どうしようもない劉偉
陽泉高校2年生寮
082号室、紫原敦の部屋
今日も真顔で(本人たちにとっては至って)真面目な会話を交わす二人の姿があった。
「室ちんの寝顔ってマジ超美人なんだよねー」
「福井の寝顔はヨダレ垂れてても可愛いアル」
1つ年上の恋人、現在陽泉高校3年生にしてバスケ部主将を勤める"室ちん"こと"氷室辰也"とお付き合い中の紫原敦。
そしてこれまた1つ年上の恋人、現在大学1年生・一人暮らし生活満喫中の"福井"こと"福井健介"とお付き合い中の劉偉。
似たような境遇と、部活仲間ということもあり割と仲良くやっているこの2m超え男子二人の今回の会話内容は………ずばり『恋人の寝顔』について、であった。
「てかさー、寝顔見てるとムラッてならない?」
「勿論なるアル。当たり前ネ。」
「だよねー…、劉ちんそのムラムラをどうしてんの?」
「……えー…とりあえずキスはするアル。でもだいたい舌入れたら目ぇ覚めた福井にビンタされる。」
「そりゃされるわ〜」
「でもその時の真っ赤な怒り顔も可愛いアル。」
劉は一切の曇りなくキリリとした瞳で紫原を見据え、そう言い切る。
紫原はポテトチップス片手に「ふ〜ん」と軽い相槌を打ちつつ話を進める。
これがいつもの風景である。
通常時は頭の良い二人だが……恋人について語る時、どういう訳か脳みそのネジを数本どこかにやってしまうという傾向があった。
「そういうアツシは溢れ出した性欲どーしてるアル?」
「……別に溢れ出してねーし。可愛いなーって思って、頬っぺた突いたりするだけだし。」
「そしたら氷室は?」
「"うーん…アツシ…"っていう確率が高いかな〜。寝言でオレの名前呼ぶとかめっちゃ可愛くない?」
「……それはなかなか羨ましいアルな。」
"うーん…劉…"なんて寝言でいわれたら即勃起する自信がある、と本気で考える劉を無視して紫原は続けた。
「でもあんまりイタズラしたら起きた室ちんに何されっか分かんねーし。ただ眺めるだけが多いかも。いろいろしたくなっちゃう前に起こしてあげるし。」
「……!!!!」
「ん?どしたの劉ちん?」
変な顔して、というのは心の中に伏せつつ紫原はカッと目を見開いたまま何故か固まっている劉を不思議そうに見つめた。
すると、数秒間微動だにしなかった劉の口元だけがニヤリと動いた。
同時に、なにやら怪しげな笑い声。
「……ふっふっふ…」
「…なに?劉ちん気持ちわりーんだけどー…」
「アツシ、いいこと思い付いたアルよ!!」
劉が瞳をキラキラと輝かせながらそんな発言をかます時、それはだいたい『いいこと』というよりは『とんでもないこと』を思い付いた時である。
しかしお菓子と氷室以外にはさほど興味のない紫原がそんなことを知る由もなく。
「えー?なーに?」
「私、こないだ実家帰ったときに珍しいモン何個か仕入れてきたアルよ。」
「えー…なにそれ。すげー怪しいしー。」
「怪しいとは失礼アルな。」
劉は夏と冬、だいたい年に2度ほど中国へ帰っては妙なアイテムを仕入れて戻っていた。
その中には一粒でも口にすると長時間興奮状態が続くという(そして効果を切らすには精液がなくなるまで射精しなければならないという)恐ろしいものもあったとかなかったとか。
(※『氷室殺すと思った一日』/参)
今回もその類いであろうか、自分のバッグの中をゴソゴソと漁ること数秒、「あった!」と叫んだ劉の手の中に握られていたものは―――……
「なにこれ。…薬?」
「簡単に言えば睡眠薬アルな。でも普通のじゃねーアルよ?」
「どう普通じゃないの?」
紫原の問いに劉は得意げな顔をして説明してみせた。
仕入れた薬の名前はずばり「SMK」、……睡眠姦、である。
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