天国か地獄


 05

「これ、美味しそうだな」
「そうですね」
「あ、苺……」
「好きなんですか?」
「ああ。よく、似合わないって言われるんだけどな」

 大皿を片手に、俺と芳川会長はケーキを見て回っていた。誰がとは言わなかったが、恐らく十勝辺りだろう。

「俺も、芳川会長が甘いもの好きって知ったときビックリしました」

 言ってから、結構自分が失礼なことを言っていることに気付いた。
 芳川会長は小さく肩を竦め、「そんなに可笑しいか?」と小さく笑う。

「す、すみません……」
「謝る暇があるならケーキを取れ。せっかくのバイキングなんだから」

 しゅんと縮み込む俺に、芳川会長はトングを手渡ししてくる。会長なりに気を遣ってくれているのかもしれない。
「……ありがとうございます」俺はトングを受け取り、芳川会長の方を見た。

「なんでお礼を言うんだ」

 芳川会長は照れ臭そうに俺から顔を逸らせば、近くにあった別のトングを手に取る。
「なんでもないです」俺は適当にケーキをトングで掴みながら、皿の上に乗せた。
 芳川会長と来てよかった。少しだけ、疲れが取れたような気がした。そんなことを考えていると、ふと背後から強い視線を感じる。

「……」

 まただ。寮の部屋から出たときと似たような視線に、俺は思わず振り返る。しかし、なにもない。あるのは、ケーキが並ぶショーウィンドウぐらいだ。
 自意識過剰なのだろうか。なんだか気味が悪くなり、俺は芳川会長の側から離れないように心掛ける。
 一通り店内を回った俺たちは、ケーキの乗った大皿を片手に空いた席に腰を下ろした。

「そのチーズケーキ美味しそうだな」
「いりますか?」
「いや、後から自分で取りに行くよ」

 そんな他愛ないやり取りを交わしながら、俺はケーキを口に運ぶ。口の中に広がる生クリームの味に、俺はテンションを上げた。

「美味しいか?」

 芳川会長はケーキを食べている俺を眺めながら聞いてくる。俺は口の中のケーキを飲み込み、何度も頷いた。「それはよかった」と芳川会長は嬉しそうに目を細めれば、口許を綻ばせる。

「会長は、食べないんですか?」
「もちろん食べるよ。齋籐君の美味しそうに食べている姿を見ていたら、こっちまで腹が減ってきたからな」

 そういうと、芳川会長はフォークを手に取る。
 俺、そんなにがっついていたのだろうか。美味しそうに食べていると言われ、俺は頭上にクエスチョンマークを浮かべた。

「……あ、齋籐君」
「?なんですか?」
「こっちを向いてくれ」

 芳川会長に言われ、俺は言われた通りに会長の方を見た。すると、すっと芳川会長の指が伸びてくる。

「クリーム、ついてる」

 口許に伸びてきた芳川会長の指先が、それを拭った。いきなり顔を触られ、びっくりした俺は目を丸くする。会長の行動に驚く俺に、芳川会長はハッとする。

「す、すまない……。つい」
「あ、いや、大丈夫です」

 なんだか子供みたいな自分に情けなくなって、顔が熱くなる。
 俺はテーブルに備え付けられていた紙ナプキンを手に取れば、慌てて口許を拭った。
 その時だった。ショーウィンドウの方からガシャンと何かが落ちたような音がした。

「うわっ、やべっ!」

 何事かとショーウィンドウの方に目を向けた俺は、思わず顔を強張らせる。
 聞き覚えのある声に、見覚えのある人物。床には一枚の取り皿がひっくり返っていた。俺に続いてショーウィンドウに目を向けた芳川会長は、眉を潜める。

「バカ、なにやってんだ十勝!」

 ショーウィンドウの影から現れたスキンヘッドの男。
「だってこれなんかツルツル滑るんだもん」十勝はそんなことを言いながら、やってくる店員を避ける。
 よくみると、ショーウィンドウの影には隠れ切れていないパーマ頭もいた。店内の柱の影には、生徒会会計がこちらをじっと見ている。目があって、俺は慌てて顔を逸らした。というより、なんでこんなところで生徒会全員揃っているんだ。

