天国か地獄


 05

 食堂は妙に騒がしく、俺は訝しげに店内を眺めながら中へ入る。

「……結構、混んでるな」

 朝よりも結構な数の席が埋まっていた。
 やはり、放課後は時間がたっぷりあるからだろうか。
 空いている席を探していると、食堂の中央に見覚えのある数人の生徒を見つけた。

「あ、おーい佑樹ー!」
「……」

 そのうちの一人、十勝直秀は俺を見つけると手を振りながら大きな声で俺の名前を呼ぶ。
 食堂中の目がこちらを向いた。
 頼むからそんな大きな声で名前を呼ばないで。
 俺は顔を熱くしながら、「こっち来いよ」と笑う十勝の側に恐る恐る歩いていく。

「齋籐君」
「……どうも」

 そのテーブルには十勝と芳川会長、五味がいた。
 ふと芳川会長と目が合い、俺は軽く会釈する。
 阿賀松の言っていたことを思い出し、俺は慌てて芳川会長から目を逸らした。
 そういや、阿賀松が流した狂言、会長にも伝わってるんだったっけ。

「ほら、座れって。阿佐美も、なに照れてんだよ」

 妙に重苦しい雰囲気の中、十勝はヘラヘラ笑いながら空いていた場所にどこからか持ってきた椅子を二つ並べる。
 まさか、このメンツで食べろっていうのか。
 俺は表情を曇らせるが、せっかくの十勝の好意を無駄にするのも心が痛む。

「じゃあ、お邪魔します」

 俺は十勝が用意してくれた椅子に腰を下ろし、横で戸惑っていた阿佐美に目配りをした。

「佑樹、知ってる?ここのハンバーグまじで旨いんだって。俺的にかなりオススメ」
「……そうなんだ」
「馬鹿野郎、ハンバーグよりオムライスだろうが。齋籐、このクリームのやつ旨いぞ」
「……そうなんですか」

 どうやら、居心地を悪く感じていたのは俺だけだったようだ。
 十勝と五味はメニューを取り合い、ぎゃあぎゃあと騒いでいる。
 生徒会って、仲いいな。
 二人を眺めながら、俺はふと疑問を浮かべる。

「……あの、栫井とかいうパーマの人は?」

 食堂には栫井は見当たらない。
 不思議に思った俺は、十勝に目をやりながら問い掛ける。

「栫井なら、校舎に残っているんじゃないのか」

 そう答えたのは芳川会長だった。
 さっきから黙り込んでいた芳川会長の声に、思わず反応してしまう俺。
 ちらりと芳川会長の方に目をやるが、芳川会長はなにもなかったかのように黙々と食事をしている。
「そうなんですか」俺は気まずくなって、目を逸らした。

「佑樹君、なににする?」
「んー、じゃあ鉄火丼」
「なら、俺もそれにする」

 俺にはどちらかを選ぶことができなかった。どちらか片方を選んだらもう片方が怖いからというのもあったが、俺はいま和食が食べたい。
 十勝と五味は唇を尖らせムスッとしていたが、それ以上はなにも言ってこなかった。
 逃げるように俺は苦笑まじりに席を立ち、阿佐美と共に注文をしにテーブルを離れる。

「お前たち、齋籐君と仲がいいんだな」
「いや、なんつーか……まあ」
「まあ色々あったんですよ会長!ねっ、五味さん」
「ハハ……」
「ふぅん」

 テーブルに戻ってくると、妙にそわそわした五味が俺の側に近寄ってくる。
「この間のことは、会長には秘密な」そう囁くように小声で耳打ちされ、俺は慌てて頷いた。
 この間のことというと、きっと生徒会役員の飲酒喫煙のことだろう。
 俺は席についた。

「……齋籐君」
「あ、はい!」

 ふと、芳川会長に名前を呼ばれる。俺はギクリと体を強ばらせ、顔をあげた。
 緊張したせいか、ちょっと声が上擦ってしまう。

「……君は、俺たちと一緒にいて大丈夫なのか?」

 芳川会長の言葉に、五味は飲んでいた水を気管に詰まらせたのかいきなり噎せた。
 俺は一瞬目を泳がせ、口を紡ぐ。
 言われるとは覚悟していたが、思ったよりキツかった。

