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連れてこられた先は、体育館から少し離れた水飲み場。

赤司もここで練習終わりに水を飲んだり、頭から水をかぶったりするのかな。
…しないかな。だって息を乱したところも、汗をたくさん流すところも想像できないもん。




「光樹、」
「あっ…、うん、ごめんね。」
「謝るのはもういい。どうして君がここにいるのか…」
「ああうん、それね!えっと、はいこれ!」


実はずっと持ってたんだけど、渡そうかどうか直前までほんと悩んでたんだけど、それでもやっぱ何か渡したいじゃん?

だって。



「お誕生日おめでと、赤司!」
「……。」
「つ、つまらない物かもしれないけど、良かったら使って?」
「…、……。」



あ…あれ??
なんで無言…?あとすっごい目が丸いんだけど…

もしかして…呆れたとかかな?
それか、やっぱ赤司には、しょぼすぎたかな…、一応ふわふわのオーガニック?コットン?のタオルなんだけど…
(赤司ってなんかデリケートっぽいし…選んでみたんだけど…)




「…あの、赤司?」
「………、…柔らかい、」
「あっ、うん、なんかそれ、オーガニッ…、!!!?」
「…ふふっ。」

やっと聞けた感想にホッと安心した矢先、俺は耳にかかる赤司の笑った声に身体が固まっていた。

……うっ、わ…!!!!
だ、抱きしめられてる…!!
赤司に、あの赤司に。
っていうか赤司なんかいい匂いするよ?!
なんでさっきまで練習してたのにそんないい匂いすんの?!!

あ、駄目だ!
なんかまともに頭働いてない俺!!



「…ふふふっ…」
「あ、赤司?」
「困ったな、…嬉しすぎて…とても人に見せられない顔をしている。」
「えっ、」



なにそれ、ちょっと見てみたい!
と思ったけどそれはさすがに言えない。
俺は大人しく、暫くの間、赤司の腕の中で固まっていることしか出来なかった。

あとは、言わなきゃいけないことを言うだけだ。
聞かなきゃいけないことを聞いてから、だけど。




「…ねぇ、赤司。」
「?何だい?」
「……自惚れだったら…ほんとにごめん、なんだけど、」
「?」
「…赤司…俺のこと…その、好きってさ…ほんとなの?」




そう、これを聞くために洛山まで来たようなものだったりする。
俺の口からこんな大それたことを天下の赤司征十郎に聞くなんて、もしギャラリーがいたら石を投げられても仕方ないって思うよ。

でも…黒子たちに言われる度に、ずっと…聞かなきゃいけないって思ってたんだ。

俺なんかが、って思うけど。
それでももし、そうなら。




「…光樹、」
「いやっ…あの、あの、」
「ものすごく今更な事を聞かれても少し困るぞ。」
「……えっ??」
「もう随分前から好きなんだけどね。」



困ったように笑いながら、すごい告白をされてしまった。
身体に一気に血が走ったようなーーー…、
(…か、顔、が、熱いっ…)




「……光樹?」
「あ、ごめ、ごめんっ…」
「光樹はよく謝るね。というかその"ごめん"は僕はフラれてしまったということになるのか?」
「あ、ちが、ごめんっ…あ!!!」
「ふふっ…」



指摘されたすぐあとに「ごめん」が出てきた口をバッと覆うと赤司は一瞬目を丸くして、また小さく吹き出すように笑った。

多分そういう笑った顔、俺以外はあんまり見れないんだと思う。
黒子が言っていたんだ。

赤司くんは降旗くんの前だけは違うって。
違う、っていうのがまだよく分からないけど、でも、




「…あ、赤司、俺ね…」




赤司のこと怖いって思った
住む世界が違いすぎるって思った
バスケの才能も俺と赤司じゃもう全然比べものにならないって分かってるし
外見も内面も、俺なんかが赤司と比べられるところはないって思ったよ

だけど
俺を見てさっきみたいに驚いた顔になるとことか
優しい声で光樹って呼ぶとことか
俺の腕を、強い力で引っ張ってしまうような実は男らしいとことか
でもやっぱ、目を見張るくらい綺麗なとことか

そういうとこに、もうずっと、惹かれていたような気がするんだ。




「…俺も、赤司のこと、好きみたい。」
「―――…、」




あははっ、ほら、それ。
赤司っぽくないその"不意を突かれました"って顔。
そういうのも、好きだって、思うんだ。


暫くその顔を見せてくれた赤司は、その場にヘタリと膝を崩して手を着いた。
片手は、顔を覆っている。



「あ、赤司?!!」
「………、…すまない、」
「えっ…?!なに?どうしたの??!」


心配になって顔を覗き込もうとしたら、ぐるっと身体ごと反らされてしまった。
えっ、えっ、と言い続ける俺に赤司が小さく呟く。



「…今は駄目だ。きっとひどい顔をしている。」
「……えっと…赤司…?」
「…光樹は凄いな。」
「な、何が?!!」
「僕自身が膝を崩されたのは初めてだよ。」




多分、赤司は至って真面目に言った言葉なんだろう。
でも何だかすごく可笑しくって俺は久しぶりにお腹を抱えるほど笑ってしまったんだ。













「ようやくですか。」
「…へへっ、なんか変な感じだけど、うん。色々ありがとな、黒子!」


言うと黒子がふわりと笑った。

昨日の事を報告した俺に黒子は付け加えて「おめでとうございます」と流暢にお辞儀してくれたから、俺も「ありがとうございます」とお辞儀で返した。

で、また顔を合わせて笑った。



「で、降旗くん?」
「ん?」
「どこまで進んだんですか?」
「?どこまで…って、だから洛山まで行ったってさっき言ったじゃん。」
「――…(赤司くんてば何もしなかったんですか…)」



黒子がどこか遠い目をしながら冷めた空気を垂れ流したのがちょっと気になったけど、

俺は黒子に話ながら、昨日のことをまた思い出していた。










『あの、そしたらさ…俺たち、付き合ってみる…?』
『…光樹、』
『赤司?』
『…色々いきなりすぎて…どうしよう、膝が…立たないんだが…』
『あははっ、じゃあ、はい!』







差し出した俺の手を掴んだ赤司の綺麗な手は、少しだけ震えていて、俺は「ああ、うん。やっぱり赤司のこと、好きだなぁ」って実感して、





『誕生日おめでとう、赤司』
『…凄いプレゼントを感謝するよ、光樹。』











少し赤い顔をしながら、そう言った赤司の顔を思い出すと、ほかほかと心があったかくなっていた。


洛山から遠く離れたココ東京で、でも、前よりもずっとずっと、赤司が近くにいるような感じがして――――…











〜END〜





*******



ひたすらに赤司様を幸せにしたかった。
その結果、降旗くんがちょっと男前に、赤司様がちょっと乙女になってしまいました。

でもでも誕生日おめでとう!
赤司征十郎さまっ!!






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