pm3:00






「……ふー…」
「何だ、もう疲れたのか?」
「…………そりゃ疲れるっしょ〜…」







あんなに美味しそうな昼ご飯に目もくれず、一人でホテルから出ていった真ちゃん。
こっそりついていったら、さっきやったばっかなのに、バスケットボール片手にコートに立つ姿を見つけてしまった。

じっ、とゴールを見つめていた真ちゃんはそのままシュートの練習を始めてしまって……




『…おーい、なーにやってんのよ、真ちゃん。』
『!……高尾。』
『オレにもナイショで練習??』
『…。』



声をかけたら拗ねたような、バツが悪そうな顔。

真ちゃんの考えてることが何となくだけどだいたい全部分かってしまう自分ってけっこー凄いって思う。

飯食うよりもコートに立ってしまうくらい、さっき……陽泉に負けたのが悔しかったんだよな。



『オレも悔しかった。だから練習すんなら一緒にしよーぜ?』
『……何の話か分からないのだよ。』
『はいはい。』



…全く面倒くさい性格なんだから。
(そんなに悔しいオーラ全開なのに言葉にして認めるのは嫌なんだからね〜)

でも、さぁ1on1だ、って言ってコートに入ったオレを結局は止めるどころか


『…フン、仕方ないから付き合ってやるのだよ。』


って、ちょっと口角上げながら偉そうに言ってくるんだからさ。
(…面倒くさいけど、そーいうところムカつくけど、でもめっちゃ好きだよ、真ちゃん!!!!)








………………で。

あれから数時間。
さすがに疲れた。
喉も渇いたし、何より普通にめちゃくちゃ腹減った。




「なぁ真ちゃん、そろそろホテル戻ろーぜ?……また夜練習するんでしょ、どーせ。」
「…む。」
「図星かよ〜っ。どんだけ練習すんだよ……」
「別にお前には関係ないのだよ。」



…関係なくはない。
オレ真ちゃんの相棒だもーん。
…って、心の中で言い返して唇を尖らせるオレ。

冷たい言葉とかはもう慣れっこだから傷ついたりはしないけど、でもなぁ。
オレら一応付き合ってるしさ、もうちょっと優しくしてくれとも良くね??

などと考えるとますます唇が尖ってしまう。

疲れ果ててコートに座り込んだオレとは違って、さすが『キセキの世代』だ…真ちゃんは。腕を組んで立ったまま、オレを見下ろして溜め息まで吐くんだからさ。



「高尾。」
「……なーにー」
「立てないのか?」
「悪かったね〜、体力なくて!」



らしくない。
こんな幼稚な言い方、普段なら絶対しないのに。
……真ちゃんからの"関係ない"って言葉が予想以上にキツかったみたい。

でも、「な〜んてな!」って言ってすぐ笑顔作んなきゃ、って思って立ち上がったら。
その瞬間、ふっと目の前いっぱいに影が出来た。

厭味なくらいに整った顔と、長い睫毛。
しっとりとした、唇。




「……し、真ちゃん…」
「すまないのだよ、…さっきのは、言葉を間違えた。」
「へっ??」
「…関係なくはないのだよ。」
「う、うん。」
「……高尾、」




また真ちゃんの顔が
オレの大好きな顔が、近付く。
なぜ謝る前にチューしたんだろうか
なぜそもそもいきなりチューすんのか
(……ほんっと、緑間真太郎という人間は掴み所がない。)



ぶわっと赤くなっていくオレにまた触れるだけのキスをした真ちゃんは、その後至近距離で「…俺も腹が減ったのだよ」って、今それ言わなくてもよくね??!ってツッコミたくなるような台詞をやたら真剣な顔して言ってきて。

少し遅めの昼食を求めて、オレたち二人はようやくホテルへと戻ることになった。





「……真ちゃんさ、」
「?」
「…真面目なフリしてけっこータチ悪ィよなぁ…」
「意味が分からないのだよ。」
「…だって普通あのタイミングでチューする?」
「……。(それは…)」
「何?何か言いた気じゃね?」
「…いや、別に何でもないのだよ。」





オレは知らなかった。

あの時、汗を流しながら顔を赤くして(練習直後だったからね)唇を尖らせていたオレを見下ろしていた真ちゃんが……、ムラムラした結果、いきなりチューをしてきたということを。

このときはまだ全然、
知らなかった。





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