「……阿賀松先輩のことなら、誤解です」

 俺は重い口を開き、ハッキリと言い切った。
 阿佐美がピクリと反応し、俺の顔を見る。
 芳川会長は「そうか」と静かに呟き、持っていた箸をテーブルの上に置いた。
 同時に、ウェイターが料理が乗ったトレーを手にやってくる。
 なんだこの重い空気は。
 食堂全体が静まり返り、まるで会話に聞き耳を立てられているようで居心地が悪い。

「別に俺らに気を遣わなくてもいいんだからな」
「あ、いや、そういうつもりじゃなくて……本当、違うんで」

 口許を拭いながら、心配そうに顔をしかめる五味に俺は慌てて答える。
 どうやら、阿賀松の狂言は五味の元まで届いていたようだ。
 だからといって、生徒会に気を遣わせるわけにはいけない。
 一人話を聞いてなかった十勝は、口の中のハンバーグをごくりと呑み込み五味の肩を揺らす。

「ちょっとちょっとちょっと、なんの話?俺知らないんだけど!」
「うるせえなあお前はっ、いいんだよお前は知らなくても!」
「なにそれ!ズルいっ!俺も気になる!」

 ギャーギャーと騒ぐ十勝に、うんざりしたような顔をする五味は「わかった、後から言うから黙ってろ」と小声で十勝に言い聞かせる。
 渋々納得する十勝に、五味は小さくため息をついた。

「……佑樹君、食べないの?」
「ああ、そうだった」

 鉄火丼を目の前に箸すらつけていない俺が気になったのか、阿佐美は不思議そうな顔をした。
 俺は箸を手にし、鉄火丼を食べにかかる。
 本当なら楽しいはずの食事が、なんだか俺のせいで空気を悪くしてしまったような気がしてならない。
 変に、気を遣わせてしまった。
 俺は鉄火丼を口にかっ込み、なるべく早く食べ終わらせようとする。

「おいおい、そんな急がなくても飯は逃げねえって」

 とにかくこの席から離れた方がいいと判断した俺は、最後の一口をゴクリと呑み込んだ。
 呆れたような顔をする五味に、俺は「大丈夫です」と首を振る。
 自分でもなにが大丈夫かはわからなかったが、それ以上五味はなにもいってこなかった。

「……ごちそうさまでした」
「佑樹君早いよー……」

 両手を合わせ、小さく呟く俺に阿佐美は困ったような顔をする。
 周りに気を遣わせないようにと無理して食事を早めに終わらせたのが裏目にでた。
 すっかり阿佐美のことを忘れていた。

「ごめん……お腹減ってて」
「そうなの?」
「……ぼちぼち」

 嘘をつくのは苦手だ。自分で言ってて恥ずかしくなりながら、俺は一先ず息をつく。
 変に気張るんじゃなかった。逆に変なやつって思われたかもしれない。
 やることがなくなると、やけにマイナス思考になってしまう自分が情けない。

「よく食べるんだな」
「……いや、まあ」

 感心したように俺を見る芳川会長に、俺は語尾を濁す。
 正直、変に気張ったせいで胃のあたりが気持ち悪い。
 これからは具呑みはやめよう。俺は顔を引きつらせ、そう心に誓った。
 数分くらいして、阿佐美もペロリと鉄火丼を平らげた。

「じゃあ、俺たちは先に失礼します」

 自分の分の皿を片付け、テーブルに戻ってきた俺は三人に小さく頭を下げる。
 阿佐美はというと、一足先に食堂の外に出て俺を待っていた。
 次々と追加注文をしていく三人はどうやらまだ食堂に残るようだし、一応俺は三人に別れを告げることにする。

