天国か地獄


 10

「あの……なにか用ですか?」

 会長たちのいるソファーの側までやってきた俺は、そう芳川会長に目を向ける。
 いつもあれだけ賑やかな十勝ですら、珍しく大人しい。
 ソファーの隅に座っていた見慣れない生徒は、なにか言おうとして俺に目を向けるが、俯いて黙り込んだ。
 そんな俺に対し、芳川会長は一枚の紙をテーブルの上に置く。
 くしゃくしゃになったその紙には、どうやら新聞のようだった。

「これは、ついさっき発行されたばかりの校内新聞だ」

「目を通してくれ」芳川会長はそう静かに続ける。
 校内新聞。
 そんなものがあることを知らなかった俺は、少し戸惑いながらもその新聞を手に取る。
 四隅には引きちぎられたような後があり、新聞自体はかなり傷んでいたが文字が読み取れないほどではなかった。
 この校内新聞がどうしたというのだろうか。会長たちの反応を伺いながら、俺は手にした新聞の皺を伸ばし、そこに書かれている文字に目を向ける。
『飼育小屋の兎が出産』、『食堂の人気メニューランキング』、『芳川会長、親衛隊のS田君とキス』、『今年の文化祭スローガン決定』、『芳川会長、噂の転校生と熱愛?』。
 ほのぼのとした記事の間にとんでもないことが書かれているような気がするんだけどこれは俺の見間違いかなにかなのだろうか、というかそうであって欲しい。
 新聞を手にしたまま俺は、全身に嫌な汗を滲ませた。
 今日、生徒会会長の芳川君が二年生のS君とともに一夜を過ごしていることが判明。S君は先月この学園に転校してきたばかりで、たまたま優しくしてくれた芳川君に惹かれたのだろう。現在は謹慎中の芳川君の親衛隊のいない隙を狙ったのだろうか。S君の首にはキスマークが……と、そこまで読んで堪えられなくなった俺は顔をひきつらせた。

「……これって」

 もしかしなくても、S君というのは俺のことだろう。
 これで、先ほどの櫻田の暴走の理由がわかった。
 そして、俺がここへ呼ばれた理由も。

「一応、残っていた新聞は全て押収したが、何部かはもうすでに他の生徒の手に回っているようだ」

 芳川会長は呆れた様子で小さく溜め息を吐いた。
 これと同じものを持っている生徒がいるというだけで、背筋が凍るような気分になる。
 出回っているものが何部と考えればまだましな方だろうが、だからといって目を瞑れる問題ではない。

「櫻田のことはともかく……なんで今朝のことが新聞部の耳に届いているのか気にならないか?」

 芳川会長はそう言いながら俺に目を向ける。
 正直、芳川会長のいうことに心当たりがあった。
 俺の首筋の絆創膏がキスマークを隠しているものだと確実に知っている人間はと言われれば、数はかなり限られてくる。
 俺と芳川会長は寧ろ被害者だ。
 なにがあっても自分の醜聞を流すような真似はしないだろう。
 そうなると、新聞部に垂れ込んだのは付けた張本人である栫井か、この絆創膏を剥がした阿賀松、それと仁科の三人しかいない。
 その時点で、俺は垂れ込んだのが阿賀松だと確信していた。
 証拠はないが、直感がそう思わせる。

「そこにいる部長さんの話だと、昼過ぎ頃に阿賀松がやってきて彼に無理矢理記事を書かせたようだ」

 そう言われて、俺はソファーの隅で俯く気の弱そうな生徒に目を向けた。
 どうやらこの生徒が新聞部の部長のようだ。
 なんとなく垂れ込んだのは阿賀松だとは思っていたので、芳川会長の言葉に今さら驚きもしなかった。
『無理矢理』書かされたらしい新聞部部長になんだか同情してしまう。
 気が弱そうな部長が阿賀松にコキ使われているのが安易に目に浮かんだ。

