05※
阿賀松の前。膝をついた俺は恐る恐る阿賀松の下腹部に手を伸ばす。
こちらを見下ろす阿賀松の目がただ怖くて、俺はなるべくそれを意識しないよう、もたもたとベルトを緩め、下腹部の膨らみ、その位置にあるファスナーの金具を摘んだ。
それをゆっくりと下ろせば、赤い下着が目に付いた。
その前開きに指を滑り込ませれば、ガチガチに膨らんだ性器が目の前に現れる。
「……っ」
こんな至近距離で阿賀松のを見たことは初めてではないけれど、それでも鼻先に当たりそうなこの距離で見るのはやはり慣れるものではない。
ただ、この部屋が薄暗いお陰で幾分ましだが独特の匂いに顔が熱くなる。
ええいこうなったらと半ばやけくそにその亀頭部分に唇を押し付け、そのまま先端を咥えた。
たっぷりと唾液を絡め、先走りで既に濡れていたそこを更に濡らしていく。
痛くないように、先っぽから凹凸部分、時折唇をずらし、裏筋や側面にも舌を絡めて全体を丹念に舐めた。
けれど、
「っ、ぅ、ふ……ッ」
「……っ、小せえ口」
ふ、と阿賀松が笑う。その振動が口の中の性器から伝わり、釣られて顔を上げてしまった時、頬に阿賀松の手が触れた。
「旨いか?」
「……っ」
せっかく、意識しないようにと思っていたのに。
愉快そうに笑う阿賀松とまともに視線がぶつかってしまい、カッと顔面に血液が堪る。
阿賀松の目に映ってる自分を想像したらそれはもう耐えられるものではない。が、一生の痛みよりも一時の恥。
プライドなんて今更俺が持っていても仕方ないものだ。
阿賀松から視線を外し、俺は、裏筋から根本まで舌を這わせる。
「……は……っ、見せてやりてぇな。他の奴らに」
……冗談に聞こえない。
全く笑えないし心臓に悪いが、俺はそれを聞かなかったフリをしてただ唾液を恐らく自分が受け入れることであろう全体に絡めていく。
滲み出る先走りと混ざり、独特の味が口の中に広がった。
先ほどに増して濃度を増す生々しい性の匂いに頭がクラクラしてきたが、それでも、唾液を垂らして必死こいて舌で塗り込み阿賀松の性器を濡らしていく。
「……っん、ぅ……っ」
不意に、阿賀松に「おい」と呼び止められた。
どうしたのだろうかと思った時、強引に阿賀松のものから口を引き離される。
何か気に入らなかったのだろうかと怖くなって阿賀松を見上げれば、伸びてきた手にケツを揉まれた。
「どうせなら、お前の中で出させろよ」
輪郭をなぞるように這わされるその指先の生々しい動きにゾワゾワと背筋が震え、つい腰を引いた。
「……っ、でも、まだ……ちゃんと……っ」
「チッ、うるせぇな……早くしろ」
「ッそ、そんな……」
話が違う。珍しく阿賀松が優しいと思っていたがどうやら気のせいだったようだ。
しかし、心許ないのも確かだがいつもの潤滑油もなしよりかは大分ましのはずだ。
渋々立ち上がり、俺は阿賀松に背中を向け、自分のベルトに手を掛ける。
「……」
全部、脱ぐ必要はないんだよな。
バックルを外し、ベルトを緩める。阿賀松に見えないよう、最低限挿入可能な位置まで下着をずらすが阿賀松から見たらケツ丸出しには変わりないだろう。
恥ずかしい。
他人の性器を舐めるよりも恥ずかしいというのはどういうことなのだろうか。思いながら、阿賀松の膝の上、背中を向けたまま跨がろうとした時。
「こっち向けよ」
その一言に、阿賀松を踏まないようにと必死に気を遣っていた俺の無駄な努力は無駄になった。
言われたからには仕方ない。
阿賀松と向き合うようにその膝の上、性器の上に跨ろうとすれば必然的に顔が近付くわけで。
至近距離で人の顔を舐めるように眺めてくる阿賀松になんだか気が気でない。
「……っ、あ、あの、本当に……ッこれ……」
「……」
「……ッ、う……」
阿賀松の無言の圧力に気圧され、おずおずと腰を落としていく。
瞬間、ぬるりとした熱い感触が臀部に触れ、思わず身震いをした。
