バレンタイン小説







2月14日。
その日部室で顔を合わせるなり、紫原はウゲッと眉を寄せた。
視線は今しがた部室に足を踏み入れた氷室の両手に注がれている。




「…うわー…、すっごい量…。」
「アツシこそ。」
「オレのは義理ばっかだし。室ちんのは絶対ぜんぶ本命でしょ。」



予想はしていたけどやはり面白くない、という顔になってしまうのも無理はない。
なぜなら本当にその量が半端ではないからだ。

確かに指摘された通り、一応紫原もかなりの量を貰ってはいる。足元に置いていた紙袋から覗くチョコレート達がそれを証明していた。
それでも「アツシこそ」という氷室の言葉は厭味にしか聞こえない。




「すごいねー…特大紙袋3つ分って何なのそれ。室ちんジャ●ーズなの?」
「…アツシもしかして妬いてる?」
「妬いてねーし。」




冗談を交えた問い掛けに、普段と変わらずに間髪入れずそう答えた紫原に対して、「それは残念。」とクスクス笑いながら氷室はロッカーを開けた。

ぎゅうぎゅうと紙袋全てを無理矢理詰め込み(チョコレートの形が崩れてしまうとか全く思わないのがこの男である)、Tシャツに着替え始める。

こんなことで妬いてくれるなんて本気で思った訳じゃない。だから冗談で「残念」と零しただけだったのだが、そう答えた後からずっと、背中に紫原の視線を感じていた。
それは着替えが終わってもまだ続いていた。

さすがに何だろうと思って視線を合わせる。




「…なに?アツシ?」
「…、……つーか、信じてるから。」
「?何を??」
「…室ちんはオレが好きって。信じてるから妬かねーの。」
「え、」
「オレも室ちんが好きだから、誰にも渡す気ねーし。」




だから妬いたりしないし、と真っ直ぐな瞳でそう言われて氷室の身体は固まってしまった。
心臓をプスリと射抜かれた瞬間である。





「そ、そう、か…、はは…、」
「?は?なにその動揺?」
「あ、アツシは本当に俺が好きだよな…はは、は、」




ササッと視線を反らされながら妙に不細工に笑う氷室の姿に紫原は目を丸くする。
黒髪から覗く耳が、これでもかというほどに赤く染まっているのだから思わず釘付けになっても仕方ない。

紫原もまた、この瞬間、心臓を射抜かれていたのだった。




「………室ちんさぁ、」
「…な、なに、?」
「そーゆー台詞はさ…真っ赤な顔で言っても格好つかないって分かってる?」
「………そ、う、だな…」
「なんなの、今日めっちゃ素直じゃん。」
「…あ、アツシこそ、顔赤いくせに…」
「だから室ちんのせいなんだけど?」




言い合っているのか、
見つめ合っているのか。

部室に漂う空気は疑う余地もなくただただ甘かった。
つまり、後者なのは一目瞭然であった。

ただ何度も言うようだが此処は陽泉高校バスケ部"部室内"。








(…なー劉。)
(何アルか、福井。)
(オレらよ…始めっからずっと居るよな?)
(皆まで言うなアル。)
(…言わねーけどよ、こいつらマジ一回絞めていいか?)
(やめとけアル。返り討ちにあう確率10000%アル。)
(すげーなその確率!!)






部室内でのイチャイチャ厳禁、というルールが出来たのは翌日のことだった。







〜END〜







*******


仲良しすぎてオープンすぎる陽泉メンバーたち。

福井も劉も「あー…また始まった(アル)」としか思わなくなる日までそう長くかからないのです。

っていうか紫氷は年中イチャイチャしてればいいと思うなっ(・∀・)





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