「……っ」

 さっきまで穏やかだった芳川会長の顔が、みるみるうちに険しくなっていく。
「か、会長……」俺は宥めるように、芳川会長を呼んだ。

「いや……少し、驚いただけだ」

「大丈夫だから」芳川会長は自分に言い聞かせるように呟く。
 眉間の皺が更に刻まれ、とても大丈夫には見えなかったが怖かったので俺はそれ以上なにも聞かないことにした。
 どうやら、(灘を除く)十勝たちは俺たちに気付いていないようだ。

「さっさと隠れろ、バレるぞ」
「わーってるって!ほら五味さん退いて!」

 言いながら、五味と十勝はショーウィンドウの物陰に隠れる。といっても全員頭がはみ出していて、隠れ切れていない。
 ……もしかして俺たちのことを監視しているのか?だとしたら、寮からずっと感じていた視線はもしかして生徒会のだったりするのだろうか。思いながら、俺はケーキを口に入れる。食べたような気がしない。

「……すまない。少し、席を外させてもらう」

 生徒会役員の視線に耐えきれなくなったのか、芳川会長は申し訳なさそうにそう言うと椅子から立ち上がる。

「……わ、わかりました」

 なにも言えなくて、俺は黙って芳川会長を見送ることにした。
 芳川会長はそのままショーウィンドウまで歩いていくと、五味の肩を掴み、そのまま店の便所まで強引に連れていく。
 渋っていた十勝と栫井だったが、「お前らも来い」と芳川会長に怒鳴られ便所に入っていった。柱に目をやると、灘がまだじっとこちらを見ている。俺は慌てて顔を逸らした。

 ◆ ◆ ◆

「その……こいつらも一緒でいいか?」

 便所から出てきた芳川会長は、気まずそうな顔をしてそう俺に聞いてきた。
 芳川会長の後ろにはバツが悪そうに各々違う方角を眺める生徒会役員が並んでいる。いつの間にかに灘が混ざっていて心底びっくりした。
 妙な迫力に気圧されながら、俺は「別に構いませんけど……」と芳川会長に答える。

「本当にすまない」
「いや、賑やかな方がいいですし。気にしないでください」

 遠回しに二人きりは嫌だと言っているみたいで、ハッと俺は冷や汗を滲ませた。
「……ありがとう」芳川会長はほっとしたように、強張らせていた頬を緩める。よかった。気にしていないようだ。

「だよな、流石佑樹!話わかってんな!」
「え、あ、うん」

 さっそく気を持ち直した十勝は俺に絡んでくる。十勝に戸惑う俺。

「取り敢えず、席を移動しよう。流石にここじゃ邪魔になる」

 芳川会長は十勝の首根っこを掴みながら、小さく咳払いをする。
 確かに、俺と芳川会長が座っていたのは二人用の席だ。芳川会長の言葉に、『それもそうだな』と俺は頷く。
 俺はテーブルの上の取り皿を手に、生徒会役員に混じって店内の奥にある席に向かった。

「五味さんあれうまそー。あれとって」
「自分で取れよ」
「えーケチー。和真!」
「……」
「きゃー、さすが和真!ちょう優しい!イケメン!」
「……」

 ショーウィンドウの前できゃっきゃっはしゃいでいる生徒会書記と副会長、会計。
 只でさえ男性客が少ないので浮いているというのに、ハイテンションな一名のおかげで注目の的になっている。そんな光景を席から眺めながら、俺は取り皿のケーキを一口口に含んだ。

「栫井。お前はいいのか?」

 向かい側に座っている芳川会長が、俺の隣に座る栫井に視線を向けた。
「食べたくて来たんじゃないのか」先程からテーブルの上に置かれた冷水をグラスで飲んでいる栫井に、芳川会長は不思議そうな顔をする。どうやら、芳川会長は自分たちがケーキを食べに行くのを聞いて栫井がついてきたと思っているようだ。

