天国か地獄


 48

 ほんの一瞬、歪む裕斗の顔が傷付いたように見えるのは錯覚なのか。それとも。

「……齋藤」
「ご、めんな……さい……」

 ごめんなさい、と謝ることしかできなかった。自分勝手なのも、裕斗に対して失礼なことをしてるという自覚もあった。それでも、俺はそれを受け入れることはできなかった。どうしても、それだけは。

「……もういい、謝るな」

「お前は、そうだよな、そう言うよな。わかってたんだけど、悪い、お前をそんな風に困らせて」振り払おうとした手ごと掴まれ、抱き締められる。泣きたくなるほど暖かくて、それでいてちょっとやそっとじゃ振り払えないほど力は強い。

「俺はそれくらいでお前のことを見捨てるつもりもない。だから、そんな顔をするな」
「っ、ゆ、……と……せんぱ……っ」

 ぽんぽんと背中を撫でられ、触れられた箇所がじわりと熱くなる。

「今日は疲れただろ?ゆっくり休め」

 そう言って、裕斗はそっと俺から手を離した。
 そのままベッドから立ち上がる裕斗に、どこへ行くのかと、釣られて起き上がろうとしたとき、こちらを振り返った裕斗は笑った。

「飲み物取ってくるだけだ、すぐ戻る」

 ……なんで、この人は。
 あんなに突き放しても、振り回しても、側にいてくれるんだ。苦しくて、罪悪感でどうにかなってしまいそうな反面その優しさに触れて自分の醜さが余計浮き彫りになっていくようで恐ろしかった。

 その日は裕斗に言われるがまま休むことになる。
 あんだけ恐怖で引き攣っていた全身もいつの間にかに解れてきて、気付けばあっという間に夢の中に沈むのだ。

 翌朝。
 ヒヤリとした早朝独特の寒気に目を覚ませば、やけにベッドが広いことに気づいた。
 確か、裕斗の部屋に戻ってきて……それから、一緒にベッドに入ったはずだったのに。
 鉛のように思い体を起こし、裕斗の姿を探したとき……すぐに見つけることができた。
 ソファーの上、布団もかけずに手足を放り出すように眠る裕斗を見つけてハッとする。

 もしかして、気を遣わせてしまったのだろう。寒いに違いない。布団だけでも掛けようとベッドから布団を引っ張ってきた俺は、なるべく起こさないようにそっと裕斗にそれを掛けようとして、伸びてきた手に手首を掴まれる。

「っ、……!」
「んぁ?……齋藤か」

 どうやら起こしてしまったらしい。
 おはよ、と、寝惚けたような顔のまま笑いかけてくる裕斗に内心ドキドキしながら「おはようございます」と慌てて挨拶する。すぐ離れるのかと思いきや、握られた手は離さないまま、片方の手が俺の顔に触れる。
 横髪を掻き上げられ、さらりと落ちる髪に、掠める指先に息を飲む。

「……傷は、大分目立たなくなってるな」
「……っ、す、みませんでした……昨日は……」

 まだ、焼かれたそこは痺れるような痛みがあるが多少昨夜よりは話しやすい。
 おまけに、昨日は子供みたいに取り乱してしまった。恥ずかしくなって、改めて謝罪をすればこちらをじっと見つめていた裕斗がぽつりとなにかを口にする。

「……寝癖」
「っ、え……?」

 なんですか、と聞き返そうとしたとき、裕斗は破顔し、そして恐る恐る震える指先で俺の頭部を指さした。

「っぷ、はは、すげ……ぴょこんってなってるぞ、頭のてっぺん」
「っ、ぅ、え」
「……く、クク……いいじゃん、すげー可愛い」

 寝癖。言われて、裕斗の視線が向いたそこを押さえれば確かに手のひらになにやら当たる感触があった。
 相変わらず笑ってる裕斗に、段々恥ずかしくなってくる。こんな頭で謝っていたとなると、余計。

