08※
愛されてる。
志摩はそう言ったが、どうしてもそうは思えなかった。
寧ろ、志摩は俺のことを嫌っているのではないか。
そんな考えが脳裏を過り、自然と視線が泳いでしまう。
「……」
なにをどう答えればいいのかわからず、俺は動揺した。
「なんでそんな顔するの?」虚勢を崩され挙動不審に陥る俺に、志摩は笑いながら問い掛けてくる。
そんな顔ってどんな顔だ。笑顔ではないことは確かだろうが。
「でもさ、本当なんなんだろうね。嫌われるどころか、齋籐は阿佐美を庇おうとするし。なんか俺さあ、嫌なやつみたいじゃん」
いつもの調子で自虐を口にしだす志摩に、俺はなんとなく嫌な予感がしてならなかった。
ソファーから腰を持ち上げた志摩は、俺の方に目を向ける。
「齋籐、気分転換にさちょっと下に行かない?」
「……は?」
あまりにも自然に誘ってくる志摩に、つい俺は間抜けな声を漏らした。
こんなことがあってすぐだと言うのに、俺がほいほいついていくとでも思っているのだろうか。
緊張感のない志摩に、俺は顔をしかめさせる。
「……俺はここにいるから」
普通に考えて、志摩について行く気になれなかった。
阿佐美と話したいこともあるし、なによりタイミングが問題外だ。
いいながら、俺は志摩の視線から逃げるようにソファーに腰を下ろす。
不意に俺の傍までやってきた志摩は、なにを思ったのか、そのまま俺の隣に座ってきた。
「じゃあ俺もここにいる」
意味がわからない。一気に志摩との距離が縮まり、自然と全身が強張る。
まともに隣が見れなかった。なんでわざわざ隣に移動するんだよ。
妙な威圧感に気圧され、俺は肩身が狭くなる。
「……」
このままじゃ、リラックスするどころか寿命が縮みそうだ。
そう判断した俺は、咄嗟にソファーから立ち上がる。そのままソファーから離れようとしたとき、強く腕を掴まれた。
「どこ行くの?」
俺の腕を引っ張る志摩は、そう俺に尋ねる。
なにか言ってくるだろうなとは思っていたが、まさか腕を掴まれるとは思ってなくて、つい俺は反応に遅れた。腕を掴んでくる志摩の手がやけに冷たく感じる。
「別に……ただのトイレだって、トイレ」
動揺を悟られないよう、俺はなるべく平静を装いながら答えた。
うん、無難だ。なにも可笑しいことは言っていない。
そのはずなのに、腕を掴む志摩の腕は一向に離れない。
それどころか、腕に食い込む指先の力が増すばかりだった。
「そんなこと言って、俺から離れたいだけなんじゃないの?」
自虐的な笑みを浮かべる志摩は、言いながら俺の腕を強く引き、無理矢理ソファーに戻らせようとする。
図星を指され、直感的になんかやばいと感じた俺は咄嗟に志摩の腕を振り払おうとした。
思ったよりも志摩の手は簡単に離れたが、拍子に爪を立てられ引っ掻き傷ができる。
一瞬ヒリヒリと痛む腕に気を取られたとき、立ち上がった志摩の腕が首元に伸びた。
「それともなに?さっきのやつのがまだ残ってるの?トイレで抜いてくるつもり?」
相変わらずの志摩の妄想癖には呆れさせられるものがある。
なんでトイレに行きたいっていっただけでそこまで話が広がるのだろうか。
「は……っ」
喉全体を掌で絞められ、自然と呻き声が漏れる。
あまりの息苦しさに、俺は慌てて志摩の手首を掴み剥がそうとした。が、離れない。
空いた志摩の手が下腹部に伸び、衣服の上から撫でられる。
首を絞められ気が遠退きそうになったとき、ようやく首から志摩の手が離れる。
咳き込む俺は、慌てて新鮮な空気を取り入れようと呼吸を繰り返そうとした。
口を開いたとき、いきなり顎を掴まれ無理矢理顔を上げさせられる。
「ちょ……っ」
不意に志摩に唇を重ねられ、混乱した俺は慌てて志摩の体を離そうとした。
もしかしてあれか、今日は厄日かなにかなのだろうか。深く口付けされ、段々意識が混沌としてくる。
志摩から顔を逸らし、俺は志摩の手首を掴み慌てて離そうとした。
唇が外れたのまではよかったが、志摩はそのまま人の頬に舌を這わせてくる。
頬の濡れた感触に、全身の血の気が引いた。
「志摩、やめろって。志摩っ」
