天国か地獄


 25※

 ベッドシーツを掴む俺の手を握り締め、掌ごと掴むように指を絡め取られる。

「……っ逃さないよ」

 耳朶に唇を押し付けられ、生暖かい息がかかる。囁かれるその言葉に、孕んだ熱に、下腹部に押し当てられる熱く圧迫したそれの感触に打ち震えた。逃れようとする体ごと抑えつけられ、片方の志摩の手に下着をずらされる。
 吐精したばかりにも関わらず、既に頭を擡げ始めていたそれが現れになり、ひゅっと息を飲む。
 背後で、僅かに志摩が息を飲むのが聞こえた。それからすぐ、剥き出しになった臀部に細く、骨っぽい指先が触れる。

「っすごいね……こんなところまで跡だらけじゃん。……内腿なんて、指の形もびっしり残ってるし……随分可愛げがないキスマークだね」

「愛情表現なんて範疇じゃない、逸脱してるよ」冷静な、呆れたような志摩の声には僅かに熱っぽさもあった。荒い呼吸に、興奮してるのがわかる。恥ずかしかった。第三者である志摩にこうして指摘されることが、何よりも心を土足で踏み躙られたような、俺と会長の秘密を無作法にも覗き込まれたかのようなそんな憤りを覚える。
 そんなこと、志摩に言われなくても、俺は……俺は、知っている。怒り狂った会長との行為が、思い出すだけで体が震えるほどの恐怖や苦痛を伴ったことも、それが、本来の恋人同士から掛け離れてることも、知っている。

「……ほんと、齋藤って馬鹿だよね。……救いようがないくらいの馬鹿だよ」

 濡れた指先が、谷間を割ってその奥の窄みに触れる。唾液を絡めた指先に、何度も割り開かれたそこを解すように触れられば、頭の奥が熱くなって、視界が霞む。志摩から逃れようとするが、ぐっと腰を掴まれ、志摩の方へと寄せられてしまう。

「ぁ、あ……ッ、いやだ、……志摩……ッ」

 一本の指がぐっと押し込まれたと思った瞬間、構わず二本の指が捩じ込まれる。以前とはまるで状況が違う。潤滑油代わりの唾液を絡んだそれは、少しでも力を入れれば容易く体の奥まで滑り込んでくる。内壁を掠める度にその異物感に出したくもない声が漏れ、体が震えた。

「ねえ、分かる?齋藤の中、俺の指にちゅうちゅう吸い付いてくる」

「そんなにお尻の穴に何か入れられるのが待ち遠しかったの?」まるで小さい子供に言い聞かすような甘い声。その癖、その内容は耳をも塞ぎたくなるようなものだった。恥ずかしくて、情けなくて、視界が滲む。この体勢だと、志摩の顔を見ずに済んだことが救いだった。柔らかくなった内壁、その粘膜を撫で上げられるだけで喉の奥がふるりと震える。

「ちが、違う……違う……おれ……ぁ……ッ」
「……耳まで真っ赤になっちゃって、恥ずかしいの?そりゃそうだよね、明らかに性器として何本も受け入れましたっていう肛門見られて、こうして触られて、寧ろシラフでいられたら俺も嫌だよ」
「っ、ぅ、く、うぅ……っ」

 グチャグチャと腹の奥で濡れた音が響く。バラバラに動く指先に乱雑に中を掻き回されれば、目の前が白ばみ、息が浅くなる。腰が、揺れてしまう。全身の血液が下腹部に集中し、体内の温度がいくらか上昇するのがわかった。志摩の指を根本まで挿し込まれ、奥を引っ掻かれると頭の中で光が弾けたみたいに何も考えられなくなる。あ、あ、と情けない声が漏れ、ベッドシーツにしがみつくことしかできない。

「っ、抜いッ、ひ、……ィ……や、だ、嫌だ……」
「駄目だよ、齋藤、いくらこんな捲れあがったお尻でも、ちゃんと慣らさないと痛いでしょ」

 そう、尻を軽く叩かれ、裂傷から伝わるその痛みに堪らず「ヒッ」と悲鳴が漏れる。心臓が張り裂けそうなほど脈は加速する。志摩が笑う気配がした。瞬間、先程までとは比にならないほどの激しい差し抜きに、堪らず跳ね上がる。

