天国か地獄


 03

 志摩と別れ、一人残された俺は暫くその場から動くことができなかった。
 味方。
 先ほどの志摩の言葉が頭の中で木霊する。
 なんだか上手い具合に志摩のペースに乗せられた感が拭えない。
 でもまぁ、志摩から言葉をちゃんと聞き出すことができただけましだろう。あれが本心かどうかはわからないが。
 志摩たちがいなくなり、しんと静かになった廊下の奥から文化祭の準備に取り組む生徒たちの喧騒が聞こえてくる。それを聞き流しながら、一旦俺はここを離れることにした。

 志摩は俺の味方で、志摩がやっていることは全て俺のためだと言うのだろうか。確かに、何度も志摩には助けられたのも事実だ。
 でも、阿佐美とのやり取りを思い出せば志摩に対して疑問を覚えずにはいられなかった。
 志摩の言うことを信じるなら、阿佐美も俺の害になるということじゃないか。
 確かに、阿賀松たちと仲がいいのは驚いたが、だからといってそれだけであんなことするなんて。

 考えれば考えるほど益々周りが信じられなくなってしまう。
 他人の言葉を丸々鵜呑みにする自分にも呆れたが、周りの人間のことをなにも知らない俺には誰かの言葉が必要だった。
 取り敢えず、これからどうしようか。なるべく教室に帰りたくなかった俺は、一人宛もなく校内を徘徊する。
 どこにいてもサボりには変わりないが、どうせなら誰にも咎められず寛げる場所に行きたい。
 学校内で授業をサボって寛げる場所を探すなんてお門違いだとはわかっていたが、求めずにはいられなかった。
 ふと、俺は保健室の存在を思い出す。そうだ、あそこならゆっくりできるかもしれない。
 仮病を使って入れたとしても、すぐに追い出されてしまいそうだが、少しでも時間を潰すことができればそれで十分だ。そこまで考えて、自分が転校前と同じことを考えていることに気づく。

「……」

 逃げたいことから逃げて、目を背けたいことから目を背けて、それが嫌で新しい場所へ来たというのに。
 腹の底から沸いてくる自己嫌悪に苛まれ、酷く自分が浅ましく思えた。
 ……少しだけだ、別に一日中保健室にいるわけではない。一時間経てばすぐに教室に帰る。
 誰が聞いているわけでもないのに、自分自身に言い訳をする自分が嫌になってきた。
 それでも、いまから教室に帰るという選択肢を作らない自分に笑いしか出てこない。
 自己嫌悪のせいか酷く肩身が狭かったが、それでも俺の足は保健室へと向かっていた。

 保健室に向かう途中。たまに準備に励む生徒と擦れ違う度に後ろめたさを感じながら、俺は長い廊下を歩いていた。
 廊下の突き当たりを曲がろうとした、そのときだった。

「うわっ」

 いきなり突き当たりの向こうから現れた生徒にぶつかる。
 上の空で考え事をしていたせいで向こうからやってくる生徒に気付いていなかった俺は、慌てて「ごめんなさい」と頭を下げた。瞬間、強く腕を掴まれた。

「……おい」

 聞き覚えのある声。
 咄嗟に視線を上げれば、そこにはやけに青い顔をした栫井が立っていた。

「かこ……」
「体貸せ」
「………………はい?」

 いつもに増してどことなく不機嫌そうなオーラを纏った栫井の口から出た言葉に、思わず俺は硬直する。

「お前のせいで気分が悪くなった。保健室まで引っ張れ」

 なんだ、肩を貸せという意味か。非常に紛らわしい。
 ……いや、そこじゃない。

「保健室って、どうして」
「気分が悪いって言ってるじゃん。早く」

 確かに顔色が悪い。
「早くしろ」渋る俺にイラついたのか、栫井は俺の腕にギチギチと指を食い込ませてくる。
 細く長い栫井の指の指圧はなかなか強く、徐々に増す痛みに耐えきられなくなった俺は「わかった、わかったから」と頷いた。
 俺が頷けば、ようやく栫井は俺の腕から手を離す。
 なんで栫井がこんなことを強要してくるのかわからなかったが、ぶつかったのも確かだ。
 それに、幸い目的地も同じだ。断る理由がない。

