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ちらりと氷室さんの様子を伺えば、それはもう一目瞭然だった。

反省していること。
後悔していること。
恥ずかしいと思っているけど、それ以上に嬉しくてたまらないと思っていること。

それこそ、
泣きたくなるくらいに、でしょうか。


…まったく本当…世話の焼ける人達です。




「……タツヤ。」
「…っ…、い、今は…駄目だ……」
「これ以上紫原を心配させる気か?」
「…、……タイガ…」




暗黙の了解というヤツで、僕は火神くんに携帯を差し出した。火神くんは黙って受け取り、それを氷室さんの傍に持っていく。
ほらタツヤ、と促す火神くんと躊躇いながらも口を開こうとする氷室さんの姿はまるで兄弟関係が逆転したようだった。






『で、黒ちん、変眉のアドレス――』
「…………、アツシ、」
『…、………え、…室ちん?』
「うん…」
『……何で室ちんが…、って…あ〜…なんか想像つくかも…。…黒ちんも相変わらずいい性格してるよね…』



あの、いまだにスピーカーモードなんですけど。
聞こえてますよ、それ僕への文句でいいんですよね?




「アツシ、」
『…言っとくけどオレ怒ってるよ。…室ちん今火神んトコにいるんでしょ。』
「…すまない。」
『なんで黙ってどっかいくの?オレ心配したんだけど。』
「……ごめん。」
『…付き合ってる人いないって言ったのを気にしたの?…あんなん"嘘も方便"じゃん。』
「…ホーベン??」
『そこ食いつかなくていーから。』
「Sorry…」
『いいから早く帰ってきて。…じゃないとマジで許さないからね。』
「…うん。今すぐ帰るよ。」




真面目なのかふざけてるのか…どことなく間抜けにも思えるやり取りのあと、ようやく電話を切った氷室さんに、火神くんが声をかける。



「今から帰るって…新幹線あるのか?」
「……どうかな。」
「…タツヤ、本当に悪いけど…今日は泊めてやれねぇ…」




申し訳なさそうに頭を下げる火神くんを氷室さんが少し驚いた様子で見上げている。
でも僕は氷室さん以上に驚いていた。

…だって多分…今のは僕のことを想っての言葉ですよね…。

ブラコンで、氷室さん離れ出来なくて、氷室さんのことなら何でも聞いてしまう火神くんが。


……どうしよう。
(…これは、なかなか嬉しいんですけど…。)


困ったことに少し顔が熱くなってしまった。
そんな僕と火神くんを交互に見た氷室さんは、「ああそうか」と独り言のように呟いたあと、またニコリと微笑んだ。




「いやだな、タイガ。そんな野暮なこと俺がするわけないだろ?邪魔者は退散するよ。」
「…いや、タツヤ気付いてねぇだけで既にほぼブチ壊してるんだけど…(※超小声)」
「えっ?」
「……何でもねぇ。とりあえず近くの駅まで送るから…。」



黒子はここで待っててくれるか?という視線に黙って頷く。
すると氷室さんは「一人で大丈夫だから。それにもし新幹線がなくてもヒッチハイクでもして帰るからさ。」と、また爽やかな笑顔で氷室節をかました。


え、と固まる僕と火神くんに
「じゃあ、二人とも本当に突然すまなかった。Thank you。See you later!」…そう残して早々に帰ってしまった。

残された僕たちは暫く唖然としたあと、お互いの目を見合わせた。
なんともバツが悪そうな顔をしている火神くんが恐る恐る、といったカンジで口を開く。





「……なんか…すまねぇ…」
「………別に。」
「お、怒ってる…よな?」




大きな身体をびくびくさせながら見下ろしている様子がちょっと可笑しい。
まぁ…正直、怒ったというか…呆れたというか。
そういう気持ちにならなかったといえば嘘になりますが。

でも、ちゃんと伝わりましたから。

美味しそうな料理をたくさん準備してくれていたこと。
それは、僕を喜ばせようとしてくれたから。

あの時氷室さんに泊めることは出来ない、とハッキリ言ってくれたこと。
それは…僕を気遣かってくれたから。
二人きりで、過ごしたいと思ってくれたから。

……そうですよね、火神くん?




「く、黒子…」
「…そうですね。…火神くん次第ですかね。」
「え?」
「………今から…いっぱい、甘えてもいいんですよね?」
「…、Of course。」










すみませんがもう英語は結構です、という皮肉を言う前に想像以上に激しいキスをされてしまった僕が、その後まともな意識を取り戻したのは翌日のことだった。


用意された朝ごはんは火神くんお手製の、僕サイズの小さなバースデーケーキ。

嬉しくて笑った僕に、火神くんもまた、はにかんだ笑顔を見せてくれた。

「Happy Birthday!」の言葉と、太陽のような笑顔。


それは僕にとって
最高のプレゼントでした。











〜END〜







一方30日深夜、陽泉高校学生寮前。
無事に秋田まで帰ってきた氷室さんのその後。





(…おかえり。)
(………た、…ただいま…。まだ起きてたのか…?)
(当たり前でしょ。どんだけ心配したと思ってんの?)
(…、……す、すまない…、)
(まぁとにかく、今から説教だから。オレの部屋まで来てもらうよ。)
(えっ!!!!!?)
(…分かってると思うけど室ちんに拒否権ないからね。)
(………、はい。)





********


黒子くん誕生日おめでとうっ!
初火黒のはずが氷室さん混入しちゃいました…。
アメリカ組とキセキ組の絡みも好物です!

氷室さんがちょっと残念なのは黒子くん視点だからだと思いたい(・∀・)





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