして、ソファーに座ったままの俺に目を向けた芳川会長はそれだけを言えば志摩の脇をすり抜けるように保健室を後にした。
 通り過ぎていく芳川会長を無言で睨む志摩。
 そんな志摩から今にも会長に噛み付きそうな雰囲気を感じ取った俺は慌てて「志摩」と名前を呼ぶ。

「さっきはごめん。連絡忘れて」

 そうこちらに気を逸らそうと声をかければ、芳川会長から視線を外した志摩は無言で俺に目を向け、そして「いいよ別に」と短く続ける。

「……そりゃ恋人と一緒にいたら連絡も忘れるよね、仕方ないよ」

 言いながら保健室に入ってくる志摩は、先程同様乱暴な手付きで扉を閉めた。
 扉の閉まる大きな音に、教諭の机を使ってなにやら作業していた仁科が冷や汗を滲ませる。

「それより、なにがあったか説明してくれる?」

 そして、そのまま真っ直ぐ俺の座るソファーに近付いてくる志摩は言いながら俺の隣に腰を下ろす。
 顔そのものは穏やかだが、その声はどこか棘を孕んでいて。
 隣の気配に自然と全身が緊張した。

「説明、っていうか」
「なに?散々人に心配かけて校内走らせた上に放置した挙げ句自分は恋人とイチャイチャするくせに俺にはなにも言えないってこと?それとも、会長に口止めでもされてるの?」

 後ろめたさからか口ごもる俺の濁すような態度が気に入らなかったようだ。
「まさか、頭にこんなもの乗せてなにもなかったなんて言わないよね」そう微笑む志摩に頭に乗せていた氷のうを取り上げられ、直接冷やしていた頭皮に触れられる。
「齋籐」耳元で名前を呼ばれ、そして頭を撫でるように志摩の指がコブに触れ、ピリッとしたような小さな痛みに体が跳ねた。

「……ッわ、わかったから、ちゃんと言うから押さないでってば……っ」

 黙れば黙るほど徐々に指先に力が加わり、増す痛みに我慢出来なくなった俺は言いながら志摩の腕を掴み無理矢理自分から離した。
 そして志摩から氷のうを取り返し、それを頭に乗せたまま俺は志摩に一連の出来事を説明する。
 櫻田のことは一ヶ月前教室まで押し掛けてきたやつと言えばすぐに伝わった。
 そして一頻り身に起きたことだけを説明し終わり、終始黙って聞いていた志摩に目を向ければ驚いたようにこちらを見てくる志摩と目が合う。

「俺に飲み物買ってくれようとしてくれたんだ」

 そう意外そうな顔をする志摩がまず一番に食い付いたのは櫻田と接触するきっかけになったその俺の行動だった。
「結局買えなかったんだけどね」そう苦笑混じりに答えれば、今さら志摩に迷惑かけてばかりだと気付いた俺は急に申し訳なくなって「ごめん」と項垂れる。そんな俺に対し、志摩は「いいよ別に」と小さく笑った。

「こっちも走ってる間にぐちゃぐちゃになっちゃったしね」

 言いながらビニール袋に入った焼きそばをテーブルの上に置く志摩。
 先程から保健室が香ばしいソースの匂いで充満していると思ったらこの焼きそばの仕業だったようだ。
「もう冷めちゃったけど、ここで食べようか」そう尋ねてくる志摩に目を丸くした俺は「ここで?」と離れた教諭の席に座る仁科にチラリと目を向ける。

「……ゴミは各自で持って帰れよ」

 どうやら仁科まで筒抜けになっていたようだ。
 俺の視線に気付いた仁科はそう渋々口を開けば、志摩は「りょーかい」と相変わらずの調子で答える。

「なんだか落ち着かない文化祭になっちゃったね」

「はい」そう言いながら容器に入った一人前の焼きそばを俺の手前に置く志摩は笑いかけてくる。
 先程に比べて心なしか毒が抜けているのはやはり俺が志摩のために飲み物を買おうとしていたことを知ったからなのかもしれない。
 案外現金なやつだな。なんて思いながらビニール袋に入った割り箸を手渡してくる志摩からそれを受け取る俺は苦笑を浮かべ、「いただきます」と呟いた。
 最初から志摩は俺の分しか買わなかったようだ。一人前のそれを食べ終わり、ゴミを纏めているとふと隣から向けられる視線に気付く。

「……んー」
「ん?……なに?」
「結構痕残ってるなぁって」

 首を傾げ、こちらを見てくる志摩は言いながら俺の首筋にそっと触れてくる。
 浮き出た血管をなぞられ、以前キレた志摩に首を絞められたことを思い出した。
 フラッシュバックを起こす脳味噌に、咄嗟に俺は志摩から離れる。