「齋籐君」

 不意に、芳川会長に名前を呼ばれる。
「あ、はい」新聞部部長に目を向けていた俺は、慌てて芳川会長に視線を戻した。

「なんで阿賀松が今朝のことを知っているんだ」

 芳川会長は俺を見据えたまま、そう静かに俺に言った。
 他の役員たちの視線が、俺に向けられる。
 普通に考えれば、第三者である阿賀松が俺のキスマークのことや今朝のことを知っているのはおかしいだろう。
 当事者であり、尚且つ阿賀松と繋がりがある栫井が阿賀松に話したと考えるのは容易いことだが、今回は間違いなく俺だ。俺が阿賀松に口を滑らしたのだ。
 芳川会長も周りもそれに気付いているのだろう。
 このピリピリとした空気の原因が自分せいだと考えると、いたたまれなくなってきた。

「……齋籐君?」

 黙り込む俺を不審に思ったのか、芳川会長は心配そうな顔をして再び俺を呼ぶ。

「す……すみません」

 自分のせいで芳川会長にこういう形で迷惑がかかるとは思ってもいなくて、俺は謝ることしかできなかった。
「謝るようなことをした自覚があるのか、君は」芳川会長は困ったような、呆れたような顔をしてそう呟く。

「俺に言わなきゃいけないことは他にないのか?」

 芳川会長の声音は叱るというよりも寧ろ宥めるようなもので、そう言葉を選ぶように問い掛けてくる芳川会長に、俺は口を紡いだ。
 これは、チャンスではないだろうか。脳の片隅で、そんな考えが芽生えてくる。
 芳川会長に阿賀松に言われたこと、阿賀松が企んでいることを全て言った方がいいんじゃないのか。今なら、言えそうな気がする。
 芳川会長は、どんな形であれ阿賀松と自分が繋がっていると確信しているはずだ。
 なら隠す必要もない。
 言ってしまおうか、阿賀松が俺と芳川会長をくっつけさせようとしていると。
 その後、俺をつかって芳川会長に恥をかかせようとしていると。
 そう言えば、必然的に芳川会長も俺に関わらなくなるし、阿賀松も俺に関わってこなくなるだろう。
 それがみんなにとっての最善なのだろう。
 そう考えるのは簡単だったが、実際そうなった時のことを考えると酷く気分が滅入った。
 俺が、芳川会長たちと一緒にいなければいい。そして、生徒会も俺と関わらなければいい。簡単なことだ。
 でも、数少ない話し相手がいなくなるというのは俺にとってかなりキツい。
 相手に迷惑をかけてまで仲良くなろうとは思わない。
 言おう。全て芳川会長に説明しよう。後から阿賀松たちになにを言われても構わない。
 そう覚悟を決め、伏せていた視線を上げたとき、不意にソファーにいた栫井と目があった。

「……」

 そうだ。こいつ阿賀松たちと繋がっているんだった。
 そのことを思い出した俺は、阿賀松の影を側に感じ大分気力を削がれてしまう。
 こんにゃくのように柔らかい自分の意思に今さら呆れはしない。

「ここじゃ、話しにくいか?」

 俺の様子からなにかを感じ取ったのだろうか。
 ふと、芳川会長はそう気を利かせてくる。
 芳川会長からの助け船に、俺は戸惑いながらも小さく頷いた。
 俺にとってその芳川会長の気遣いはかなり有り難く、芳川会長はそんな俺をみてようやく口許を緩ませる。

「なら場所を変えるか」

「栫井、空き部屋の鍵、持ってるな?」芳川会長はそう言いながら栫井に目を向けた。
 栫井は芳川会長に目を向け頷けば、制服から空き部屋らしき鍵を取り出す。

「会長、あそこ使うんですか?」
「話をするだけだ、話を」

 呆れたような顔をする五味に、芳川会長は少し語気を強くしながら栫井から鍵を受け取った。
 空き部屋って、そのまんまの意味だよな。
 様子が可笑しい五味に、俺はつい確かめてしまう。