耳元を舐められ、流石に青ざめた俺は慌てて志摩の口許を手で押さえる。
ふと志摩は俺の手首を掴み、そのまま指と指の隙間に舌を這わせた。
全身に鳥肌が立ち、俺は慌てて志摩の口許から離そうとするが、志摩は手首を強く掴みなかなか離してくれない。
濡れた音が部屋に響き、志摩の行動に俺は困惑した。
「あ……っ」指の隙間から覗く志摩と目があい、咄嗟に俺は視線を逸らす。
顔が熱い。なんで俺が恥ずかしがらなくちゃいけないんだ。
「せっかくだし、一発抜いておこうか。その様子じゃ、ろくに触ってもらってないんじゃないの?」
指先から顔を離した志摩は、俺の手首を掴んだままそう笑いかけてくる。
なんでもないように問い掛けてくる志摩に、俺は呆れ果てた。
「……いい、いらない」
どう反応すればいいのかわからなかった俺は、そう目を泳がしながら答える。
『うん、じゃあよろしく』と気安く頼めるようなことではないし、普通に考えて志摩の言っていることはおかしい。
「なんで?遠慮しなくてもいいんだよ?困ったときはお互い様って言うじゃん」
人を困らせた本人がなにを言っているのだろうか。
顔を近付けてくる志摩に、俺は慌てて離れようとする。
「いいって言ってるだろ」自然と語尾が強くなった。
人の話を聞こうとしない志摩に、俺は酷い不安感に襲われる。
「なんで?あ、わかった。阿佐美がいるからでしょ」
ひらめいたように言う志摩に、俺は絶句してしまう。それ以前の問題じゃないか。
このままじゃ埒が明かない。そう悟った俺は、咄嗟にソファーの上に落ちていたクッションを手に取り、それを志摩の顔に押し付けた。
志摩が怯んだ隙に逃げようと思ったが、怯むどころか志摩の手に力がこもる。
背中を撫でるようにして腰に志摩の腕が回された。
「ご……ごめん、ごめんって」
つい反射で謝罪を口にしてしまう。
慌てて俺は志摩からクッションを外すが、志摩の腕は離れない。
ズボンの下に手を入れてきた志摩は、下着の上から人の尻を撫でてくる。
「いいよ、別に。てか、齋籐って暖かいね。いい枕になりそう」
やけに爽やかに笑いながら尻を揉んでくる志摩に、俺は慌てて志摩の手首を掴み、離そうとした。
不思議なことにまったく褒められた気がしない。
なんでこんな状況になっているのかがわからず、俺はひたすら焦った。
「ちょ、は……離せって!」
「どうして?ただじゃれあってるだけじゃん」
「男同士なんだからおかしくないでしょ?」耳元で笑う志摩は、いいながら下着の裾に指を滑り込ませ、直に触れてくる。
「ぶわ……っ」あまりにも冷たい志摩の指に、変な声が口から漏れた。
確かに男女でこんなことをするのもそれはそれであれなのだが、だからといって男同士があれではないというのは少しあれではないのか。
どうやら俺は大分混乱しているようだ。
「すぐ終わるよ。なんなら、場所変えようか?」
まずやらないという選択肢はないのだろうか。
尻の割れ目を指でなぞってくる志摩に、俺は体を強張らせる。
志摩の手が冷たいと感じたが、どうやらただ俺の体が熱いだけのようだ。
俺は、微笑む志摩に目を向ける。俺の状況がわかっててこんなことを言っているのだろう。
この状況もすべて志摩の想定内だと思えば思うほど、歯がゆくて仕方なかった。
痺れてくる思考の中、なにを血迷ったのか。俺は手に持っていたクッションを思いっきり志摩の顔面に叩き付ける。
柔らかいクッションで志摩を殴ってから、俺は自分のとった咄嗟の行動に青ざめる。
いや、いやいやいやダメだろ。ダメだって。このタイミングはダメだって、なにやってんだよ俺。
無意識で志摩に抵抗してしまったことに、俺は酷く後悔した。
避けようともせず顔面でクッションを受け止めた志摩は、片方の手でクッションを掴みそのままソファーの上に投げる。
「なんだ。ちゃんと効いてたんだね、あれ」
絶対なんか文句言われる。
そう構えていたが、当の志摩は先ほどまでと変わらない様子で笑った。
「いつもと変わらなかったからさ、流石に一枚だけじゃ足りなかったかなって思ったけど。効いてるならよかったよ」
あれ?一枚?効いてる?なにが?