「……俺、甘いものは嫌いなんで」

 栫井は視線を芳川会長の方に向ければ、そう呟く。
 だったらなんでこんなところに来ているんだ。すかさず突っ込みそうになるのをぐっと堪え、俺は二人の会話に耳を澄ます。

「苦いのも探せばあるんじゃないのか?」

「俺、わかんないんで会長に任せてもいいっすか」

 そう提案する芳川会長に、栫井は興味無さそうに続ける。
 栫井の言葉が予想外だったのか、会長は少しだけ驚いたような顔をした。

「俺が?なんでも取ってきてもいいのか?」

 言いながら、芳川会長は椅子から腰を浮かせる。
「お願いします」栫井はこくりと小さく頷けば、芳川会長は「期待するなよ」と小さく笑いながら五味たちのいるショーウィンドウに向かって歩き出した。
 どういうつもりなんだ。テーブルに残された俺は、隣の栫井をちらちらと伺いながら冷水が入ったグラスを手にとる。
 随分ほっといたせいか、グラスには無数の雫が滲んでいて指先が濡れた。
「……」俺は気を紛らすようにグラスに口をつけ、喉に水を流し込む。中を飲み干した、俺はグラスをテーブルの上に置いた。

「……それ、美味しい?」

 ふと、栫井に話し掛ける。また言いがかりでもつけられるかと思い、俺は少し栫井から離れた。それ、とは取り皿に乗ったケーキのことを言っているらしい。
「美味しいけど……」なんでそんなことを聞かれるのかがわからなくて、俺は語尾を濁す。

「いま、嫌いって言わなかったっけ」
「言ったけど」

 ふと気になったので指摘してみると、栫井はしれっとした顔でそう呟く。
「……」嫌いなもののことをわざわざ聞く神経がわからなかった。もしかすると自分の視野が狭いだけかもしれない。どちらにせよ、俺には栫井が理解できないのは変わらない事実なのだが。

「嫌いなら、無理して来なくてもよかったんじゃないの」

 とくに意識してなかったが、少しだけ嫌味っぽくなってしまった。
 栫井は俺の横顔に視線を向ける。その無表情からは怒っているのかも笑っているのかも読み取ることができないから、怖い。
 気まずくなって、俺はフォークを手に取りケーキをもう一口口に入れた。

「どうして俺がここまでついて来たと思う?」

 栫井は、頬杖をつきながらそんなことを聞いてきた。俺は口の中のケーキを飲み込むと、栫井に目を向ける。いきなりそんなこと聞かれて、少しだけ考え込んだ。

「……わからない」
「だろうな」

 即答する栫井に、俺はむっと眉を寄せた。
「お前、頭悪そうだし」栫井はそう呟くと、椅子から立ち上がる。
 なんて失礼なやつなんだ。俺はむって顔をしかめる。

「お前も立てよ」

 そう命令する栫井に腕を掴まれ、無理矢理立たされそうになった。突拍子のない栫井の行動に、俺は戸惑う。

「……なんで」
「いいから」

 訝しげに栫井を見上げる。栫井は相変わらずの無表情を張り付け、俺の腕を掴んだ。
 あまりにも強引な栫井に、俺は眉を潜める。

「離せよ……っ」

 思わず声を荒げてしまい、近くの席の女性客が心配そうにこちらに目を向けた。
 場所が場所なだけに、あまり騒ぐような真似はしたくない。渋々俺は栫井に言われたように席を立った。

「……」

 栫井はそのままなにも言わずに、出入口の方へ俺を引っ張り歩く。
「どこに行くんだよ」テーブルの上にぽつんと残された取り皿を振り返りながら、焦ったように俺は栫井の腕を掴み立ち止まった。