「……首?」
「うん、赤くなってる。痛い?」
「ん、大丈夫」

 内心ビクビクしながらそう自分の首筋を擦りながら答えれば、志摩は「そう」と小さく頷く。

「一年だっけ、そいつ」
「え?」
「だから、齋籐殴ったの」

 なんで改めてそんなこと聞いてくるのかわからなくて一瞬言葉に詰まったが、今さら隠す必要もない。
「うん、まあそうだけど……」そう曖昧に頷けば「ふーん」と志摩は興味無さそうに呟く。

「齋籐って結構喧嘩弱いよね」
「いや、っていうかまずしないから、そんなこと……痛いし」
「そんなこと言ってるから一年に泣かされるんじゃないの」

 いきなりなにを言い出すかと思えば、痛いところを突かれなにも言えなくなる。
 というか、俺が一年に負けるほど弱いというより櫻田がおかしいんだ。
 そう言いたかったが、実際俺が言ったところでただの負け犬の遠吠えだ。
 話題が変わるのを祈って黙ることにした。

「あ、でも齋籐が強くなったらやだなあ」

 ばつが悪くなって黙り込んでいると、志摩は思い出したようにそんなことを口にする。どういう意味だろうか。垂れていた頭を軽く上げ、志摩を見る。

「可愛くなくなるし、ただでさえガードがっちがちなのに更に固くなりそうじゃん」

 目が合って、楽しそうに笑う志摩はそんなことを言い出す。
「可愛……」バカにされているのか褒められているのか分からず、言葉に詰まった。
 そんな呆れ果てる俺を知ってか知らずか、志摩はヘラヘラ笑いながら続ける。

「やっぱり齋籐はそのままのへなちょこ腰抜けな愚図で泣き虫で一人じゃなんも出来ない齋籐のままでいいや」

「何かあったときは俺が助けてあげればいいんだしね」笑いかけてくる志摩は僅かに気恥ずかしそうに目を細める。
 ……なんかさらりとかなり酷いことを言われてるような気がする。
 というか言われている。
 あながち間違っていないだけになんかもうやるせない気持ちでいっぱいになった。

「でも、やっぱムカつくなあ、会長。俺頑張って探してたのに横から割り込むなんて不公平でしょ。普通に考えて」
「うん、ありがとう。……でも、ほら割り込むとかそういうのじゃ……」
「なに?俺より会長に助けてもらえて嬉しかった?」
「ちが……違うよ、違うけど、あんまりそういう言い方……」

 志摩の口が悪いのは今に知ったことではないが、芳川会長と仲がいい仁科がいる目の前でそんなことを言ってみろ。
 うっかり芳川会長の耳に入ったときのことを考えると生きた心地がまるでしない。

「へえ、齋籐でも彼氏の悪口言われるのは嫌なんだ」

 しかし、そんな人の気遣いを志摩はまたよくわからない方向に受け取ったようだ。
「かっかかか彼氏?」いきなりそんなことを言い出す志摩に俺は目を丸くし、顔を引きつらせる。

「違うの?」
「や、その……ちっ違くない……けど……」

 どもる俺の態度が気になったのか、そう鎌をかけるように尋ねてくる志摩に俺は徐に視線を外す。
 一瞬否定しそうになりながらも、そう慌てて肯定すれば志摩の顔が不愉快に歪んだ。

「あーやだその反応、ムカつくなあ。いつもぐだぐだ言うくせになんでハッキリ言うのかな、結構齋籐って無神経だよね」

 聞かれたから答えたのに、なんということだろうか。
 あからさまに気を悪くする志摩。下手に刺激して癇癪を起こされては堪ったものじゃない。
 志摩の意に添えるような答えが見付からず、敢えて俺はそのまま押し黙った。
 保健室内に重い沈黙が走る。黙るのは悪かったかもしれない。せめて話題を変えるべきだったか。そう思ったときだ。制服の中に入れた携帯電話がぶるぶると震え出す。
 着信音はない。メールだ。
 十秒もしない内に静かになる携帯電話に、俺は慌ててそれを手に取り届いたメールを確認する。
 送信元には芳川会長の名前が表示されていた。
 そして本文には『準備が出来た。生徒会室へ来い。』という簡潔な文章が書かれている。
 準備と言われ、阿賀松との約束が頭を過り全身が緊張した。
 とうとうか。そうごくりと音を立て固唾を飲み込んだときだ。