「す、すみません……直してきます……っ」
「あ、おい……別にそのままでいいのに」

 そんなことを言う裕斗から逃げるように洗面所へと移動した俺は鏡を見て、確かに威勢よく跳ねる寝癖を見て血の気が引いた。
 慌てて寝癖を直し、ついでに顔を洗って、そして再び鏡に目を覗き込んだ俺は昨夜阿賀松に殴られた顔を改めて見た。……確かに裕斗が言うように腫れはない、一晩中氷嚢で冷やしたお陰だろうか。
 恐る恐る口を開いた俺は、喉奥へ窄まっていた舌を出した。本当なら見たくもなかったが、どうなっているのか確認しなければ罪悪今後支障が出そうで怖かったのだ。
 けれど、予想していたよりかは実際は目立つ傷にはならなかった。……いや、これはこれで目立つのかもしれないが、舌の中央、一部の粘膜が焦げたように色が濃くなっているだけで済んだのが奇跡なのかもしれない。なんて、舌の傷を見ていたとき。

「寝癖、直ったか?」

 洗面所の扉が開き、いきなり裕斗が入ってきた。驚いて、慌てて舌を仕舞った俺は鏡から顔を離す。

「は……はい……っ」
「勿体無いな、せっかく綺麗に跳ねてたのに」

 どうしてここに、と思うよりも先に、近付いてきた裕斗に頭を撫でられる。近い、というよりも、こうして並ぶだけでも緊張してしまう。
 顔を合わせづらい状況だから尚更だ。
 もしかして、裕斗も使うつもりなのだろうか。だとしたら、申し訳ない。

「ぁ、の、……すみません、俺、邪魔……ですよね、すぐに出るんで……」
「なんで?」
「なんでって、二人は……流石に、狭いかと……」
「別に?俺は気にしねえけど」

 ……この人の場合、俺への気遣いとかではなく本当にそう思ってそうだ。
 兄弟いると気にしないのだろうか、けれど本人がこう言ってるのにさっさと出ていくのも失礼なような気がして、結局俺は裕斗と並んで朝の支度をすることになる。

 勿論、態度には出さないようにと思うが裕斗が隣にいるというだけでそわそわして落ち着かなかった。
 裕斗が、あんなこと言ったのにまだ優しくしてくれるからだ。だから、どうしていいのかわからなくなる。
 そして、そんな裕斗に少なからず安堵してしまってる自分自身すらも理解できずただ困惑した。

 洗面所を一緒に出れば、裕斗は冷蔵庫へと向かう。

「ふぁ……腹減ったな。齋藤もろくなの食ってねーもんな、減っただろ?」
「俺は、別に……」

 大丈夫です、と言い掛けて、きゅるるると情けない音が俺の腹部から鳴る。動きを止める裕斗。それが聞こえてしまったのだと理解した瞬間、顔が焼けるように熱くなった。

「す、すみません……っ」
「はは、そんなに照れるなって。どうせ俺しか聞いてないんだし。生きてる証拠だろ」

 そうニッと笑う裕斗のフォローに、ますます俺は居たたまれなくなってしまう。痩せ我慢までバレてしまい、益々面目ない。

「……うーん、なんか軽く食えるもんあったかな……あ、カップ麺ならあるぞ」
「だ、大丈夫です、すみません……」
「そうか?遠慮しなくていいのに。……あ、そうだ。齋藤は嫌いな果物はあるか?」
「い、いえ……特には……」
「なら余ってるリンゴあるから剥いてやるよ。待ってろ」
「え、でも、そんな」
「俺の友達が退院祝は取り敢えず果物ってやつらばかりでさ、会う度渡してくるんだよ」

「俺一人じゃ食いきれねえから手伝ってくれないか?」そう、フルーツバスケットを見せてくる裕斗。確かに、たくさんの果物が余っているようだった。
 それでも、俺に気遣わせまいとしてる裕斗の心遣いがわかり、それを無碍にすることは流石にできなかった。

