天国か地獄


 16

 気がつけば、眠りに堕ちていたようだ。
 部屋はいつの間にかに暗くなっていて、肩には見慣れないタオルケットがそっと掛けられていた。
 寝ぼけ眼のまま、こたつの上に置いてあった置き時計を手に取る。
 時間は、日も明けていない早朝三時。
 よっぽど疲れていたのかもしれない。自分が寝ていたことにも気付かなかった。
 こたつの上にはメモと、先程頼んでいたランチパックがそこに置かれていた。メモには『一応リビングにレンジがあるのでそれ使ってもいいですよ。水も、冷蔵庫に入ってますのでどうぞ。』という几帳面な文字が綴られている。恐らく、志木村が書いてくれていたのだろう。
 お腹は空いていた。というよりも喉が渇いたという方が適切かもしれない。
 水を少しだけ貰おうと思って、起き上がる。扉をそっと開いたとき、凄まじい唸り声が聞こえた。
 電気の消えた部屋の中。どうしたのだろうかと慌てて身を固めたとき、それが唸り声ではなくイビキだと気づく。
 敢えて誰のものかは考えないことにした。
 床の上やソファーの上、転がった人影を一瞥し、なるべく足音を立てないように冷蔵庫まで向かう。
 その時だ。洗面所の方から水の音が聞こえた。誰かが風呂にでも入っていたのだろう。そう思って、敢えて無視しようとしたが水の音に混ざって酷い咳が聞こえてきたのだ。
 灯りが漏れる洗面所。心配になって、俺は慌てて洗面所へと向かう。
 微かに開いた扉を開けば、そこには、シンクの前で蹲る志摩裕斗がいた。

「っ、裕斗先輩……?!大丈夫ですか……っ!」

 慌てて駆け寄れば、志摩裕斗は驚いたような顔をして、それから手に持っていたタオルで口元を拭った。

「悪いな、うるさくしてしまって……起こしたか?」
「いえ、俺は目が覚めただけで……あの、大丈夫ですか?咳が……」
「別に、大したことじゃない。気にするな。ちょっとばかし、咳がしつこいだけだからな」

 そう言って、志摩裕斗はニッと笑う。
 なぜだろうか。その笑顔が、痛々しくも思えた。
 それは志摩裕斗がもともと入院してたと聞いていたからだろう。普段のふるまいからもうすっかり元気になっているのだろうと思っていたが、本調子ではないのかもしれない。

「あの、先生呼びますか……?」
「そこまでしなくてもいい。それに、ちょっと薬飲み忘れただけなんだ。飲めばすぐに治る、だからそんな心配すんなって」
「……あの俺、水用意してきます」
「そうか?ありがとな」

 何か言いたそうだったが、志摩裕斗は拒否しなかった。
 怖い人だと思っていた。というか、今でも怖いとは思ってる。底抜けて真っ直ぐで、正義感が強くて、俺とは正反対の人。けれど、それでもだからと言って無視は出来ない。

 一度居間へと戻り、水をグラスに注ぐ。それを志摩裕斗の元まで届ければ、志摩裕斗はスウェットのポケットから取り出した複数の錠剤を口に放り込み、水で流し込んだ。
 ごぽりと音を立て、その喉仏が上下するのを見ていた。
 はぁ、と息を吐き、志摩裕斗は口を拭う。

「ありがとな、これでもう大丈夫だ齋藤君」
「……それなら良かったです。……あの、それじゃあおやすみなさい」
「なんか俺に用事があったんじゃないのか?」
「え?いえ……水を飲もうと思ったら、ここから咳が聞こえてたので覗いただけです……」
「そう、か。……ふうん、変わってるな」
「え?」
「喉が渇いたんだってか?俺のとっておきのジュースやるよ」
「あ、あの……先輩……」
「志木村には勿体無いからやめろって言われてるんだが、君には助けてもらったしな。特別に、俺特製ジュースを飲ませてやるよ」