「ぁ、ッ、く、ぅ、んんぅ……ッ!」

 息が苦しい。腰が揺れる。逃げ腰を捕らえられ、抉るように中を掻き回された。執拗な挿入行為のせいで今は腫れ上がったそこは触れるだけでも失神しそうなほどの熱を孕み、志摩の指で入り口を浅く引っ掻かれるだけでも尋常ではない快感の波が襲い掛かってくる。
 粘り気を含んだ濡れた音が響く。流れる汗を志摩は舐めとる。わけもわからなかった。ひたすら空気を求めるように喘ぐ。別の生き物みたいに腰が揺れ、張り詰めたほど勃起したそこは痛くすらあった。
 体内で押し曲げられた志摩の指に浅い位置のシコリを刺激された瞬間、脳髄から染み出していた熱は一気に全身へと広がり、くぐもった声には自分のものとは思えないほどの甘い声が出てしまう。

「ッ、ふ、ぅ、んんッ!……ぅ、うぅ……ッ!」
「っ、齋藤の中、どんどん熱くなっていく……ねえ、齋藤、俺の指はそんなに美味しい?」
「っ、あ、ぁ……ぁ……や、志摩……ぃやだ……ッ嫌だぁ……ッ!」

 頭を振って否定する。それが、志摩の気に障ったらしい。
 志摩の唾液を丹念に擦り込まれ、十二分に濡れそぼった体の中、凝り部分を執拗に指の腹で揉み扱かれる。瞬間、得体の知れない熱が腹の底から込み上げてきて、悲鳴にも似た声が喉の奥から漏れる。嫌だ、ここは、嫌だ、怖い。内臓から犯されるような強い快感は恐怖でしかない。逃げようと身を攀じるが、志摩は俺の腕を捕まえ、そして。

「嘘つき」
「ん゛ひ、ィ……ッ!」
「嫌ならなんなの、これ、好きでもないやつにケツ弄られて勃起するの?……良いって言えよ、俺に犯してくださいって言えよ、こんなんじゃ、全然満足出来ないくせに……ッ」
「ぁ、ひ、ッ、ィ、あッ、ぁ、あ……ぁあ……ッ!」

 耳を塞ぎたくなるほどの罵倒。執拗に前立腺を弄られ、限界まで勃起したそこからはとろり半透明の液体が垂れる。保健室のベッドシーツを汚したことに罪悪を覚えるほどの頭もなかった。ひたすら、嬲られる。声を抑えることも、唾液を止めることもできなかった。シーツを掴み、志摩の指をひたすら受け入れることしかできない。イッたと思うのに、射精感はない。体の中を燻る熱は排出され冷めるどころかより熱と粘り気を孕んで全身へと広がるのだ。

 違う、違う、こんなんじゃない。違うのに。そう思うのに、志摩の言うとおりだ。ずるりと引き抜かれれば、体の奥はあるべきものを失ったかのような喪失感を覚えてしまう。そんな自分に気付き、絶望する。けれど、思考とは相反して体の熱は収まらない。
 三本の指を挿入され、充分に拡がったそこを見て志摩は笑う。

「……齋藤、気付いてる?ここ、ずっとヒクヒクしてんの。……挿れてくださいって、寂しいですって痙攣してるんだよ」
「っ、ちが……」
「違わないよ。さっきからここが切なくなってるんでしょ。もっと奥、グチャグチャに掻き回されたいくせに、今更処女ぶってんの?」

『奥』、と下腹部を指で円を描くように撫でられ、ひくりと喉が震える。汗が滲み、流れる。想像する。お腹いっぱいになるほどの男性器で抉られる想像して、目眩を覚えた。そんなはずない、それは志摩の希望だ。わかっていたはずなのに、何も考えられなくなる。甘い波がまた広がる。嫌だ、嫌だ、俺は違う。

「……お、れは……」

 答えればいい。違うと突っぱねればいい。今こそが、隙だ。志摩にできた隙だ。セックスのことしか頭にない志摩から逃れることは可能だろう。周りが見えていない。わかっているはずなのに、体が動かない。ぬるりとした肉の感触と溶けそうなほどの熱を窄みに感じ、ドクリと心臓が大きく脈打つ。恐る恐る志摩を振り返れば、押し当てられた性器を見て、息を飲む。俺と同じ、寧ろそれ以上に限界に近いそれは血管が浮かび上がり、先走りで濡れた姿はグロテスクでもあった。それを挿入され、体の奥まで中を突かれる想像して、思考が停止する。呼吸が浅くなる。

「……齋藤、ここは即答しないと駄目だよ」

 そのときだった。囁かれたと同時に、充てがわれる先端部がぐっと頭を埋めてくる。「え」と声が漏れた次の瞬間、濡れた内壁を滑り、一気に奥まで腰を打ち付けられる。瞬間、目の前が真っ白になる。
 太い槍に脳天まで貫かれたかのようなその衝撃に、一瞬、確かに意識が飛んだ。