「……ありがとう、ございます」
「なら座って待ってろよ、俺が可愛いウサギさんを見せてやるからな」

 そう、妙に上機嫌になった裕斗はバスケットを片手に簡易キッチンへと向かう。
 そこで包丁を取り出しなにやら洗ったり皮を剥き始める裕斗だが、時折「いって!」という悲鳴が聞こえてきては内心冷や汗が滲んだ。

「あ、あの、やっぱり俺……なにか手伝い……」
「いいからいいから、お前はそこで座って待っとくんだよ。あ、冷蔵庫のジュース好きに飲んでくれていいからな」
「は、はい……すみません……」

 本当に大丈夫なのだろうか……。
 俺も大概器用な方ではないが、それでも俺からしてもハラハラする裕斗の手付きを遠くから眺めながら俺は裕斗を待つことにした。
 そして、数分後。
 ぼろっ……という効果音が似合いそうな、歪な形のウサギが目の前のテーブルにそっと置かれる。

「す、すごく……可愛いウサギですね」
「だろ?亮太はこのウサギじゃないと嫌がるからな、よく練習してたんだよ」

「けど、やっぱ難しいな」と笑いながら裕斗は向かい側の椅子に腰を降ろす。
 志摩の名前を出され、俺は目の前のこの人が志摩のお兄さんだということを改めて思い出す。チクリと胸が痛んだが、もう今の俺にはそれが誰に対する罪悪感なのかすらわからない。

「ほら、食べろよ」
「は、はい……いただきます」

 用意されたフォークでリンゴのウサギをつつき、一齧り。しゃり、という音とともに口の中に広がる甘酸っぱいリンゴの味。

「美味いか?」

 尋ねてくる裕斗に数回頷き返せば、裕斗は「そうか、ならよかった」と微笑んだ。
 その笑顔に、ぎゅっと胸が苦しくなる。まただ、裕斗に優しくされる度に息苦しくなるのだ。

「俺も食おっと。……ん、甘いなーこのリンゴ」

 素手でリンゴを摘んだ裕斗は、それを一口で食す。
 俺は数回咀嚼しないと一匹も食べれないのでその豪快な食べっぷりに驚いたが、裕斗は気にしていない様子だ。

 そんなこんなで裕斗と一緒にリンゴのウサギをつつく。結構な量あったはずだが、あっという間になくなってしまった。あまりにももたもた食べる俺に「いらないのか?なら俺が食うぞ」という裕斗に譲ったからだ。正直、裕斗の食べっぷり見てるとそれだけでお腹がいっぱいになる。

 そして食後。

「……はあ、でもやっぱり腹の足しになんねえな。後でなんか一緒に食いに行くか」

 お手製のミックスジュースを飲みながら裕斗はそんなことを言い出す。突然の誘いに俺は素直に驚いた。

「い、いいん……ですか?」
「んあ?なにが?」
「外に……出て……」

 口にしながらも、自分が変なこと言ってる自覚はあった。
 それでも、裕斗の方から寮内とは言えど外出を促すなんて思ってもいなかったからこそ余計動揺した。
 そんな俺に、裕斗は俺が言わんとしてることに気づいたらしい。「ああ」と、頷いた。

「あんまよくねーんだけど、ここに居てばっかじゃお前もつまんねえだろ。それに、俺も一緒にいるし」
「……っ、……」
「まあ、齋藤がやだってんなら別に俺は持ってこさせてもいいんだけど種類限られるからなー」

 そう、備え付けのタブレットを開き、デリバリーメニューを確認しだす裕斗。
 俺は、言葉を失った。……芳川会長だったら、絶対に許さないだろう。俺が部屋から出ることを。
 現に食事は全部外部から用意させていたし、そして部屋から一歩も出ることを許さなかった。
 ……けれど、裕斗は。