「ああ、そうだ。部長、もう戻ってていいからな。いきなり呼び出して悪かった」

 芳川会長は思い出したように新聞部部長にそう言えば、小さく頭を下げた。
 新聞部部長は「滅相もないです」と慌てて体の前で手を振り、ペコペコと頭を下げる。
 部長も部長でこんなことに巻き込まれたのは初めてなのだろう。
「こちらこそ申し訳ありませんでした」眉を八の字に寄せた新聞部部長は慌ててソファーから立ち上がり、そう言いながら俺と芳川会長に頭を下げた。
 完全に被害者な芳川会長はともかく、自業自得である俺まで謝られるのは非常に申し訳ない。
 新聞部部長はそれだけを言えば、そのまま生徒会室を後にした。バタンと扉が閉まり、残ったメンバーが生徒会役員と俺だけになる。

「それじゃあ、行こうか」

 そう言いながら、芳川会長は俺に目を向けた。
 次は自分の番だと思うと、なんとなく心臓が煩くなる。
 なにか言おうとしながら十勝はソファーから腰を浮かせるが、隣にいた五味に「お前は大人しくしてろ」と頭を叩かれていた。
 芳川会長は、廊下から離れた位置に取り付けられた不自然な扉に向かって歩き出す。
 確か、理事長室にも似たような扉があったな。
 そんなことを思いながら、俺は芳川会長の後を追いかけた。

 空き部屋と呼ばれたそこは、どこにでもあるような質素な部屋だった。一部を除けば。

「……」

 なんでこんなところにベッドが置かれているのだろうか。
 ふと、仮眠室という単語が頭を過る。
 生徒会専用の仮眠室ということなのだろうか。
 ベッドを凝視しながら黙り込む俺に、芳川会長は扉を閉め内側から鍵をかける。

「元々生徒会室は理事長室だったんだ。この部屋は前の理事長が使っていた仮眠室をそのまま使っている」

 俺がベッドの方に目を向けているのに気が付いたのだろう。
「だから、その、あれだ。あまり気にしないでくれ」大雑把な説明をする芳川会長は、気まずそうな顔をした。
 五味の反応といい芳川会長の反応といい、どうやらこの仮眠室は生徒会にとって触れてほしくない部分のようだ。
 鍵を持っていたのが栫井という辺り、なんとなく想像がつく。
 ただの仮眠室というわけではなさそうだ。
 俺としても芳川会長にそれ以上のことを問い詰める気もなかったので、俺は言われた通りに視線を外し、それを目の前の芳川会長に向ける。

「それで、俺でいいなら聞かせてくれないか。なにかあったんだろう」

 そう切り出す芳川会長を前に、思わず俺は怖じ気付きそうになるがここまで来て引き下がることはできないだろうと自分に喝を入れる。

「……わかりました」

 仮眠室に響く自分の声が、なんとなく他人の声のように聞こえた。
 俺は、阿賀松とのやり取りを芳川会長に説明した。
 阿賀松が俺と芳川会長をくっつけようとしている、と。
 ここには俺と芳川会長の二人しかいないとわかっているのに、もしかしたらどこかで阿賀松が見ているんじゃないのかとそんな恐怖にも似た感情が沸き上がってくる。
 勿論、阿賀松にされたことなどは芳川会長には話していない。まず、俺が話せない。
 思い出したくもないし、自分の口からそんなことを言うというのは一種の拷問としか思えない。
 芳川会長はそんな俺をわかってか、俺が省いたところのことを詳しく聞いてくるような真似はしてこなかった。
 芳川会長の気遣いが嬉しい反面、なんとなく申し訳ない気持ちになってしまう。
 大体のことを言い終えたときにはもう、俺は芳川会長の顔を見ることが出来なかった。
 俺とくっ付けられそうになっている、と自分から忠告するのは結構な体力がいる。
 芳川会長に言っていないのは、阿賀松にされたことと栫井のことだ。
 栫井を庇うつもりはサラサラなかったのだが、なんとなく言い出すタイミングが見つからなかった。
 それに、あくまで栫井は芳川会長側の人間だ。
 部外者の俺が生徒会のことに口出ししてもいいのだろうかと、この期に及んでそんな心配を覚える。
 始終難しい顔をして俺の話を聞いていた芳川会長は、なにか考え込んでいるようだ。
 声をかけようか迷ったが、かけるにしろなにを言えばいいのかわからなかったので俺は芳川会長が口を開くのを待つ。

