そんな始まり







俺と敦が付き合うようになったのは、敦があの性格だったからだと思う

じゃなければ俺は、自分が男と付き合うなんて思ってもなかったから、きっと、普通にバスケをして、普通に部活の先輩と後輩っていう関係を何の疑問もなく続けていたんだろう


あの思ったことを何でも素直に口にできる性格はすごい。ある意味驚異的だ。

俺もほとんどアメリカで育ったからイエス・ノーはハッキリと言える方だし、ストレートな物言いにも慣れてはいるのだけれど




『ねぇ室ちん、』
『ん?どうした?』
『目の下のほくろ、触りたい』
『へっ??な、なんで…』




あれはビックリしたな…
何の前触れも前フリもなく、あんな事を言われたのは生まれて初めてだったからな…

でも笑って流せる雰囲気でもなくて、あの敦があんなにも真剣な顔して言ってきたもんだから…



『だめ?』
『いや別に…、触るくらいいい、けど…』
『……いいの?』



別に減るもんじゃないし…触ってホクロが大きくなるとかだったら絶対嫌だけど、なんて思いながら返した言葉に、敦は大きな手の平をゆっくりと俺の頬に近付けてきて

思わず面食ってしまうほど、優しく労るように、触れてきた。



『…、…。(えっと…敦は何がしたいのかな…)』
『………、…室ちん。』
『うん?』
『…、』



まだ頬には、目元には敦の大きな手が触れている状況で、小さく呟くように名前を呼ばれて見上げると、珍しく『言いたいことを我慢している』敦がいた。



『…敦?』
『……あのね室ちん、…』
『らしくないな、どうした?』
『オレさ、ホモだったみたい。』
『…、…、…へっ??!』




衝撃の告白に、俺は間抜けな声を上げて敦を凝視してしまったんだっけ。
そしたら敦が眉を寄せながら、見たこともないような赤くなった顔して俺を見下ろしてて





『なんか、室ちんのこと、そういう目で見てる。はじめは気のせいかなって思ったけど、触ったら…確信しちゃった。』
『え、えっ…??!』
『オレ室ちんのこと好きなんだけど、どうしたらいい?』
『は?えっ?俺??えっ?』




ホクロを触れられたまま衝撃の告白2を受けた俺は(今思うと何というシュールな図だったんだろう…)、まともに頭が働かなくて、暫く「え?」とか「は?」とかしか言えてなくて、
(自慢じゃないけど女の子から告白されたことは何度か経験はあったけど同性からってのは初めてだったからな…)
でも目の前の敦の顔がだんだん曇ってきたのには気付いていた。




『室ちん…引いた?』
『え、いや、あの、えっと』
『…好き。どうしたらいいの…。』
『……あ、敦…』



弱々しい声で好きだと繰り返されて、大きな身体を震わせる姿に、戸惑いとは別の感情を持ってしまった。
あの敦が俺を好きだと言って、弱気になって、不安で怯えているなんて。

手を伸ばしてやりたくなった。
俺に触れながら、小さく震えるその手を掴みたくなった。

拒絶するという選択は不思議なくらい、微塵も俺の中にはなくて、




『だから、らしくないよ敦?』
『…室ちん?』
『俺は…正直、敦のこと、同じ気持ちで好きって…すぐには言えないけど』
『……、』
『好きって言われて、嫌じゃないよ。』




ハッキリと告げると敦は少し安堵したように見えた。
手の震えも止まって、その手で俺の前髪をサラリと掻き上げてくる。




『敦?』
『…じゃあ付き合ってくれる?』
『え…と、』
『嫌じゃないならオレと付き合ってみてよ。』
『…えーと…(そうくるか…)』
『幸せにするし。』




答え倦ねていた俺に、敦は真顔でそう告げた。
プロポーズにも似た台詞をあまりにも自信満々に言うもんだから、思わず俺は吹き出してしまって、

まぁいいか、
ほんとに仕方ないなぁ敦は…

…って、答えたんだっけ。














「ねぇねぇ室ちん」
「ん〜?」
「これあげる。」
「ん?なに?」
「コンビニで売ってたから。」
「…ハンドクリーム…?」
「室ちん練習しすぎで指ガサガサ。キレーなのにもったいない。」
「……、…ははっ、ありがとう、敦。」









敦にはまだ言っていないけど、
俺も今はきっともう、敦と同じ気持ちで敦のことを好きになってると思う

全財産を迷わずお菓子に費やしてしまうような敦が、俺のために買ってくれた小さなハンドクリームを見て

『幸せにするし』

あの時の言葉を思い出して、
俺はまた、笑ってしまった。






〜END〜







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