黄瀬と笠松 承







理性ってさ
多分うっすいガラス板みたいなモンだと思うんだよね

簡単に壊せてしまう脆い壁みたいなモンだと思うんだよね

……そんなうっすいガラス板の向こうに、脆い壁の向こうに、惚れてるヒトが無防備な姿晒して、オレに無邪気な笑顔向けたりなんかしたらさぁ…








〜承〜







「でよ、森山がさー…」
「……。」
「?黄瀬?」







……あ〜…ダメだ
もう、限界。

笑った顔可愛すぎる
黄瀬?って呼ぶ声が好きすぎる
汗がしっとりと馴染んでいる健康的な身体が堪らない


……触りたい
キスして、抱きしめたい
欲しい、このヒトが。




「おい、どう――…っ痛ッ…?!」




ガシャッとロッカーが派手に音を立てる。頭では繰り返すように『やめとけ、オレ!』って(オレの残された良心、が)叫んでる。

練習後、二人きりで着替えに戻った狭い部室。Tシャツを脱いで、タオルで汗を拭いながら何気ない会話を交わしていたけれど、もう我慢の限界だった。


先輩の両肩を掴んで後ろに押さえ付けていたのはもう無意識。
気付いたときには目の前に先輩の驚いた顔と、手に、先輩の引き締まった筋肉を感じた。


何回も想像した。
我慢してた。
…やばい、止められない。



「な、なんだよ??俺なんか…怒らせるよーなこと言ったか??」
「…先輩。」
「ッ…痛ぇって!黄瀬!!」
「……先輩、」



オレは何回も想像した。
だけどこの人はこんなシチュエーションになってもわかってないし気付いてない。
バスケのことには敏感なのに、こーゆうことにはマジで鈍感なんだね。

それでも、
そーゆうとこも、



「…好き、」
「は!?なにが??!つか痛ぇっつって――」
「好きです、笠松先輩。」
「……、…は??」



でかい目がさらにでかくなった。
先輩の目の色って、ちょっと茶色なんだな。
…あ、オレ、が
(………映ってる…。)




「黄、…瀬っ…んンッ――???!!!!」
「(…意外と柔らかい。)」
「んっ…んン!ん、ン…!!」


オレの方が背高い
オレの方がガタイいい
オレの方が力強い
それに加えて、あんた無防備だった

押さえ込むの、こんな簡単だったんだね
抵抗されても、こんなもんなんだね



「…、っ…黄瀬っ…なん、」
「先輩が悪いんスよ。」
「ちょっ…、黄っ、瀬…ンッ…!!!」




慌てて押し返そうとしてくる。
でもそんな力じゃ無理だよ先輩。
なにがなんだか分からないって顔も、もうオレの理性を壊す要素にしかならないよ。

抵抗してきても押さえ込むことは簡単で、逃げるように顔を背けられても、無理矢理キスすることも簡単で

…マジで、止められない。

バスケばっかやってきたから慣れてないんだろうね
舌入れたら面白いくらいに身体がビクッてなって、それが余計にオレを煽っていく。

先輩もう気付いてる?
オレあんたに告白して、こんなことしてんだよ
気付いてるよね?

自分がそういう対象として、オレに見られてたんだって。






「は、…はっ…、っ…」
「…ごめんね。」
「…、……、……。」




どのくらいだろう
何回も逃げる舌を追いかけて、絡めて、深くキスをして

ハッと気付いたら先輩はずるりと膝から崩れ落ちて、必死に息を吸い込むように乱れた呼吸を整えていた。

ごめんね、って言葉にも先輩は反応しなかった。
ただ、自分が何をされたのか分かってなくて、戸惑っているようだった。




「…先輩。」



後先考えずに行動する、って、そういうの…誠凜の奴らじゃあるまいし、オレはしないって思ってたのにな。

もっとじっくり時間かけてアプローチして、かっこよく告白して、
……そんで、ゆっくりでもいいからオレのこと、好きになってもらえたらって

……そんな夢みたいなことを本気で考えてたりして


でも、我慢できなかった。
多分こうでもしなきゃ、不本意だけど…こういうことにならなきゃ、あんた一生オレの気持ちには気付かなかったと思うよ。

バスケ一筋でレンアイなんて興味ないってところも、好きだけどさ…





「…好きになってごめんね。」





しゃがみ込んだまま動かない先輩に一言だけ、そう言って

オレは部室を出た。
振り返れなかった。



次の日
オレは練習をサボった。








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