「……齋藤?え、なに、どうした?」
「いえ、その……なんでもないです……」

 ……比べちゃ駄目だ、駄目なのに。
 俺が芳川会長に望んでいたこと全部、この人はやってみせるのだ。
 怖い、裕斗が。裕斗といると、自分を見失いそうになる。そもそも、その見失いそうになっている自分が本物の自分なのかということすらもわからなくて。

「齋藤、大丈夫そうか?」

 不意に声をかけられ、慌てて顔を上げる。
 裕斗とともに食堂で食事を取ると決めて部屋を出たものの、まだ地に足がついた感覚がなかった。
 まるで、夢でも見てるかのような上の空、こんな調子じゃだめだ、そう気を引き締め、頷き返す。

「っ、は……はい……」
「無理そうなら言えよ。……この時間帯ならまだ人は少ないと思うけどな」
「……わかりました」

 どこまでも、優しい。その優しさが余計辛くなる。食堂まで並んで歩いていく中、確かにすれ違う生徒は少ない。
 それでもやはり、裕斗はよく目を引いた。……恐らく俺がいるから余計悪目立ちしてるのかもしれないが、こうしてみると本当に自分が醜さが浮き彫りになって嫌だった。
 不意に、裕斗が「ん?」と立ち止まる。何事かと思えば、どうやらメッセージを受信したらしい。
 携帯端末を取り出した裕斗はそれに目を向け、返事するわけでもなくすぐに仕舞った。

「……志木村のやつ、今朝は顔出せないってよ。なんか十勝君のところに顔出してから来るって」

 ……志木村。正直、志木村に会うのは怖かった。
 裕斗の後を着けて部屋を出たこと、志木村はやはり裕斗に言うつもりはないらしい。裕斗もそのことについて触れてこないし、恐らく志木村は裕斗には自分が勝手に俺を連れ回したという体で話しつけてるのだろう。
 ……志木村が何を考えてるのかわからなくて、怖かった。
 それに、十勝のことも心配だ。……志木村は得体は知れないが、それでも芳川会長や阿賀松のような真似をすることはないだろうと思う。強引だし、食えない相手であるがあくまで暴力を奮うような人間ではない。それは、俺が知っている。

「その、今日は……会議はあるんですか……?」

 なんとなく、どう返事したらいいのか分からなくて、俺は咄嗟に話題を変えようとする。
 裕斗は「ああ、それな」と思い出したように頷く。

「今日はなんもねえよ。昨日は十勝君のこともあってそれどころじゃなかったし、もう一回洗い出せってところ」

 裕斗は嫌な顔一つせず応えてくれる。
 やっぱり、そうだったのか。昨日の会議がどうなったのか、結局俺はその場にいなかったからわからないが、相当な騒ぎになったのは想像つく。
 となるとだ、気になることはもう一つあった。
 でも、これを裕斗に聞いていいのか……正直、戸惑った。ちらりと裕斗を見上げれば、目が合う。どうした?と優しい声で聞き返されれば、聞いてもいいだろうか……という気持ちになってしまうのだ。
 ……でも、これは、抱いてもおかしくない疑問だ。勇気を振り絞って、「あの」と口を開いた。

「……あ、その、縁先輩は……」

 どうなったんですか、という声は消え入る。
 十勝を保護したという話は聞いたが、縁に関してのその後のことは何も聞いていない。けれど、裕斗と縁はあまり良好な仲ではないと知ってる今、口には出し難い話題だった。
 しかし、裕斗の反応は俺の想像とは全然違っていた。

「そうだな、方人なら、今こっちでも探してる。伊織のところにも顔出してねえみたいだし、亮太も知らねーっていうし。……まあ、あいつの神出鬼没は今に始まったことじゃないけどな」