「……保健室までで良いんだよね」

 栫井の腕を掴みそのまま肩にかけた俺は、そう背後からもたれ掛かってくる栫井に尋ねる。
「ああ」そう小さく頷いた栫井は、「さっさと行け」と命令してきた。
 見た目よりも元気そうだが、人を顎で使うほど元気すぎるのも問題だ。
 ぶつかるなり気分が悪いと言い出した栫井を連れて、俺は保健室までやってくる。
 もしかしたらただの当て付けかもしれないと思っていたが、背中に凭れてくる栫井から時折小さな呻き声が聞こえた。
 もしかしたら本当に具合が悪いのかもしれない。
 そう思ったら早く保健室に連れていかなきゃという使命感が俺の中で芽生え、取り敢えず転ばないよう気を付けながら保健室に向かう。

 保健室前。
 ここまで来たら後はもう自分で歩いてくれるかなと背後の栫井に目を向けるが、栫井はぐったりしたまま俺から離れようとしない。
 無言で俺に目を向けてくる栫井は、そのまま目の前の保健室の扉を見た。どうやらこのまま中へ入れということらしい。

「……失礼します」

 栫井に促されるまま、俺は保健室の扉を開いた。
 瞬間、保健室の中からいつもに増して賑やかな声が聞こえてくる。
 恐らく、サボりの生徒が保健室で騒いでいるのだろう。
 やけに騒がしい保健室に足を踏み入れるのを躊躇ってしまうが、背後から「さっさとしろ」という栫井の高圧的な言葉をかけられ慌てて中に入った。

 学園内、保健室。
 やけに柄の悪い生徒たちが占領するそこに俺はなんかもう生きた心地がしなかった。
 とてもじゃないが、病人には見えない。恐らく、俺と同じサボりなのだろう。大声で話してる生徒に、養護教諭はなにをしてるんだと姿を探してみるが見当たらない。
 もしかしたらたまたま教諭が席を外した隙に入れ違いになったのかもしれない。
 思いながら、不良といい思い出がない俺は極力生徒と目を合わせないよう気を付けながら空いたソファーに栫井を座らせた。

「先生いないみたいだけど、大丈夫?」
「……保健委員は」
「えっと……わかんない」
「じゃあ湿布持ってきて」
「俺が?……いいの?そんな勝手に持ってきて」
「いいからさっさとしろ」
「わ、わかったよ」

 ソファーに座る栫井は、養護教諭がいない隙に薬品棚を漁るのを渋る俺に強い口調で命令する。
 なんで俺が、という気持ちもあったがここまで来たら今さら断ることもできない。
 命令されるがまま、俺は栫井の座るソファーから離れる。
 薬品棚の手前いある、かにも不良な生徒たちが占領するテーブル一式の側を通りかかったとき一気に視線が向けられた。
 かなりの居心地の悪さになんかもう挙動が怪しくなるが、なるべく俺はなにごともなかったように薬品棚の前までやってくる。
 テーブルから聞こえてくる笑い声がまるで自分のことを笑われているみたいな錯覚に陥り、動悸が激しくなった。
 自意識過剰にもほどがある。とにかく、今は湿布が先だ。
 必要以上に取り乱しそうになる自分自身にそう言い聞かせながら、俺は薬品棚の中を見る。
 様々な薬品の瓶が並ぶ中、俺が探しているものは見当たらない。
 もしかしたら、別々に置いてあるのかな。ふとそんなことを思った俺は、その隣にあった薬品棚に目を向けた。予想的中。そこには、ガーゼやテープや湿布などが箱ごと詰められていた。
 勝手に触っていいのかわからなかったが、取り敢えず今は栫井の言うことを聞いていた方がいいだろう。
 心の中で俺は養護教諭に謝りながら、湿布が入っている薬品棚の扉を開いた。