「えー、もう帰んの?この後デザート頼んでんのに。イチゴのやつ!佑樹に食べさせてやろーと思ったのに」
「あ、ありがとう。でも、今日はもうお腹いっぱいだし……」
「おい十勝、齋籐嫌がってんだろうが」
「もったいねー。もったいねー。まじでうまいのにー」

 ぶーぶーと拗ねたように唇を尖らせる十勝に苦笑する俺。
 五味は宥めるように十勝にいい聞かせるが、まったく聞いていない。
 芳川会長はそんな二人を横目に、小さく俺を手招いた。

「少し話したいことがあるんだが、いいか?」

 芳川会長は俺の耳に顔を近付け、そう耳打ちをした。
 まさか、俺なんか気に障るようなことでもしたのだろうか。
 俺は少しだけ表情を曇らせた。

「……いや、大した話しでもないんだが、すぐ終わる」

 俺の表情からなにかを読み取ったのか、芳川会長はそう付け足した。
 すぐ終わるのなら、阿佐美を待たせることもないだろう。
 少しだけ緊張しながら俺は、「大丈夫です」と小さく頷いた。


 ◆ ◆ ◆


「悪いな。わざわざ手間を取らせて」

 目の前に立つ芳川会長は、そう困ったように笑った。

 場所は食堂と厨房を繋ぐ長い廊下、にある男子便所前。
 賑わう食堂からだいぶ離れているせいか、喧騒がやけに遠く感じる。
 まさかこんな人気のない場所に連れてこられるとは思ってもなくて、俺は芳川会長の話がいいものではないような気がしてたまらなかった。

「……あの、話って」
「阿賀松のことだ」
「阿賀松……先輩?」

 なんでここで阿賀松の名前がでるのだろうかと俺は首を捻る。

「今日初めて知ったんだ、齋籐君が阿賀松に付きまとわれてるって」
「……いや、それは、その」

 面と面を向かって口に出されると、やはり複雑なところがある。
 確かに、付きまとわれていると言えば付きまとわれているが、そこまでハッキリ言われると微妙なところがあったりもする。
 返答に困り、俺は口をもごつかせた。

「……悪かった」
「か、会長っ」

 するといきなり芳川会長は俺に頭を下げた。
 何事かとぎょっと目を見開き、俺はどうすればいいのかわからず、恐る恐る芳川会長のに触れる。

「俺が齋籐君に話し掛けたりするから、阿賀松たちに付きまとわれているんだろう」
「別に、それは……」

 会長のせいじゃない。
 そう言いたいのに、実際問題その通りだから俺はなにも言えなくなる。

「頭を上げてください」あまりにも見ていられなくなって、俺は芳川会長の肩を掴み無理矢理頭を上げさせた。
 こうして並んでみると、芳川会長も背が高い。
 俺は軽く見上げるような形になって、芳川会長の顔を覗き込む。

「齋籐君……」
「あっ、す、すみません」

 切れ長の芳川会長の目に見つめられ、俺は慌てて手を離した。

「俺、そういうのあまり気しないんで、大丈夫です。会長も気にしないでください」

 口先だけ言ってみるが、やはり、どこかぎこちなくなってしまう。
 あまりにもわざとらしい台詞。
 芳川会長はなにも言わない。なにか言わなきゃ。元気のない芳川会長を前に、変な焦燥感に駆られる俺。
「そ、それに……」慌てて言い足そうとするが、気の利いた言葉が出てこない。

「お、俺は……芳川会長に話し掛けられて嬉しかったし……」

 なにか話そうなにか話そうとばかり考えていたら、とっさにそんなことを口走ってしまう。
 なに言ってるんだ俺、馴れ馴れしすぎるだろ。
 言ってから、俺はあまりにも直球過ぎる自分の言葉に俺は酷く後悔した。
 芳川会長は、そんな俺の一言に目を丸くし、俺の顔を凝視する。