 そう言って、志摩裕斗は無邪気に笑う。話を聞かないところは、志摩と似ている……かもしれない。
 邪険にされるよりはましなのだろうが、断ることも出来ず、俺は志摩裕斗の好意に甘えることにした。
 志摩裕斗の特製ジュースとは、所謂色んなドリンクを掛け合わせるものだった。
 何が入っているのか分からないが、志摩裕斗が作業したあとの場所には栄養ドリンクの瓶やコーラの缶が置かれている。

「ほら、おまちどおさま」
「す……すごい……」
「ほら、これ飲めば一発で元気になるぞ!俺のオススメだ!」
「……」

 そう言って目の前に置かれたジョッキになみなみと注がれた茶色の液体。匂いがやばい。
 ……確かに元気にはなりそうだが、それ以上にこんなに飲める人はそもそもが元気なのではないのだろうか。
 そんなことを考えながら、取り敢えず一口飲む。
 期待した目で「どうだ?美味いか?」と見てくる志摩裕斗に、俺は「美味しいです」と答えた。
 正直、まあちょっと癖のある炭酸ジュースと思えば悪くない。……ただ、少し炭酸がキツイが。

「そうか、美味しいか!なら良かった。おかわりもあるぞ?遠慮しなくて良いんだからな?」
「は、はい……」

 まだあるのか……というかどれだけ作ってるのだろうか……。
 本人が楽しいのならばそれでいいかもしれない。おかわりどころか飲み干すことすら難しいのだが。

「……二人とも、こんな時間まで起きてたの?」

 暫く志摩裕斗に付き合みながらもジュースを飲んでたときだ。部屋の灯りに気付いたのだろう。まだどこか眠たそうな顔をした連理がやってきた。

「いえ、あの……たまたま目が覚めちゃって」
「あら、そうなの。ならいいけど、早く寝ないと明日朝が辛いわよ」
「……はい」
「そうだな。齋藤君、付き合ってくれてありがとうな」
「……あ、いえ……そんな……」

 俺は何もしていない。
 けれど、ニコニコと笑う志摩裕斗の顔を見ているとわざわざ水を差すような発言をするのも忍びない。俺は、それ以上何もいえなかった。

 それから、連理と志摩裕斗を残して部屋に戻る。
 志摩裕斗の咳が気になった。ただの空咳とは違う。何がが混ざったような重い咳。……早く完治したらいいのだろうが、下手に踏み込んではならないような気がしてならないのだ。
 少しだけ座り、胃が落ち着いてから横になる。
 思ったよりも早く、夢の中に落ちることになった。
 それから暫くも経っていない気がする。部屋に響くノック音に目を覚ます。慌てて起き上がり、扉を開けば志木村がいた。

「おはようございます。……顔色は、良さそうですね」
「はい……お陰様で」
「それは何よりです。朝早くから申し訳ないですけど、支度をして下さい」
「支度、ですか?」
「今日は生徒会会議があります。齋藤君にはそれに参加してもらいたいんですよね」
「……っ、え……」
「と、言っても仰々しいものではありません。前回の会議は結局日を改めるということで中途半端に終わってしまったんですよね。それで、その続きがあるんですが……」
「……、……」
「やっぱり、無理そうですか?」

 何も言えない。言葉が見つからなかった。
 俯く俺に、志木村は「そうですよね」と困ったように笑ってみせた。

「これは、裕斗さんが言ってるだけなんでそんな重く受けなくていいですよ。元より、僕も君は表に出ない方がいいと思ってますから」
「っ、ごめんなさい……」
「別に、僕は関係ないですからね。それに裕斗さんには一応伝えてるんでしょう、大まかなことを。それならば気にしなくてもいいと思いますよ」
「…………」