ニコニコと笑いながら続ける志摩に、俺はテーブルの側に置いてあった紙袋に目を向ける。
どうやら、志摩は自ら手土産と称して持ってきたお菓子のことを言っているようだ。
阿佐美と同じ異変が、俺にも起こっているとでも言うのか。
悪びれもせずにそんなことを言い出す志摩に、俺はもうなにを言えばいいのかわからなかった。
「でも、齋籐ってそんなに俺のこと殴りたかったんだ。まあいいよ、せっかくだからね。殴りたいんなら我慢する必要ないよ。我慢は体に毒って言うでしょ?」
人に毒を盛ったやつがなにを言っているんだ。
優しく宥めるように囁く志摩は、言いながら俺の腰を抱きすくめる。
「その代わりに、俺も我慢しないから」
そう志摩は笑った。
志摩に首根っこを掴まれ、無理矢理ベッドに引っ張られた。
咳き込む俺は慌ててベッドから降りようとしたが、無理矢理志摩に胸元を押さえ付けられそれを制止される。
「嫌ならさあ、本気で抵抗しなよ。それとも、このまま突っ込んじゃってもいいの?」
笑いながら、かけ布団を手にした志摩はそれを俺の上半身に被せた。
いきなり暗くなる視界に驚いた俺は、慌てて布団から顔を出そうとする。
俺が視界を遮るかけ布団に気を取られていると、いきなり太ももを掴まれた。
視界の自由が利かないせいか志摩の行動が読めず、取り敢えず俺は足をバタつかせることにする。
「どこ狙ってんの?ほら、蹴るんならここ蹴りなよ。どうせなら、骨が折れるくらい強くね。齋籐にできる?」
片方の手で足首を掴み無理矢理足を上げさせた志摩は、そんなことを言って笑った。
足の指と指の隙間にぬるりとした濡れた感触がして、俺は体を震わせる。
俺に、蹴ろと言っているのだろうか。
挑発でもするかのような志摩に、俺はただ困惑する。
足の裏を舐められ、あまりのくすぐったさに俺は体に力をこめた。
俺がこのまま思いっきり足を動かせば、確実に志摩の顔面のどこかには当たるだろう。
それをわかってて自分からそんなことを言ってくる志摩の考えが読めず、俺は戸惑った。
そうだ。志摩の言う通り嫌なら本気で抵抗すればいいんだ。
俺だって、そのことは頭ではよく理解している。でも、その後はどうなる。
思いっきり抵抗して、そうしたら俺はどうなるんだ。この場で志摩に抵抗して、もしその抵抗が失敗したら。
──我慢する必要はないよ。
──その代わり、俺も我慢しないから。
先ほどの志摩の言葉が、朦朧とする頭の中で煩く響いた。
無理だ、できない。例えそのときがよくても、報復されると思ったら抵抗する気にもなれなかった。
いくら妙なお菓子を食わされて理性が失いそうになったとしても、俺はたぶん志摩に死ぬ気で抵抗することはないはずだ。
志摩にはそれがわかっているのだろう。
報復を避けたいがため、俺が下手な抵抗しないことを。わかった上でわざと挑発しているのだ、志摩は。
「……甘いなあ、齋籐は。そんなんだから、俺みたいなやつにつけ込まれるんだよ」
布団越しに、志摩の声が聞こえてきた。
甘い、甘いのか。俺は。嫌な水音がし、足の指を一本一本丹念にしゃぶられる。
性感帯ではない場所を愛撫され、あまりのもどかしさに体が熱くなった。
「……っ」
かけ布団を掴み、俺はそのまま踞って志摩の愛撫に堪える。
不意に、志摩の舌が離れた。ベッドのスプリングが軋み、布団に影が出来る。
布団越しに俺の上に覆い被さってくる志摩に、胸の鼓動が一際騒がしくなった。