「……嬉しかったのか?」
「えっ、いや、あの……変な意味じゃなくて、その」

 聞き返してくる芳川会長に、俺はしどろもどろと次の言葉を探すが出てこず、黙り込んだ。
 恐る恐る芳川会長の顔に目をやると、芳川会長は慌てて顔を逸らす。
 黒髪から覗く会長の耳が仄かに赤くなっていた。
 もしかして、照れてる……?
 芳川会長が照れていることに気が付いた俺は、じわじわと顔に熱が集まってくるのを感じた。

「悪い、……そんなこと言われると思わなかったから」

 芳川会長は、気を取り直すように小さく咳払いをしそう言った。
 俺自身、そんなこというなんて思いもよらなかった。

「俺も、嬉しい」
「あ、ありがとうございます……」

 気恥ずかしそうに目を逸らしながらそう呟く芳川会長に、俺はごにょごにょと答える。
 そこで会話は途切れ、妙な沈黙だけが残った。
 なんだろうか、この変な感覚は。もどかしいというか、面と面を向かってこんなことを言うのは少し照れてしまう。

「そうだ。今朝は、ありがとうございました」
「今朝?……ああ、朝食のことか?」

 言葉の足りない俺に芳川会長は一瞬不思議そうな顔をするが、俺の言葉を理解したようだ。
 芳川会長の言葉に、力強く俺は頷く。

「こちらこそ、いきなりの誘いに乗ってくれてありがとうございました」

 芳川会長は小さく笑った。
 ちょっとした冗談のつもりらしいが、俺はどう答えればいいのかわからなくて「滅相もないです」と首を横に振る。
 いま思えばつまらないやつだったかもしれない。恐縮する俺に、芳川会長は楽しそうに笑った。

「……齋籐君」
「はい」

 一頻り笑った芳川会長は、真面目な顔になって俺の名前を呼ぶ。
 急に畏まる芳川会長に、俺は緊張ぎみに答えた。

「また、話し掛けてもいいだろうか」

 俺は、芳川会長の言葉に思わず目を丸くした。
 芳川会長はというと、至って真面目な感じで冗談を言っているようにも見えない。
 そんなことを聞かれたのは初めてで、俺は少しだけ目を泳がす。
 やけにストレートな芳川の問い掛けに、俺は顔を熱くした。
 わざわざ俺に聞いてくるということは、会長なりに遠慮しているのだろう。
 わかっているが、芳川会長の言葉はあまりにもストレートすぎて俺は戸惑った。

「どうぞ、ご自由に……」

 あまりにも動揺しすぎて、妙なことを口走ってしまう俺。
 芳川会長は「そうか」と嬉しそうに目を細めた。
 緊張しているせいか、自然と拳を握りしめてしまう。
 芳川会長に話し掛けられるのは嬉しいが、同時に不安を感じた。
 阿賀松たちや親衛隊とかいう組織のこともだが、なんで会長が自分なんかに構うのかが気になって仕方がない。
 会長が周りからは敬遠されているという志摩の話を聞いていたせいか、妙に後ろ向きな考えを持ってしまう。
 転入生というのは、そんなに目立つものだろうか。

「あ、あの、じゃあ俺はこれで……」
「ああ、わざわざ呼び出してすまなかった」

 これ以上一緒にいると、誰かに見られるかもしれない。
 そんなことを考えた俺は、焦るように芳川会長に別れを告げようとした。

「外、阿佐美君を待たせてるんだろう?」

 芳川会長の問い掛けに、俺は頷く。
 阿佐美のことだから勝手にフラフラと部屋に帰っているかもしれないが、それでも待たせていることには変わらない。

「道、わかるか?」
「はい、大丈夫です……失礼します」

 俺は芳川会長に小さく頭を下げ、会長とやってきた長い廊下を渡り騒がしい食堂内へと戻る。
 芳川会長は俺のことを気遣ってくれているのか、俺の背中が見えなくなるまで時間をずらして食堂へ戻っていた。
 食堂を出ると、扉の横の壁に凭れていた阿佐美を見つける。
 阿佐美は、俺に気が付くと駆け寄ってきた。