「ねー君、君ってあれだよね。確か、齋籐佑樹君」

 不意に、背後から声をかけられる。
 いきなり名前を呼ばれ、戸惑いながら声のする方へ目を向ければ、テーブルで騒いでいた生徒の一人がにやにや笑いながら立っていた。嫌な予感しかしない。

「……そう、ですけど。なにか」

 テーブルに座る他の生徒がにやにやにやにや笑いながらこちらの会話に聞き耳を立てているのがわかった。
 それだけでいたたまれなくなり、話しかけてくる生徒から顔を逸らした俺は商品棚から湿布の入った箱を取り出す。

「君ってさあ、生徒会長と付き合ってるんだよね。やっぱセックスとかしてんの?」

 生徒の言葉に、俺は持っていた湿布の箱を落としそうになった。
 人の反応を見るようにしてセクハラまがいの質問をしてくる生徒に、俺は絶句する。
 その背後では、その生徒の仲間らしき数人の生徒が可笑しそうに笑っていた。確実に、からかわれている。

「俺は、別に」
「ねーねー、会長ってちんこでかいの?いっつもしゃぶってるんでしょ、教えてよ」

 そういうのじゃないんで。そう続けようとして、次々と生徒の口から出てくる下世話な質問責めになんかもう呆れ果てる。
 付き合っていないと言えたら一番いいのだが、栫井もいるこの状況で下手な発言は控えたい。
 こういうタイプは、無視するのが一番いいのだろう。しつこく下品な言葉を投げ掛けてくる生徒の対処に悩みながらも、そのまま俺は生徒から離れようとした。

「おい、無視すんなって」

 逃げようとすれば、いきなり腕を掴まれ引っ張られる。
 反応が悪い俺にイラついたのだろう。変な方向に腕を掴み上げられ、俺が顔をしかめたときだった。
 不意に、側のベッドスペースのカーテンが開く。カーテンの隙間から伸びてきた腕は、俺の腕を掴む生徒の手首を捉え無理矢理俺から離した。

「一つ目の質問、俺のがでかい。二つ目の質問、そいつの口は俺専用。因みにすっげー下手くそだから自分で抜いた方が早い」

「んで、他に質問は?」ベッドスペースからぬっと出てきた派手な赤髪の生徒は、さらりととんでもないことを言いながら生徒に近付いていく。
 答えになってない。
 嫌な笑みを浮かべ近付いてくる赤髪に顔を青くする生徒は、浮かべた笑みを引きつらせながら後ずさった。

「わざわざでけー声出して俺を起こしてくれたんだからさぁ、勿論他にもなんかそれなりの理由があるんだろうな」

 顔面蒼白の生徒を壁際まで追い込んだ赤髪もとい阿賀松伊織は、そう笑いながら生徒に顔を近付ける。
 いきなり現れた阿賀松に、保健室内で騒いでいた生徒たちが顔を青くして口を閉じた。
 無理もない。いつもに増して高圧的な雰囲気を纏う阿賀松に、追い詰められていない俺まで土下座してしまいそうになるのだから。

「あ、阿賀松さん……」
「さっきからさぁ、なんだお前。あれか、男に興味でもあんのか?」

 後ずさる男子生徒に、阿賀松はそう嫌な笑みを浮かべ肩をゆすって笑う。
 その一言に、生徒の顔色が益々悪くなった。

「ちょーどよかった、俺の知り合いでとにかく男に突っ込みたいって物好きがいるんだよなぁ。なんなら紹介してやるよ、俺すげー優しいからさぁ」
「すみません、俺用事思い出したんで!」

