尻軽男は愛されたい


 05

「ねえ、これさーきよのじゃないのお?なんで君が持ってんのかなあ」

 間延びした声とともに、手首を強く握られる。携帯電話を片手に持っていた多治見は、言いながら携帯電話を閉じた。同時に、先程までうるさく鳴っていた着信メロディが切れる。
 どうやら此花の携帯にしつこく電話をかけていたのは多治見だったようだ。

「……公太郎」

 此花は、俺の背後に立つ多治見に目を向け、バツが悪そうに顔をしかめる。
 どうやら此花にとっても多治見がここに来るのは予想外だったようだ。
 俺としてはしんみりと名前を呼ぶより先に、俺からこいつを離してほしいのだけれど。ギリギリと絞められる手首が痛くてしょうがない。

「きよ、ぼくずっと待ってたのに置いてけぼりにするなんて酷いよう」

「しかも、ぼくの知らないところでぼく以外の友達つくるなんて」一瞬、多治見がなんのことを言っているのかがわからなかった。
 友達って、俺のことか?どういう風に見れば俺と此花が仲良さげに見えるのだろうか。まあ、俺としては此花と仲良くしたいところなのだけれど。

「置いてけぼりって……今日は無理だって言っただろう」

「それに、そいつは友達じゃねえ」わざわざご丁寧に否定してくれる此花に、俺の繊細な心が傷つけられる。
「そうなのー?」多治見は小首を傾げながらそう俺に聞いてきた。

「ええ、俺と此花先輩は友達以上の仲で」

 言いかけて、近付いてきた此花に無理矢理掌で口許を塞がれる。余計なことをいうなと眼差しで訴えかけてくる此花はかなり焦ったような顔をしていた。
 別に聞かれて困るようなことを言った覚えがないが、まあいい。
 俺は了解しましたという意味を込めて此花の掌に舌を這わせれば、ものすごい早さで此花の手が離れた。

「公太郎、手離してやれ」

 多治見を見据えた此花は、そう言いながら小さく顎でしゃくった。
 どういう風の吹き回しだろうか。せっかく俺を好きに殴れるチャンスだというのに俺を解放させようとする此花に、俺は目を丸くする。
「……むー」腑に落ちないのか、唸る多治見だったが渋々と俺の手首から手を離した。
 じんじんと痛む手首を擦りながら、俺は意味がわからないと言った顔で此花に目を向ける。

「ほら、これ」

 此花は、そう言って鞄を俺に押し付けた。俺の鞄だ。
 相変わらず空気のように軽い鞄を受け取った俺は、つられて「どうも」と会釈してしまう。

「帰るぞ、公太郎」

 俺に鞄を返した此花は、それだけを呟けばそのまま踵を返し校門前に向かって歩き出した。
「ちょっと、きよ。待ってよう」構わずこの場から離れようとする此花に、多治見は慌ててその後を追いかける。
 くそ、殴られ損かよ。
 さっさと立ち去る此花の後ろ姿を見詰めながら、全身が酷い脱力感に襲われる。
 多治見が来る前はあんなに殴る気満々だったのに、なんなんだ此花は。もう少し構ってくれてもよかったんじゃないのか。おまけに、ポーチも取られるし。
 もしかしてあれか、俺から多治見を離すためにわざとああ装ったのだろうか。
『やだ、木江が俺のせいで公太郎にいじめられてる!助けなきゃ!でも公太郎って木江のこと嫌いっぽいからわざと木江に冷たくしよう!ごめんね木江愛してる』ということなのだろう、恐らく。
 なんてふざけた自己解釈をしながら、俺は二人が立ち去った後を眺めた。
 今さら二人の後を追いかける気にもなれなくて、俺は擦っていた手首に目を向ける。
 多治見の爪痕がくっきり残ったそこは赤くなっていて、俺は血が滲む爪痕に舌を這わせた。
 染みる。