「……じゃあ、阿賀松は俺と君が付き合うのを狙っているということだな」

 顎を指で擦りながら、芳川会長はそう俺に確認をとった。
 最悪、見限られるかと覚悟はしていたが、先ほどと変わらない調子の芳川会長の態度に少し驚く。
「は、はい」実際口にされるとなかなか恥ずかしい。俺は戸惑いながらも、そう頷く。

「なら、俺と付き合うか」

 一瞬、芳川会長がなにを言っているのかがわからなかった。
 涼しい顔してとんでもないことをいう芳川会長に、俺は呆れたように目を丸くさせる。
 付き合うってあれだよな、男と女が友達以上のあれになるあれだよな。
 付き合うという言葉の意味を再確認し、呆然としながら俺は芳川会長に目を向ける。

「なに言って……」

 信じられないといった顔で芳川会長を凝視する俺に、会長はバツが悪そうな顔をした。
「悪い、今のは俺の言葉が足りなかったな」少しだけ恥ずかしそうに咳払いをした芳川会長は続ける。

「あくまで、付き合うフリをするんだ。これが一番早く阿賀松を黙らせれる」
「フ、フリ……?」

 目の前の男の言っている意味がわからず、俺は思わず情けない声を漏らす。
 そんなことしたら、まさに阿賀松の思惑通りじゃないか。
 呆れて言葉も出ない俺に、芳川会長は頷く。

「そうだ。別になにもしなくてもいい。適当に噂を流させればいいんだ」

「新聞のこともあるしな」そう言い足す芳川会長に、俺はつい納得しそうになる。
「でも、それじゃあ……」結果的に芳川会長が恥を見ることになるんじゃないか。
 しどろもどろと言葉を紡ぐ俺に、芳川会長は俺に目を向ける。

「君は俺を好きなように利用すればいい」

 なんでもないように呟く芳川会長に見据えられ、俺はどんな顔をすればいいのかわからなくなった。
 芳川会長と付き合うフリをすることに抵抗を感じないと言えば嘘になるが、阿賀松と付き合わせられている今よりかなりましに感じる。
 男相手に付き合うとか付き合わないとか考えたくはなかったが、その相手が芳川会長ならいいと思う自分がいた。おまけに、あくまでフリだ。お互いに疎遠になるくらいなら、と思うがその俺の判断によって芳川会長が面倒事に巻き込まれるのは嫌だった。
 例え、芳川会長自身が構わないと言おうとも。
 やっぱり芳川会長に負担をかけたくない。そう思った俺は、素直に芳川会長の申し出を断ることにした。

「気持ちは、嬉しいです……けど……」
「齋籐君の言い分もわかるが」

 やっぱり、やめときます。
 そう言いかけて、芳川会長に言葉を遮られる。

「これは君だけの問題じゃないんだ」

 芳川会長の言葉が、嫌にハッキリと耳に残った。
 確かにそうかもしれない。芳川会長と阿賀松の問題だ。そして、あくまで俺は第三者。
 黙り込む俺に、芳川会長は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「無関係の生徒が自分のせいで酷い目に遭うくらいなら、俺はなにされても構わない」

「だから、一人で抱え込まないでくれ」芳川会長はそういって俺の目を見て小さく笑う。
 綺麗事だ。そうはわかっているが、どうやら俺は俺が思っているよりも単純だったようだ。
 芳川会長の言葉が嬉しくて嬉しくて、まるでそう誰かが言ってくれるのを待っていたみたいに肩の荷はビックリするくらい簡単に落ちる。涙腺が弛み、慌てて俺は涙を飲み込んだ。

「ありがとう……ございます」

 芳川会長にこっそり泣いているのがバレるのが嫌で、会長から顔を逸らしながら俺はそう呟く。
 声が変に掠れてしまい、恥ずかしくなって顔を俯かせる俺に芳川会長は可笑しそうに笑った。

