新年記念小説







「A HAPPY NEW YEAR!」




ドアを開けるなり浴びた流暢な発音に、あれ?なにこれデジャヴュ?って思ってしまったのは仕方のないことだと思う。
12月31日、深夜23時30分。

ほんの一週間ほど前もこーゆーことあったよね…。





「…だからさ室ちん、バレたらヤバいんでしょ?」
「まぁな。」




目の前で爽やかかつ綺麗に微笑む顔に盛大な溜め息吐いてやりたくなるんだけど。
「まぁな」じゃないってば。

あと正確に言うとまだ「明けましておめでとう」じゃねーし。
明けてねーし。

ってツッコむ代わりにジトリとした視線を送ってみる。
すると室ちんはニッコリ微笑んで、言った。




「アツシ、初詣行かないか?」
「は?何言ってんの?」
「だから初詣。」
「だから年末最後に何言ってんの。」



唐突すぎる提案に今度は冷静に、ちゃんとツッコミ入れるオレ。
でもよく見たら室ちん、ネイビーのダッフルコート+ボーダーニットのマフラーっていう、オシャレかつ完全防寒してるわー。



「…行く気満々じゃん。」
「ごめんごめん、さっきはああ言ったけど…実は今日だけは許されるみたいなんだ、深夜外出。けっこう皆出掛けてるぞ。」
「…そーなの?」
「ほら、近くに神社があるだろ?」
「あー…あったっけ〜?」




寒いし眠いしキョーミないし、あと面倒臭いからどうでもいいんだけど。
(ゆっくり年越しお菓子食べたいし。)


それにしても厳しいのか甘いのかよく分かんない校則(寮則)だな〜…。
あとウチ(陽泉)ってミッション系の学校だったよね…なんで大晦日&初詣は外出解禁になってんの。何がめでてーの。色々どうなの。





「一緒に行こうよ、アツシ。」
「てゆーか室ちんに初詣っていうイメージあんまねーんだけど。」
「そうかな?」
「お賽銭して願い事すんのとか想像つかない。(神頼みとか絶対しないタイプじゃん。)」
「そうかな??」
「………そんなに行きたいの?」




って…聞くだけ無駄か。
すっごく行きたそうにしてるし。
(あーもう…面倒臭いけど仕方ないな〜…)




「…用意するからちょっと待ってて〜…」
「ああ!」
「は〜…」



そんな嬉しそうにされたら断れない。
まぁどーせ室ちんのことだから、オレが断れないって分かってて来たんだろうけど。

面倒臭いから服はそのままでダウンジャケットを羽織って、ポケットに財布とスマホだけ突っ込む。
髪を一つに結んでとりあえず準備完了。
トータルにして3分もかかってないんだけど、室ちんはその間なんとなくソワソワと時間を気にしているみたいだった。

行くよーって言うと室ちんはまた嬉しそうに笑って、オレの隣について歩いた。


























夜中だし秋田だし期待してなかったけど……すげー数の露店じゃん。
わたあめも林檎飴もチョコバナナもあるじゃん。
これは、来た甲斐アリかも。




「アツシ、わたあめ買ってやろうか?」
「えっ、マジ?!」
「うん。だってすごく欲しそうにしてる。」
「なんで分かんの。」
「ふふっ、分かるよ。簡単。」



クスクス笑いながら室ちんはオジサンに「わたあめ1つ下さい」と言った。ふわふわのそれを受け取って「はい、どうぞ?」ってオレに笑いかける顔がかわいい。いや、おとこまえー、だ。

室ちんは何か食べたいのないの、って聞くと「俺はいいよ」と返ってくる。
こんなに周りがご馳走だらけなのに勿体ないな〜って思ってたら、くいって腕を引かれた。


「なーに?やっぱ何か食べる?」
「…いやそれはいい。じゃなくて、その、」
「?」
「…人気の…ない所に、行かないか…?」
「?別にいーけど?」




アララ〜?
なにその意味深な台詞。
なんでオレから顔反らしてそーゆーこと言うかな〜。
変な想像しちゃうんだけど。


無意識に誘ったり煽ったりちょっと勘弁してほしい。こんな寒空の下でそのコート脱がしていーの?って思いながらジーッと室ちんを見下ろすと、するりと細い指がオレの手に伸びてきた。
っていうか絡んできた。




「どしたの室ちん…珍しいじゃん、外で手ぇ繋ぐのイヤじゃなかったけ〜?」
「……まぁ、うん…」
「誰かに見つかってもいいの?」
「…意地悪言うなよ…」




と、悔しそうな顔で見上げてくる。
それがまたなんかかわいい。
普段の愛想笑いとか、あざとい笑顔よりも何倍もかわいい。

そのまま繋いだ手を引かれて着いた先は、露店から少し離れた小山の上にある神社の裏側。
確かに人気はなくて、暗くてシンと静かだった。




「へぇ〜下はあんなに賑やかなのにね。」
「…アツシ、」
「んー?」




提灯の明かりを山から見下ろしていると、室ちんが繋いだ手を更にキュッと握ってきてオレの名前を呼んだ。
やけに遠慮がちに呼ぶなぁと思って視線を合わそうとしたら、ダウンジャケットのファーのついた襟んとこをぐいって引かれた。
目に映ったのは室ちんの、長い睫毛。
背伸びした室ちんからキスされてる、って気付いた、ちょうどそんなタイミング。


ゴーン、ゴーン、ゴーン、
って鐘が鳴るのが聞こえてきたのは。





「……、(あ。除夜の鐘…)」
「…ぁ、アツ、…ん、ふ…ンっ」
「…(あー…もしかしてコレを2人で聞きたかったのかな〜)」
「んんッ…、ンっ…!!」
「……(ふふ、かーわいー)」





軽く触れるだけですぐに離れていきそうになった唇を、今度はオレが室ちんの腰を引いて抱きしめることでディープキスに変えてやった。
何回鐘の音を聞いたか分からなくなったくらいで、ドンドンとオレの胸元を叩いてくる室ちんを解放してあげると、お互いの口を繋ぐように光る銀色の糸がやたらエロく映った。

んでもってなんかヨロヨロ〜ってしてる室ちんが危なっかしくてそのままギュッてしてあげた。



「く、苦しい、アツシ…」
「はいはい。」
「…年…明けたな。」
「そーだね。」
「……アツシ、あの…な、」
「室ちん、」
「え?」



言葉を遮るように名前を呼ぶと、オレの腕の中にすっぽり収まりながらモソッと顔だけ上に向けた室ちんと視線が重なる。
あんまりに近い距離についまたキスしたくなるな〜なんて思いつつ、一言。



「今年もよろしくね〜」



そう言うなり室ちんの目が丸くなって、で、悔しそうな顔になって。
またオレの胸に顔を埋めたかと思えばそれをグリグリ押し付けてきて。



「……俺が言おうと思ってたのに…!」



な〜んて、マフラーから覗いた耳を真っ赤にさせながら言うもんだから、年明け早々、オレの心ん中は室ちん一色に染められてしまうのであった。








〜END〜






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明けましておめでとうございます!
2014年も紫氷PUSHで頑張ります(*^o^*)






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