「……ッ」
阿賀松の性器にそっと手を伸ばし、ずれないように抑えるが、今度は自分の体の方が上手く動かなかった。
緊張でガチガチに固まった下半身は阿賀松のものが触れてしまうだけで逃げてしまい、そのもどかしさに余計恥ずかしくなる。
悪戦苦闘する俺を見て、阿賀松は笑う。
「ッ、クク、下手くそだなぁお前」
「……っ、え、あ」
言いながら伸びてきた阿賀松の手は俺の太腿を掴み、尻たぶを大きく開いた。
次の瞬間、剥き出しになったその窄みに先程何度も掠っていた肉の感触が押し当てられる。
「――ッ!!」
「ココだよ、ココ。分かるか?いつも突っ込んでんだろ。ここに。ほら、あとは分かるだろ」
ずぷりと先端、中途半端に埋め込まれたそれに一瞬息が止まるかと思った。
ぬるりと滑り、入り込んできたそれは俺の動きに合わせて入り口付近をこすり上げる。
汗が、どっと溢れる。
中途半端に手を加えられ、掻き乱され、そのくせ最初の言葉通り俺から手を引く阿賀松に俺はなんだか酷く悔しくなって、それ以上に心臓は熱くなるのだ。
皮膚が、阿賀松に触れられた箇所が熱い。
「……う、く……ッ」
腰を落とすだけでいい。分かっていたが、自分の行動一つで自分の首を絞めることになると思うとその状態から動けなくなる。
息を繰り返すことで精一杯な俺に、阿賀松は溜息を吐く。
「ぁ、は……っ」
「……お前さぁ、そうやってモタモタしてる方が逆効果ってわかんねえかな」
「ま、面白いからいいけど」と、口元に厭な笑みを浮べる阿賀松。
どういう意味なのかと考えた時、阿賀松からは結合部が丸見えだということを思い出す。
瞬間、全身の血液が顔面に集まっていくのが分かった。
「……っ、み、見ないで……下さ……ぁ……ッ」
咄嗟に、結合部を隠そうと腰を動かせば、ぬぷりと音を立て阿賀松のものが奥へ入り込んできて、肩が震える。
「ッ、ひ、ぅ……っ」
「今更恥ずかしがることか?腰引いてたら終わるもんも終わんねーぞ」
「……ッ」
確かに、阿賀松の言葉には一理ある。まさか自分で動くことがここまで堪えるものだとは思ってもいなくて、自分の服の裾を掴んだ俺は、そのままゆっくりと腰を落としていく。
「は、ぁ……んん……ッ」
次第に腹の奥が熱く、内側から圧迫されていくそんな感覚に徐々に息が詰まるのが分かった。
「っ、先輩……っ」
これならいつもみたいにされた方がましだ。
ニヤニヤ笑いながらただこちらを眺める阿賀松。その視線を感じながら、俺は息を吐きながら腰を落とす。
大分、唾液と先走りのお陰で滑るように入るが、それでも何も慣らされていない中は乾き、痛みと圧迫感に汗が溢れた。
「……ぁ、くぅ……ッ」
「ユウキ君、口、開けろ」
「……っ」
不意に、そんなことを言われて口を開けば顔を近付けてきた阿賀松に後頭部を掴まれ、そのまま唇を重ねられる。
ぬるりとした舌が唇をなぞり、そのまま上唇を甘く噛まれ、ぎょっとした。
瞬間、腰から力が抜け、つい、俺は阿賀松の上に座り込んでしまう。そうなると、必然的に途中まで挿入されていたそれが奥に一気に挿さるわけで。
「っ、ふ、ぅ、んんんッ!!」
痛みを感じる余裕もなかった。腹の中を突き上げるその圧迫感に頭の中が真っ白になって、堪らず阿賀松の服を掴めば、やつは笑いながら俺の後頭部を撫でる。
「よく出来ました」と、唇に頬を撫でられたとき。
片方のやつの手が腰に回される。
「ッ、う、あッ」
同時に、ぐっと抱き寄せられ、根本奥深くまで入り込んでくる性器の感触に息を詰まらされるも束の間。
「せんぱ、ぁッ、待……っ」
「んだよ、随分待てせてくれたくせに、まだ俺に我慢させるつもりかよ。良いご身分だよなぁ……ユウキ君」
焦れたように、首筋に噛み付いてくる阿賀松。逃げるにも腰に回された腕は硬く、逃げようと腰を引けば余計強く抱き寄せられ、下から突き上げられる。