「店を出る」
「は?なんで……」

 本当に意味がわからない。俺は呆れたように、栫井を見た。
 栫井は、俺から視線を離し店内に目を向ける。つられて栫井の視線の先に目を向けると、取り皿を手に持った芳川会長が驚いたように栫井を見ていた。

「どうしたんだ?どっか行くのか」
「齋籐が眠たそうだったんで、先に送ってきます」

 問い掛けてくる芳川会長に、栫井はさらりとでたらめを口にした。慌てて栫井の言葉を否定しようと口を開けば、栫井に腕を強く掴まれ思わず俺は舌を噛んでしまう。

「ああ、わかった。気を付けて帰るんだぞ」

 どこか名残惜しそうに笑う芳川会長に、栫井は小さく頷いた。
 レジで会計を済ませた栫井に連れられ、俺は店の外にまで連れ出される。
 なんなんだよ、もう。俺に帰ってほしいんだったら、そうと直接言ってくれればいいのに。
 店の外に出ても俺の腕を離そうとしない栫井に、俺は不満を募らせる。

「……腕、痛いんだけど」
「……」

 栫井に引きずられるようにして歩く俺は、思いきって栫井に声をかけた。
 しかし、なにも返ってこない。ここまで連れ出しておいて、シカトはないだろう。栫井は俺を空気かなにかとでも思っているのか。
 なのに、腕はしっかり掴んでいる。どっかに向かって進む足も止まらない。

「……か、栫井っ」

 段々不安になってきて、俺は栫井の名前を呼んだ。睨まれた。
 ようやく俺の声に反応した栫井は、無表情のまま横目で俺を見る。

「痛いから、腕……離してください」

 俺は栫井から目を逸らしながら、語尾を小さくした。栫井に睨まれ、つい俺は敬語になってしまう。
「無理」栫井はそう呟くと、また俺から目を離した。

 駅前通り。
 行き交う人に混じって、俺たちは歩いていた。

「別に、どこも行かないから。痛いんだって、腕」
「……」

 自分でもわかるくらい情けない声が出る。少しだけ栫井の掴む力が緩んだような気がしたが、やはり腕を掴む手は離れなかった。

「本当にどこにも行かない?」

 歩きながら、栫井に聞かれた。そう言われると、少しだけ口ごもってしまう。
 別に嘘を言ったつもりもないが、絶対になにがあっても命をかけてどこにも行かないと言い切れる自信はなかった。

「……ま、まあ」

 でも、ここで引いてしまえばずっと引き摺り回されそうだし。
 俺は少し躊躇しながら、小さく頷いた。栫井がこちらを向く。つい体に力がこもり、歩き方がぎこちなくなった。

「わかった」

 そう言うと、栫井は俺から腕を離す。いきなり引っ張ってくれるものがなくなって、つい俺はよろけそうになった。
 意外と素直なのだろうか。それとも、俺の言葉がそんなに重要だったのか。

「……」

 強く掴まれていたせいか、腕に違和感があった。俺は軽く肩を回す。
 急に店から連れ出したと思えば、いきなりおとなしくなる。まったく栫井がどういうつもりかわからなくて、俺は隣に並ぶ栫井の横顔をまじまじと眺めた。

「……んだよ」

 また睨まれ、俺は視線を逸らした。
「な、なんでもない」と慌てて俺は首を横に振る。
 なんだか、妙な気分だった。自分が栫井と並んで歩いているのが不思議で堪らない。
 くだらないことを考えながら栫井の隣を歩いていると、ふと栫井が足を止めた。横断歩道だ。つられて俺も足を止め、信号機の色が変わるのを待とうとして──背後から肩を強く掴まれる。

「送り届け、ごくろーさん。副会長」

 一瞬、心臓が止まりそうになった。
 背後から阿賀松の声がして、栫井が俺の背後に目を向けた。

「自分の恋人の面倒ぐらいちゃんと見たらどうだ」

 栫井は阿賀松に白い目を向けながら、淡々と話す。
 なんで阿賀松が。ってか、なんで栫井。全身から嫌な汗が吹き出し、思考が混乱してきた。
「余計なお世話だっつの」阿賀松は舌打ち混じりに吐き捨てれば、そのまま俺の肩を押し歩道の端に寄る。目の前に、青い自動車が停められた。

