3(葉宮)






CASE:葉山と宮地







「あっは!すっげー不気味!こっわー!」
「………。」


怖がってるようには見えねーけどな、と前方歩くバカ葉山に恨めしい視線を送る俺。

トラップの度に「うわー!」とか「びっくりー!!」とか「こっえー!!」とか…言葉とテンション合ってねーだろ。
目ぇキラキラさせた笑顔でそんな反応されちゃあよ……お化け側が気の毒だろうが。



「宮地さん怖くない?大丈夫??」
「……ああ。」



…怖くねー訳じゃねーけど。
……実際本音言うと怖いけど。
でも俺が驚く前にお前があれこれ騒ぐおかげで怖さ8割くらい軽減してるっつーか。



「なーんだ残念!怖かったらオレに飛びついてきてもいーんだよ、とか言いたかったのになー。」
「……ねぇよ馬鹿。」
「あはっ。まーでも宮地さんとデートできるだけで嬉しいんだけどね。」



そう言って相変わらずの、人懐っこい笑顔を見せる。
こいつの飾らない言葉はどうにも心臓に悪い。
裏表がないのが分かるから、俺に向ける好意がストレートに分かってしまうから、……ムカつくけど、少し戸惑ってしまうんだ。


それにしても。
……デート、か。

葉山のしつこすぎる告白を受け入れてから(つまり、付き合うようになってから)数ヶ月。
お互い住んでる場所が遠すぎる……いわゆる遠距離レンアイっつーやつの為、会うのは月に1〜2回。
(降旗に会うために月に数回コッチにくる金持ち御曹子の赤司に無理矢理くっついてきてるってパターンだ)

会って、マジバとかラーメン屋とかで何でもない会話して、また京都に帰る葉山。
毎回予告なく来るもんだからデートらしいことなんかしたことも、そーゆー雰囲気の場所に行ったこともない。

だから………
で、デートって……今日が初めてなんじゃねーか……??

……正直あんまり実感がない。
付き合ってるっていう実感。
いや、別にそういう実感が欲しいわけじゃねーけど。

普段メールと電話はしてる。けど。
その内容は付き合う前と何ら変わんねーっつーか…。
たわいもない会話のあと、決まって葉山は『大好き』と言い、俺はそれに『うるせー馬鹿』と返す。
それの繰り返し。

ああ、でも。
付き合ってから葉山は、電話切る前に決まって同じことを聞いてきたっけ。
…まるで、何か確かめるかのように。




『宮地さん、大好きだよ。』
『……はいはい。』
『ねぇ、宮地さんは?』
『はっ?!!』
『オレのこと、好き?』
『……お前なぁ…(それもう何度目だよ!)』
『だって、聞きたい。』
『……ったく…、……好きじゃなきゃ付き合ったりしねぇだろ…』
『――…うん、へへっ。じゃあ、おやすみ。』
『おう。』





何か不安なんだろうか
何か不安にさせてるんだろうか

一応俺は俺なりに、覚悟を決めて葉山の気持ちを受け止めたつもりだけど…別に何かされたりとかナイし、本当に前と何も変わってない。

俺が言うのも何だけど……
(……お前ホントにそれでいいのかよ、葉山。)



なんてことを、こんな視界十分じゃねー場所で考えるべきじゃなかった。

俺がいる今ここ、この場所は恐怖度関東屈指のお化け屋敷。
後ろから静かに迫る2体のゾンビ的なもんに気付くのが遅れた俺は、ふと振り返ったときのそのあまりに恐ろしい光景にブッ倒れそうな恐怖を感じた。




「うわぁあっっ!!!!!!」
「宮地さん?!!」




あまりの恐怖に少し前を歩いていた葉山に思っきり飛びついてしまったくらい。
無我夢中すぎて、葉山が俺より小せぇことなんかお構いなしに、それはもうドカーンと。

でも意外なことに、少しグラッとは揺れたものの、倒れ込むことなく踏み止まった葉山は、片腕だけで俺の身体をしっかりと支えていた。




「…び、びっくりしたぁー…大丈夫?宮地さん??」
「……わ、悪い、はや――」




言葉の途中だというのに思わず固まってしまった。
密着した状態で目を開けたらすぐそこに、葉山の顔があったから。

目が合った瞬間、
時間……が、止まった。




「宮地、さん」
「――――…、」



俺の名前を呼ぶその唇から覗く白い八重歯も、ハッキリと見える距離。

し、心臓……、
俺の心臓、ちゃんと動いてるか??

