健介さんの困惑















「…ふん、ざまぁみろアル。」
「…、…、……。」










『絶句』ってこういうコトをいうのか。
全く何の反応もできなくて、目を見開くだけ。

視界には、フンッとオレを見下ろしながら満足そうに口角を上げる劉をちゃんと捉えているのに、言いたいことが喉を上がってこない。

…………絶句、だ。








***数十分前***









『福井先輩っ危ない!!!』
『え?…ッ!!!』





練習中、チームメイトの投げたボールが手汗で滑って。本来飛ぶはずのねーとこに飛んできた。
それがなんとオレの顔面目掛けて、だったもんだからあの氷室が大声で叫んだ訳だけど、咄嗟のことすぎてまともな反応なんかできなくて。
反射的に目ぇ閉じるくらいしかできなくて。

絶対顔面当たったなコリャ、って思ったんだけど、どういう訳だか痛みが全く伴わず、そろりと片目だけ開けてみたら、だ。



『ーーーー…え?り、劉?』
『っ、…〜〜ッ…、』
『劉!!!大丈夫か?!!ちょっ…Stop、Stop!!』
『手をぶつけてしもうたんか?!』




オレの前で手首押さえながら痛みをこらえるようにその場でしゃがみ込んで唸る劉と、慌ただしくその周りを囲む氷室や岡村。

何があったのか一瞬解らなくて、でも、ボールがぶつかると思った瞬間、誰かに押されたような感覚が肩に残っている。

で、オレにぶつかるはずだったボールは劉の足元をコロコロと転がっている………ってことは。
点と点が結び付きそうになった時だった。
アツシの声が頭上から聞こえた。





『福ちん庇って怪我するとか劉ちんまじドジすぎー。』
『……。』





そうだ。
オレの肩を押したのは、劉。
そのせいで、怪我した…だってーー!!!??




『ば、馬鹿か、お前!ほらっ保健室!!』
『馬鹿とは何アル!PGのくせによそ見なんかしたの誰アル、このチビ!』
『チビって言うな!…じゃなくてっ…あ〜もう!!いーから早く来いっ!!』
『っ痛いアル、ちょっ、』






こんなときまで口喧嘩(しかもくだらねー)してる場合じゃない。
オレは劉の手を引いて保健室へと急いだ。
自分よりデカイ劉を引き連れる姿は幼稚園児が大型犬を引き連れる光景のような気もしたけど、んなことも気にしてる場合じゃない。


で、その後も文句言い合いながら劉の手首を治療して(つっても幸い捻っただけでアイシングとテーピングだけで済んだんだけど)、また体育館まで戻ることになった。
その途中。





『お前ほんと怪我とかすんなよ。頼むから。』
『…コレは不本意アルよ。』
『つーか、オレ庇うとかやめろ。』
『庇ったつもりねーアル。…身体勝手に動いただけネ。』
『……んだよソレ。』






わけわかんね。
でも、内容が内容なだけに悪い気はしねーな。
身体が勝手に動いて無意識に助けてくれたとか…なんだよ可愛いトコあんじゃねーか、って思ってしまった。




『小さすぎて居てるか解らなかったアルよ』
『お前がデカすぎんだよ!!』
『はっ、バスケ選手170cm台致命的アル(笑)』
『あぁ?!!』




ははっ、こんなカンジでいーっつもクソ生意気なくせによ。
そう思い出し笑いしたオレを、劉が怪訝そうに見下ろしてくる。




『なに笑ってるアルか?』
『べっつにー?』
『…きもいアル。』
『てめーなぁっ!!』




結局またいつもの減らず口で(ほんっと年下のくせに生意気だわ)、こうなるのかと思ったんだけど、劉の顔色はいつもと違って少し曇っていた。
そして独り言のようにボソッと漏らしたのは、らしくない弱音。



『……あー…暫くバスケ出来ないアル。……アツシ言うとおり、我ながらドジしたネ。』
『…お、オレのせい、かよ…』
『だから身体勝手に動いただけアル。ワタシが悪い。』
『…、でもよ、』
『何?"福井のせい"って言ってほしーのか?』
『そっ…そういう訳じゃねーけど、でも、…まぁ、オレに出来ることがあんなら…』





確かにオレがあん時、あのボールに反応出来ていたら。
こんなことにはなってねーわけで。
劉が怪我することもなかったわけで…、…逆に文句言われた方がラクなのに、劉がそうしねーから。
それどころか、自分を責めるみてーなこと言うから。




『福井に出来ることって何アルか?』
『だから、テーピングとかっ、筋トレ付き合うとかっ!つーかなんだその馬鹿にした笑いは!』
『…じゃーワタシ、福井の今年1バンの阿呆面が見たいアル。』




何を言い出すかと思えば。
突っ込みどころありすぎだろ。
まず第一にオレが阿呆面を晒すなんてことは今年一回としてねーはずだ。
それにオレの阿呆面を見たいって、なんだそりゃ、なんかの脅しのネタに写メにでも残すつもりなのか。
訳わからん。





『なんだそりゃ…だいたいこの福井さまがそんな阿呆面なんて、』
『福井、』
『ぁ?』




名前を呼ばれた、と思った、
それと同時に強い力に腕を引かれて。
グリンッて身体が半回転して、
一瞬で視界に影がさした。


いや、
影、じゃなくて
……劉、の、








『…ふん、ざまぁみろアル。』








冒頭よろしく。

呆けてその場に立ち尽くすオレに、劉はそう言ったのだ。


確かに、これは、多分、
オレ今年イチ阿呆な面をしているんだと思う。
劉の願い通りの、いや、その数百倍の阿呆面を。

でも、
いや、いやいや、
ちょっ………はぁっ?!!!!!!

なんで、なんでキ…ッ…
キ、……キ…ス…とかっ…

ああああアイツ一体っ…
何考えてやがんだっっ……?!?!

















「…劉、」
「氷室、迎えに来てたアルか?」
「…まぁ心配だったし、遅かったからね…はぁ…、」
「お前、見てたアルね?」
「も〜…見たくて見たんじゃないよ。…福井先輩、まだ突っ立ったままだったよ?すごい阿呆面で。」
「ふふっ、確かに傑作だったアル。」
「…慎重にいくんじゃなかったっけ?」
「日本人鈍すぎ、だからそれもうやめたアル。」
「は〜…全くもう…」












オレのいない所でそんな会話がされていたなんて、そんなこと、勿論オレが知るわけもなく、

すっかり日が暮れた頃にようやく動けるようになったオレは、とりあえず腹が減ってはなんとやらの精神で、まだまともに働かない頭のまま、なんとか寮に戻って夕飯を食うことにしたのだった。









(ちょっ、福井!味噌汁こぼしとる!!!)
(んあ?)
(福井ーー!!ご飯になんで醤油かけとるんじゃーー!!!)
(…岡村うっせー。)
(えっ?いやお前っ、ひどっ!!)






〜END〜






********


好きなコをいじめたい劉。
だから福井先輩にちょっかい出すんじゃないかな!
…という私の願望を書いただけでした(・∀・)





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