言い訳を言わせてください(高尾誕生日記念小説)
WCで洛山に敗れてからも、オレたちの日常に特に変化はない。
今日も練習で汗を流して、そのあとは部室で真ちゃんに絡むという…ほんといつもと変わらない時間を過ごしている。
「あっつい!!あっついわー!!」
「真冬に暑い暑いと連呼するな。」
「だってあついんだもんよ。…真ちゃんだって汗すごいくせに〜」
「心頭滅却すれば火もまた涼し、なのだよ高尾。」
「ぶはっ!真顔でなに言ってんの真ちゃん!!」
季節は冬。
外は雪が積もっていて、マフラー巻いてる生徒たちがどんどん下校している中、まるで真夏にするような会話にオレはぶははっと声を上げて笑った。
少し早めに切り上げた練習にはオレと真ちゃんしかいなくて、部室にもオレと真ちゃんだけ。
宮地先輩たちはもう引退しちゃったからだ。
「…あ〜お腹いたいっ!」
「しつこい。」
着替えてから部室をあとにする。まだ笑いが止まらないオレを真ちゃんはギロリと睨んできた。
ガチャリと鍵をかけて、返しに行って、校門を出る。
その間ももう、二人きりなことが増えた。
さっきまで暑い暑いと言っていたオレたちも、首にはマフラーをして、吐く息は白くて、
体育館の中と外ではこんなにも違うのかとぼんやり思った。
ただ、こういう時にも鷹の目は効いてしまうのか……真ちゃんの右手の中が気になって仕方ない。
テーピングだらけの手の中に何かがおさまってるってことにはもう慣れっこなんだけど、今日のは特に正体不明だから…気になる〜…
「てかさー真ちゃん、」
「ん?」
「今日はソレ、なに持ってんの?」
視線を右手に握りしめている小さな紙袋へと移してそう尋ねると真ちゃんはピクリと指を動かした。
(ん?なんで動揺??)
ラッキーアイテムが紙袋ってこと?
それとも中身??
なんにせよ気になるパターンだ。
興味津々で答えを待つと、真ちゃんはようやく口を開いた。
「…まず、言い訳をさせて欲しいのだよ。」
「へっ?!言い訳??」
「別に忘れていたわけじゃないのだよ。WC前でタイミングが合わなかっただけで……」
「???」
ん?
言い訳??何の話???
ラッキーアイテムの話じゃねーの??
言葉の意味が全然わかんなくて頭ん中「?」だらけなんだけどオレ。
って、まさにそう言おうとしたとき、オレの胸元へグイッと押し付けられた。
そのラッキーアイテム(?)を。
条件反射で受け取ってしまったけど……、何なのコレは??
「ずっと渡そうと思っていたんだが…随分遅れてしまったのだよ…」
「??真ちゃん、だからコレなに??」
195cmの真ちゃんを見上げて本気の質問をすると、複雑そうな表情をしているのがよく分かった。
少し照れ臭そうな、少し困ったような、少し申し訳なさそうな、そんなカオしてる。
「…た、た、」
「た?」
「…………誕生日、おめでとう…なのだよ…」
――――……えっ…
(た、誕生日???)
空気に消えてしまいそうな声は確かにそう言った。
全く予想していなかった真ちゃんのこの答えには、さすがのオレもしばらくポカンと間抜けな顔になってしまって。
「高尾?」
頭上に響く低めの声にハッと我に返る。
オレは手の中におさまった小さな紙袋を無意識に握りしめていた。
(あっ…グシャッてなってた…)
「…本当に忘れていた訳ではないのだよ。」
「う、うん、うん。」
また申し訳なさそうな顔。
慌てて首をコクコクと縦にふって返事するオレ。
あの真ちゃんが珍しく言い訳を繰り返すくらいだ、本当に忘れていたわけじゃないってことくらい分かる。
っていうか、そんなんオレも忘れてたし。
WC前はそりゃもう必死だったんだから。
必死すぎてすっかり過ぎてたんだね、オレの誕生日。
「ぶはっ」
「…何故笑うのだよ?」
「ぶははっ…なんでって真ちゃん!」
「??」
「嬉しいからに決まってんじゃーーん!!!」
言いながらドカーンと体当たりすると(嬉しい気持ちを素直に体現したつもりなんだけど)真ちゃんはバランスを崩して積もってた雪ん中にボフッと埋まってしまった。
そのあと真ちゃんからはマジモードで説教喰らったけど、
「聞いているのか高尾!!」
「聞いてる聞いてるっ」
頭ん中も心ん中も『嬉しい』でいっぱいで、お説教の間中も笑いを止めることなんて、できなかったんだ。
〜END〜
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時間軸がアレですが…
WC後こんな会話してたらいいなぁという妄想(・∀・)
何はともあれ高尾誕生日おめでとうっ!!
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