「ああ、あったあった」
どうやら、なにかを探していたらしい。
ベッドに付属していた小さな棚を漁っていたらしい志摩は、そのなにかを手に再び俺の上から退いた。
場違いなくらい明るい志摩の声に、俺は段々不安になってくる。確かこのベッドの棚は俺の私物が入っていたはずだ。
志摩を喜ばせるようなものを入れておいた記憶はない。
「でも、齋籐って切れ痔だったんだ。なにか変なものでも突っ込まれたの?」
笑いながら問い掛けてくる志摩に、俺の顔面から血の気が引いていく。
確かに、あの棚の中にはいつの日か仁科に買ってもらった軟膏を入れていた。どうやら志摩はそれを探していたらしい。
いや、というかなんでこのベッドの棚に軟膏が入ってるって知ってるんだ。
もしかして勝手に漁ったのか。
軟膏を見つけられた恥ずかしさと、なんで志摩が軟膏のしまい場所を知っているんだとか軟膏をなにに使う気なんだとか、あまりの突拍子のない志摩に俺はもうなんだか気が気でなくなる。
「齋籐って簡単に足開くんだね。阿賀松にそういう風に躾けられてるの?」
動揺する俺を他所に、言いながら志摩は人のスボンに手をかけた。
酷い言われようについ言い返したくなったが、それじゃ俺が自分の意思で簡単に足開くやつみたいにやってしまう。
実際、言い方を汚くすれば志摩の言う通りなのかもしれないが。
せめて、諦めが早いとかそんな感じにオブラートに包んでくれたらありがたいのだが、いまはそんなことについて話し合っている場合ではない。
取り敢えず、人に変なもの盛って無理矢理足を開かせようとする志摩にだけはそんなことを言われたくなかった。まあ、開いた俺も俺なのかもしれない。
志摩の言葉をいちいち真に受けては仕方ないとわかっているが、気を紛らせたくてつい余計なことまで考えてしまう。
ズボンを脱がされそうになり、慌てて下半身に手を伸ばすが、上に被せられた布団が邪魔をして出口が見当たらない。
もぞもぞと布団の中で動けば、上の方から志摩の可笑しそうな笑い声が聞こえてくる。
「阿佐美が戻ってくると面倒だし、さっさと終わらせようか」
なら最初からやるなよ。
なんでもないように言う志摩に、俺はついツッコミそうになる。
俺としてはさっさと終わらせてくれるのはありがたいのだが、やはり志摩の中にはやらないという選択肢が存在しないようだ。
多少ムカついたが、下手に抵抗して長引かせたくはない。
それこそ、阿佐美が戻ってきたときのことを考えればなんかもう生きた心地がしなかった。
その反面、このタイミングで阿佐美の名前を出されたせいかひどく胸が熱くなる。
壁一枚越しになにも知らない友人がいて、しかもいつ戻ってきてもおかしくない状況だ。
そんな状況にも関わらず、興奮している自分に俺は酷い自己嫌悪に陥る。
すべて、志摩が持ってきたあの妙な菓子のせいだと思いたい。
そうでもしなきゃ、最後の理性が崩れてしまいそうで怖かった。
下着ごとズボンを膝上までずらされ、露出させられた肛門に軟膏を絡めた志摩の指が問答無用で捩じ込まれる。
「い……っ」
呼吸とともに、口から呻き声が漏れた。
多少痛みはしたが、それ以上に胸が高ぶってくる。
頭から布団を被っているせいだろうか。
布団の中に熱気がこもり、息苦しさで意識が朦朧としてくる。
「痛いの?ごめんね。俺、齋籐と違って男慣れしてないんだよね」