 此花たちと別れた俺は、そのまま校舎裏を出て校門前へとやってくる。
 殴られた顔と掴まれた手首が痛い。自業自得と言われればそれまでなのだけれど。
 鞄も返ってきたし、一応は伏見のことも聞き出せた。
 二年C組か。確か、愛斗もC組じゃなかったっけ。知らないけど。ぼんやりとそんなことを考えながら俺は校門をくぐる。

「終わった?」

 丁度校門を出たのと同時に、声をかけられた。
 声のする方へ目を向ければ、ジャージ姿の生徒もとい信楽相馬が笑いながら立っていた。どうやら、俺のことを待っていてくれたらしい。校門に寄り掛かっていた相馬は、笑いながらこちらに近付いてくる。

「なに、俺のこと待ってたりしてくれたわけ?」
「まあな、一人で帰るのは寂しいんじゃないかと思って」

 問い掛ける俺に、相馬はそんなことを言い出した。
 恐らく愛斗とのことを言っているのだろう。
 半分はお前のせいなんだけどなと言いそうになるのを堪えながら、俺は「一人で寂しいのはお前の方だろ」と笑った。
 まあ、俺自身が寂しくないのかと言われれば寂しいことには違いないのだけれど。

「バレた?まあいいだろ、たまには。フラれたもん同士仲良くしようぜ」

 やけに爽やかに笑う相馬に、俺は「フラれてねえよ」とむっとする。というかフラれたのか、お前。
 まあどうせ昨日の飲み会で女子にまたデリカシーのないことを言ったとかその辺りなのだろう。
 別に相馬が女子に嫌がられようが構わないが、なんで俺まで仲間扱いされているのかがわからない。

「冗談に決まってんだろ、怒んなよ。ほら、さっさと行くぞ」

 仏頂面の俺に、相馬はそう言いながら俺の背中を叩き促した。
 そんな縁起の悪い。
「わかったから押すなよ」別に相馬と帰ること自体に不満はなかった俺は、促されるがまま再び歩き出す。

 薄暗い夕焼け空を背後に、俺と相馬は歩道を歩いていた。
 見慣れた制服の学生たちに混ざって、俺たちは他愛ない話をしながら帰る。


「そういや愛斗は?一緒じゃねえの?」

 駅前の商店街。
 それまでどうでもいい話をしていた俺は、そう相馬を横目に尋ねた。いつもなら、愛斗は相馬を筆頭に部活の連中と一緒に帰っているはずだ。愛斗と相馬が一緒じゃないというのも珍しい。
「ああ、古賀?」不思議がる俺に、相馬はそう聞き返す。

「古賀なら先に帰ったよ」
「あーそうなの?」

 そうなんでもないように答える相馬に、俺はそう適当に返した。
 まあそんなことだろうとは思ったが、流石に誰と帰ったのかとか野暮なことを聞く気にはなれなかった。
 咄嗟に昨日の女子数人の顔が頭に過り、俺はそれを振り払う。
 相馬も誰かと帰ったと言ったわけではないのに女子たちに囲まれて帰宅している愛斗を思い浮かべてしまう自分は相当きているようだ。

「いや、でも相馬と愛斗が一緒じゃないってレアだよな」

 気を紛らすように、俺はそう強引に話題を逸らす。
「そうかあ?」俺の言葉に相馬はそう呆れたように笑った。

「大袈裟なんだよ。別にそんなことないって」
「なんか俺、いっつも愛斗と会う度相馬がいるような気いすんだけど」
「なんだ、木江俺に妬いてんの?」

 涼しい顔をしてそんなことを言い出す相馬に、浮かべていた笑みが凍り付く。
 妬くって、俺が?相馬に?まさかそんなことを言われるとは思ってもいなくて、素で硬直した俺はなんとも言えない気分になった。

「……いやいやいや、あり得ねえって。なんでそうなるんだよ」

 俺はそう自分に言い聞かせるように口にする。可愛い女子ならまだしも、なんで相馬に嫉妬しなきゃいけないんだ。
 動揺する俺を見て、相馬は「だよなー」とか言いながら笑う。どうやらただの冗談らしい。