 ……裕斗は普通に答えてくれる。まるで友人の話をしてるかのように、当たり前のように答えてくれるのだから俺は拍子抜けした。……無理してる、というわけでもなさそうだ。元々後に引きずるタイプではないというのか、それでも縁の方はそんな感じではなかったが……。
 けれど、質問に答えてくれるだけでも有り難い。もしかしたら裕斗なら、と、俺は勇気を振り絞ってもう一つ……最も気になっていたことを尋ねることにした。

「……芳川、会長は……」

 そう、恐る恐るその名前を口にしたとき、ほんの一瞬、裕斗の目が僅かにだが開いた。しまった、やっぱり聞くべきではなかったか、と後悔したが、もう遅い。

「……やっぱり気になるのか?」

 ……僅かに声のトーンが落ちていることに気付いたが、怒ってるわけではなさそうだ。寧ろ、どこか心配するような目だった。
 咎められるのを承知で頷き返せば、裕斗の手のひらに優しく頭を撫でられる。そっと、髪に指を絡めるように触れるのだ。

「……っ、ぁ……の……」
「心配しなくても、あいつなら元気だよ。そりゃもうピンピンしてるぞ」
「……」
「……ってのは、ちょっと嘘吐いたわ。俺はあいつに会ってねーよ。……それどころじゃなかったし、多分、あいつも俺と会いたくねーだろうとし」

 そう、離れる手のひらを視線で追う。
 裕斗は少しだけ困ったように笑っていた。その笑顔に、俺は自分の失言に気付き、慌てて謝る。

「っ、すみません、俺……」
「ん?それは何に対しての謝罪だ?」
「……無神経なこと、言ってしまって……」
「無神経か?別に俺は気にしないがな。
 ……ま、知憲なら嫌がるだろうけど、俺の名前を出されりゃ」
「……っ」

 ズキンと、胸の奥が軋む。
 この人は、縁と芳川会長のことを嫌ってないのだろうか。会長のことなんて、裕斗の方からしてみたら裏切られたようなものだ。それでも、芳川会長の気持ちを優先させるのか、この人は。
 優しさ、とは違う。……よく分からない、裕斗の本心は濃い霧に覆われているように見えないのだ。それでも、嫌な気分にはならないのは裕斗の人柄か。
 そんなことを考えていたとき、「それと」と裕斗はこちらを見た。


「齋藤、俺に対してはそんなに一々謝らなくていい。つうか、謝られた方が困る。……なんか、お前を虐めてるだし」

「謝るくらいなら、何も言わなくていい。俺の前くらい楽にしててくれ」……思考が停止する。
 ほんの一瞬、一瞬だけ……出会った頃の、優しかった頃の芳川会長と目の前の男が被ったからだ。

『一々謝る必要はない、君は何もしてないのだろう?』

 そう、優しく俺の頭を撫で、宥めてくれた会長と、確かにだぶってしまったのだ。酷く懐かしい気持ちになると同時に、目の前が真っ暗になる。
 駄目だとわかってても、痛いほど胸が張り裂けそうだった。
 咄嗟に、俺は裕斗から視線を外した。直視できなかった、これ以上は、なにかがおかしくなりそうな気がして。

「……っ、す、みま……っぁ……」
「……いい、いい。別に慌てなくても。ゆっくりでいいから」

「ほら、行くぞ。飯が逃げるかもしれないしな」そう言って、一歩踏み出した裕斗はそのまま俺の手を取るのだ。周りに人がいないとはいえど、いきなり手を繋がれたことに驚いて顔を上げれば、こちらを振り返った裕斗はいたずらっ子のように笑ってみせた。
 その笑顔にまた、溺れそうになる。

「っ、……」

 大きくて、それでいて骨格のしっかりした手。大丈夫だと言って、俺を抱き締めてくれた手。
 こんなところ、誰かに見られたら厄介だと頭でわかっててもがっしりと指まで絡められれば振り解けない。
 ……振り解けないのだ。トクトクと脈打つ心臓を押さえ込みながら、そっと、誰にも気付かれないようにその手を握り返した。

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