side:志摩
電気の消えた部屋の中。
唯一の明かりと言えば目の前に表示されたディスプレイから発される電光くらいで。
「……齋藤」
響く音声と延々と流れる映像をただ眺めていた。
方人さんはいない。いないけど、眠る気にもなれなくて。
久し振りに再会した齋藤のことを思い出す。
掴んだ肩は以前よりも細くなっていた。肩だけではない。腕も、手首も。
会いたかったはずなのに、一度会ってしまえば余計に辛くなるというのは分かっていたのに、ここまでとは。
方人さんがいなければ間違いなく俺はあのまま齋藤を連れ出していただろう。できればそうしたかった。
けれど、そういうわけにはいかない。
まだだ、まだ、我慢しなければならない。まだ好機ではない。
『お前みたいなやつ、心の底から好きになるやつなんているわけないだろ』
不意に、脳裏に蘇る方人さんの声。
『齋藤君はお前なんかのために命張らない。だって亮太、お前は実の兄弟を見捨てたんだ。そんなやつが赤の他人なんかに命張れると思うか?』
加速する鼓動。
忘れようと思っていたのに、思い出す度に腹の中が掻き乱されるような不快感に苛まれた。
『亮太』と、懐かしい声が聞こえてくる。
「クソ……ッ」
『亮太、そこのチューブを抜いてくれ』と、また、耳の中でその声は響いた。
「クソ、クソ……っ」
『一本外すだけでいい、そうすれば、もう少し眠れるはずだから……』
『悪いな、亮太。……俺がいたら、あいつらが困るんだ。それだけは、嫌なんだ』申し訳なさそうに、目が覚めたあいつは笑った。
せっかく、忘れられたと思ったのに。
髪を掻き毟りたい衝動に駆られるが、椅子と繋がった両腕は動かそうとしても手錠の音が鳴るばかりだった。
「出てくんじゃねえよ、クソ兄貴……!」
俺だって、誰かのために命を賭けることは出来る。口だけではない。本当だ。言いたいことばっかり言ってあの男はいなくなる。俺の言葉も聞かずに。中途半端に掻き乱された気分は最悪以外の何者でもない。
「く……っそ……ックソッ、クソ……ッ!」
手錠の鎖を引っ張り、千切ろうとするが片腕だけではまともに力が入らない。
それでも俺は何度も鎖を引っ張った。
手首に嵌められた厚みのある鉄の腕輪が手首を擦る度に痛みが走ったが、それでも構わずに鎖を引っ張る。
「齋藤……齋藤、齋藤、齋藤……ッ」
俺のこの気持ちも、全部、マヤカシだと方人さんは笑う。
友達ごっこに酔ってるんじゃないのかと。
それが許せなかった。そんなはずがない。俺の気持ちは嘘ではない。確かに最初は仕方なく始まった関係だったかもしれない。それでも、何も知らないくせに知ったような口を聞くあいつに「そら見たことか」と笑ってやりたかった。
笑ってやりたいのに。
大丈夫だと、そんなことはないと分かってるのに。
どうして俺はこんなに焦ってるのだろうか。
←back