 志木村は何も言わない。強要することもない。ただ、俺の言葉・態度を優先し、それに身を任せる。
 当事者なのに、逃げてばかりで、本当にいいのだろうか。
 そんな疑問が込み上げてくる。けれど、俺に出来ることなんてあるのか。ただ余計物事をややこしくしてしまうだけではないのだろうか。
 志木村は、そっと俺の頭を撫でてくる。驚いて顔を上げれば、志木村は色素の薄い垂れ目がちなその目を細めた。

「……安心して下さい、誰も君を責めませんよ」

「だって君は可哀想な被害者なんですから」薄い唇から発せられるその言葉に、ドクン、と心臓が跳ねる。
 被害者。俺が。ならば、加害者は。

「……ッ、出、ます」

 無意識に、口が動いていた。
 出て、どうするのか。これからのことなんて何も考えていない。けれど、芳川会長を加害者にしてそれを丸投げすることは、できなかった。

「参加したいです、俺も」
「いいんですか?皆の前に出るんですよ?……特別なことをさせるわけではありませんが、君は会長とそう言った関係であるというレッテルを貼られてる状態ですよ。人前に立つということはある程度覚悟が必要です」

 それが君にあるんですか、と志木村の視線が投げかけられる。覚悟、なんてあるわけがない。今だって、想像しただけで膝がガクガクと震えそうだ。
 けれど、ここで逃げていたら本当に全てが手遅れになってしまいそうで怖かった。芳川会長に逆らうことよりも恐ろしい、信じていたものが壊れていく。他人の手によって形無しに壊される。それを見て見ぬふりしかしないのは、耐えられない。

「……ッ、……」

 大丈夫です、と一言言えばいい。それで、志木村を納得させられる。分かっているけど、口が動かない。声が、出ない。
 押し黙り、俯くことしか出来ない俺に、志木村は小さく息を吐いた。

「分かりました。同席をしてもらえるのなら僕達としても助かりますからね。……でも、無理そうだったら部屋から連れ出しますので」
「……ありがとうございます」
「君は、よく分からないですね。なんでそこまで意固地になるのか僕にはよくわかりませんが、そこが芳川君の琴線に触れたのかもしれませんね」
「……」

 多分、俺はこの時正常ではなかった。焦っていた。会長のために何かしなければと、やけくそになってた。
 死に急いでいた、そうと受け取られてもおかしくないくらい、俺は、周りが見えてなかった。自分の姿すら見失っていたのだから。
 ただ、遠くに見える芳川会長の背中を一生懸命汚泥の中這いずっては追い掛けていたのだ。それが自分の脳が作り出した幻覚だと知らず。

 生徒会会議。
 単語だけを聞けば、まるで自分とは無縁のもので。これから自分が底に証人として召喚されると思うと、嫌な汗が滲む。
 志摩裕斗が用意してきた制服に袖を通す。酷く久しぶりに制服を着たような気がした。
 連理も江古田も制服に着替えた俺を見て驚いたような顔をしていたが、察したのだろう。止められたが、俺が「出ます」と言えば連理は「わかったわ」と苦虫を噛み潰したように笑う。
 そして、学園内特別棟。最上階に位置する広い通路の前。沢山の生徒が行き交う昇降口とは違い、そこは人の気配すらなかった。
 心臓が、やけに煩い。ここへ来る途中、他人の目が刃物かなにかのように突き刺さるのだ。慣れたつもりだったが、状況が違う。
 嫌悪感、好奇心、畏怖、向けられる様々な感情と囁き声を無視する方が難しい。
 けれど、連理と志木村が両隣にいてくれたお陰か、直接何かを行ってくる人間はいなかった。

 会議室前。先頭に立つ志摩裕斗はその金のドアノブを握り締め、大きく扉を開いた。
 瞬間、無数の目がこちらを捉える。突き刺さるその目に、今度こそ息が停まった。

「……ッ、……!!」

 どうして、ここに。
 汗が、息が、詰まる。分かっていたはずだ、こうなることは予期はしていたはずだ。
 会議室の中、既に5つの席が埋まっていた。
 十勝、五味、栫井、灘……そして、芳川会長。