 一瞬、声の出し方がわからなかった。
 瞼の裏がチカチカと点滅し、開いた喉からは空気を吸う音が漏れるだけだった。
 腰をぐり、と更に進め、隙間ない程根本深くまで挿入した志摩は、うっとりしたように息を吐く。

「……ッ、齋藤の中、久し振りだね」

 そう、ぐ、と腰を抱き寄せられる。逃げたかった。逃れたかった。けれどそんな意思表示も虚しく、シーツに縋り付く体を抱き寄せられる。瞬間、腰が揺れ、ぱんぱんに詰まった腹の中、限界まで勃起したそれに奥を抉られ、声にならない悲鳴が漏れた。

「っ、ひ、ぅ……ッ!」

 内臓を愛撫されるかのような違和感。先程まで散々解されたそこは、息苦しさはあるものの志摩のものを容易く呑み込んだ。痛みと苦しさだけの以前の行為は違う。その事実が何よりも耐え難かった。まるで、自分のそこが雄を受け入れるために作り変えられたかのような、身体の変化への恐怖。

「っ、ぁ、抜い……ッ、ひ、て……」
「……聞こえないな」

 そう、志摩が口にしたと同時に、ゆっくりと腰を引かれる。柔らかくなった肉壁を、粘膜を嬲るように腰を動かされ、ぞわぞわと身の毛がよだった。
 濡れた内壁を亀頭部分の凹凸で引っ掻かれるだけで、自分のものとは思えないような声が漏れる。それが嫌で、枕に顔を埋める。けれど、志摩はそれを許してくれない。
 伸びてきた手に、上半身を抱き寄せられる。胸元から首筋までを撫で上げられ、その細い指先は顎下で留まった。

「……っ、齋藤……」

 目が合うよりも先に、唇を重ねられる。舌を吸われ、唾液を流し込まれる。重ねた唇と結合部、上下から濡れた音が響き、どうにかなりそうだった。

「……んっ、ぅ……ッ、んん……!」

 腰を抜き、亀頭を引っ掛けたかと思うと今度は一気に奥まで挿入される。自分では触れないそこを容赦なく抉られ、突かれ、波打つ快感に意識が遠のく。肉同士がぶつかるような音が保健室に響く。浮く腰を捕らえ、志摩は自分へと抱き寄せるように一層深く腰を動かした。奥を執拗に押し潰され、息が、声が漏れる。受け入れることしかできなかった。咥えさせられる志摩の舌も、性器も。
 継続する快感に思考は働かず、ろくに抵抗の仕方がわからなくなる。指一本の動かし方すらわからなくなって、このとき俺は、確かにただの肉塊になっていた。

「……っ、抵抗しなくていいの?それとも……そんなにこれが欲しかったの?ねえ、齋藤……会長はどんな風に齋藤のこと抱いてくれるの?」
「っ、ぁ、ひ、っ……イ……ッ!」
「教えてよ……っ、ねえ、こんなにすんなり男のモノ咥えるような体になってさぁ……俺、今結構ショックなんだよ、わかる?……あんなに嫌がってた齋藤が、こんな、とろとろにしてさぁ……みっともない声で鳴いて、自分から腰振って……ッ!」
「ぁ、しまっ、もっ、ゆっく……り……んんぅッ!」

 腿を掴み上げられ、腰を乱暴に捩じ込まれる。食い込む指先、獣じみた荒い息、捲し立てる志摩の声にはいつもの余裕なんて微塵も残されていない。汗が混ざる。何度目かのキスをされ、声も、舌も、酸素も根こそぎ奪われる。奥まで埋め込まれたとき、志摩の腰がぶるりと震えた。強い力で抱き竦められ、そのまま奥にたっぷりと精液を注がれた。腹いっぱい溜まるそれの熱に惚ける暇もなかった。射精したのにも関わらず、志摩のものは硬く勃起したままだった。
 精液が溢れるのも構わず、志摩はピストンを再開させる。先程以上に粘り気のある音がグチャグチャと響き、志摩が性器を抜き差しする都度それらは溢れ、俺の股を濡らす。

「っ、や、いや、志摩、嫌だ、待っ、まだ、おれ……ッ」
「……ッ何が、嫌だよ」

 ぎゅっと、志摩の手に腹の前で反り返っていた性器を握り込まれる。根本をきつく掴まれ、堪らず悲鳴のような声が漏れてしまう。

「こんなに勃起して涎垂らしてるやつが言ってもなんの説得力もないんだよ」

 性器を扱かれながら、臍の裏側を突き上げられれば、腰に甘い電流が走る。閉じるタイミングを失った口からは情けない声が漏れ、志摩は鼻で笑った。
 そして、俺の両腕を引っ張り、執拗に中を擦り上げる。粘膜ごと塗り替えるような執拗なピストンに肛門は捲り上がる。志摩のそれを異物感とすら感じなくなっていくのがわかった。抜かれそうになる度に奥がきゅっと締まって、その度志摩は熱い息を吐き、俺に唇を重ねるのだ。
 溺れる。自分が自分ではなくなっていく。様々な体勢でハメられ、奥を味わい尽くされる。軋むベッド。何日もこうしてるような錯覚を覚えるが、実際の時間はそれほど経っていないようにも思えた。