「木江ってあんまないもんな、束縛とか」

「自分がされたくないことはしない主義なの」そう思い出すように続ける相馬に、俺は素面のまま答えた。
 現に俺は愛斗相手に「誰と話すな」だとか「誰と遊ぶな」と強要したことはない。
 ただ、愛斗が女とはしゃいでて面白いと言えば嘘になるが。

「じゃあ古賀の相手とか結構あれなんじゃねーの?あいつ束縛キツそうじゃん」

 相馬はそう笑いながらそんなことを言い出した。
 なにが言いたいのだろうか。俺は隣を歩く相馬を横目で一瞥し、「そうかもな」と適当に流す。
 なんとなく、この手の話題は苦手だった。理由はわからない。一方的に腹の内を探られるようで、あまり気持ちよくなかった。
 横断歩道の前までやってきた俺たちは足を止め、信号が青に変わるのを大人しく待つ。

「おーい、だいちゃーん」

 不意に、向かい側の歩道から聞き慣れた明るい声が飛んできた。
 声のする方に目を向ければ、ヘラヘラと笑いながら俺に向かって手を振ってくる派手な男子生徒が一人。
 複数の友人に囲まれていた國見七緒は、車道に飛び出してきそうな勢いで俺に手を振る。
 人前で名前呼ぶなっての。思いながら、俺はできる限りの優しい笑みを浮かべ手を振り返した。

「ああ、あれが噂の一年?」

 隣に立っていた相馬は、そうおかしそうに笑いながら七緒に目を向ける。
「なんだよ、噂って」どうせろくなものじゃないのだろうけれど、なんとなく気になった俺はそう相馬に問い掛けた。

「あれ、知らねえの?木江にしばかれて無理矢理パシられてる一年って有名じゃん」
「……」

 俺はいつからそんな番長キャラになったのだろうか。
 ヘラヘラと笑いながらそんなことをいう相馬に否定できない自分が悲しい。

「確か古賀がうざがってるやつだろ、あいつ」

 思い出したように続ける相馬は、軽く向かい側の歩道を顎でしゃくった。
「へえ、よく知ってんな。愛斗が言ってたの?」愛斗が七緒のことを邪険にしているのは知っていたが、相馬がそのことを知っていることに素で驚く。

「顔見ればすぐわかるだろ、人の好き嫌いなんて」

 相馬はそう口許に笑みを浮かべれば、信号機に目を向けた。
 同時に、信号機は赤から青に変わる。相馬は足を進め、向かい側の歩道へと移動する。
 流石幼馴染みと感心する反面、なんとなく相馬の言葉に含みがあるように聞こえた。
 微かな違和感を覚えた俺は、敢えて聞き流すことにした。

「大ちゃん、また今日サボったでしょ。俺ずっと大ちゃん来るの待ってたのに」

 相馬の後を追うように横断歩道を渡れば、七緒は言いながら俺に詰め寄ってくる。
「あー悪い悪い」拗ねるように唇を尖らせる七緒に、俺はそう笑いながら適当に謝った。

「ほら、お前友達待たせてんじゃないのかよ」

 人目も気にせずベタベタとくっついてくる七緒を避けながら、俺はそう話を逸らす。
「先行かせたから少しくらいなら大丈夫!」どさくさに紛れて抱き着いてくる七緒を剥がし、俺は先ほどまで七緒の友人たちが溜まっていた場所に目を向ける。七緒のいう通り、そこには誰もいなかった。

「そっか、なら早く行ってやらないとな」

 甘えたがりの七緒の性格は暇なときほど可愛がってやりたくなるが、残念ながらいま俺は暇ではない。
「えー、やだ。せっかく大ちゃんと一日振りに会えたんだもん。大ちゃんと一緒にいる」俺はそう宥めるように言えば、七緒は拗ねたように頬を膨らませる。
「我が儘言うなよ」駄々を捏ねる七緒の頭を撫でながら、俺は困ったように相馬に目を向けた。

「ん?別にいいんじゃねえの、一緒でも。どーせ帰るだけだし」

 助けを求める俺の視線に気が付いたのか、相馬はそう俺に笑いかけてくる。
 相馬なりに気を遣ってくれた結果なのだろうが、この場で七緒を離したかった俺としてはお節介としか思えない。