「乗れよ」

 耳元で低く囁かれ、全身の血の気が引いていく。
 阿賀松は後部座席のドアを開けば、俺の背中を押し無理矢理後部座席に押し込めた。

「お前もさっさと消えれば?」

「余計なお世話だ」歩道に立つ栫井は、阿賀松にそう言い返すとそのまま通ってきた道を戻っていく。
 なにがなんだかわからなくて、シートに顔を埋めていた俺は慌てて起き上がろうとして頭部を天井にぶつけた。芳香剤の臭いがキツい。

「ああ、俺の車あんま上高くないから気を付けてね。もう遅かったみたいだけど」

 運転席から聞き覚えのある声がした。運転席に座る縁は、ミラー越しに後部座席の俺を笑いながらそんなことを言う。

「もっと詰めろよ。俺がはいんねーだろ」

 言いながら、阿賀松は後部座席に乗り込んできた。阿賀松に言われ、俺は慌てて席を詰める。
 なんでこんな状況になっているんだ。言いたいことや聞きたいことはたくさんあったが、それを口に出せるような空気ではないことくらい俺だって理解できる。阿賀松がドアを閉じると、それを合図に車が動き出した。

「……」
「……」

 今ほど、沈黙を恐ろしく思ったことはないかもしれない。ソファの隅に寄った俺は、隣からの無言の圧力に生きた心地がしなかった。
 ふと、阿賀松が足を動かす。そんな微かな動作に、俺はビクリと体を強張らせた。

「なんでそんな隅っこにいんの?もっとこっち来いよ」

 唐突な阿賀松の言葉に、俺は伺うように阿賀松の方に目を向ける。
 もしかして、怒っていないのだろうか。薄暗い車内ではよく阿賀松の顔は見えなかったが、その声に怒気は含まれていないように感じる。
 下手に反抗して文句言われるのが嫌だったので、俺は素直に阿賀松の方に寄った。といっても、ほんの数センチなのだが。

「お前、俺に何回も同じことを言わせるつもりかよ」

 阿賀松は、イラついたように吐き捨てる。言われて、どこまで近付けばいいのかわからなかった俺は阿賀松の隣に移動した。

「俺さ、すっげーいい事思い付いたんだよね」

 俺を隣に呼んだ阿賀松は、俺の太股の上に手を置いた。あまりにも自然な動作に、俺はギョッとして阿賀松の方を見る。阿賀松の見下すような視線に、俺はすぐに目を逸らした。
 嫌な予感しかしない。自然と体が強張り、落ち着きがなくなる。

「お前、会長と付き合えよ」

 ……は?
 阿賀松の言っている意味がわからなくて、俺は阿賀松に顔を向ける。いつも以上に突拍子のない阿賀松に、俺は思わず絶句した。
 付き合うってなにに。というか、付き合うってなんだ。ただでさえこんがらがっていた思考回路がゲシュタルト崩壊する。

「持ち上げて落とすんだよ。面白そうだろ?」

 可笑しそうに笑いながら、阿賀松はそう続けた。
 そんなこと、出来るわけないだろ。というより、芳川会長が男の俺を相手にするはずがない。
 阿賀松にそう言ってやりたかったが、あまりにもとんでもない提案をする阿賀松に絶句して言葉もでなかった。
「どこのヤクザだよ」俺たちの会話を聞いていた運転席の縁は、呆れたような顔をする。
「バーカ、基本だろ」阿賀松は笑いながら縁に答えた。
 もしかして、そんなことを思い付いたから俺の行動にも怒らなかったのだろうか。そう考えると、妙に機嫌がいい阿賀松の様子も頷けた。

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