ドキドキするのを通り越して、心臓が止まったような感じになる。
キス、されるかと思ったからだ。
自惚れとかじゃなくて。

タイミングも、互いの距離も。
何より葉山の目が、
纏う雰囲気が。

『キスされる』事に、これ以上はないくらい全ての条件が揃っていたから。

だけど。
それなのに。




「……あ、ははっ。び、びっくりだねー。後ろからもお化け来るんだねっ。」
「……。」
「行こっか、早くゴールしなきゃ赤司怒るかもだしっ」
「……、…おう。」




何もなかったみたいに、いや、むしろ『何もなかったことにしたい』みたいに。
葉山は笑ってパッと俺から離れた。




――…は?
なんだよ、それ。
なんなんだ、今のは。

俺の事、やたら好き好き言ってくるくせに。
うぜーくらい言ってきやがるくせに。

ふざけんなよ。
こういうこと……意識してんのは俺だけってか??

好きとかほざくくせに…こういうのはしないとか、何なんだよ。
……したくないとか思ってんのかよ…



俺は………今、
絶対…されるって…思って、



『宮地、さん、』



あの一瞬、
たかが数秒間なのに
死ぬほどドキドキして…

でも、嫌じゃなかった
気持ち悪いとかもなかった
抵抗とかする気もなかった

……されてもいい、って思った
……思っちまったのに、
(ふざけんな、クソ葉山…)



訳分かんねぇ
何考えてんのか分かんねぇよ
クソむかつく

憎々しいその背中に、有りったけの力を込めてパイナップルを投げつけてやりたくなる。
(木村がいたら100%そうしてやったのに)


結局葉山はその後、ただの一回も俺と視線を合わそうとはしなかった。
そのくせ口調だけは明るく「大丈夫?」だの「もうすぐゴールだよっ」だの至って普通に喋りかけてきたりするもんだから何がしてぇのか全く理解不能。

そのせいで俺のイライラは募りに募り、ゴールした頃には既にMAX状態だった。
そんな俺の面を見た誠凛2年の降旗に「ひぃっ!!」て、

まるで、お化け屋敷のお化けに向けたようなリアクションをされてしまった。









(……小太郎、動悸が凄いぞ。体温も急激に上昇しているようだが…何かあったか?)
(な、なんにもナイよっ?!!)
(何にもなくて顔が赤く染まるのか?)
(…っ、〜〜〜っ………我慢、した、けど……ヤバかったの…っ)
("我慢"?)
((……っ…、思わずチューしちゃいそうだった…。か…可愛いかったぁあぁっ…!!!!!))



その場にしゃがみ込んで顔を膝に埋めて頭から湯気を出す小太郎。

それを腕を組みながら見下ろし「ふむ」と観察する赤司。

不機嫌モード加速中の宮地に、ビクビクと怯える降旗。


奇妙な雰囲気のままWデートは日が暮れるまで継続されるのであった。




〜END〜





********




好きすぎるが故に嫌われるのが怖くて臆病かつ慎重になってしまう葉山くんと、一度決めたら逃げたりしない不撓不屈の精神の持ち主宮地サン。

緊張とか動揺とかはするものの、手を出されるのを待ってる宮地サンとか……たまらんです(・∀・)

お粗末さまでした!




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※ずっとUPするの忘れててすみません…!!!


2014/11/28
キサラギハルカ

2015/2/24 再UP





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