「お前ら随分と早かったな。もしかして、俺たち遅刻か?」

 志摩裕斗に応える者はいない。ただ一人、志木村は志摩裕斗の背中を軽く押し「後ろ詰まってるので早く行ってください」と耳打ちする。
 それよりも、それよりもだ。どうして……。
 平然と中央の席に腰を下ろした芳川会長の姿を見た瞬間、下腹部が岩のように重くなり、動けなくなる。
「佑ちゃん」と、連理に支えられそうになったとき、芳川会長と、視線が、ぶつかり合う。冷や汗が首筋を流れ落ちる。冷房が効いてるはずなのに、酷く熱い。

「すみません、大丈夫です……」

 どう、何を、言えば良いのかわからなかった。掛ける言葉も見つからなくて、俺は、芳川会長の目を見ることもできないまま案内された席へと腰を下ろした。
 壁一面の大きな窓ガラスからは日の日差しが射し込む。明るく、清潔感のある会議室だがそれ以上に無機質で、どことなく重苦しい空気が流れていた。無理もない。今から俺たちが話し合うのは学校のこれからではない。下手したら自分たちの首や立場も大きく関わってくる会議だ。
 生徒会役員と、親衛隊隊長、そして寮長と、元生徒会長。
 そんな中、一人混じっているこの状況が異質にすら思える。場違いだと分かっていた。それでも、扉が閉まった今、逃げることは許されない。

「これで全員ですか?」

 静まり返った会議室に響くのは、志木村の声だ。
 辺りを見渡す。会議室の机、その周囲に置かれた椅子は11脚。二席が空席のままだ。

「いいや、まだだ。後一人来る」

 答えたのは、芳川会長だ。
 栫井は特に興味なさそうに、五味は何か考えてるのか渋い顔のまま腕を組み、十勝は指先でボールペンをくるくると回し、灘はじっと芳川会長の動向を見ていた。

「……来たみたいだな」

 八木か、風紀委員の誰かか。
 芳川会長の声と、会議室の扉が開いたのはほぼ同時だった。顔をあげた俺は、扉の向こうに立っていた人物を見て目を見開く。

「遅くなってごめんね。色々準備してたら遅くなっちゃってさ」

 聞き覚えのある、耳障りのいい通る声。

「風紀委員長代理並びに阿賀松伊織の代理で来ました、縁方人です。皆、よろしくね」

 光が反射して真っ青に染まった髪。無邪気に笑う縁方人に、その場にいた全員が反応した。
 腹の中で何を思ってるのか分からない。が、恐らく大方は「なぜ、こいつが」というのが一番だろう。
 困惑、呆れ、反応は様々だ。が、好意的な反応を示す人間はいない。当たり前だ。
 けれどただ一人、芳川知憲を除いては、だが。
 縁方人の登場をまるで予めから知っていたかのようなその反応。
 俺は、これから始まる地獄のような会議を思えばただ、吐き気を堪えるのが精一杯だった。

「ちょっと待てよ」

 縁方人という異物を黙って受け入れるはずがない。
 そして、一番初めに動いたのは生徒会書記・十勝直秀だった。傷もまだ生々しく残っているその顔を歪め、十勝は縁を指差した。

「風紀委員長代理って、おかしいだろ。八木先輩の代わりなら風紀委員ならまだしもお前、風紀委員ですら無いだろ。どういうつもりだ?というか、八木先輩はなんでこないんだよ」

「急用だってさ、仕方ないだろ。副会長君にも頼まれたしさ、ほら一応これ証拠ね」

 そう、制服から取り出したのはグシャグシャになった一枚の紙。俺の席からは見れなかったが、赤黒い染みで汚れているような気がしてならないのは錯覚か。
 受け取った十勝も顔色が変わる。「こんなのおかしいだろ」と、その用紙を握りつぶしたとき。