俺だって男慣れしたつもりはない。
妙に棘を含んだ志摩の言葉に、今さら腹を立てる気にもなれなかった。
たっぷりと軟膏を絡めた志摩の指が、中をほぐすように押し開く。
志摩が指を出し入れするたびにずぷりと耳障りな音がして、自分の中に異物が突っ込まれているということを再確認させられた。
「っふ、……んぅ……っ」
声が漏れないよう、俺は自分の手のひらで口許を押さえる。
それから、何度か指の出し入れを繰り返した志摩は一旦俺から手を離した。
見えない分不安だったというのもあるが、布団を捲ったその向こうに志摩がいるということが未だに信じれなかった。
もしかしたら俺は悪い夢でも見てるんじゃないのか。そう思いたかったが、これは紛れもない現実だろう。
ジッパーを下す音が聞こえ、ああ、俺突っ込まれるのかなんて他人事のようなことを思った。
不意に太ももを掴み、無理矢理足を開かされる。
「齋籐」
ふと、名前を呼ばれた。
近くにいるはずなのに志摩の声が酷く遠くに聞こえる。
肛門に宛がわれるその感触に、俺の緊張はピークに達した。
次の瞬間には、先程志摩の指に慣らされたそこに勃起したものが入ってくる。
なんでだろうか。妙なお菓子もあったし、ちゃんと慣らされていつもより痛くないはずなのに、なんだかすごく泣きたくて仕方なかった。
「ん、うぅ……っ」
膝の裏を掴まれ、深く挿入される。痛いとか気持ちいいとか以前に、まだ自分が夢を見ているような気分だった。
掴まれた太股と体の中に入ってきたものの感触だけがやけにハッキリしていて、生々しい。
ベッドの軋む音が部屋に響いた。
耳の裏が酷く熱く、視界が揺らぐ。
動く度にベッドが軋み、朦朧とした頭の中に煩く響いた。
「……齋籐、顔、見せてよ。ねえ、いい?」
吐息混じりの志摩の声が傍から聞こえてくる。
いいわけない。
そう答えたかったが、いま口を開いたら間抜けな喘ぎ声が漏れそうだったので敢えて俺は無言で布団を被り直した。が、俺の無言を肯定と取ったのか、それとも最初から俺の意思など興味ないのか、志摩は無理矢理俺の上にかかっていた布団を取り上げる。
「……っ」
布団の中が暗かったせいか、いきなり明るくなった視界に、俺は咄嗟に目を瞑った。
新鮮な空気を取り入れようとして、自然と呼吸が荒くなる。
「あー、なんか、すごい興奮してきたんだけど。なんでかな。……齋籐のせい?」
目を開けば、覆い被さるように俺を見下ろす志摩がいた。
そんなの、俺が知るわけないだろ。妙なことを言い出す志摩に、俺は顔をそらす。
体の中で志摩のが膨張し、その感触に鼓動が早くなった。
俺の顔の傍に手を置いた志摩は、そのまま腰を進ませる。
視線を動かせば視界に志摩の顔が入り、なにがなんだかもうわからなくなって心臓が煩くなった。
「ふ……っ、う、んんっ」
中で擦れる度に腰が疼き、揺れる。
うっかり声が出てしまわないよう、俺は口許を手で覆った。
ふと、遠くからシャワーの音がするのに気がつく。どうやら阿佐美は風呂に入ったようだ。
一先ず、このタイミングで部屋に戻ってきたりしてうっかり鉢合わせなんて最悪の展開になることはないだろう。そのことを知り、無意識に安心してしまう自分が嫌になった。
「……っ、齋籐、ちょっと締めつけすぎって……」
無意識に体に力が入っていたようだ。
苦しそうに顔をしかめた志摩は、俺の太股を掴み直す。