「俺と話してるときに携帯見ないで」

 隣でつまらなさそうな顔をして頬杖をつく志摩はそう俺の横顔を眺めたまま唇を尖らせる。
「あっごめ……」一言断ればよかった。
 志摩が拗ねる前にそう謝る俺は言いながら慌てて携帯を閉じる。
 面白くなさそうだったが、今回の不機嫌さは尾を引かなかったようだ。
「誰から?」そう気を取り直して尋ねてくる志摩に、「え、あの……会長から」と素直に答えることにする。

「なんだって?変な男には近付くなって?」

 これはあれか、自虐風ジョークなのだろうか。
 どこか皮肉げな笑みを浮かべる志摩に突っ込んだ方がいいのか迷い、スルーすることにする。

「えっと……今から一緒にいれるって」
「ふうん、生徒会の仕事終わったんだ」
「だと思う……うん」

 会長のメールを見る限り生徒会の仕事かどうかはわからなかったが、準備が整ったことには変わりないだろう。
 しどろもどろと頷く俺に、志摩は「で?」と言葉を続けた。

「齋籐はどうするの?」
「え?ええと……呼ばれたから行かなきゃいけないけど……」

 流石に『会長との用事あるんでじゃあね!』と言い出しにくいから相手から本題に触れてきてくれるのはありがたかったが、なんでこうも高圧的な言い方をするのだろうか。
「けど?なに?」そう薄く笑いながらしつこく食い付いては離さない志摩。
 表情そのものはにこやかだが、纏う空気は一発触発のそれだ。
 ここは一応志摩を立てておいた方がいいだろう。そう判断した俺は重い口を開いた。

「……志摩が」
「俺が?」
「一人になるから」
「……別に、そんなこと気にしなくていいよ」

 そう呆れたように肩を揺すって笑う志摩。
 珍しく物分かりがいい志摩に少し驚くと同時に肩透かしを喰らい、俺はなんともいえない脱力感に襲われる。
 しかし、それも束の間。

「それともなに?俺が齋籐に行くなって言ったら断ってくれるの?」

 そう相変わらずの笑みを浮かべたまま迫ってくる志摩に思わず俺は「え、いや……」と座席を横にずれる。
 つい素直に答えてしまい、自分の失言にハッとしたが時既に遅し。
 一瞬顔を強張らせる志摩だったが、瞬きをしたときにはそれはすぐに綻んだ。

「だろうね、そう言うと思ったよ」

「もう面倒だから齋籐ごと部屋に閉じ込めれたらいいんだろうけどね」そして、柔らかい笑みを浮かべたまま志摩はそんなことを口にした。

「…………」
「なにその顔、冗談だよ」

 ……なんだ、冗談か。
 全くもって冗談に聞こえないけど冗談なのか。
 あまりにも身も蓋もない志摩の言葉にうっかり思考停止した俺は「ははは」と乾いた笑みを浮かべた。

「でも会長のところに行っちゃだめ。前からも言ってるよね」

 あくまで笑顔のままそう強要してくる志摩につい俺は「でも」と言い返してしまう。
「なに?」僅かに眼光が鋭くなる志摩。
 睨まれ、俺は慌てて顔を逸らした。
 しかし、今回ばかりは志摩の言うことを聞くわけにはいかない。
 阿賀松との期限つきの約束、芳川会長との作戦、自分の平穏。
 それらと志摩のご機嫌取りとどっちが大切かなんて、まず比べ物にすらならない。

「ごめん、遅れるからもう行く」
「齋籐」
「今日の分の埋め合わせはまた今度用意するから。……焼きそば、美味しかったよ。ありがとう」

 意を決して、俺は椅子から立ち上がる。
 そして志摩の制止の言葉を遮るように一方的に話せば、志摩が次の行動を起こす前に俺は足早に保健室を後にした。

 ◆ ◆ ◆
 
 場所は変わって生徒会室前。
 逃げるように保健室を飛び出した俺はそのまま早歩きで階段を駈け上がり、ここまでやってくる。
 見世物らしい見世物がないせいか他の階と比べて恐ろしく閑散とした廊下の中、あらかじめ言われていたように俺は今から会長に会うとメールを入れた。
 そして携帯をしまい、そのまま生徒会室の扉を開き中に入った。