「急用とならば止むを得ない。……何も、風紀委員がいなくとも会議は続けられる。今回の場合な」
「方人、お前伊織の代理だと言ったな。なんで伊織が直接来ない?」
「別に珍しいことでもないだろ。あいつは夜型だしこんな早起きできねえだろ。だから、俺が来たってわけ」
「伊織からの委任状はないのか?」

 志摩裕斗の言葉に、縁方人は笑う。喉を鳴らし、息を吐くように。「そんなことか」と、つまらなさそうに。

「ねえよ、そんなもの」

 空いた席、そこにどかりと腰を下ろした縁方人はテーブルに肘を付きそして手をひらひらとさせた。

「ほら、さっさと始めようよ。時間の無駄だろ」
「ちょっと、黙って聞いてりゃ代理代理って、本気で言ってるの?本人もいない、アンタの口先だけの言葉で信じられると思ってるわけ?」
「信じないなら好きにすればいい。ま、要するにさ、この場にいるのは伊織でも俺でも誰でもいいってわけ」

「だって、言うことは変わんねえから」縁の言葉は誰が聞いても挑発のそれだ。俺ですら分かる。
「こいつ」と、椅子から立ち上がる十勝。それを止めたのは、五味だった。

「ご……五味さん」
「方人さん、聞きたいことがあるんだがアンタはどの立場でここにいるんだ?風紀委員長と阿賀松伊織、その二つはどちらも全く別物だろ」
「細けーことばっか気にする連中だな、本当。……そんなに俺のことが信用できないってショックだなぁ。ま、俺がお前らの立場でも同じだがな」

「勿論、俺自身はあくまで第三者だからな。公平な立場でここにいる。だから、二人の代理っていうのは……」そう言って、縁方人は小脇に抱えていたクラッチバックの中から何かを取り出し、テーブルの上へと置く。

「意見するのは俺じゃなくてこいつらだよ」

 全員の視線が集中する先には、二つの封筒。
 厚みのあるそれからは得体の知れないものを感じた。それは、この場にいた全員が感じたのではないだろうか。

「物証ってことか」

 誰かがぽつりと口にする。静まり返った会議室に、その声だけが反響した。
 あくまで、自分はただのお使いということか。改めて腰を掛け直す縁。ただの紙切れが入ってるのか、厚みを見ただけでは分からない。

「なら今すぐそれを俺たちに見せてみろ。方人、お前が自分の手で封筒を開けるんだよ」
「ハッ、何、俺がカミソリでも仕込んでるって思ってるのかよ。安心しろよ。ちゃんと開けてやるから」

「その時になればな」と、縁は笑みを浮かべてみせる。得体の知れないものその笑みに、背筋が薄ら寒くなる。

「その時って、今すぐ開けろよ、勿体ぶる意味わかんねーし」
「封筒の中身がなんなのか、いずれ分かるだろう。今は、会議を始めるのが先決だと思うが」
「え、でも、会長……」

 そんな場合ではないだろう、と狼狽える十勝たちに構わず「栫井、進行しろ」と芳川会長は栫井に声を掛ける。
 終始傍観に徹していた栫井はいきなり名前を呼ばれ僅かに動揺を顔にしたが、それも僅か一瞬のことで、すぐに「わかりました」と立ち上がる。

「……それでは自分が進行を務めさせていただきます。本日の議題は前回に引き続き……『芳川知憲及び生徒会役員のリコール』についてです」

 この空気のまま始める芳川会長の考えは分からなかった。縁もだ。何を考えてるのか分からない。それは、二人に限ったことではないが、それでも俺は怖かった。自分の首が掛かったこの話し合いで、怖気づいた色すらも見せない芳川会長が、底知れず怖かった。
 張り詰めた空気の中始まる、会議とは名ばかりの自らの処刑場で、平静を保って居ることのできる方が特異だ。それでも、自分が望んでここにきたのだ。俺は、膝の上で拳を固める。
 けれど、体の震えは止まらなかった。

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