色んな意味で、疲れます




「あんときの室ちん、めっちゃ熱かったよね」



突然、敦が言った言葉に俺は首を傾げた。どの会話の流れから今の言葉が出てきたのか謎すぎて、あの時がどの時なのかが全く分からない。
ちなみに今日は洛山と秀徳の試合を見に来ている。このあとは誠凜と海常が戦り合う。

今はその洛山・秀徳戦の10分間のインターバル中で、まいう棒をしゃくしゃくと食べ続けている敦が目線はコートに向けたまま、そう言ってきた。




「えっと…いつのこと言ってるんだ?」
「ん?あんとき、誠凜とやったとき。」



それしかナイじゃん、なんで分かんないの?的な顔をされると溜め息が漏れそうになる。
(まぁもう慣れたけど)

今さらWCの対誠凜戦の話をされるとは思ってなかったけど、突然思い出したように脈絡のないことを言ってくるのは敦には珍しくないことだ。




「熱くなった室ちんてちょっとコワイよね。」
「こわい?…"うざい"じゃなくてか?」



ふふ、と笑ってそう返す。
敦は熱血、とか一生懸命、とか何かに熱くなる、とか…そういうのが嫌いだからな。
うざいとかメンドクサイとか、言われる前に言っておこうと思って返した言葉に敦はコートから俺へと視線を移してジッと見下ろしてきた。
でも数秒待っても何も言わず、じーっと見てくるだけ。




「あ、敦?」
「……もう思ってないし。」
「?」
「だから室ちんのことウザイって…もう思ってない。」




そう言ってまた、ふいっと視線をコートに戻す。
で、続けてまた同じ台詞。



「でもコワイよねー」
「………そうか?」
「室ちん普段はキレーな言葉遣いなのに、熱くなったらアレだよね、えっと…」
「…。(綺麗な言葉遣い、と言われると少しこそばゆい感じになるな…。)」
「ーーーあっ、」


そうそう!と、敦がポンッと手を叩いた。どうやら出て来なかった言葉を思い出したようだ。…なんて観察していると、




「ヤンキーみたい。」
「…ん?」
「熱くなった室ちん、ヤンキーみたいだよね。」
「……。」
「コワイなー」




……んん??!!!!
なんかあまりに心外なことを言われてないか俺…。

いやまぁ、確かに…あの時、誠凜と…タイガと戦った時は普段より熱くなっていたし、『頭は冷静(クール)、心は熱く(ホット)』そのものだったというか…
頭も冷静、じゃなかったんだけども…

だからって…
ヤンキー…………
(あれか…灰崎的なモノだってことか……)





「ん?どしたの室ちん?」
「……、いや…別に…」





思いの外ダメージを喰らった俺に敦の悪びれない声がかかる。
ズン、と頭に重い石が乗っているみたいに顔を上げることができない。
(灰崎的…というのが堪える…)




「ますます敦に嫌われるな…はは…」



実は熱い男で、その上ヤンキーだもんな、あはは。と冗談っぽく返すつもりが声に明るさを足すことができなかった。
これじゃあ結果、自嘲的に笑っただけだ…。

今更引っ込みがつかない引き攣った笑顔の俺に敦の大きい手がニュッと伸びて、そのままぐにっと頬を抓られた。すぐにパッと離されたが何だろう、地味に痛い。



「変な顔。」
「…けっこう痛かったぞ敦。」
「うん、でも室ちんが変なこと言うからだし。」
「(敦に言われたくないな…)」


言葉を飲み込んで黙る俺に敦が続ける。




「キライになんかならないし。」




その一言は、敦にとっては普通の会話の延長線上だったのかもしれない。
だけど、まるで息をするように自然に、サラリと…
『キライになんかならないし』……そんな事を言われたら、


……あ、
(やっぱり…心臓、速鳴りしだした…)

俺の心臓が一気にドクドクし始めた時、インターバル終了の笛の音が鳴った。
なのに敦の視線はコートではなくまた俺を見ていた。




「っていうかオレもたまには室ちんにあーゆー事言われてみたいかも。」
「……。」
「○○っつーんだよ!!的な〜」
「…い、言ってたか…そんな事…」
「うん。すっごいコワイ顔で。」
「………。」



汗が出そうだ…。
ヒートアップしている時のことを持ち出されるとなんというか…恥ずかしいというか、いたたまれなくなるな…

にしても敦もよく観察してるよな…自分とお菓子のこと以外どうでもいいって性格の割には。



「もっと冷静でいられるように気をつけなきゃな…」
「まー、冷静な室ちんも好きだけど?」
「……。(またサラリと言った…)」
「でもギャップ萌えとか流行ってるしー、実際オレもちょっと萌えたし」
「……。(は?何…ギャップ…"萌え"??!)」
「でもまー結局どんな室ちんも好きだから何でもいっか〜」
「……、」
「なんでも好きなんだから考えても一緒だった。時間むだだったし。」
「…………敦、」
「ん?なーに室ちん?」
「……、とりあえず、一旦黙ろうか…」
「……室ちん何でそんな顔赤いの?」





そうさせた張本人はお前なんだけどな、って言ってやりたかったけど、敦があんまりにもキョトン顔で(しかもまいう棒頬張りながら)そう返すもんだから

色んな思いに、疲労感までプラスされたような複雑な気分になってしまった。





〜END〜






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