我が儘ばかりだけれど




「室ちん、そっちちょーだい。」
「……さっき要らないって言わなかったか?」
「言ってないし。ちょーだい。」



…いや、言ってたし。
少し恨めしい気持ちになりつつも、仕方ないな敦はと観念する俺。
ちょうだいと言われたのは食べかけのピザまん。

さっき立ち寄ったコンビニで俺が買ったピザまんだ。ちなみに敦が買ったのは餡まん。
その時のやりとりが、



『えーなにそれ美味しいの?ピザまんなんて。』
『普通に美味しいと思うけど。敦もたまには餡まん以外チャレンジしてみたら?』
『うーん…』
『お揃いにするか?ほら旨そうだろピザま、』
『ううん、要らない。』




というカンジ。
俺の言葉に被せるようにハッキリと要らないって言ったくせに…全く。




「じゃあほら、一口だけだぞ?」
「え〜ケチ。」
「…。」




そっちはすっかり餡まん全部胃に納めといて…よく言えたもんだよな…
まぁ敦だから仕方ないけど。
そう思いつつ、ちらりと見上げるとちょうどパクンと頬張ったところだった。
(ちょっ…一口デカくないか?!!)


もぐもぐもぐと口を動かしゴクンと喉を鳴らしたあと、暫く沈黙してその後なぜか渋い目を俺に向けてきた。



「どうした…敦?」
「…あんま美味しくない。」
「え?」
「もういい。はい。」
「あ、ああ…」



いや、もういいって…はじめから一口しかやらないって言ってたんだけど。
押し返された残り半分以下のピザまんを見て心の中で呟いてみる俺。

敦の口には合わなかったみたいだけど…俺は好きなんだけどな。
…うん、ふふ、美味しい。

むこう(アメリカ)でよくピザ食べたからだろうか。このソースの味がたまらない。
思わず笑みが零れてしまう。



「ねー室ちん」
「何?」
「やっぱ、もう一口ちょーだい。」
「…は?!」




いやいや、敦が我が儘なのも気まぐれなのも知ってるつもりだけど、今のはさすがにちょっと驚くぞ俺も!
要らないって言ったピザまんを欲しいと言って、今度は美味しくないからもういいって言ったのに(しかもついさっき!)また食べたいって…??



「敦…味は変わらないんだが…?」
「うん、分かってる。」
「美味しくなかったんだろ?じゃあ要らないよな?」
「…。」



まるで子供に諭すように言うと敦は黙った。その間にさらに一口ぱくりと食べ進めると、痛いくらいの視線を感じた。



「……敦。なんかそんなに見られると食べ辛いんだけど。」
「室ちん。あーん。」






人の言う事を全く聞いていない。
大きい背中を少し丸めて口をパカッと大きく開けてくるその行動に、呆れた思いと恥ずかしいという気持ちが入り混じったような妙な感覚になってしまった。



「いやっ…敦、ここ外っ…じゃなくて、お前、だから、美味しくないって、」
「ん〜?」



ん〜じゃない…!
寮室ならまだしもこんな道端で躊躇いもなく「あーん」じゃないだろう…!
皆(福井先輩や劉や監督)の言うように…俺は普段から敦を甘やかしすぎたのだろうか…。
(本能のままに行動しすぎかも…)
あと我が儘が過ぎる…。




「…だってー」
「え?」
「室ちんが美味しそうに食べるから美味しそうに見えるんだもん。」
「でも、美味しくなかったんだろ?」
「んー。でも、好きなヒトの好きな食べ物は俺も好きになりたいからさー。」
「……、…っっ!!!!」





ボンッと顔から火が出るかと思った。

普通に真顔っていうか、自然にとんでもないことをツルッと言うもんだから心臓に悪い。
(アメリカでもここまで恥ずかしいことをストレートに言える奴はそうそういないぞ…?!)




「あれ?どしたの?」
「…、いや…」
「なんか顔赤くない?ねー室ちん?」
「何でもない、ほら、もうこれ全部あげるから!」




熱を帯びていく顔を見られたくなくて、覗き込もうとしてきた敦に押さえ付けるようにして残りのピザまんを差し出すと、




「え、全部は要らないし」
「!!」




と我が儘全開の台詞に
思わず、何なんだ!と叫びたくなったが、まだ熱の取れない俺はただ口篭るしかできなかった。








〜END〜





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