 阿賀松の言葉を聞いて、ふと脳裏に縁の顔が浮かんだ。
 喉を鳴らして楽しそうに笑う阿賀松に、顔面蒼白の男子生徒は言いながら阿賀松の前から逃げ出す。正しい判断だ。
 脱兎の如く保健室から出ていく生徒に、テーブルを占領していた生徒の仲間たちもそのまま後を追ってぞろぞろと保健室を後にした。
 逃げ出した生徒を追い掛けるわけでもなく、視線だけ保健室の扉に向けた阿賀松は小さく息をつく。
 そして、薬品棚の陰に避難していた俺に目を向けた。

「はみ出てるよ」

 そのまま俺の側までやってきた阿賀松は、言いながら俺の腕を掴み影から引っ張り出す。
 強い力で引かれ、思わずバランスを崩しそうになるが阿賀松に支えられたお陰で転倒なんて醜態を晒さずに済んだ。

「……あの、ありがとうございました」

 阿賀松の腕から離れた俺は、そう言って小さく頭を下げる。
 自分が絡まれていたからわざわざ助けてくれたのかもしれない。
 そう自惚れた解釈をするつもりはないが、結果的に助かったことに変わりない。

「ありがとうってなにが?」

 案の定、阿賀松にはお礼を言われる覚えがなかったようだ。
 薄ら笑いを浮かべ顔を覗き込んでくる阿賀松に、俺は「助かりました」とだけ答える。

「ああ、さっきの。別にお前助けたつもりねぇんだけど、まあいいや。どーいたしまして」

 ここまで投げやりな態度を取られると、一層清々しい。
「……はい」阿賀松の言葉に小さく頷いた俺は、そのまま阿賀松から離れようとする。

「そーいや、どうしたのユウキ君。どっか具合悪いの?そんなもん持って」

 そのまま立ち去ろうとしたが、阿賀松がそれを許さなかった。
 俺が持つ湿布の入った箱に目を向ける阿賀松は、そう尋ねてくる。

「いや、これはあの……栫井の分で」

 問い掛けられ、咄嗟に答える俺は言ってから栫井の名前を出してしまったことに後悔する。
「栫井?」小さく眉を寄せた阿賀松は、狭くはない保健室を見渡した。
 先程に比べて人影が少なくなった保健室内で、栫井の姿は簡単に見つけることができる。

「なんだ、お前もサボりかよ。副会長さん」

 ソファーに腰をかける栫井を見付けた阿賀松は、楽しそうに笑いながら栫井に近付いていく。
 栫井は歩いてくる阿賀松の後ろで慌てている俺に目を向けた。
 余計なことを言うなという目だ、あれは。無言で睨んでくる栫井に俺は俯いた。

「いやー一般生徒が目の前で苛められてんの見ても動こうとしないなんて流石だなぁ。いっつもお仕事ごくろーさん」

 先程の俺のことを言っているのだろう。
 そう笑いながら皮肉を口にする阿賀松に、俺に目を向けたまま栫井はなにも言わない。
 素晴らしいくらいの無視だった。
 表情を変えない栫井に、対する阿賀松の顔はみるみるうちに不愉快そうなものになる。
 どうやら、阿賀松は無視されることが嫌いなようだ。
 分かりやすいくらい不機嫌になる阿賀松に、栫井になんでもいいから答えてやってくれと願わずにはいられなかった。
 いや、やっぱり栫井が口開いたら悪化しそうなのでそのままでいい。

「あ、そうだ。これ、言われたやつ……」

 このままにしておけば阿賀松の怒りの矛先が自分に向けられるかもしれない。というか、確実に向けられる。
 咄嗟に空気を変えようと、栫井の元に近付いた俺は先ほど薬品棚から拝借した箱に詰められた湿布を栫井に手渡しした。

「……おせーよ」

 俺の手から湿布を奪った栫井は、睨むように俺を見る。
 栫井の口からありがとうを聞けると思っていなかったが、言われたら言われたで結構複雑というか。つい「ごめん」と謝ってしまう。