「だってよ大ちゃん、いいじゃん。この人もそう言ってるんだから」

 相馬の言葉にはしゃぐ七緒は、言いながら俺にまとわりついてくる。
「変な気遣うなよ」俺は詰るように相馬に目を向けた。
「だってこのまま放っとくのも可哀想じゃん」顔をしかめる俺に、相馬はそう笑いながら言う。
 確かに七緒の性格を知らなければ可哀想に見えるだろう。
 甘やかせば甘やかすほど付け上がりエスカレートしてくる七緒を知っているからこそ、俺は相馬の言葉に頷くことはできなかった。

「七緒、悪いけど俺こいつと用あっからさ」

「また明日な」これ以上七緒を好きにさせておいたら本気でついてきそうなので、俺はそう七緒に釘を刺すことにする。
「えっ」一瞬俺の言葉が理解できなかったのか、七緒は目を丸くした。

「邪魔すんじゃねえよ」

 俺はそう笑い、相馬の腕を掴んだ。
「……邪魔って」驚いたような顔をする七緒から顔を逸らせば、俺はそのまま歩き出した。
 七緒から逃げるように歩き出して離れた場所までやってきたとき、俺は相馬の腕を離す。周りに目を向けるが、七緒はついてきていない。

「いいのか?あんな冷たくして」

 相馬はそう心配そうな顔をしながら俺に声をかける。
 冷たくしたつもりはないが、相馬からしてみればそう感じたのだろう。なんか岸本にも似たようなこと言われたような覚えが……。

「いいんだよ。今度ちゃんと埋め合わせするから」

 俺がそう言えば、相馬は「なら大丈夫だな」と能天気なことを言い出した。

「てか、すっげえ睨まれちゃったんだけど」
「誰に?」

「あの一年に」聞き返す俺に、相馬はそう笑う。
 あの一年とは言わずもがな七緒のことだろう。もしかして俺が変なことを言ったせいだろうか。思い返しながら、俺は「悪いな」と苦笑を漏らす。

「謝んなよ、お前が謝るとこえーんだってば」

 こいつ本当失礼なやつだな。
 気を取り直すように笑みを浮かべる相馬に、俺はむっとしてすぐに頬を緩めた。
 なにも言わずに再び帰路を歩き出す俺に、相馬は隣に並んでくる。

「でさ、どっちが突っ込んでんの?」

 歩道を歩いていると、不意に相馬はそんなことを尋ねてきた。
 あまりにもいきなりすぎる相馬の言葉に俺は硬直する。
「……なにが?」しらばっくれるつもりはないが、そう聞き返さずにはいられなかった。

「だから、あの一年と木江だよ。ヤってんだろ?」

 爽やかな笑みを浮かべながら続ける相馬に、俺は絶句してしまう。
 いや、確かにヤることはヤってるけど。まさか相馬の口からこんなことを聞かれる日がくるとは思ってなくて、俺は呆れたように目を丸くさせた。

「……あっちだけど」

 こんなことで動揺してしまう自分がなんとなく恥ずかしくなって、俺は言いながら相馬から視線を外した。
「やっぱり?」すると、相馬はそう楽しそうに目を細める。

「だよなー、俺も木江は突っ込むより突っ込まれる方が似合ってるって思ってたもん」

 なんでもないようにそう続ける相馬は、褒めているのかバカにしているのかよくわからない調子で笑った。

「……えってか、なに?セクハラ?セクハラなの?」

 突拍子のない相馬の言動に、俺はそうひきつった笑みを浮かべる。
 今さらなにを言われたところで恥じるつもりはなかったが、やはりただの友人に言われるのとは意味が違う。平静を装うように笑ってはみるが、頬の筋肉がつってうまく笑えない。

「気になったから聞いただけだって、興奮すんなよ?」

 いつもの調子で笑いかけてくる相馬に、俺は「しねーよ」と即答する。
 いくら男とやろうが、流石の俺でも友人相手にヤることはできない。
 ポリシーというわけではないが、思い出があればあるほど集中できなくなってしまうのだ。我ながら可愛いやつだと思う。