「ごめん、少し遅くなっちゃった」

 芳川会長と話していたときはあまり感じなかったが、思ったよりも時間が過ぎていた。
 謝る俺に、阿佐美は首をぶんぶんと横に振る。
 まるで『そんなことはない』と言うかのような阿佐美に気を遣われているような気がして、俺は苦笑した。

「それじゃあ、戻ろうか」

 そう阿佐美に声をかけると、阿佐美は頷いた。俺が歩くすぐ後ろから無言でついてくる阿佐美。
 通り過ぎていく生徒の視線が痛いのは、背後についてくる阿佐美のせいなのだろう。
 俺たちは、視線から逃げるようにしてエレベーターに乗り込み三階へと向かった。

 部屋に戻ってきた俺は、まずソファに腰をかけた。
 そのままベッドに飛び込もうとしたのだが、『食べたすぐ寝るのはよくない』という親の言葉を思い出し、代わりにソファで一息つく。
 阿佐美は大きな口を開け派手な欠伸をしながら、洗濯機から服を取り出していた。やっぱり、会話がない。

「……」

 リモコンを手に取り、テレビをつける。ニュース番組が写し出された。アナウンサーの声を聞き流しながら、ちらりと阿佐美の方を伺う。
 阿佐美はすっかり乾いた洗濯物をバサバサと自分のベッドの上に置いていた。
 初めてこの部屋に来たときも思ったが、どうやら阿佐美はひどくずぼらのようだ。
 別に阿佐美の母親ではないのでキチンと畳めなどと口を出すつもりはないが、阿佐美の大雑把さにはたまに驚かされる。
 もしかしたら自分が几帳面なだけで、周りから見れば当たり前なのかもしれないが。

「……詩織?」
「なあに?」

 洗濯物をベッドの上にばら蒔いたと思えば、今度は無言で部屋を出ていこうとした。
 とくに意味はなかったが、俺はふと阿佐美を呼び止める。
 ドアノブに手をかけた阿佐美は、こちらに振り返った。

「鍵、ちゃんと持ってる?」
「……あっ」

 適当に聞いてみたら、どうやら阿佐美は鍵を持っていないらしい。

「この前みたいに部屋に入れなくなったら困るから、一応持っていってよ」
「わかった」

 阿佐美の帰りを待つために扉を開いていると、いつ阿賀松がやってくるかわからない。
 先ほどのことを思い出し、ぶるりと背筋を凍らせる俺。
 阿佐美はとことことテーブルまでやってくると、鍵を手にして再びドアノブに手をかける。
 部屋を出た阿佐美が、ガチャリと鍵をかけるのを確かめ俺は小さく息をついた。
 一人部屋に残された俺は、背を凭れさせテレビを眺める。
 寮生活というのは、一般社会から隔離されたようなイメージがあったがそれは俺の偏見だったようだ。
 テレビもあるし、きっと一階にいけば雑誌も新聞もあるだろう。
 おまけに、届を出せば自由に外へ出られるらしい。
 親から見てそれがいいのか悪いのかよくわからないが、俺からしてみれば寧ろ贅沢にすら感じた。

「……寝よ」

 一通りチャンネルを回してみるが、手を止め見入ってしまうようなものはない。
 諦めた俺はリモコンを手に、テレビの電源を落とす。
 すっかりやることがなくなった俺は、一眠りすることにした。
 まあ、少し横になるだけだし。
 親の言葉を思い出し、俺はそう心の中で言い訳じみたことを呟く。
 志摩の部屋に遊びに行くことも考えたが、志摩だって一日中俺の相手をするのは嫌だろうと思い諦めた。

「……はあ」

 別に眠たいわけじゃないが、とにかく時間を潰したかった。
 でも、この時間帯部屋から出るのは少しだけ怖い。
 ソファから立ち上がり、俺はノロノロとベッドに飛び込んだ。
 明日から、少し早めに部屋を出よう。俺は布団のなかに潜り込み、目を瞑った。
 最初はなかなか寝付けなかったが、暫くして意識が途切れる。

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