「……っ、ここがいいの?齋藤……すごい中、震えてるよ」
「ぁ、いやだ、しま、やめて……っ謝る、から……も、離し……ッ」

 これ以上は、おかしくなる。根本をきつく掴まれた状態で、射精するにも出口を塞がれ、行き場を失った熱は全身を駆け巡る。イキたい、イキたいのに、イケない。それほどの拷問があるだろうか。全身は汗でびしょびしょに濡れていた、それは志摩も同じだ。額の汗を拭う間も惜しいとでもいうかのように、志摩は俺を抱き続けるのだ。自分の形を覚えさせるように、丹念に。

 解放してくれ、いかせてくれ、と懇願する俺を見て、志摩は目を細めた。滲み出るそれは、劣情と、それから、どす黒いまでの……。

「やだね」
「――っ、ヒ、ィ!!」

 次の瞬間、最も触れられたくない場所、前立腺を亀頭で押し潰され、決壊した。
 声にならない獣じみた声を上げ、全身が強張った。ぴんと仰け反る俺が得たのは、確かな絶頂だった。けれど、射精感はない。どろりとした快感がただ垂れ流しになる。ずって溜めていたものが、溢れ出す。宙を向いたそこからはどろりとした液体が垂れ、シーツを濡らした。腰が揺れる。それは、寧ろ痙攣に近かった。

 それからのことはよく覚えていない。
 全身にはくまなく志摩の感触が残っていて、射精とは違う、天井のない快楽に呑まれ、何も考えずにただ志摩に骨の髄まで貪られる。自分が何をしてるのか、何者なのかもわからなかった。志摩に抱かれている間、現実ではなかった。悩みも恐怖もない、ただの肉の塊になることができていた。一瞬、声の出し方がわからなかった。
 瞼の裏がチカチカと点滅し、開いた喉からは空気を吸う音が漏れるだけだった。
 腰をぐり、と更に進め、隙間ない程根本深くまで挿入した志摩は、うっとりしたように息を吐く。

「……ッ、齋藤の中、久し振りだね」

 そう、ぐ、と腰を抱き寄せられる。逃げたかった。逃れたかった。けれどそんな意思表示も虚しく、シーツに縋り付く体を抱き寄せられる。瞬間、腰が揺れ、ぱんぱんに詰まった腹の中、限界まで勃起したそれに奥を抉られ、声にならない悲鳴が漏れた。

「っ、ひ、ぅ……ッ!」

 内臓を愛撫されるかのような違和感。先程まで散々解されたそこは、息苦しさはあるものの志摩のものを容易く呑み込んだ。痛みと苦しさだけの以前の行為は違う。その事実が何よりも耐え難かった。まるで、自分のそこが雄を受け入れるために作り変えられたかのような、身体の変化への恐怖。

「っ、ぁ、抜い……ッ、ひ、て……」
「……聞こえないな」

 そう、志摩が口にしたと同時に、ゆっくりと腰を引かれる。柔らかくなった肉壁を、粘膜を嬲るように腰を動かされ、ぞわぞわと身の毛がよだった。
 濡れた内壁を亀頭部分の凹凸で引っ掻かれるだけで、自分のものとは思えないような声が漏れる。それが嫌で、枕に顔を埋める。けれど、志摩はそれを許してくれない。
 伸びてきた手に、上半身を抱き寄せられる。胸元から首筋までを撫で上げられ、その細い指先は顎下で留まった。

「……っ、齋藤……」

 目が合うよりも先に、唇を重ねられる。舌を吸われ、唾液を流し込まれる。重ねた唇と結合部、上下から濡れた音が響き、どうにかなりそうだった。

「……んっ、ぅ……ッ、んん……!」

 腰を抜き、亀頭を引っ掛けたかと思うと今度は一気に奥まで挿入される。自分では触れないそこを容赦なく抉られ、突かれ、波打つ快感に意識が遠のく。肉同士がぶつかるような音が保健室に響く。浮く腰を捕らえ、志摩は自分へと抱き寄せるように一層深く腰を動かした。奥を執拗に押し潰され、息が、声が漏れる。受け入れることしかできなかった。咥えさせられる志摩の舌も、性器も。
 継続する快感に思考は働かず、ろくに抵抗の仕方がわからなくなる。指一本の動かし方すらわからなくなって、このとき俺は、確かにただの肉塊になっていた。

