バレンタイン小説
男だったらこの時季は誰でもソワソワすると思う。
ちょっとの期待と押し潰されそうな不安を、誰しもが胸に秘めているものだ。
オレも毎年そうだった。
そして毎年『ちょっとの期待』は無駄に終わっていた。
でも今年はどうなんだろう。
オレはどの立場にいるんだろう。
今までは『もらう側』だったからただソワソワしていたけど…今は、…付き合ってる人がいる。
それが女の子なら今まで通り『もらう側』でいればいいだけ。
でも、そうじゃない場合はどうするのが正解なんだろう。
オレは…『あげる側』になるのかな…?
付き合ってるっていっても…メールで些細なやりとりしかしてない。
デートらしいデートもしてない。
…というか。
(恋人っぽいことなんか1回もしたことないような…)
…キスされそうになったことはあったけど、あんまり突然だったもんだから…逃げちゃったんだよね…
そのあとすぐ電話くれて、追いかけてきてくれたから気まずい雰囲気にはならなかったけど。
…今思い出しても恥ずかしいくらい、…あのときはほんとにビックリした…
あんま意識せずに付き合うことになったけど、多分…なんていうか…そういうコト、なんだろうなって…気付いた瞬間でもあった。
だから、つまり。
…オレが…女の子側って…こと。
(「キスされそうになってから気付くとか馬鹿ですか」って黒子から言われたしな…)
で、今言いたいことは、
女の子側ってことはさ…オレ、『あげる側』ってことだよね、やっぱり…うん。
"2月14日"
"バレンタインに"
"チョコレートを"
"あげる側"
オレが、"赤司に"、だ。
〜バレンタイン小説:赤降〜
………買った…。
…すんごい女の子だらけの中、店員さんの視線に負けずに買ったオレ、偉い。
ぜったい変なヤツだって思われたよ〜…
(ちょっとクスクス笑ってたしっ)
あーもう、恥ずかしすぎた…
だけど、その結果今オレの手の中には戦利品があるわけで。
「…喜んでくれるかな…」
独り言をぼそりと呟く。
オレ的にはかなり奮発したんだよ。
こんな一粒500円くらいするチョコレートの存在すら知らなかったんだから。
4つ入りで2000円…痛い出費だ。
だけど、見た瞬間思った。
赤司にはこういうチョコが似合うって。
小さいけどギュッと詰め込まれた魅力、高級そうな外見、そういうのが赤司っぽいなって。
紙袋のゴ●ィバの文字に、ふふっと笑みが零れてしまった。
まぁ赤司のことだから毎年いっぱい貰ってるんだろうけど…洛山も共学だもんね。
(山ほど貰ってそうだよほんと…)
今日は2月14日、バレンタイン当日だ。
先日貰った赤司からのメールを読み返しながらオレの足は無意識に早足になっていた。
『2月14日の夜になるけど東京に向かう用事があるんだ。光樹、会えるかな。』
『えっ、会いたい!』
『僕もだよ。20時に●×駅の前で待ってる。』
指定された駅はもうすぐそこ。
指定された時間まではまだ1時間くらい余裕があるのに、早足はいつの間にか、小走りにまでなっていたんだ。
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