内部から押し上げられるその衝撃に、一瞬思考回路が停止し、に俺は堪らず声を上げた。
「ッ、ごめんなさッ、い、ごめんなさいッ」
「は……ッ、どんだけだよ、お前、すぐイケそうだな……ッ」
「ッ、ぁひ、や、ぅう!」
指が食い込む程強く掴まれ、何度も中を擦り上げられる。息苦しくて、先走りを内壁に塗り込むようにゆるく腰を動かされれば、痛みよりも体内を這いずるその熱に自然に声が出てしまう。
よくない行為だと分かっているのに、それでも、阿賀松の熱に脊髄からどろどろに溶けていくようなそんな感覚に溺れそうになるのだ。
「……ッ、ユウキ君……俺にキスしろ……」
薄暗い部屋の中、鼻先数センチ先にある阿賀松の唇が動く。照明を反射し、鈍く光るその口ピアスに目を向けた俺は、少し迷った末、阿賀松に唇を寄せた。
「……っんむ……ぅ……ッ」
唇を重ねたところで圧迫感が和らぐわけではなく、それどころか咥内と下腹部両方からくる熱に余計魘されることになると分かっていても何故だろうか。それでも、いつもより優しい阿賀松に、それだけで満足している自分がいた。
我ながら単純だとは思う。
「せ、んぱ、い……っ」
阿賀松に凭れ掛かりそうになるのを、阿賀松の服を掴んで堪える。その一瞬、阿賀松から笑みが消える。
そして。
「……舌、噛むなよ」
え?と、顔を上げた瞬間、視界が大きく揺れた。
背中に痛みが入ると同時に、見慣れない天井が視界に広がり、その上に、阿賀松が覆い被さってきたのがわかった。
テーブルの上に押し倒されたのだと理解した時には既に何もかも遅くて、ずるりと途中まで引き抜かれたかと思うと一気に奥まで突き上げられ、文字通り目の前が真っ白になる。
「ひィ――ッ!!」
堪らずテーブルの上で体を攀じれば、それを押さえ込んで阿賀松は腰を打ち付けてくる。その度にテーブルが揺れ、自分のものとは思えないような声が喉奥から溢れてくるのだ。
「あ、ひッ、あッ待っ、あ、せんぱ、ぁあッ!」
待ってください、と言いたいのに突かれる度に思考が飛び、何も考えることが出来ない。
無理矢理掴み上げられた腰、阿賀松と繋がってるそこが視界に入る度に体温が上昇し、堪らず目を覆った。
「や、め、ッや、ぁっ、ひ」
開かれた下半身、そこに阿賀松の体重を掛けられ、全身が悲鳴を上げる。ガクガク震え、それなのに揺さぶられながらも上を向いた自分の性器が目に入って俺は余計居た堪れなくなる。
伝わってくる阿賀松の脈が、明らかに先程までに比べ加速しているのがわかった。それに同調するように、呼吸が浅くなる。
「せんぱ、や、っも、俺、おれ、おれ……ッ!」
徐々に迫り上がってくる得体の知れない快感に、やめてくれと阿賀松に懇願するが本人はそれを無視し、動きを止めてくるどころか先程以上に激しさを増す挿入に痙攣するみたいに下腹部は震えた。
「あっ、ぁ、あぁ……ッ!」
ゾクゾクと歯の奥が震えた時、腰が大きく震えた。
そして、勢い良く飛び出す精液は阿賀松の腹部に飛び散った。
「っ、テメェ……汚してんじゃねえよ……」
「っ、ごめんなさ、ぁひッ」
乱暴に、射精したばかりの性器を掴まれた瞬間、萎えていたそこが再び芯を持ち始めるのがわかった。
「や、今、触ったら……ッ」
駄目だ、と首を横に振るが、阿賀松はそれを無視して濡れた先端に精液や先走りを塗り込むように上下し始める。
瞬間、全身が自分のものとは思えないほど大きく反応した。
「ひ、ぅく……ッ!」
「せ、先輩……ッ」腹の奥、ミチミチと内臓を押し広げるように膨らむそれに血の気が引いた。
恐る恐る阿賀松を見上げれば、こちらを見下ろしていた阿賀松は勃ち上がり始めたそこを指で弾き、笑う。
「これなら、まだイケそうだな」
と、悪魔のような顔で、悪魔のようなことを口にして。
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