「でも、古賀悲しむんじゃねえの?まともに手も繋いだこともない恋人が他の人間と遊びまくってたら」

 相馬の言葉に、俺は目を細めた。珍しく一緒に帰ろうとか言い出すからなんだと思ったが、なんだ。ただの説教か。
「別に他のやつ好きになってるわけじゃねえんだからいいだろ」俺は呆れたように笑いながら、そう相馬に言い返す。

「てかなんだよ、さっきから。愛斗になんか言われてんの?」
「いや、古賀は関係ないな」

 不満げな俺に相馬はそうキッパリと断言した。
「ただ……」だったらなんだよと言いかけたとき、相馬が口を開き俺に目を向ける。
「ただ?」変に勿体ぶる相馬に目を向けながら、そう俺は聞き返した。

「俺がヤらせてっていったら、お前ヤらせてくれんの?」

 口許に笑みを浮かべる相馬は、そう俺に目を向けた。
 ああこいつもしかしてあれか、岸本と同じタイプの人間か。涼しい顔して露骨な誘い文句を口にする相馬に、つられて俺は笑った。

「愛斗がいいって言ったらな」
「なんだよそれ、一生できねーじゃん」

 俺の言葉に、相馬は可笑しそうに笑った。
 愛斗の性格をよく知っている相馬は、俺が遠回しにヤらないと言っていることに気付いたのだろう。それ以上無理強いするようなことは言ってこなかった。

「……つか、なに?相馬、お前そーいう趣味だっけ」

 愛斗よりかは浅いが、俺だって一応相馬とは中学の頃からの友人だ。
 でも、俺はこれまで一度も相馬とやるだとかやらないだとかの会話を交えたことはない。
 なにより、相馬が俺相手に不健全な思考を働かせていたことに驚いた。悪い気はしない。
 笑いながらそう尋ねる俺に、相馬は目だけ動かし俺を見た。

「趣味ってか、ほらやっぱ興味あんじゃん。身近に男とヤってる男がいるとさ、想像とかしちゃうだろ?」

 本人の前でいうか、普通。自分から聞いておいてあれだが、あまりにも飄々とした調子で続ける相馬に俺は目を丸くする。

「なにそれ、じゃあ俺で想像とかしちゃうわけ?」

 気を取り直した俺は、にやにやと笑いながらそう相馬に問い掛けた。
 俺を見据える相馬は、相変わらず涼しい顔をして「するよ」と笑う。
 爽やかな笑顔で恥ずかしげもなくそう答える相馬に、俺は呆れて笑いしかでなかった。
 こんな身近に自分で妄想をしている人間がいるとは思わなくて、思ったよりも興奮している自分がいた。

「なあ、俺でどんな想像してんの。教えろよ」
「は?ここで?」

 相馬を横目に続ける俺に、相馬は驚いたような顔をした。
 人通りは少ないとはいえ、いつ人が来てもおかしくない歩道の上。流石の相馬も一応周りの目は気にしているようだ。そう思った矢先、相馬に腕を掴まれ無理矢理体を寄せられる。
 強引に耳元に顔を近付けてくる相馬に、俺は少しだけ驚いた。

「古賀の目の前でお前をぐちゃぐちゃに犯す想像」

 そう囁く相馬の声が鼓膜から体内へと染み込み、胸が熱くなる。
 耳元に生暖かい吐息がかかり、自然と背筋が震えた。
「すっげー抜けるから」そう笑いながら、相馬は俺から顔を離す。

「……悪趣味」

 もう少しオブラートに包むとかそういうあれはできなかったのだろうか。
 俺は浮かべた笑みをひきつらせながらそう呟く。

「よく言われる」

 俺の言葉に気を悪くするわけでもなく、相馬はそう笑いながら俺から腕を離した。
 想像とはいえ、妙に生々しい相馬の想像に俺はなんとも言えない気分になる。
 まあ興奮してないと言えば嘘になるのだけれど。

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