第一印象から決めてません






『続・好きキライを克服せよ(紫氷)』のさらに続きのような話です。

単品でも読めなくはないかも。




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『やぁ、君が紫原敦くん?』
『…うんそーだけど。あんた誰?』
『今日からレギュラーで入ることになった氷室辰也っていうんだけど…監督から聞いてないかな?』
『あー…なんか言ってた…ような気もする。』



オレの言葉に彼は、ははっと軽く笑ったあと、『これからよろしく』と爽やかオーラ全開で挨拶してきた。

その時オレは思った。
なんとなくだけど、彼に対する第一印象は、『めんどくさそう』の一言に尽きた。
はっきり言うとオレの苦手なタイプの人間だった。



それから数日、数週間、数ヶ月と過ぎていくうちに少しの変化が起きた。





『氷室がどうかしたか、アツシ?』
『……、べつに。てか何で?』
『何でってお前、最近やたらアイツ観察してっから。まぁスゲー上手ぇしオレもたまに魅入っちまうことあるけど。』
『室ちんなんか観察してねーし。福ちんうざい。』
『はっ?!てめ暴言も過ぎんぞ!』




"氷室辰也とかいうひと"が"室ちん"に変わった。
(室ちんもオレのことを"敦"と名前で呼んだ。)

いきなりレギュラーになるだけあって、室ちんのプレーはメンバーの誰もが認めるくらい上手くて綺麗で、福ちんはそれを『魅入る』と言った。
まぁオレは魅入ってねーけど。

……魅入ってるわけじゃないのに、確かにこの頃のオレの視界にはいつも室ちんがいた。でも福ちんが言うように観察してた訳じゃなくて、そういう意識はなくて、ただ、第一印象に感じた『めんどくさそう』の理由が、何となく、わかりそうだったから。

一生懸命練習して、洗練されたプレーを身につけて、それでもまだ必死に努力を続けているような姿。
それはどこか危な気にも見えた。








『敦、今日の試合…途中から手を抜いていただろう。』
『えー?そうだったー?つか別にどっちでもよくない?どーせ勝つんだし。』
『………敦のそういうところ、苛々するよ。』






はーーーーーーー????!!!!!!!!!!!

って思った。あん時は。
心の底から。
で、うわっめんどくせって思った。

同時にもう何となく、
…というかほぼ間違いないんだろう。
ずっとわかりそうでわからなかったことの正体にようやく辿り着いたんだ。

この爽やかで綺麗な年上の男は、外見とは全く真逆…劣等感に塗れてぐちゃぐちゃなんだってこと。
そのぐちゃぐちゃに押し潰されそうで、でも押し潰されないように必死で藻掻いているんだってこと。

室ちんは、
すごく綺麗なのに、醜くて可哀相なヒト。









『アツシ、氷室がどうかしたアルか?』
『……、福ちんと同じこと言うなし。』
『???』
『見てねーし、室ちんなんて。』
『(……無意識であそこまでガン見するアルか?)』









あーまたやっちゃった、って本当は自分でも気付いてた。
福ちんにも劉ちんにも数日に1回は同じことを指摘されるようになってたから。

いつの間にか目で追ってる。
いつの間にか姿を探している。
ほんとにいつの間にか、だ。


内に秘めている黒い感情に押し潰されそうなくせに、上手く隠し続けながらあんなにも綺麗に笑う、その姿に。
いつの間にかオレは魅入っていた。


で、とうとう。







『俺がノドから手が出るほど欲してるものを持ってるくせに』
『怒りで気がヘンになるぜ…いいかげん…!』







……まさか殴られるとは思ってなかったけどね。
泣くとも思ってなかったし。


でも、やっと聞けたなーって
やっと…言ったなって


あの時、ありえねーって思ったし心底ウザいって思ったのは本当。

だけどそれ以上に
『このヒトのためにオレができること、何でもしてあげたい』って………(そんなんガラじゃねーのに)そんな風に思ってしまって。
…で、ヤル気になったんだっけ。

まぁすげーむかつくことに負けたけどー。
(今思い出しても火神まじ捻り潰してーし。)


で、そのあとはこの変な気持ちが『好き』ってことなんだって気付いてー…、告白してー付き合うことになってー……、昨日初めてセックスしたんだよね。
(室ちんの色気っつーかエロ気っていうのアレ?まじやばかったし。)










『ほら、お前ももう戻らないと。…俺は大丈夫だよ。』









さっき、笑ってそう言ってくれた。
無理させたって、そんなことちゃんとオレわかってんのに。
笑って、大丈夫って。

あの優しい笑顔と、その内側の室ちん全部にたまらなく惹かれる。
綺麗な室ちんも、ぐちゃぐちゃな室ちんも、もう全部、スキなのかもしれない。


いつかあのヒトの全部を手に入れることができるのかな。








「アツシっ、ぼーとしやがって!んなコトで俺らに勝てっと思うなよ!」
「コートにいない時まで氷室の観察アルか?余裕こいてんのも今のうちアルよ!」







ーーーーー…あ、
ミニゲーム中だった。

つーか凸凹コンビまじうっせーし。
見てねーしベンチ入り室ちんなんて。
(……えーオレ今は見てなかったよね?多分。)


心の中でそう思いつつベンチに視線を送ると、室ちんが口元を手で覆って、オレから視線を外す。困ったように眉を寄せて、顔を赤らめながら。
で、片方の手で『もういいから!』とでも言うようにシッシッとされてしまった。
(あー…、見てたみたい。)


…てゆうか、なにそれ。なにその可愛いカオ。
なんかまた色々したくなるんだけど。
(絶対室ちん無意識なんだろうな…。)


……はやくこの試合終わらせて、室ちんのとこ行こ。
で、一緒に帰って、また言うんだ。
昨日は室ちんほとんど正気じゃなかったから、また言う。






『室ちん、だいすき』







室ちんをスキになって学んだことが1つ。

第一印象なんて
マジあてにならない。






〜END〜






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