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とりあえず、どうして貴方が火神くんのマンションに(鍵も持たずに)侵入したのかという問いに氷室さんは涼やかな表情でこう述べた。




「管理人サンに、『音信不通になった弟がここに住んでいると知って…アメリカからはるばる訪ねてきたんです…』って言っただけだよ?」
「…で、簡単に入れてもらえた、と。本当に手段を選ばない人ですね…」
「つーかセキュリティ甘ぇっ…!!!!」



あ、火神くんが頭抱えちゃいました。
……じゃなくて、侵入方法が知りたいというよりは…なぜ火神くんのところに来たのかという根本的な理由が知りたいんですが。



今度はそう問い質すと、氷室さんはあろうことか「まぁ立ち話もなんだし、幸い豪華な食事が用意されてるみたいだからさ。食べながらでもいいかな?I'm very hungry!」と眩いほどの微笑みを浮かべてきた。

氷室さんこのやろう、その幸い用意されていた豪華な食事は僕の為のものなんですけど?
(あといい加減ネイティブイングリッシュやめてもらえますか、鬱陶しいです。)


……もう流れ的に逆らう気にもなれないし、逆らった場合にどうなるか考えただけで戦慄モノですから逆いませんけど。



「…黒子、すまねぇ…。」
「別に。火神くんが謝る必要はありません。」
「…、(…タツヤも怖いけど黒子も怖ぇ…!!)」





数時間後。
用意された2人分の御馳走は、招かれざる人物を交えての3人で見事完食。

そしてようやく今、本題に入ろうとしているところです。




「タツヤ、何かあったのかよ?」
「…いい加減聞かせていただけますか?」



2人がかりで攻め寄ると、氷室さんは眉を下げて、困ったなと一言呟いた後に、静かに言った。





「……アツシにフラれちゃったからかな。気付いたら財布持って駅に立ってて…そうだ、東京に行こう!みたいな?」
「……は?!紫原がタツヤを??ってゆーか後半のノリが分かんねぇんだけど?!!」
「とりあえずそれは有り得ませんよ。氷室さんが絡むと鬱陶しいくらい面倒臭くなる紫原くんに限ってそんなこと。」
「黒子ひでぇ…」



そんな火神くんの言葉はスルーして続けます。
だって今の氷室さんの言葉が本当だとしたら、黙って秋田からここまで来たということになります。
多分、だとしたらそれは…




「…というか…紫原くん、今頃物凄く心配してるんじゃないですか?」
「まさか。…アツシは俺のことなんか気にしてないと思うよ?」
「…氷室さん、何があったんですか?」




笑ってごまかしているつもりかもしれませんけど、その笑顔、僕でもわかるくらい、ハッキリ言って痛々しいです。

そう言ってしまおうか、と思った時だった。
カバンの中の携帯が鳴ったのは。

……このタイミングで着信音が流れるということは…、

……やっぱり。

液晶画面には"紫原敦"の名前。
火神くんもすぐに気付いた。
そしてそんな僕と火神くんの視線で、氷室さんも理解したのでしょう。

少し慌てた顔をした後、人差し指を唇の前で立てて「言わないで」というジェスチャーをしている。




「…もしもし?紫原くん?」
『あ、黒ちん久しぶり〜…あのさ〜、変眉のアドレス教えてくれない?』
「火神くんの、ですか?」
『うん。』
「…何かあったんですね?」
『ん〜…まぁね…』
「何があったんですか?」
『……あ〜…えっとね…、室ちんがさ、いなくなった。…予想すんのも嫌だけど…もしかしたら変眉のトコに行ったのかなって。』




既に色々分かっているのを隠して紫原くんとの会話を進める僕を、どこかハラハラしたような表情で見つめる火神くんと氷室さんが何だか面白い。


それにしてもさすが紫原くん。
氷室さんのことならなんでもお見通しな訳ですね。
あと理解が早くて余計な会話をしなくて済むところは黄瀬くんあたりとは違いますね。

…ですが…、声があまり平気そうじゃないのは…きっと氷室さんのことを心配して、学校中を探し回った後だから、…でしょうか。




「原因に心当たりは?」
『…ん〜…自信ないけど…多分、ってことはある。』
「とりあえずそれ教えて下さい。タダで火神くんのアドレスを入手できる程彼のアドレスは安くありませんよ?」



そう言うと、電話の向こうで大きな溜め息とともに「黒ちんのそーゆーとこマジでキライ」と愚痴られてしまったので「それはどうも」と更に返しておいた。

火神くんは火神くんで、ノートに何か書きはじめたかと思いきや…「別にいーぜ、タダでおしえても。」って馬鹿ですか。馬鹿なんですか。
そういうことじゃないんです。





「…で?どういう心当たりが?」
『…確信はないけど…女子から告白されたとこ見られちゃったからかな。』
「今更そんなことくらいで氷室さんがいなくなりますか?」



フラれた、なんて冗談でも口にしますか?
考えナシで飛び出して、そうだ東京に行こう!なんてふざけた思考に陥りますか?


……ああもう言ってしまいたい…
(ですがまだそのタイミングじゃないですよね…、我慢我慢。)






『……、付き合ってる人いないのって聞かれて、いないって答えたトコを…見られてた。』
「紫原くんらしくないですね。どうしてそんなこと、」
『…だって。』





その女子、けっこうしつこくてさ…付き合ってる人がいるって言ったら「誰だれダレ?!」ってなるの容易に分かったし。
そんで「室ちん」って答えてもオレは別にいーんだけど…室ちんは絶対イヤだろうし、…室ちんにメーワクかかるのイヤだったから…。
けどさー「付き合ってる人はいない」なんて、嘘で言ったってことくらい普通分かるでしょ?まさかそれが原因だなんて考えたくないけど…でも…それ以外他に考えられる原因もねーし…




紫原くんが論理的にポツリポツリと話し始めた内容を、僕はスピーカーモードで聞いていた。
…と言えば少し語弊がありますね。
(だってはじめからスピーカーモードにしてましたから。)

こういうのは直接、氷室さん本人に聞こえてしまえばいいんです。
その方が食い違ったりすれ違ったりしないんですから。
(…半分はまぁ…面倒臭いからですけど。)

そして案の定、氷室さんは自分の予想と違う紫原くんの言葉に触れて、目を丸くしている。




「…つまり紫原くんは相変わらず氷室さんのこと、好きでいるんですよね?」
『はー?相変わらずってなにそれ。』
「…でも好きなんでしょう?嫌いな火神くんのアドレスを僕に聞いてくるくらいには。」
『……、…決まってんじゃん。室ちん以外、誰を好きになればいいのか分かんねーし。』






だそうですよ?氷室さん?







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