 俺は芳川会長と事実上付き合うことになった。
 付き合うというものがなんなのかいまいち理解できない俺だったが、どうやらその心配はないようだ。
 付き合うからといって今までの関係がどうにかなるわけではない。芳川会長はそう言っていた。ようするに、肩書きだ。
 本日付で俺は芳川会長の恋人になるわけだけど、よく考えてみたらなんか普通に付き合うより恥ずかしい。なんでだろう。

「五味たちには事情を説明しておくか」

「あの」話し合いを終え、仮眠室の扉に向かって足を進める芳川会長の言葉に、俺は慌てて芳川会長を呼び止めた。

「栫井には、黙ってた方がいいと……思います」

 驚いたようにこちらに目を向ける芳川会長に、段々語尾が小さくなっていく。
 最初、芳川会長は不思議そうな顔をしていたが昨日のことを思い出したのか顔をしかめた。
「またあいつになにか言われたのか?」眉を潜める芳川会長に、慌てて俺は首を横に振る。

「ち、違います。けど、その……栫井と阿賀松先輩ってよく一緒にいるのを見かけるんで」

 なるべくオブラートに包んで言ったつもりだったが、あまり効果はなかったようだ。
 内部告発、になるのだろうかこの場合。いや、逆か。そんなくだらないことを考えながら、俺は恐る恐る芳川会長に目を向ける。

「……そうか。わかった」

 一瞬あり得ないと言いたそうな顔をした芳川会長だったが、ただそう頷いて見せた。
 芳川会長が俺の言葉を事実と受け取るかどうかはわからなかったが、一応は俺の言葉を了承してくれたようだ。
 一先ず、これで大丈夫だろう。言いたいことは全て言った。後は野となれ山となれだ。
 なんて無責任なことを思いながら、俺は扉を開く芳川会長とともに仮眠室を後にする。

 ◆ ◆ ◆

「と、言うわけで齋籐君は俺の恋人になった」

 仮眠室から出た芳川会長は、ソファーでだらだらと寛いでいた生徒会の面々にそう静かに告げた。
 コーヒーの注がれたカップに口をつけていた五味が、激しく噎せ返る。
 十勝は話を聞いていなかったようで「五味さんやべー」と笑いだし、灘は咳込む五味の背中を擦った。
 栫井は、ただなにも言わずに芳川会長の背後にいた俺に目を向ける。目が合い、俺は視線を逸らした。

「ゲホッ……なに言ってるんすか、会長」

 呆れたような顔をする五味に、芳川会長は「お前らには先に伝えとこうと思ってな」と続ける。
 他にももう少しましな伝え方があったんじゃないかと思ったが、敢えて俺は黙ることにした。

「櫻田とのことがショックなのはわかるけど、齋籐はどう見ても男じゃ……」
「俺が誰を好きになろうと関係ないだろう。なんだ、お前は祝ってくれないのか。五味」

 素面でそんなことを言い出す芳川会長に、五味は呆れて言葉も出ない様子だった。
「いや、えーと、その」冷や汗を滲ませ目を泳がせる五味。

「え?なに?芳川会長やっと彼女できたの?」
「ああ、俺の恋人の齋籐君だ。仲良くしてやってくれ」
「あれ?佑樹?え?佑樹女だったの?」

 まだ話が飲み込めていない十勝は、言いながら俺の腕を掴む芳川会長にますます混乱する。
 無理もない。彼女の話をして男を紹介されたら誰だって呆れるだろう。という俺も芳川会長の言動に驚いていた。
 なんか思ったより大事になっているようだが、本当に後から事情を説明するのだろうか。いや、してくれないと困る。
 相変わらずのポーカーフェイスな約二名は芳川会長の言葉にも大して反応を見せなかった。
 流石、というよりも俺たちの狙いが見透かされているようでなんとなく不気味に感じる。
 これからどうなるかなんて考えてもいなかった。ただ生徒会と縁を切らずに済んだのは、俺にとっては思いもよらないことだった。

 五月上旬、俺は芳川会長と手を組んだ。

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