ヤキモチだよな?
どうしよう。
まいった。
俺は今、アツシの部屋の扉の前で額を押さえて、心の底から思っていた。
…………しまった、と。
『室ちんて男と付き合うのオレが初めてなんだよねー?』
いきなりの質問に飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになったのは数分前のこと。
どの話をしていたらその話になるのか、本当にアツシの頭の中は解らない。
『ねぇ、室ちん。』
『……初めてだよ、アツシが。』
どんなに恥ずかしい台詞を言わせているのか、いつか自覚して欲しい。
というか自覚してもらわないと困る。
ありえないくらいに顔が熱くて、近くにあった月刊バスケで隠してようやく返せた俺の言葉にアツシは「ふーん」と呑気な返事をした。
何がふーん、だよ何が。
と思った矢先、またアツシが言ってきた。今度は「じゃあキスは?」っていう質問。
……キス…
…ん?キスか…
…キスなら…アツシが初めてじゃないな…
昔の話だけど…
………タイガと…したことがある…というか、日常的にしていた時があるというか……
(いやでも…何となく…本当の事を言ってはいけない気がする。)
『室ちん?』
『えっと…』
『…あるんだ?ふーん…』
『あー…るような、ないような?』
『……室ちん、言ってくれるまで部屋から出さないからね。』
『いや、むこうにいるときだって!ほら、アメリカってさ、』
『誰?』
アメリカってそういうのよくあるJAN??AHAHA!
……みたいなノリで乗り切りたかったのだが…。
アツシが食い気味に…しかもすごく低くて重い声で被せてきた"誰"という単語に、俺の口元はヒクリと引き攣ってしまった。
『…ねぇ?誰?誰とやったの?』
『…、えーと…(目が怖いよアツシ…)』
『……あのさ、まさかそれ、火神じゃないよね?』
『ッ!!』
ぎくり、と肩が動いてしまった。
正直すぎる己の身体が恨めしい。
そして俺のその僅かな反応を見逃すアツシではない。
…瞬時に…空気が…重くなったというか………
恐る恐る雑誌の隙間からアツシを見上げると、それはそれは黒いオーラを纏っていたのだ。
『…へぇ〜…室ちん火神とキスしたの?』
『だ、だから、アメリカだし、お互い子どもだったし、兄弟だったし、それにーー、』
『アメリカでこどもで兄弟だったから火神とキスしたんだ???』
『…、えっと…いや…だから、挨拶…的な…』
『えっといやだから挨拶的な、だから火神とキスしたんだ??????』
『……。(……怖っっ!)』
何を言っても無駄、ってこういう状況をいうのか。
有無を言わさない状況とはこういうことなのか。
それほどアツシの威圧的オーラは凄かった。
言ってることがもう無茶苦茶な気がするけど、とりあえず凄かった。
『…あ、アツシ、』
『……なに。』
『お、怒ってる、のか?』
『怒ってねーし。』
『……(怒ってるじゃないか。)』
『怒ってねーけど今室ちんの顔見たくない。ちょっと出てって。』
『え、ちょっ、アツ…』
ばたんっっ!!!!!!!
………という訳で、
俺は少し反省している。
いくら子どもの時の話とはいえ…タイガとキスをしたっていうのは、やはり隠し通すべきだった。
もちろんオヤスミとか、そういう時にする挨拶的なモノであって恋愛感情なんて一切ないキスなのだが。
『怒ってねーし』
全く…何が「怒ってない」だよ。
すごいふて腐れた顔して、挙げ句には追い出して。
怒ってるの、隠す気ゼロじゃないか。
そんなに怒ることか?
俺がアツシ以外のやつとキスをしたことが、そんなに嫌なのか?
それは…
(……俺の事が…好きだから、か?)
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