「……お邪魔します」
「齋籐君か」

 言いながら扉を閉めれば、一人用のソファーに腰を下ろしていた芳川会長が立ち上がる。
 慌てて会釈すれば、こちらへと歩いてきた芳川会長は小さく笑った。

「済まなかったな。バタバタと慌ただしくて」

「座れ。疲れただろう」言いながら、扉に鍵をかける芳川会長はそう俺を促してくる。
 その言葉に甘え、俺は言われるがままいつも座っている客用のソファーへと腰を下ろした。
 先程まで会長が使っていたのだろうか。
 ほんのりと暖かいソファーのその向かいにあるテーブルの上には大量の白紙とマーカー、新品らしき金槌が置かれていた。
 後夜祭で使うのだろうか。なんて思っていると、戸締まりを終えた芳川会長が近付いてきて「齋籐君」と名前を呼ばれる。

「麦茶とジュースどっちがいい?」
「え、ああ、あの……じゃあ、麦茶で」
「わかった、すぐ持ってくるからゆっくり寛いでくれ」

「なにもないからつまらないだろうが」どうやら芳川会長が飲み物を用意してくれるようだ。
 笑いながらそういう芳川会長に、俺は「や……いえ、そんなことないです」と慌てて首を横に振る。
 すると芳川会長は少しだけ申し訳なさそうな顔をして「そうか、ありがとう」と呟いた。
 そして、部屋の奥へと飲み物を取りに行く芳川会長。
 静かな生徒会室内には芳川会長の作業する音と時計の針が動く音だけが響き、一人の時間はやけに長く感じる。
 一人そわそわ時計を眺めながら芳川会長を待っていると、暫くもしない内にトレーと束ねた用紙を手にした芳川会長が戻ってきた。
 麦茶が入ったグラスを手渡され、それを受け取ればそのまま芳川会長は隣に腰を下ろす。
 一人分の体重に小さく軋むソファー。
 沈黙の中、不意に阿賀松との命令を思い出し今さらになって緊張してきた。
 会長は考えがあると言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか。
 疑っているわけではないが、あまりにもいつもと変わらない芳川会長に不安になってくる。
 出された麦茶をちびちび喉に流しながら芳川会長の横顔を一瞥したとき、ふと目が合った。
 変な沈黙に気恥ずかしくなって慌てて視線を逸らせば、「齋籐君」と静かに名前を呼ばれる。

「は、はい……」

 緊張でグラスを握り締めもたもた返事をしながら俺は隣の芳川会長に目を向け、そして全身が硬直した。
 すぐ鼻先にある芳川会長の顔に心臓が止まりそうになり、「ひっ」と口からはなんとも情けない声が漏れる。

「かっかっかかか会長……っ!あの……っち、近……ッ」

 至近距離の芳川会長になんかもうどうすればいいのかわからずそう言葉を詰まらせたとき芳川会長は人差し指を立て、しっと自分の唇に寄せた。
 静かにしろ。
 微かにそう芳川会長の唇が動いた。
 そのジェスチャーに慌てて口を閉じれば、芳川会長はトレーと一緒に持ってきた用紙を手に取る。
 そして、なにか書かれたそれを俺に突きつけた。
『これからこの紙に書いてある指示に従ってくれ。声を出すな。余計なことも言うな。』
 その紙にはそう、ペンのような太い字で書かれていた。
 一瞬なんて書かれているのかわからなかったがなんとか文字を読み取ることが出来る。
 突然始まった一方的な筆談に戸惑いつつ、こちらを見詰めてくる芳川会長に小さく頷き返せば芳川会長は二枚目三枚目の紙を手に取った。
 というかまだあるのか。

『今から身体検査をさせてもらう。君が阿賀松と接触したときやつからなにか仕掛けられた可能性がある。それを確認するだけだ。』
『この体勢はキツいだろうが少しの間だけ我慢してくれ。盗聴されている場合会話を途切れさせると怪しまれる可能性もあるので普段通り話してくれるとありがたい。』

 中々特徴的な字で書かれたその用紙の文章に、先程とは違う意味で全身が緊張するのがわかった。
 盗聴。聞き慣れない、聞き慣れたくないその単語に胃が痛くなる。
 通りで先程から芳川会長が当たり障りのない会話ばかりをすると思ったらそういうことか。
 確かに、阿賀松にはべたべた身体を触られたがまさか盗聴機だなんて。
 そう思いたかったが阿賀松のことだ。なんとも言えない。そう用紙を眺めたまま思案していると、更にもう一枚芳川会長は用紙を取り出した。
『わかったら、小さく頷いてくれ』
 先程の用紙にあった身体検査という単語が妙に気になったが、ここは素直に芳川会長に任せていた方がよさそうだ。
 カンペ何枚用意してるんだと内心驚きつつ、俺は小さく頷き返す。

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