「……っ、抵抗しなくていいの?それとも……そんなにこれが欲しかったの?ねえ、齋藤……会長はどんな風に齋藤のこと抱いてくれるの?」
「っ、ぁ、ひ、っ……イ……ッ!」
「教えてよ……っ、ねえ、こんなにすんなり男のモノ咥えるような体になってさぁ……俺、今結構ショックなんだよ、わかる?……あんなに嫌がってた齋藤が、こんな、とろとろにしてさぁ……みっともない声で鳴いて、自分から腰振って……ッ!」
「ぁ、しまっ、もっ、ゆっく……り……んんぅッ!」

 腿を掴み上げられ、腰を乱暴に捩じ込まれる。食い込む指先、獣じみた荒い息、捲し立てる志摩の声にはいつもの余裕なんて微塵も残されていない。汗が混ざる。何度目かのキスをされ、声も、舌も、酸素も根こそぎ奪われる。奥まで埋め込まれたとき、志摩の腰がぶるりと震えた。強い力で抱き竦められ、そのまま奥にたっぷりと精液を注がれた。腹いっぱい溜まるそれの熱に惚ける暇もなかった。射精したのにも関わらず、志摩のものは硬く勃起したままだった。
 精液が溢れるのも構わず、志摩はピストンを再開させる。先程以上に粘り気のある音がグチャグチャと響き、志摩が性器を抜き差しする都度それらは溢れ、俺の股を濡らす。

「っ、や、いや、志摩、嫌だ、待っ、まだ、おれ……ッ」
「……ッ何が、嫌だよ」

 ぎゅっと、志摩の手に腹の前で反り返っていた性器を握り込まれる。根本をきつく掴まれ、堪らず悲鳴のような声が漏れてしまう。

「こんなに勃起して涎垂らしてるやつが言ってもなんの説得力もないんだよ」

 性器を扱かれながら、臍の裏側を突き上げられれば、腰に甘い電流が走る。閉じるタイミングを失った口からは情けない声が漏れ、志摩は鼻で笑った。
 そして、俺の両腕を引っ張り、執拗に中を擦り上げる。粘膜ごと塗り替えるような執拗なピストンに肛門は捲り上がる。志摩のそれを異物感とすら感じなくなっていくのがわかった。抜かれそうになる度に奥がきゅっと締まって、その度志摩は熱い息を吐き、俺に唇を重ねるのだ。
 溺れる。自分が自分ではなくなっていく。様々な体勢でハメられ、奥を味わい尽くされる。軋むベッド。何日もこうしてるような錯覚を覚えるが、実際の時間はそれほど経っていないようにも思えた。

「……っ、ここがいいの?齋藤……すごい中、震えてるよ」
「ぁ、いやだ、しま、やめて……っ謝る、から……も、離し……ッ」

 これ以上は、おかしくなる。根本をきつく掴まれた状態で、射精するにも出口を塞がれ、行き場を失った熱は全身を駆け巡る。イキたい、イキたいのに、イケない。それほどの拷問があるだろうか。全身は汗でびしょびしょに濡れていた、それは志摩も同じだ。額の汗を拭う間も惜しいとでもいうかのように、志摩は俺を抱き続けるのだ。自分の形を覚えさせるように、丹念に。

 解放してくれ、いかせてくれ、と懇願する俺を見て、志摩は目を細めた。滲み出るそれは、劣情と、それから、どす黒いまでの……。

「やだね」
「――っ、ヒ、ィ!!」

 次の瞬間、最も触れられたくない場所、前立腺を亀頭で押し潰され、決壊した。
 声にならない獣じみた声を上げ、全身が強張った。ぴんと仰け反る俺が得たのは、確かな絶頂だった。けれど、射精感はない。どろりとした快感がただ垂れ流しになる。ずって溜めていたものが、溢れ出す。宙を向いたそこからはどろりとした液体が垂れ、シーツを濡らした。腰が揺れる。それは、寧ろ痙攣に近かった。

 それからのことはよく覚えていない。
 全身にはくまなく志摩の感触が残っていて、射精とは違う、天井のない快楽に呑まれ、何も考えずにただ志摩に骨の髄まで貪られる。自分が何をしてるのか、何者なのかもわからなかった。志摩に抱かれている間、現実ではなかった。悩みも恐怖もない、ただの肉の塊になることができていた。

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