「なに、お前怪我してんの」

 そんな俺たちのやり取りを見ていた阿賀松は、そう意外そうな顔をした。
「……関係ないだろ」話し掛けてくる阿賀松に面倒臭そうに舌打ちをする栫井は、湿布を取り出す。

「関係なくないだろ。センセーいないとわかんねぇじゃん。仁科呼び出してやろうか」
「うぜーんだよ、その使えないやつ連れてさっさと消えろ」

 にやにや笑いながらソファーに座る栫井を見下ろす阿賀松に、栫井の口言葉は益々汚くなる。
 使えないやつって、もしかして俺のことか。
 確かに有能ではないが、そこまでハッキリと言われると流石に心が折れてしまいそうだ。
「はぁ?」あまりの言い種に顔をしかめた阿賀松は、呆れたような顔をする。
 やばい、やばいぞ。眉間に皺を寄せる阿賀松に内心ヒヤヒヤする第三者俺。が、どうやら阿賀松はなにか見つけたようだ。
 強張った阿賀松の顔には、いつもと変わらない笑みが浮かぶ。

「使えないやつってもしかしてユウキ君のこと言ってんのか?」
「……他に誰がいるんだ」
「ユウキ君は役立たずじゃねぇよ。少なくとも、お前よりはな」

 これは、褒められたと言うことでいいのだろうか。
 いきなり妙なことを言い出す阿賀松に目を向けたとき、阿賀松は栫井の腕を掴んだ。

「離せ……ッ」

 いきなり腕を掴まれ顔をしかめた栫井は、慌ててその腕を振り払おうとする。
 やっぱり生意気な栫井の態度が気に入らなかったのだろうか。
「せ、先輩……」慌てて阿賀松を止めようとするが、阿賀松は構わず栫井の袖を捲り上げる。
 栫井の腕に目を向けた俺は、その有り様に目を見開いた。

「なに、これ……」
「随分激しいなあ、お前んとこのお仕置きは」

 顔をしかめる俺。阿賀松は可笑しそうに笑いながら栫井に目を向ける。
 不愉快そうに顔を強張らせる栫井は無理矢理阿賀松の手を振り払い、慌てて捲り上げられた袖を戻した。
 それでも、もう遅かった。
 栫井の腕は、見るにも堪えないような無数の生傷と痣で傷付いていた。至るところが鬱血し、ただでさえ青白い栫井の肌は変色していた。

「会長に見つかったな?」

 なんでここで芳川会長の名前が出てくるのかがわからなくて、俺は訝しむように阿賀松を見る。
 浮かべていた笑みは失せ、無表情のまま阿賀松は栫井に問い掛けた。

「……」
「俺にダンマリが通用すると思ってんのか?お前」

 苦虫を噛み潰したような顔をして黙り込む栫井に阿賀松はそのまま栫井の胸ぐらを掴み、無理矢理顔を上げさせる。
 もしかしたら傷が痛むのかもしれない。いつもの余裕綽々な栫井からは想像もできないような辛そうな顔をする栫井は見るに堪えれず、思わず俺は栫井を掴む阿賀松の腕を掴んでしまう。

「なぁに、ユウキ君。後で構ってやるから俺の邪魔すんなよ」
「いや、あの……すみません。他の生徒に見られたら、まずいんじゃないんですか」

 仲裁に入ろうとする俺の言葉に、阿賀松は保健室の入口扉に目を向けた。
 一年生だろうか。扉の小窓から保健室内部を覗く生徒数人の存在に気付いた阿賀松は、面倒臭そうに舌打ちをする。
 正直一年に見られたくらいで狼狽えるようなやつとは思ってなかったが、俺が言いたいことがわかったようだ。
「いつからお前は俺に口答えできるような立場になったんだよ」栫井から手を離した阿賀松はそう面白くなさそうに呟き、携帯電話を取り出す。

「仁科、保健室」

 携帯電話を耳に当てた阿賀松はそれだけを呟き一方的に通話を切る。
 いくら文化祭の準備中だといっても理由もなくいきなり呼び出しを食らう仁科に同情せずにはいられなかった。

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