無理矢理腰を浮かされ根本まで突っ込まれたとき、硬くなった志摩のものがドクンと大きく脈を打った。
「……っ」
腹の中に広がる熱に、俺の腰は小さく痙攣する。中に射精された瞬間、勃起した自分のものから白濁が自分の腹の上に飛び散った。
一度射精しただけでは体の熱は抜けきれず、ベッドの上に横になっていた俺は火照った体を冷ますようにぼんやりと天井を眺めていた。
服も着替えたし、中に出されたものもちゃんと掻き出した。
後処理も済ませたし、後は阿佐美が風呂から上がるのを待つだけだ。
阿佐美が風呂から上がったら、すぐに風呂に入ろう。
そうは思うが、思うように体が動かない。あのお菓子の副作用だろうか。それともただ、体力を消費したせいで体を動かすのがだるいだけか。
「齋籐、なにか飲む?」
先程までと変わらない笑みを浮かべた志摩は、そう優しく俺に問い掛けてくる。
まるでなにもなかったような志摩の態度は今さら気にならない。
「……いい」俺は寝返りを打ち、志摩に背中を向けた。
なんだか、変な感じだ。
全てが夢だった気がしてならない。
本当はまだ俺はこの学校に来たばかりで、志摩とも知り合ったばかりで、もちろんセックスなんてしてもない。
そう思いたいが、鈍く痛む腰は紛れもなく現実のものだろう。
「そう。じゃ、飲みたくなったら言ってよ。用意するから」
ソファーに腰をかけテレビを見ている志摩は、そう俺に声をかけた。
志摩も志摩で無理強いするつもりはないらしい。
再び静けさが戻る部屋に、テレビの音声だけが大きく響いた。
少しだけ、喉が渇いてくる。変な意地を張らずに志摩の好意に甘えとけばよかった。思いながら、俺は布団に顔を埋める。
友達って、なんなんだ。いつの日か笑って俺のことを友達だと言ってくれた志摩のことを思いだし、なんとなく感傷的になってしまう。
一ヶ月前のことがなければ、こんなことにならずに済んだのではないのだろうか。
今さら考えても仕方ないとはわかっていたが、思わずにはいられなかった。
志摩がなにを考えているのかわからなくて、俺も俺がわからなくなってなんだか酷く気分が億劫になる。
逆上せた頭から熱が引いていき、段々冷静になってきた。
遠くから、風呂場の扉が開く音が聞こえる。
阿佐美が風呂から上がったのだろう。上半身を起こした俺は、そのままベッドから降りた。
「齋籐、入るの?」
背もたれに寄り掛かる志摩は、立ち上がる俺に目を向ける。
よく人の顔を見て話せるな。俺は志摩から視線を逸らしながら、無言で頷き返す。
「ふーん。一緒に入る?」
「……」いつもの調子でそんなことを言い出す志摩に、俺は素で反応に困った。
冗談か本気かわからない志摩の言葉に、俺は「いい」と丁重にお断りする。
「遠慮しなくてもいいよ。せっかくただならぬ仲になったんだから」
笑いながらそんなことを言う志摩に、俺は腸が煮え繰り返そうになった。
お前が変なもの盛ったからせいだろうと責めたかったが、抵抗しなかったのは俺だ。
ここで怒りを覚えるのはお門違いだと思った俺は、ぐっと堪える。
「ま、いいや。ゆっくり体洗ってきなよ」
洗面所へと向かう俺に、志摩はそう笑いながら言った。
志摩なりに気を遣ってくれているようだが、なんとなく素直に受け取れなかった。
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